精霊書店の異世界人

多々羅

文字の大きさ
7 / 35
第一章 塔の異世界

願いの結果

しおりを挟む
「で、気づいたら地下室だったんだけど……」

 僕が話している間、マギナは相槌あいづちを打ちながら聞いてくれていた。
 今はうつむいて眉間に皺を寄せている。
 そういえば、声の主は願いを叶えてくれたのかな?
 ひとつ目の願いはともかく、ふたつ目は簡単に分かる。
 僕はあごに手を当ててみた。ざらりとした感触はない。
 鼻の下も撫でてみる。するりと指が滑った。綺麗さっぱり髭がなくなっている。
 マギナの背後、遙か遠くにそびえる塔を見上げる。
 神様ありがとう!
 いや、塔の神様だったかどうかは分からないか……。

「クーヤ……」

 神妙な声で呼ばれた。
 なにか思うところがあるのか、マギナは真剣な眼差しで僕を見上げていた。
 彼女の言葉を待つ。

「三十七歳だったの!?」
「……へ?」

 予想外の言葉に、間の抜けた声が出た。

「うん、三十七歳だけど……」
「二十歳くらいにしか見えないよ……」

 確かに僕は童顔だとよく言われるし自覚もある。それでもせいぜい三十歳前後に見られる程度で、二十歳なんて言われたこともない。

「いやいやまさか。三十歳の間違いじゃない?」
「ううん、わたしより四つくらい上に見えるよ」

 …………よっつ? え~っと、二十から四を引くと――

「十六歳!? えっ? マギナさん十六歳? 十五歳以下じゃなくて?」

 なんでこんなに驚いてしまったのか自分でも分からない。僕の頭はマギナが十六歳であることを受け入れることができなかったらしい。つい余計なことも言ってしまった。
 嗚呼、マギナさんお怒りですね。笑顔が怖いです。

「クーヤ、わたしの身長になにか問題でもあるのかな?」
「いえ……なにも、問題、ありません」

 身長のことなんて一言も言ってないのに……。
 だけど怒るってことは、彼女はこの世界の十六歳の平均身長に届いてないってことだよね。十五歳以下って見立ては見当違いじゃないってことだ。
 となると、僕が二十歳に見えるのはおかしい。男女でけ方が違うなら話は別だけど。
 さて、どうしたものか……あ、手っ取り早い方法があった。

「マギナさん、鏡とかないかな?」
「鏡? あぁそっか! ちょっと待ってて」

 察してくれたマギナは小走りで店の中へと消えた。

 しばらくするとマギナが手鏡を持って帰ってきた。

「はい」

 差し出してくれたそれを受け取る。

「ありがとう」

 礼を言いながら丸い鏡面をのぞき込む。

「……ん?」

 見慣れた造形の顔なんだけど――

「どうなってんの? これ……」
「どうしたの?」

 どうしたもこうしたも、マギナさん大正解。二十歳頃の僕じゃないか。

「えーっと、その……若返っちゃってるんだけど、どうしよう?」
「……大丈夫? 頭とか」
「大丈夫じゃないかも……。なにがどうしてこうなったのか……」

 鏡に映る若かりし頃の僕には生気が感じられるし、少し痩せてる。なぜか髪まで短くなってる。とはいえ、面白味のない顔であることに変わりない。
 どうしてこんなことになったのか……。

「あっ、きっとお願いが叶ったんだよ!」
「お願い?」
「やり直したいってお願いしたんだよね?」
「あぁ……」

 言われてみれば、ひとつ目の願いの結果としてはあり得るかもしれない。中身は三十七歳のままだけど。

「うん、そうかもしれないね。それ以外に思い当たることはないし」
「だよね! でもそっか~、クーヤって中身はオジサンさんなんだね」
「ぅ……」

 確かに、オジサンと呼ばれてもおかしくはない歳だけど、なんかグサッとくるな……。
 話をそもそもの本題に戻そう。

「ところで、声の主は塔の神様だと思う?」
「ん~、神様がどんな感じなのかわたしも知らないから分かんないよ。……あ! 神託は聞いた?」
「……いや、それらしいことは言ってなかったと思うよ」

 声の主は最後になにか言ってたような気はするけど、結局聞こえなかったし……。

「じゃあ、神様じゃないのかもね」

 まあ、この世界のルールでもある神託を、神様が授けそびれることなんてあるわけないか。
 となると、声の主の正体はなんだったのか……。

「精霊書の効果ってことはないのかな? ”異世界召喚”のおまけで願いを叶えてくれたとか」
「お願いを叶えてくれる精霊書なんて聞いたこともないよ」
「そうなんだ……」

 沈黙。
 もう思い当たることはない。

「うん! ここまでにしよっ! 神様のことも光のことも、きっと分かる日が来るよ!」

 少し重くなった空気を払うかのようにマギナは笑った。
 確かに、塔の光が消えたことは大きなニュースになるだろうから、そのうち情報が入ってくるだろう。

「そうだね。じゃあ話は変わるけど、精霊書について教えて欲しいんだけど」
「クーヤの世界には精霊術ってないんだっけ?」

 精霊術……地下室を出る時にも言ってたけど、精霊書を作る技術のことかな?

「うん、僕の世界では空想の産物だね」
「そうなんだ。じゃあじゃあ、実践を交えつつ教えてあげましょう! 準備するからちょっと待っててね」

 そう言ってマギナは手鏡を取りに行った時のように店の中へ走り去った。
 そういえば手鏡を返しそびれちゃったな。ダウンジャケットも脱ぎたいし、バッグもどこかに置かせてもらおう。
 僕はマギナを追って店に入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...