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叙爵 編

運命の輪

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「君に爵位を授けたい」

「はあ?」

爵位?何を言っているこの人は。何処の馬の骨だか判らない俺に爵位だと。

だいたい貴族に関わるなんて碌な事がないのは目に見えている。縛り付けて利用する腹だな、きっと。よし、断ろう。


「この国とこの国の民を救えるのは、君の不思議な力だけなのだ。思う所は有ると思うが、どうか私に力を貸して欲しい」


うっ、……この俺に頭を下げるのか。商業ギルド長もそうだったが……。

この世界の王族や貴族が一般人に頭を下げる事などあり得ない。……本気なのだな。

どうする?



ーーーーーーーーーーーーーーーー




あ~あ、断り切れなかった。一国の王にテーブルに擦りつけんばかりに頭を下げられては、どうしょうもない。

それに国と民を思う気持ちに嘘は無かった。俺をただ利用すると言うの訳ではなさそうだし。

問題は1年間と言う制限が付いている事だ。結果が出なければ、日本の江戸時代で言うところのお取り潰しという事になる。

まあ、お取り潰しなったって構わないが、その後の神殿再生に支障があっては困る。

だいたい期限が付くんだ、貴族のお偉いさん達から強い反対が有った事は容易に想像が出来るし、やり難くなる可能性大だ。

大地再生より、その貴族達と上手くやらないといけない方がどちらかというと厄介だな。

せっかくここまで上手く行っているんだ邪魔されてたまるか。

爵位は男爵。領地はオウロイの街を含む神殿の在った山全てだ。

となると人手が欲しい。俺の言う事が理解出来て信用の置ける人物。人材集めが最優先って事になるな。


どうしようか?コネなんか無いし。





☆☆☆ーーーーーーーーーーーー


「馬車が手に入ったお陰で移動が楽になって早くなったな」

「ホントだよ。明日には獣王国スタンネールの王都コーネルランスに入る事が出来る」

「ミイさん達、もうすぐ王都に着きますよ」

「あのぅ……天海様、その事についてお話が」
「なあに?」

「王都に行っても私達のお店は無いと思います」
「えっ?どうして」

「ライラとフロウ3人で話しあったのですが私達の境遇ってとても似ているんです」

「そうなんです。私達の両親は食べるに困らない程度の商いをしていたのですが大きく利益が出るチャンスが巡って来たので受ける事にしたのです」

「それで長旅になるので家族4人で出かけてこの様な事に」

「そうだったの……」
「でも何でお店が無いの?」

「盗賊に襲われて契約が成されなかったからです」
「つまり……」
「違約金だね」

「はい。お店は違約金の代わりに人手に渡ってしまっていると思います」

「それに契約を守れなかった私達には、もう信用が無くこの地で商いをするのは難しいでしょう」

「厳しい世界だね」

「……」
「どうしたの天海さん?」

「うん、ちょっとね」

「それで良かったら、皆様と一緒に行かせてもらえないかと」

「一緒に?」
「それは構わないけど」

「他の国で1からやり直したいんです。お願いします」

「私は賛成よ。豊と合流出来たらきっと力になってくれるわ」

「天海さんがそう言うなら、分かった一緒に行こう」
「「「ありがとう御座います」」」


ミイさん達の希望で王都では一泊しただけで次の街に進む事にした。一刻も早く豊君と会うために先を急ぎ僕達はとうとうディライト王国領の手前の街リドンに着いた。


「ギルドで情報を仕入れて来たぜ」
「お疲れ。で、どんな感じ?」

「それが大変な事になってるらしいぞ」
「だからどうしたのよ?」

「神殿が在った山が大爆発したんだ」
「大爆発?」

「それ噴火したって事じゃないかな」
「そうだね哲也君のいう通りだと思うよ」

「空から降って来た灰とか燃えた土のせいで大打撃らしい。食料不足とか難民とか色んな問題が有るってさ」


「火山灰に熔岩で大災害って事か」

「それじゃ豊君、ガッカリしてディライト王国に行ってないかもだね」

「その可能性あるぜ」

「ふっ、ふっ、ふっ、甘いわね」
「何がさ?」

「あいつは小さい時から勉強にしろスポーツにしろ、何でも簡単に熟しちゃう奴なの。そのせいで何に対しても興味が持てなくなって、ぐうたらを決め込んでたのよ」

「えっ、そうなのか?」
「只の無精者だと思っていました」
「僕も」

「そのあいつが魔法やスキルのある世界に来て、自分のやりたい事を自然災害とは言え邪魔されたのよ、黙って放っておくわけがない。喜々として何かやっているわ」

「天海さんは豊君の事を凄く理解しているんですね」
「子供の頃からのつき合いだからね。当然よ」

「よし。じゃあ神殿の在った場所に行く予定に変更は?」

「「「無し!」」」





☆☆ーーーーーーーーーーーー



遂にこの日が来た。

「ユタカ様、緊張してますね」
「ああ、流石にね」


この国を牛耳っている貴族院のお偉いさん達に加え、王都在住の貴族達が俺を観ようと集まって来ているのだ。


やはり貴族院の連中の半分は忌々しい目で俺を見ている。後の半分は生温かい目で見ているのが、そのまた半分で残りは意外にも好意的な視線を感じる。この人達の顔は覚えておこう。

騎士が爵位を受ける時の様に、俺は跪き剣を肩に当てられるのかと思いきやそんな事はなく国王にさらっと宣言された。

「シュタインベルク・ロイ十三世の名の下にユタカ・マトバに男爵位を授ける。但し、これより1年の間にこの国に対し貢献が認められない場合は直ちに爵位を剥奪するものとする」


法衣を来た爺様が国王より何かを受け取り俺の所に持ってきた。

綺麗に細工された物……金印みたいな、やはりハンコだなこれは。公務に使うやつだ。

俺がそれを恭しく受け取り式典は妨害もなく終わった。


ーー


「苦労すると思うが頼んだぞ。何か欲しい物はないか?」

「それでしたら、私はこの国の慣習や決まり事などがまるで知りません。陛下が信用されている方で私にそのような事を教えてくれる人を付けて頂けませんか?」

「最もな話だな……解った、後ほどユタカの屋敷に行くよう指示しておこう」

う~ん、俺の住んでいる所は屋敷などではないんだがな。少し格好をつけて改造しておくかな。

「ありがとう御座います」





ーーーー


「あ~、疲れた」
「これからもっと大変ですよ」
「確かに」


これからは人目もあるし、大っぴらに作業にゴーレムを使う事も出来なくなる。先ずは一緒に働いてくれる人達を捜さなくては。

「よし、決めた。サユリア、明日はオウロイの街に行くぞ」

「解りました」


ーー



「どちらに行くのですか」
「スラム街さ」

「働き手を捜すのですね」
「そういう事」




「誰だお前?」
「農民さ、お前達の頭に会いたい」

「ふざけんな。怪我したくなければトットと帰えんな」

「冷たいな、頭にこれを見せてよ。それでも会わないと言うなら諦めるよ」

「……解った。待ってろ」



「大丈夫でしょうか?」
「昔の気持ちが残っているなら解る筈さ」

さっきの男が戻って来た。どうだ?

「ついて来い」
「そうこなくっちゃ」

迷路の様に建っている小屋を左に右にと数回曲がると少しでかい小屋の中に入れられた。

「お前か、このアッポルは何処で手に入れた。これだけの物を俺は見たことが無い」

「俺が育てた」

「ハッ、笑わせるな。アッポルは育てるのが難しいんだ。お前のような若造に、だいたいその手は何だ農民の手じゃねぇんだよ」

「ああ、俺は手は使わないからな。俺が使うのはスキルと魔法だ」


アイテムBOXから育てた野菜の全種類を頭の前に出してやる。

「……アイテムBOX持ちか、なるほど」

「今度、畑を広くする。人手が欲しい協力してくれ、その野菜は置いていく。信じられないなら1度見に来てくれ、心が決まったらギルドに言って俺に使いをよこせ」



「あとは寝て待つだけだ」
「期待に応えてくれると良いですね」

ーー

「お頭?」

「見事なトメトにカポチャだ。どれ、一口……懐かしい味だ美味い」

「ホントですかい?」
「ああ、……さて、どうしたものか?」







☆ーーーーーーーー


「やった。とうとう神殿の在る山裾の街オウロイに着いたぞ」

「これからどうする?」
「決まっているわ、ギルドで情報収集よ」



「ちょっと聞きたいのですが?」
「何でしょうか?」

「豊と言う名の冒険者を知りませんか?」

「ユタカ……ああ、貴方達"醜女のヒモ"と知り合いなのね」

「こらこら、ジェミー。もう"醜女のヒモ"ではないだろ」

「あっ、ギルド長、そうでした。"醜女のヒモの男爵様"でしたね」

「いやいや、そういう事でなくてだ。君達、ユタカ様になんか用事でも」

「男爵、豊様?」
「どういう事ですかね?」

「私達、同じ国の仲間なんですけど旅の途中ではぐれてしまって」

「なるほど、一応冒険者証を見せてくれ」
「はい」

「犯罪歴は無し、ユタカ様と同じ黒髪……良いだろう。今ならまだ忙しくないだろうからな。山の方に向かっていけばユタカ様のお屋敷が有るよ」

「ありがとう御座います」


「お屋敷だってさ」
「豊の奴、やっぱり何かやらかしたに違いないわ」

「そんな気がしてきたよ僕も」




「ここだ。ミイさん達、大丈夫?」
「ええ、何とか獣人なので体力はありますから」

「立派なお屋敷だね。一応ノッカーをと……」

[コン、コン]

「返事が無い」「留守かな?」



「誰だ?」
「えっ?」「僕達が気配を感じ取れないなんて」

「……鈴木、大山に瀬古か、天海までいる。何でここに?」


「何でじゃない、豊!SMSの返事もよこさないで、なにやってんのよ!このバカ」

あっ、いけね。あの時以来スマホを見てなかった。慌ててアイテムBOXからスマホを取り出すと着信の履歴がゴッチャリと並んでいた。

「そうですよ、酷いです」
「わ、悪い悪い」


しかし、待てよ。有能な人材が欲しかったんだ。こいつは丁度良い、おまけに猫耳の獣人の娘までいる。

「お前達、良い所に来てくれた。きっちり協力して貰うぞ。どれどれ、お前達の能力を見せてもらおうか」


「天海さん、僕達って丸裸にされている気がする」
「確かに」

「豊君は魔法が使えないしスキルが無いなんて絶対に嘘だ」

「ひぇ~、天海様、私達これからどうなるのでしょう?」

「ご、御免、覚悟しておいて頂戴」


OK,OK。なかなか良い人材が手に入ったぜ、これで領地改革は何とかなるだろう。




ー叙爵 編ー  終幕


無事に仲間と合流出来た豊と皆の活躍は ー領地改革 編ーでまたお会いしましょう。





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