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神と呼ばれし者

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 船の旅は特に問題も無く順調だ、船内のアナウンスで、お昼にはセラヴィの港に着くと言っていた。

船内は近代的で、元の世界にいる感じで良かった、たまには船の旅もいい、デッキから眺める海も懐かしい。

『アキ、ホームシックなの?』
「そんな感じだ」

『そろそろ到着だぜ』

「セシル、どうだった海?」
「素敵でした」

「うん、じゃ降りようか」

ボルチスカ王国、セラヴィの港に到着だ。


「食事して魔道書屋だな」

『砂の民の事が書いてある本も、探して見たら』

「おお、ナイスです卑弥呼さん」
『うふふ』


食事を済まし、街をぶらぶらしてみる、本の看板が有った。

「すいません、ユニークスキルの文献書が欲しいのですが」

「ユニークスキルの文献書じゃと、値が張るぞ」

人族にしては背がやや低い老人が出て来た、ドワーフでは無いな、顔は見るからに頑固じじいだ。

「いくらですか?」
「金貨100枚じゃ」

「いいです、大丈夫です。おじいさん、鑑定スキルを持ってますよね?」

「ああ、商売には必須でな、持っておる」

「金貨は無いので、これでお願いしたいのです」

【ヘラクレスの腕輪】を出した。

「…………おおおお!どこで、こんなもん。オークションに出せば金貨200枚以上はいくぞ」

「構いませんので、これで」
「お前が良ければ、いいじゃろうて」


「後、砂の民について書かれた本はないですか?」

「なんじゃ、お前らは砂の民の秘法狙いか。そんな物は、ただのおとぎ話じゃ、帰れ」


「砂の民の秘法って何ですか?」
「ん、なんだ知らんのか?」


「俺は、この娘が砂の民かもって言われたから、調べたいだけです」

「なにっ!娘、わしに顔を見せてみろ!」

「セシル、こっちにおいで」

「う~む、深緑の瞳に黒い髪か、確かに砂の民の特徴じゃな、しかし、残念だが砂の民に関する本は、この世界には無いじゃろうな」

「残念ですね」

「少し長いが、昔話ならこのじじいが、話してやれるが聞いてみるか?」

「ほんとですか、お願いします。」

「190年前は、シーザル王国、ボルチスカ王国とデブルグ帝国3国はデブルグ大帝国と言って1つの国じゃった。

時の大帝、デギルは、大陸の征服を狙っていてな、勇者を使ってのし上がったダネン王国に対抗する為、精霊を召喚出来る砂の民を利用しようとしたのじゃ。

当然、砂の民は戦争の道具にされるのを嫌い、戦になった。

精霊も協力して戦ったが、人数の差はどうにもならなかったのじゃ。

砂の民が全員捕まり、奴隷にされる寸前に大帝国の植民地で、奴隷に等しい扱いを受けていたわしらの祖先、山岳部族ボルチスカと海岸地域民族の民が共同で割って入ったのじゃ。

砂の民との戦いで、大帝国もギリギリだったので、挟み撃ちに会った大帝国は今の領土まで押し戻されてしまい戦いは終わったのじゃ。


それからすぐに、精霊はこの世界には出て来なくなり、砂の民も姿を消してしまった。と言う訳じゃ」

「そんな事が有ったのですか」

「それから色んな連中が砂の民を探したが、見つけた奴はいない。

しかし、その娘なら分からんぞ、グラーダのダンジョンの更に南に、言い伝えでは砂の民の遺跡があるとされている。行ってみるが良い、だが遺跡の事は人に言ってはならぬぞ」

「分かりました。お話しありがとう御座います」

「帝国に行く時は、その娘は気をつけるのじゃぞ」

「はい、気をつけます」

ーー

「興味深い話しだったね」
『セシルちゃんのルーツ探しね』

『気になったんで最後にちょっとだけ覗いたら、あのじいさん結構な使い手だぜ』

「へぇ~、ただ者ではないのか。帰りにまた寄って見よう」

地図を見ると、ダンジョンの有るグラーダはずっと南だ。

この国の端から端という感じになる、馬車でどのくらいかかるのだろう、馬車の運行商会を探すか。


『アキ、お客さんよ』

「ミク達か?」

『いいえ、この感じは、犯罪お助け人の方ね』

「この前の奴?」
『ジャグラーなんたらでは、無いわ』

「では、誘って見るか」


街中を抜けて、岩山の方へ向かうと林が有った、話しをするには丁度いい感じの所だ。

「セシル、手だし無用ね」
「はい、ご主人様」





「ふん、卑しい身分の者にしては気が利くではないか、お前の墓場に相応しいな、ここは」

「王族と勇者の血筋の御方がこの様な所に、どのような御用件でしょうか?」

「なぜその事を知っている。……まあ良い、宝珠を渡してもらおうか」

「犯罪お助け人ギルドの御方には、お渡し出来ませんね」

「その呼び方は止めろ。『神と呼ばれし者』と言う素晴らしい名が有るのだ」


「ぷっ、犯罪お助け人ギルドの方がカッコいいですよ。神って誰、あなた様ですか?邪神の間違いなのでは」

「口のへらないクズが、死ね!」

奴の剣が[ヒュン]とうなって俺の首を跳ねた。

「地べたを這いつくばって生きていれば良いものを、背伸びをするから死ぬ事になるのだ」

「酷いですね、いきなり首を切るなんて、痛いじゃないですか」

「馬鹿な、首を落としたはずだ」
「気が振れましたか、ゾラ様?」

「な、名前まで」

「今度は、こちらから行きますよ。ほい、それ、それ」

「くっ、この、なめおって」

「どうしました、そんな事では勇者の血が泣きますよ。それ」

「痛っ、くっ」

「これでゾラ様の今日の運勢が、分かりますよ」

「足にかすり傷がついただけで、なにを偉そうにクズが」

「あ、凶みたいですね」

「なっ、足が、何で石に、うわっ、ウソだ何で……」

「では、ゾラ様。さようなら」


『アキ、こんな所に石像を置いて、いいのかしら?』

「誰かが拝むかもよ。でも、やっぱり邪魔か、トリプル・ダークバレット!」

[ボッ、ボッ、ボッ、パァーン]
 石像に三発の弾丸が食い込み弾ける。

『粉微塵になったな』

「それにしても、手応えが無かったな。あれでレベルいくつなの?」

『レベル56だ』
「俺より上じゃないか」

『質の差。アキは芯がピンと張っていて中がパンパンに詰まってる感じ、アイツは芯がブレて中がスカスカなのよ』

『そうだな……』
「どうした、ハッカー?心配事でも」

『前に勇者の血の話しをしたよな』
「それが何か?」

『いやね、インブリードが型にハマれば、怪物が生まれる場合があると思ってね』

「それって、馬の話しだろ、馬と一緒にしては流石に可哀相だよ」

『しかし、理屈は一緒だろ?』

「人間のインブリードは効果が無いと言われているぞ」

『同じ人間ではない、異世界人でもか?』
「そう言われると怖いな」

『2人とも、その辺で止めておいた方が、いいんじゃない?』


「『…………確かに』」


街中に戻って、馬車の運営商会を見つけグラーダ行きを予約した。

4つの街と王都を経由して10日の予定になる、出発は明後日の朝だ。


余裕がだいぶ出来たな、セシルの魔法の練習とスキルを調べて見るか。

コジャレた店があったので入ってみる。

ハーブティーを頼んでテーブルにユニークスキルの文献書を出してみる。リリース、ストックは出てない。

「まいった。ハッカー、出てないどうする?」

『単語の意味から想像するしかないな』

「解き放つ、開放、貯める、取っておく、みたいな感じか?」

『貯めたのを解き放つ、か?』
「何を貯める?」

『物、力、エネルギー、攻撃された事とか?』

「そんな所かな、セシル、そう言えば自分のステータス見れる様になった?」

「はい、出来る様になりました」

「今度は、この魔法属性理論を読んでおいて。グラーダのダンジョンでは、剣技は極力使わない様にね」

「了解です。ご主人様」


「よし、今日は、このくらいにして宿を探そうか」

「あっちに看板見えましたよ」

「そうか、じゃ、メニューを見て良ければ、晩飯もそこでいいな」

さすが港街の宿、海鮮料理が充実していたので食事をして部屋に行く。

風呂に入るとすぐに眠たくなった、流石に疲れたのかな?



目の前が急に明るくなった、ここはどこだ、来たことが有るような気がする、目の前に女性が現れた。

メディストさんのダンジョンで会った精神体の女性だ。

「今日は、お話しが出来そうですね」
「貴女はどなたですか」

「遥か昔に、この世界に召喚された者の子孫で御座います」

「なぜ、俺の所に?」

「私達を今もこの地に縛り着けている、呪縛の様な悲しみ、嘆きから救って頂きたいのです」

それから、精神体の女性は自分が見てきた事と経験した事を話してくれた。

それは俺達が心配してた事だった、召喚された人達は男女の中から数人別の場所に連れて行かれ王族の者と性交を強要されたそうだ。

昔は、拒めば薬で身体の自由を奪い、犯されたそうだ。意識は有るので女性は地獄だ。

精神体の女性は14才の時から王族と交わったそうで、相手の年齢は同じ位の少年から、かなり年をとった男もいたそうだ。

何年か経った時に異変が起きた。恐ろしいのは出産の時だった。

産まれた子供の手、足、指がなどが無いのは、まだましで、目、口、鼻が無い、もっと酷いのは頭の大きさが半分、形が細長いなど見るに耐えられ無い異形の容姿の時だ。

五体満足では無い子供は、そのままゴミのごとく樽に入れられ処分された。

正常な姿の赤ちゃんは、そのままどこかに移されて、2度と会う事は無かった。


抗うことも出来ず、そんな事が繰り返し行われれば、怒り、怨みを通りこし、ただ悲しみ嘆く事しか出来なくなるのも当然か。

女性は、呪縛の根源である全ての物を消し去って、この場所から魂を解き放って欲しいと、俺に懇願し消えていった。

セシルに、今度は叩かれて起こされた。

「ご主人様、しっかりして下さい」

「ああ、大丈夫だ」

『また、彼女に会ったのね?』

俺は、うなずき、みんなに彼女から聞いた話しをした。

『アキ、私からもお願いするわ、彼女の願いを聞いてあげて』

「そのつもりだよ卑弥呼さん」

『女性を拐って苗床にする、オークやゴブリンと同じではないか。許すなアキ』

「分かってるよ、ハッカー」

「酷い奴らです、ご主人様」
「そうだね、セシル」

俺の中で熱い物が沸き上がってきた。

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