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縁と結び

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 港街のセラヴィに来て2日目になる、今日は朝からセシルのユニークスキルのテストをしていたので、けっこう疲れた。

風呂に入っているのだが、最近セシルは一緒に入いらない、年頃の娘を持つお父さんの気持ちが解る気がするな、ちょっと寂しい。

『アキ、ミクが来たわよ』

「やっぱり、俺の裸を見たいのだな」

「なに言ってんのよ。そんな粗末な物を見たって何も感じ無いわ」

しっかり見てるじゃん。

「ひどい!ひどいわ」
「おふざけはいいから、話しを聞きなさい」

「なによ」

「ゾラを殺ったのあんたでしょ?」
「もう、うわさになってるのか」

「あたり前よ、裏の世界はそう言う事は速いのよ。あんた、これから狙われるわよ」

「ミクの方こそ、こんな所に来て俺と繋がってると思われたらヤバイのでは?」

「はっ、こう見えても私は強いのよ」
「そうだっけ?」

「そ、そうよ」

「俺にも色んな事情があってね、マグラの一族はもちろんだが、深く関わってる者も全て倒す事になる。だから、向こうから来てくれるのはありがたい」

「…………」

「だいたい、ゾラなんかは下っぱなんだろ?」

「なに言ってるのよあんたは、中堅の幹部クラスよ」

「あれで幹部、中堅の?」
「呆れた男ね」

「わざわざゾラの事を確認しに来たのかい?」

「違うわ、それはついでの話しよ。元締があんたから、手を退く事を決めたわ」

「依頼人は大丈夫なのかい?」
「ええ、納得してる」

「そんなに簡単に諦められるのか?」

「あんたが、私達を殺さなかった事が大きいわね」

「ふ~ん、そうか」
「じゃ、頑張ってね」

「裏の情報を知りたい時は、どうすればいい?」

「商業ギルドの依頼掲示板に、『冥王ハデスのお面求む』と出しなさい」

「分かった」


『どういう組織なのかしらね?』
「マグラと敵対してるとか?」

『オレもそう思う』

「所で、冥王ハデスって何?」
「ご主人様、それは神様ですよ」

「神?そう言えばたいていの異世界には神は付き物だけど、この世界の神ってどうなってるのかな?」

「ご主人様は、変な事を言いますね、たくさんいますよ」

「あ、そうか。でも、この世界もやっぱり変わらないね。まあ、どうでもいいか」

セシルは、お風呂には入らなくなったが、ダッコは健在だ。明日の為に早く寝よう。

馬車乗り場に行くと、声をかけられた。

「アキさん、会える気がしてました」

モミザまで馬車で一緒だった、男女混合パーティー[双剣の翼]、エルフのミスティさんだった。

「そう言えば皆さんも、グラーダのダンジョンに行くのでしたね」

「また、よろしくお願いします」

「今度はけっこう日数が、かかりますからね」

馬車が出発した。

「そう言えば、この間の加護の話し、分かりましたよ」

「本当ですか?」

「知り会いに詳しいのがいたのよ、モミザの教会でバッタリ会ってね」

「そうでしたか。それで、どんな?」

「産霊を司る神様なの、シェレーニア様って。詳しく教えてもらったけど、私には難しくて、ここまでしか言えないわ」


『結びの事ね。日本的な考え方だわ』

「むすび?」
「そう、それそれ、結びって言ってたわよ」

『結ぶには色んな意味が有るけど簡単に言えば、結びつく事によって神霊の力が産み出されると言う事よ』

『奥が深いな』
『そうね』

「ありがとう御座います。参考になりました」

「役に立って良かった」

馬車は何事も無く、最初の街アイガに着いた。

夜は、みんなで一緒に酒を飲みにいく事になり、夜の街へ繰り出した。

宿で、聞いた酒場に行くと冒険者同士が言い争いをしていた。

近くにいる客に理由を聞いてみると、熊族のパーティーが奴隷をこの店に連れて来たのが、デブルグ帝国から来たパーティーの奴らは気にいらないそうだ。


ボルチスカ王国は奴隷が出入り禁止の店は無い、それは奴隷、獣人、その他の種族に対し偏見が無いからだ。

しかし、デブルグ帝国の民は大帝国時代の影響で他の国より奴隷に厳しく、自分達は優秀だと思っているので他の種族を下に見ているとミスティさんが教えてくれた。

「オラ、どけよ。邪魔だ、ちっ、今度はエルフに奴隷か、あぅっ…………」

『嫌な奴』
『ナイス、卑弥呼さん』

「おい、ダワケン、どうした。」
「酒を飲み過ぎたんじゃねえの?」
「宿に連れて行って寝かせとけ」

「そこ、空いたから、みんなで座りましょう」

「これでも昔より良くなったんだよ」

「奴隷と人族以外の種族を良く思ってない国はたくさん有って、植民地だったシーザルとボルチスカは好意的なんだ」

「だけど、帝国、ダネン王国、ゲストル王国、ストロベルダ神聖国、それと少し前に内乱が起きて、新しく出来たエリアン王国は奴隷と他の種族には特に厳しい」

そうなんだ、気を付けないと。

「さあ、楽しく飲みましょうよ」
「そうですね」

お酒がほどよく回って、みんなご機嫌だ、セシルはパナッポーハニーを3杯飲んでる、大丈夫か?

『内乱の有った国ってルナさんの国だよね?』

『恐らくな』


「ダンさん、さっき内乱が起きた国の事を言ってましたが?」

「ああ、エリアン王国の事ですか」
「もう少しだけ話してくれませんか?」


「ええ、良いですよ。ラルロ国王は優秀な人材は出自に関係無く重職に登用したのです。例え奴隷出身でも」

「それが気に入らない、頭の堅い家臣が、妃に横恋慕していた叔父のエリアン公爵をそそのかし、反乱を起こさせたのです」

「ラルロ国王は幽閉され、近しい者達は国外に追放、王女様は危険を察知した、カロ男爵の兵士達のお陰で安全な所に行かれたそうです」

「エリアンが国王になってから、身分制度が厳しくなり民は大変な思いをしてるそうです」

「ダンさん、アギマさん、2人とも内情にずいぶん詳しいですね?」


「この2人は、ラルロ国王の近衛兵だったのよ」


『こんな事って有るんだな』
『不思議な縁ね』

「ルナさんは今、クロゴス王国のミストガで冒険者をしてるはずです」


「「ええっ!」」
「ルナ王女様をご存知なのですか?」


俺はルナさんとの事を、2人に話した。

「そうでしたか……」

「ダン!」
「アギマ!」

「ミスティ、マリアンヌ、お願いがある」

「分かってるわよ。行きたいのでしょ」
「いいわ、みんなで行きましょう」

その夜は楽しいお酒だった。


宿に帰って風呂に入っていると、セシルが入って来た。

「ご主人しゃま!」
酔っぱらっているな。

「うぷっ」

[プル、プルン]

うほほ~い。今日は、気分良く寝れそうだ。


翌日、4人はミストガに行くので、ここでお別れだ。

「アキさん、ありがとう」
「ルナ王女様によろしく」

「またね、セシルちゃん」
「皆さんもお元気で」


『アキ、これも結びなのよ』
『縁を結ぶか』

「セシルのお陰かな」

セシルは意味が解らず、首をひねっていたが、俺はこの世界に来てから一番気分が良かった。

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