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特別なスキル

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 取り合えず宿に戻ってこれからの事を取り決める事にする。


「では約束だ。この魔法書に書かれている事を全て、マスターしろ。解らない所は俺に聞け」

「うっ、……分かった」
「分かりました」


この世界は貴族が牛耳っている。そして世に出る為には、とにかく金が必要だ。生まれついての天才は別として、身分の低い者や貧しい者は、自分の才能を開花させられない。

金が無いと、自分の力さえ調べられないからだ。スキルを鑑定するのには神殿に行って金貨5枚を寄付しなければならない。

最低限、自分のスキルや魔法属性が理解できないと修練のしようが無い。

貧しい者は高学な魔法書など何冊も買える訳もなく、ありふれて人数の多い職業スキルならいざしらず、特別なスキルなどは予め自分のスキルを知って、きっかけとなるそのスキル用の入門書を読まずに偶然に発動する事など皆無に等しい。

悪徳司教などは、金目当てにもったいぶって本当の事を教えない事さえ有る。

身分の低い者の中にだって有能な奴はいる。だが、傲慢な貴族達は家柄、出自を重んじ相手にしていない。だから見つけ出そうとしない。いや、身分が低い者から有能な者が出て来ては困るのだろう。

俺は死んだお袋が、親父に隠れてコツコツ貯めた金で鑑定を受けたのだが、このザマだけどな。

幸い、こいつらには魔法の才能が有る。スキルも面白い物を持っている。

休憩中にミラがハーブティーをいれてくれた。

「どうぞ」
「すまんな」

「あの……」
「なんだ?」
「なんて呼べば?」

「ああ、俺はクロスだ。クロスさん、とでも呼べ」
「分かった」

話しをしていたので、カップを掴み損ねて落としてしまった。

「あ~、畜生!落ちるな、割れる」と、思わず叫んだ……。

「えっ」「えっ」「えっ」

「俺の目が変になったか?俺にはカップが空中で止まっている様に見えるのだが?」

「うん、そう見える」
「その様です」
「なら、俺の目のせいでは無いな」

おそるおそる、カップを手で持った。持てる。

「何だった?」
「クロスさんのスキルでは?」
「俺のスキル……」

ステータスを確認するが何もない。……そう言えばさっきは2人のステータスが視れたな。何があった?最近の事を考えてみる。

大きな隕石に襲われる→九死に一生を得る→大きなクレーターで隕石を拾う→いつの間にか俺の鑑定眼では見れる筈のないステータスやスキルが視れるようになった。

隕石、あれのせいか?そう言えばあの時、誰かの声がしたような……。これは隕石のお陰で隕石の持つスキルが発動したに違いない。

「もう一度試す。本を落としてくれ」
「はい」

本が落ちる。落ちるなと願う。

「止まってる」
「ホントだ」
「動かせたりして?こっちへ来い!」

本が俺の手元にやって来た。

「うひゃ~、凄い」

いける。この力さえ有れば、成り上がれる。まだ他にも色んな事が出来そうだ。なぜかそう思える。

 ミラ、アンと部屋にこもって一週間が過ぎた。
クレーターから持ってきた金属はこの世界には無い物だった。"緋緋色かね"聞いた事があるような、無いような。今の所はどうにも出来ないので、新しく得たスキルと格闘中だ。

どうやら俺は、手を使わずに物を動かせるらしい。つまり超能力で言う所の念動力だ。これをどう使うかが重要だ。う~ん。

「クロスさん、魔力の操作が今一、上手く行かないよ」

「クロスさん、属性の合成方法が……」

「2人とも待て待て。流石に中級魔法になると、俺では手に負えない。今度、家庭教師を捜してやる」

「「ありがとう」」

ステータスを視た時から判っていたが、2人は優秀だ。スラムの様な掃き溜めに居たって、自分の事を理解し学ぶ事が出来れば人並みに働けるのだ。

切りの良いところで、買い出しに出る。魔法書屋にも寄って上級魔法書と特殊魔法の全集を購入。

「おっと、家庭教師だったな」

商業ギルドにも寄って手配だ。

「お帰り」
「おう、明日から家庭教師が来る」
「やった」

穏やかな日々が過ぎ、事は順調に進んで行った。授業の合間にミラとアンのレベルアップを兼ねて、街の西に在るダンジョン街ダノンに行く。

俺は念動力のを他に、自分にどんなスキルが付いているのか色々試してみた。俺の欲しかったスキルを片っ端からイメージしてやってみたのだ。結果は満足の行くものだった。

隕石のお陰かは定かでないが、付いたスキルは鬼のような物だった。なのでダンジョンの攻略はサクサク進み、俺個人では最下階まで行けた。ボスを倒しては不味いので自重しておく。皆のレベルも着実に上がって行ったので言う事無しだ。


「優秀ですね、この2人は」
「そうですか?」

「この短期間で上級をマスターするなんて、貴族の教え子にもいませんよ」

「だそうだ。2人とも良くやった」
「へへ」
「約束が守れて良かった」

「これから一生懸命に働くわ」
「ああ、期待している」

家庭教師のミスティさんと別れて、2人のご褒美で食事をする為に商店街へ向かう。

「ミラ、アン!」

叫んだのは、ボロを纏った2人と同年代の少女だった。

「仲間か?」
「はい」

ミラとアンの目は出会った時の様に、拗ねて、いじけて卑屈な目を、今はもうしていない。

「行ってこい」
「ありがとう」


2人が青い顔をして仲間を連れて来た。

「何があった?」

「私達の仲間、ジーナっていうんですが武装した男達に連れ去られたそうです」

「その子だけか?」
「お、大人達も動ける人は全員……」

「……少し調べて来る。お前達はこれで飯食って宿で待ってろ。いいか、おとなしくしてろ」

「「はい、解りました」」

ーー

ここに来るのは久しぶりだ。もう来ることは無いと思っていたが。

「久しぶりですねスラッシュさん。貴方が来るとは珍しい、ガッツさんは?」

「事故が有ってみんな死んだよ、生き残ったのは俺だけだ」

「……そうでしたか。今日は?」

「調べて欲しい事がある。スラムの連中が連れ去られてな……」


「成る程、解りました。夜までに済ませます」
「分かった、夜にまた来る」

「スラッシュさん……いえ、お待ちしてます」


情報屋のタランは、俺達が贔屓ひいきにしていた奴だ。スラッシュというのは、もう1つの俺の名だ。タランはこの世界では珍しく、情に熱い所がある。その甘い所をガッツは気に入っていた。

夜まで待つしかないので、俺も宿に戻る。

「お帰りなさい」
「クロスさん……」

「今、調べてもらってる、夜まで待て」
「す、すいません」

「ボケッとしていても仕方ない。その子に魔法でも教えてあげたらどうだ?」

「えっ、はい!マリ向こうで、魔法の初歩をやってみよう」

「う、うん」

ーー


「スラッシュさん、お待ちしていました」
「ただの盗賊では無いのだろう?」

「ええ。軍の特殊機関だそうです」
「……何でそんな物が出てくる?」

「近い内に、ザラステン王国はレンブロイ王国と戦を始めるつもりだとか」

「使い捨ての兵士擬きにして、囮にでも使う気か?」

「噂では罪人・奴隷達を使って、妙な実験をしているそうです。ここ半年で原因不明の病気で死んだとされて、多くの死体が運ばれたと言ってました」

「何を企んでる?で、捕まった者達は今何処にいる?」

「今はコズル男爵の別邸に収容されていますが、隣街のスラムで捕えて来た者達が到着次第、城の訓練所に連れて行くそうですよ」

「隣街の連中はいつ来る?」
「一週間後」

「そうか。お代は?」
「金貨4枚」

「また頼む」
「ご武運を」


宿に戻ってミラとアンに詳しい話を聞くことにする。

「お前達はジーナって子を助けたいのだな?」
「はい」

「……先ずは準備をする。よく聞け」


奪還作戦の始まりだ。
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