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獣王国からの密使
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温泉街イザーカで伯爵夫人と合流し、ここで一泊する。王族の遠縁という事で夫人には品の良さが有り、マユリカお嬢様と同様に美しかった。
この街には吸血鬼の気配は無いので安心だ。
ここの温泉はエメラルドグリーン色の硫黄泉で、お肌がスベスベになる効用だと聞いて、女性軍のリクエストにより大量に時の空間に入れる。皆、年頃になったようだ。
イザーカを出た後、王都への移動はのんびりしたものだった。このまま褒美を貰って帰れるのなら言うことは無い。
城に入りデイトナさん達は従者の宿泊施設に泊まる事になるので、ここからは別行動になる。
「謁見という形はとらず、城内の1室で陛下とお会いする事になる」
「解りました」
迎えが来たのは2日後で、それまで至れり尽くせりだった。
「良かった。このまま美味い物を食べて、寝るだけの暮らしをしていたら肥ってしまう所だったわ」
「ホントにそうよね」
「その割にはムシャムシャ、パクパク食べてたです」
「「いいんです!」」
案内された部屋には伯爵がいた。
「来たか。クロス君の望みは間違いなく叶う筈だ」
「そうですか、助かります」
「陛下がお見えになりました」
こういうのは何回経験してもやはり緊張する。
国王が入って来た。太く垂れ下がった眉、優しいおじいちゃん、という感じだが風格は有る。
この国での心配は王子が居ないという事だ。国王の子供は全て既婚していない女性なのが気にかかる。王女でも継承権は有るが、……跡目争いが起こらなければいいが。
「陛下、この者がクロスです」
「クロスと申します。陛下、このたびは……」
「よいよい、堅苦しい事は抜きじゃ。クロス、冷や汗が出ておるぞ」
「お恥ずかしい限りです」
「ふふ、冗談はさておき、こたびの件は見事であった。グリーンベルトが直撃すれば、この国はどうなっていたことか。本来なら強引にでも叙爵し私の元に置きたいところなのだ」
「それは」
「解っておる。ダビルドからそなたの事は聞いておるからな」
「感謝致します」
「うむ。これ、あれを持って参れ」
「はっ」
「これをそなた達に授けよう」
眼の前に差し出されたのは手頃な手帳ぐらいの大きさのプレートで王家の紋章が入っている。
「魔力を流してみたまえ」
「はい」
プレートに触れ魔力を流すと文字が浮き出てくる。
内容は、国王の命により吸血鬼と判断された者がいかなる者でも拘束、討伐してもいい旨の事が書いてある。吸血鬼ハンター許可証だ。
願ったりの物だ。
「これで良いかな?」
「感謝致します」
「いずれはダビルドに言われた通り、吸血鬼の事を公にして、専用の部署を立ち上げようと思っておる」
「ご英断に感謝致します」
「それで、そなた達の意見を聞きたいのだ……」
「陛下、失礼致します」
「何じゃ?」
「獣王国から使者が参っております」
「分かった。待たせておけ、ここが終わり次第直ぐに行く」
「それが密使だと申しておりまして」
「なに?密使だと」
「陛下、ただ事ではないかと。私どもは後でも」
「分かった」
ーーーー
「立派な許可証をいただいたわね、クロスさん」
「ああ、これで動き易くなる」
「いいわね、メルも欲しいな。ねぇ、ハウバ?」
「そうでござるな」
「う~ん、そうも行かないしな。よし、俺が似たようなの作ってやる」
「ホント!嬉しい」「がうっ」
「クロス君、至急来てくれ」
「伯爵が直々にどうしました?」
「話は後だ」
案内されたのはさっきの部屋で、中には国王と密使と思われる熊族の獣人がいた。
「何があったのです?」
「実はな……」
☆☆
最近、陛下の様子がおかしい。獅子族でありながら血の滴る肉が苦手だった筈なのに、近頃は好んで食される。
それだけではない、性癖も変わった。以前は大人の女性が好みだったのに若い娘ばかりに声をかける。決してヤキモチからではない。陛下との間に子が無いので喜ばしい事なのだが、何故かモヤモヤするのだ。
「サブリナ様、お顔の色がすぐれませんな、このような品はお気に召しませんか?それとも何か心配事でもお有りでしょうか?」
「いえ、……」
コーリアスは私が幼いときから王宮に出入りしている商人で信用もおけるし、色々な国も回って知識も豊富だ。聞いてみても良いであろう。
「最近、陛下が別人のように思われて心配なのです」
「別人の様……でございますか?……」
「どうしました。何か気になる事でもあるのですか?」
「あまり人には話さないという事で聞いたのですが、前に護衛に頼んだ冒険者が注意をしてくれたのです」
「どのような事です?」
「人の姿に変身出来る吸血鬼がいると」
「何ですって!……まさか」
「何でもその冒険者が言うには、バランシア王国には吸血鬼の正体を見破り、専門に狩る冒険者がいるそうで御座います」
「何とかその者に頼む事は出来ないでしょうか?」
「秘密裏にバランシア国王にお願いしてみては如何でしょう?」
「解りました」
ーー
「確かに怪しい話しですね。行ってみましょうか?」
「解ってると思うが、頂いた許可証はこの国だけでの事。あまり派手に動かないようにな」
「承知していますが、そうであれば陛下の書状などが有ると助かります」
「そうであるな、用意しよう」
「ありがとう御座います。忘れていましたがこれを置いていきますので信用のおける御方に」
「眼鏡の様だが?」
「吸血鬼の正体を見破るゴーグルという物です」
「何と便利な物よ、そなたが造ったのか?」
「そうで御座います」
「ダビルド、是が非でも家臣に欲しい所だが……真に残念だのう」
「左様でございますな」
ーー
ダビルド伯爵達とは王都で分かれる事になった。
「気を付けてな」
「ありがとう御座います」
ここからは熊族のサングさんと獣王国ミウガルに向かう事になった。
「私はなんてついているのだろう。王都に吸血鬼ハンターのクロス殿が来ている時に、この地に来る事が出来たなんて」
「そんな大した者では有りませんよ。所でミウガルにいるのが吸血鬼だとすれば何か狙っている筈です。心当たりは有りませんか?」
「狙っているのは我が国ではないのですか?」
「最終的にはこの世界だと思いますが、順序として何か不思議な力の有る、お宝なような物と言いましょうか……」
「不思議な力の有るお宝ですか?……それでしたら初代国王が手に入れた途端、国造りが上手く進んだと言われ、代々王家に伝わる玉璽石という物が有ります」
玉璽石か、元の世界で似たような名の印が有ったな、確か昔の王の権力の象徴みたいな物だった筈。そのような物なら隕石の可能性大だ。
「それが狙いですね、きっと」
獣王国の王都アーチェラに着くのは2週間以上かかる、国王が無事だといいが。
この街には吸血鬼の気配は無いので安心だ。
ここの温泉はエメラルドグリーン色の硫黄泉で、お肌がスベスベになる効用だと聞いて、女性軍のリクエストにより大量に時の空間に入れる。皆、年頃になったようだ。
イザーカを出た後、王都への移動はのんびりしたものだった。このまま褒美を貰って帰れるのなら言うことは無い。
城に入りデイトナさん達は従者の宿泊施設に泊まる事になるので、ここからは別行動になる。
「謁見という形はとらず、城内の1室で陛下とお会いする事になる」
「解りました」
迎えが来たのは2日後で、それまで至れり尽くせりだった。
「良かった。このまま美味い物を食べて、寝るだけの暮らしをしていたら肥ってしまう所だったわ」
「ホントにそうよね」
「その割にはムシャムシャ、パクパク食べてたです」
「「いいんです!」」
案内された部屋には伯爵がいた。
「来たか。クロス君の望みは間違いなく叶う筈だ」
「そうですか、助かります」
「陛下がお見えになりました」
こういうのは何回経験してもやはり緊張する。
国王が入って来た。太く垂れ下がった眉、優しいおじいちゃん、という感じだが風格は有る。
この国での心配は王子が居ないという事だ。国王の子供は全て既婚していない女性なのが気にかかる。王女でも継承権は有るが、……跡目争いが起こらなければいいが。
「陛下、この者がクロスです」
「クロスと申します。陛下、このたびは……」
「よいよい、堅苦しい事は抜きじゃ。クロス、冷や汗が出ておるぞ」
「お恥ずかしい限りです」
「ふふ、冗談はさておき、こたびの件は見事であった。グリーンベルトが直撃すれば、この国はどうなっていたことか。本来なら強引にでも叙爵し私の元に置きたいところなのだ」
「それは」
「解っておる。ダビルドからそなたの事は聞いておるからな」
「感謝致します」
「うむ。これ、あれを持って参れ」
「はっ」
「これをそなた達に授けよう」
眼の前に差し出されたのは手頃な手帳ぐらいの大きさのプレートで王家の紋章が入っている。
「魔力を流してみたまえ」
「はい」
プレートに触れ魔力を流すと文字が浮き出てくる。
内容は、国王の命により吸血鬼と判断された者がいかなる者でも拘束、討伐してもいい旨の事が書いてある。吸血鬼ハンター許可証だ。
願ったりの物だ。
「これで良いかな?」
「感謝致します」
「いずれはダビルドに言われた通り、吸血鬼の事を公にして、専用の部署を立ち上げようと思っておる」
「ご英断に感謝致します」
「それで、そなた達の意見を聞きたいのだ……」
「陛下、失礼致します」
「何じゃ?」
「獣王国から使者が参っております」
「分かった。待たせておけ、ここが終わり次第直ぐに行く」
「それが密使だと申しておりまして」
「なに?密使だと」
「陛下、ただ事ではないかと。私どもは後でも」
「分かった」
ーーーー
「立派な許可証をいただいたわね、クロスさん」
「ああ、これで動き易くなる」
「いいわね、メルも欲しいな。ねぇ、ハウバ?」
「そうでござるな」
「う~ん、そうも行かないしな。よし、俺が似たようなの作ってやる」
「ホント!嬉しい」「がうっ」
「クロス君、至急来てくれ」
「伯爵が直々にどうしました?」
「話は後だ」
案内されたのはさっきの部屋で、中には国王と密使と思われる熊族の獣人がいた。
「何があったのです?」
「実はな……」
☆☆
最近、陛下の様子がおかしい。獅子族でありながら血の滴る肉が苦手だった筈なのに、近頃は好んで食される。
それだけではない、性癖も変わった。以前は大人の女性が好みだったのに若い娘ばかりに声をかける。決してヤキモチからではない。陛下との間に子が無いので喜ばしい事なのだが、何故かモヤモヤするのだ。
「サブリナ様、お顔の色がすぐれませんな、このような品はお気に召しませんか?それとも何か心配事でもお有りでしょうか?」
「いえ、……」
コーリアスは私が幼いときから王宮に出入りしている商人で信用もおけるし、色々な国も回って知識も豊富だ。聞いてみても良いであろう。
「最近、陛下が別人のように思われて心配なのです」
「別人の様……でございますか?……」
「どうしました。何か気になる事でもあるのですか?」
「あまり人には話さないという事で聞いたのですが、前に護衛に頼んだ冒険者が注意をしてくれたのです」
「どのような事です?」
「人の姿に変身出来る吸血鬼がいると」
「何ですって!……まさか」
「何でもその冒険者が言うには、バランシア王国には吸血鬼の正体を見破り、専門に狩る冒険者がいるそうで御座います」
「何とかその者に頼む事は出来ないでしょうか?」
「秘密裏にバランシア国王にお願いしてみては如何でしょう?」
「解りました」
ーー
「確かに怪しい話しですね。行ってみましょうか?」
「解ってると思うが、頂いた許可証はこの国だけでの事。あまり派手に動かないようにな」
「承知していますが、そうであれば陛下の書状などが有ると助かります」
「そうであるな、用意しよう」
「ありがとう御座います。忘れていましたがこれを置いていきますので信用のおける御方に」
「眼鏡の様だが?」
「吸血鬼の正体を見破るゴーグルという物です」
「何と便利な物よ、そなたが造ったのか?」
「そうで御座います」
「ダビルド、是が非でも家臣に欲しい所だが……真に残念だのう」
「左様でございますな」
ーー
ダビルド伯爵達とは王都で分かれる事になった。
「気を付けてな」
「ありがとう御座います」
ここからは熊族のサングさんと獣王国ミウガルに向かう事になった。
「私はなんてついているのだろう。王都に吸血鬼ハンターのクロス殿が来ている時に、この地に来る事が出来たなんて」
「そんな大した者では有りませんよ。所でミウガルにいるのが吸血鬼だとすれば何か狙っている筈です。心当たりは有りませんか?」
「狙っているのは我が国ではないのですか?」
「最終的にはこの世界だと思いますが、順序として何か不思議な力の有る、お宝なような物と言いましょうか……」
「不思議な力の有るお宝ですか?……それでしたら初代国王が手に入れた途端、国造りが上手く進んだと言われ、代々王家に伝わる玉璽石という物が有ります」
玉璽石か、元の世界で似たような名の印が有ったな、確か昔の王の権力の象徴みたいな物だった筈。そのような物なら隕石の可能性大だ。
「それが狙いですね、きっと」
獣王国の王都アーチェラに着くのは2週間以上かかる、国王が無事だといいが。
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