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終章 いつも楽しく面白く

第8話 干した方が価値が高くなるとか

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 街を堪能したユーキ達が、宿屋に戻って来た。

「ただいま~!」
「あっ! おかえりなさい、ユーキ! お姉ちゃんが居なくて寂しくなかった!?」
「うん、ネム達が居たから大丈夫!」
「そ、そう……」

 軽く返され、少し落ち込むパティ。

「みんな、明日には出発しますけどぉ、もうやり残しは無いですかぁ?」
「欲しかったぬいぐるみもユーキ姉様に取ってもらったから大丈夫」
「ロ、ロロも新たな体験が出来たので、満足なのです」
「何よ、新たな体験って?」

「僕はまたいつでも行けますので」
「僕もいっぱいゲームソフトゲットしたから満足だよ」
「ボクもユーキちゃん達といっぱい遊べて楽しかった~!」
「えっ!? 誰!?」

 一斉にラケルを見るパティ達。

「ち、ちょっとユーキ君、こっちへ!」
「何~? また~?」

 ラケルだけを残し、ユーキ達を部屋の隅に連れて行くアイバーン。

「ユーキ君、彼女は何かね!?」
「ラケルの事? ああ、因みに彼女じゃなくて彼ね」
「なん……だと!? い、いや、それは今はいい。彼女、彼は一体何者だ? ユーキ君の知り合いなのかね?」
「いや、さっきゲーセンで知り合ったばかりだよ」

「なんっ!? ユーキ君! 今がどういう状況か分かっているのかね!? 彼女、彼は……ああもうややこしい! ラケル君がナンバーズの可能性だってあるのだぞ!?」
「またあ~!? それもう、メル君に言われたよ?」

「ならば何故宿屋まで連れて来たのかね!? もしもラケル君がナンバーズだったなら、他のナンバーズに我々の居場所を知られてしまうかもしれないのだぞ!?」
「だからそれもメル君に言った!」
「私は聞いていない!」

「宿屋は単にラケルも同じ宿屋に泊まってるからだし」
「このトゥマールには他にも数多くの宿屋があるのにかね?」
「うん、凄い偶然だね」
「ピュアだなっ!? 我々の事を調査して同じ宿屋にしたかもしれない!」

「もう! アイ君の分からず屋! ラケルは悪い娘じゃないんだ! だから絶対にナンバーズなんかじゃないよ!」
「ユーキ君はラケル君と今日出会ったばかりなのだろう? 何を根拠に言っているのかね!?」
「僕の直感!」
「感かっ!!」

「じゃあ何で僕がこの魔法世界に戻って来て記憶の無い状態で、初めて出会ったパティや、いきなり海パン一枚になる変態アイ君を信用したと思うの!?」
「ぐうっ、それは……」
「僕は仮にも女神様なんだよ? 人を見る目ぐらいあります!」

「あたしはユーキが信じるなら信じるわ!」
「パティ君!?」
「私もぉ、ユウちゃんの人を見る目は確かだと思いますぅ」
「セラ君まで!?」

 2人の後押しを受けて、やれやれと言った表情でようやく納得するアイバーン。

「分かった。君達がそう言うなら信じよう。但し! 私やセラ君は自分達の故郷の守護にあたる為、ユーキ君の護衛は出来ない。パティ君! シャル様に逆らってまでユーキ君について行くと言ったのだ。必ずユーキ君を守り抜いてくれ」
「任せなさい! ナンバーズだろうとメンバーズだろうと、このあたしが1人残らずぶっ飛ばしてやるわ!」


 その2日後、BL隊のメンバーはそれぞれの故郷の防衛の為に、一旦元の国に帰る事となった。
 カオスは、サーティーンナンバーズしか出さないとは言っていたが、一応用心の為である。

「では、手筈通りに。決戦開始日から数日はそれぞれの故郷を防衛しつつ、もしもナンバーズが襲って来た場合は各個撃破する事」
「そして退屈になったらリーゼルに行ってユーキさんをおちょくればいいんですね? 了解です」
「ナンバーズが来る様子が無ければ僕のとこに集合! おちょくるのは無しっ!!」
「ええ~」
「ええ~、じゃないっ!!」


 フィーと猫師匠はグレールへ。
 アイバーン、メルク、ブレンの王国騎士団3人は、そのままトゥマールに残る事に。
 セラとレノは故郷ヴェルンへ。
 そして今は帰る故郷の無いネムとロロ、猫師匠に逆らったパティの3人は、ユーキと共にリーゼルの守護にあたる事になった。
 

 3方に別れる帰還組をそれぞれ見送る王国騎士団の3人。
 セラとレノを見送りに来たアイバーン。

「セラ君、レノ。位置関係上、結果的に2人は最前線の防衛という事になるが、くれぐれも気を付けてくれたまえ」
「心配するな。俺達兄妹は攻撃力こそ低いが、守りに関しては絶対の自信がある。そう易々とやられはしないさ」
「そうですよぉ、いざとなったらレノを囮にして逃げますから大丈夫ですよぉ」
「おいっ!!」
「ふむ……ならば最悪でもレノ1人の犠牲だけで済みそうだな」
「お前もかっ!?」


 一方、猫師匠とフィーを見送るブレン。

「さあ!! シャル陛下!! フィー殿!! あなた方はこの王国騎士団副団長!! ブレンがお見送りいたしますぞ!!」
「耳元で大声出すニャ! やかましい奴ニャ」

「シャル様のイビキよりはマシです」
「フニャッ!? 誰のイビキがやかましいって!?」
「いいえ、オーディオのスピーカーを変えたら音の響きが増したと言ったんです」
「こだわり派!?」

「何いっ!? 音のデカさなら俺様も負けませんぞおおおっ!!」
「ややこしいからお前は絡んで来るニャア!!」


 そしてメルクはユーキ達を見送る為、リーゼル行きの船が出る港に来ていた。

「皆さん、どこからナンバーズが襲って来るかも分かりません。道中お気を付けて」
「大丈夫よ。あたしとネムの最強コンビが居るんだから。それよりも、何でこの娘が付いて来てる訳?」

 パティが不服そうな顔で見た先には、何故かちゃっかり付いて来たラケルが居た。

「ボクはぬいぐるみを取ってもらった恩があるからね! ユーキちゃんに付いて行く事にしたんだ!」
「軽いわね!?」
「何言ってんの。みんなだって似たようなもんだったでしょ!?」
「あ、あたしは一応師匠に言われたから……」

「と、とにかく! 船には一般客の方も大勢乗ってるんです。客の中にだってナンバーズが潜んでいるかもしれないんですから、くれぐれも警戒を怠らないようにしてくださいね!」
「言ったでしょ!? メンバーズなんかへでもないわ!」
「パティ姉様、ナンバーズ……」
「似てるんだからどっちでもいいのよ」

「そこは間違えてもらっては困りますねえ」

 パティの言葉に割って入るように、男の声が響く。

「!?」
「誰っ!?」

 声のした方を一斉に見るユーキ達。
 その声の主は、リーゼル進行作戦の時総大将としてパラス軍を率いていたバーダであった。

「あ、あんたはリーゼルでネムと戦った……誰だっけ!?」
「パティ姉様忘れたの? えと、あれだよ……煮干し」
「え!? 一夜干しじゃなかったですか?」
「確か部屋干しなのです」

「いや、別物になっちゃってるから! やっぱり食べ物系だよ。干し椎茸とか」
「干し貝柱なんか美味しいわよね?」
「干しアワビとか言うのを食べてみたいのです」
「干し柿、なんてのもありますけど、どれもピンと来ませんね?」
「正解は!?」

 ユーキ達が一斉にバーダを見つめ、正解を求める。

「梅干しです」
「ああそうだ! 梅干しだ~!」

 みんながポンと手を叩く。

「いや、そもそも梅干しでもありませんからねっ!!」

 ハッとなり、遅れて訂正する梅、バーダであった。





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