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終章 いつも楽しく面白く

第12話 まさかメルクまでも!?

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 メルクが男であった事にショックを受けたトレスが、頭をかきながら気持ちを切り替える。

「チッ! せっかくかわい子ちゃんが相手だと思って張り切って出て来たのによ~。しゃ~ね~な~! オイ! バーダ!」
「な、何でしょう!?」
「こいつの相手は俺がするから、テメェはマナ王女の船を追いな!」
「いや、しかし! 彼との決着はまだ!」

「バカが! 分かんねぇのか!? あのまま続けてたら完全にテメェの負けだ負け!」
「ですがっ!」

 しつこく食い下がるバーダを睨みつけるトレス。

「いい加減にしろよテメェ! 俺はたった今、失恋したばっかで機嫌が悪りぃんだ!」
「勝手に勘違いしただけでしょう?」
「うるせぇ!! グダグタ言ってねぇで、さっさと行って船に居るナンバーズと合流しやがれ!」

 トレスの言葉にピクリと反応するメルク。

「今、船に居るナンバーズって言いましたか!?」
「あん? 言ったがどうした?」
「それって、ラケルさんの事ですか?」
「ラケル? さてな~? そんな名前だったかな~? ナンバーズ全員の名前なんていちいち覚えてねぇから分かんね~よ」 
「仲間の情報を敵に教えるつもりは無いという事ですか……なるほど」

「まあ、人数ぐらいなら教えてやってもいいぜ!? 船に乗ってるナンバーズは2人だ!」
(2人!? ラケルさんともう1人!? マズイッ! 今まともに戦えるのはパティさんとネムさんだけ。そこへ更に1人増えたら、ユーキさんを守る人が……)

 中々行こうとしないバーダに苛立つトレス。

「オイ、バーダ!! テメェ、さっきから俺がこいつの気を引いてんだから、さっさと行きやがれ!!」
「し、仕方ありませんね~。では私はネム王女にリベンジさせてもらうとしましょう」
「そんなにハッキリ言われて行かせる訳ないでしょう!?」

 飛び立とうとするバーダに弓矢を放つメルク。

「それを俺が邪魔させる訳ねぇだろう!」

 トレスが腕を振ると、メルクの放った矢が消滅する。

(矢が消えた!? やはりメールシュトロームを消したのも彼!?)

 その隙にバーダが飛び立ってしまう。

「ああっ! 待ちなさい!!」

 再び弓を構えるメルク。

「待つのはお前だ!」

 いきなりメルクの目の前に現れるトレス。

「くっ!」

 咄嗟にトレスに矢を放つメルク。
 しかしトレスが腕を振ると、またしても矢が消滅してしまう。
 警戒して距離を取るメルク。

(メールシュトロームといい弓矢といい、どうやって僕の魔法を消しているのか分からない。考えられるのは火属性の魔法で水を蒸発させる事ですが、仮に幻術で見えなくしているとしても、炎の熱量を全く感じないというのはおかしい。セラさんのように魔法そのものを消す能力なのか? でもそれなら、僕の魔装自体が消滅する筈。他に何が……)

「戦いの最中に考え事とは、随分余裕あるじゃねぇか!」

 トレスがまた腕を振ると、何かがメルクの右足を貫く。

「うあっ!!」

 激痛に顔が歪むメルク。

「まだ終わりじゃねえぞ!」

 両腕をあらゆる角度で振るトレス。

「くっ! ウォーターウォール!!」

 体の正面に水の壁を作り出すメルク。
 しかしそれでもまた何かがメルクの体を貫いて行く。

「ぐうっ!!」

 後ろに倒れるメルク。

(動きから見ても何かを投げているようですが、何なのかが全く見えない。魔装衣から推察しようにも、どう見ても白衣にしか見えないし。ランクがひとつ上がっただけで、こうも強さが違うなんて……くっ! ナンバーズをただの1人も倒せずにやられる訳には……)

「ど~だ!? 俺はバーダの奴とは違うだろ!? 敵わないと悟ったのなら降参しろ! そして俺と付き合え! そうすりゃあ、命は助けてやるぜ!?」

 ゆっくりと体を起こすメルク。

「だ、だから! 僕は男だと言ったでしょう!?」
「ああ~、それなんだがよ~。俺達ナンバーズ、特に上位ランクの連中はみんなバケモン揃いでよ~。もしかしたら、性別を変える魔法とか使える奴も居るんじゃねぇかと思うんだよ」

 トレスの言葉に青ざめるメルク。

「まままま、まさか! そそ、その魔法で、ぼぼぼほぼ、僕を変えるつもりですかっ!?」
「そのつもりだが、問題あるか!?」
「問題だらけですよ!!」

 上半身だけを起こした不完全な体勢から矢を放つメルク。

「そんなの、絶対お断りですっ!!」
「何度やっても同じだぜ!」

 先程までと同じように、トレスの体に届く前に消滅してしまう水の矢。
 だが、なおも矢を放ち続けるメルク。

「しつけ~な! なら、矢を放てねぇようにしてやるよ!」

 そう言ってまたトレスが腕を振ると、何かがメルクの右腕を貫く。

「ぐあっ!!」

 激痛で動きが止まるメルク。
 
「ほら! その腕じゃあもう弓を引けねぇだろ!? 悪い事は言わねぇ! 降参して大人しく俺の彼女になれ!」
「うわあっ! 今ハッキリ言いましたね~!?」
「ハッキリ言ってやらね~と分からねぇ、鈍感系女子なのかと思ってな」
「だから僕は男だと何度言えば!?」

「本当に男なのか?」

 急に静かなトーンで喋り出すトレス。

「な、何を!?」
「お前は本当に自分が、正真正銘生まれながらにずっと男だと言い切れるのか!?」
「き、急に何を言ってるんですか? あなたは?」

「ここは魔法世界だ。魔法ってのは何も、火や水や風なんかを操って攻撃するばかりじゃない!」
「そ、そんな事は分かっています」

「俺はさっき、あくまで自分の予想で言ったんだが、性別や年齢を変える魔法だって実在するかもしれない」
「そりゃあ、可能性が無いとは言いませんが」
(実際ユーキさんは男として異世界に送られてた訳ですから)

「ならば! お前の知らない内に! どこかの誰かによって! 元々女であったのを! 男に変えられたのかもしれない!!」
「えっ!?」

(それって、以前にアイバーン様がユーキさんに言った事。それでユーキさんは本当に女の子だった訳ですが……ま、まさか僕まで!?)

「あ、あなた!! あなたは何か、僕の秘密でも知っているんですか!? ぼ、僕の出生の秘密、みたいなものを……」

 恐る恐るたずねるメルク。
 しばし沈黙していたトレスが口を開く。

「いや、もしそうだったら嬉しいな~って思っただけなんだけど!?」
「ただの願望ですかっ!!」





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