嘆きの王と深窓の姫

篤実譲也

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終わりの続き

05

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紐解いてみれば簡単な話だ。

ただ、王族でなければもう少し平和に終わっていたのだろう。

腹心の怒りは単なる逆恨みで、王に殺されたのは悲しい誤解で、継母に愛されなかったのは不幸な現実だった。

「これでもまだ、殺せと言うのか……」

私は首を横に振った。

両手で頬を包むように触れ、止めどなく溢れる涙を何度も拭う。

「私もずっと、逢いたかった」

幻とさえ思っていた人が目の前に現れたんだ。

本当は触れたくて堪らなかった。

離れるのが惜しくなると分かっていたから我慢していたんだ。

「そんなに罰が欲しいならくれてやる。死ぬなんて赦さない。一生俺の傍に居れば良いだろうが」

ああ、この人には敵わない。

死んでも赦してくれないなら生きるしかないじゃないか。

「……いつか、約束したな。視察に連れて行くと」

「懐かしいな」

「きっと似合う」

あのワンピースのことだと直ぐに分かった。

視察と称しているが、不器用な王が決まって使う誘い文句だった。

ほんの少し口角を持ち上げただけの、ともすれば見逃してしまうような微笑み。

何度も目にした懐かしい表情に泣きたいような気持ちになる。

「ライオネル?」

肩口に額を押し付けるようにしてもたれ掛かってくる。

そのまま動かなくなった王に声を掛けてみるものの、声が小さくて上手く聞き取れない。

「少し、寝る」

口元に耳を寄せると唸るように呟いた。

肩から落ちそうになった頭を慌てて抱き寄せる。

「エル!」

真っ先に駆け寄って来たのは兄だった。

そう言えば、さっきは随分な物言いをしてしまった。

「エルがはっきり言う時があるのね」

ああ言えば遠ざけられると思ったのだ。

これまで大人しくしていたからさぞかし驚かせてしまっただろう。

「申し訳ありませんでした」

「気にするな。それより……いや、シランの若獅子は大丈夫なのか」

これで私の嘘も見抜かれてしまっただろう。

あれだけ堂々と前世の話をしてしまった以上はきちんと説明せねばならない。

今この場で追求されないだけ有難いと思わないとな。

「ご挨拶が遅れまして、申し訳御座いません。ロイド・エクルストンと申します」

これまで静観していた男がその場にひざまずいて剣を掲げる。

鞘にはシランの花を模した紋章が刻まれている。

王の腹心だと聞かされてつい探るような視線を向けてしまった。

「我が王は連日多忙を極めておりまして……」

決まりが悪そうに目を逸らした。

シランは悪政から立ち直ったばかりだ。

言葉を濁しているが、城に来るまでに相当無茶をしたようだ。

「寝かせてやりなさい」

父の言葉に頷き、執事長の手を借りて客間に移動する。

人払いするように頼むと一礼して部屋を出て行く。

これでゆっくりと話が出来る。
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