6 / 30
第6話 心のざわめき
しおりを挟む
必要な物資を買い込み、予定も立てた所で今日はひとまず終了。万全の状態にするべく、ルチルとクレインは家で身体を休めるのであった。
「あだっ! っつー……」
「きつく巻きすぎたかな? 次は気をつけるね」
「次がないように努力するけどな……」
1日が過ぎ去ろうとしている所で、ルチルはクレインの包帯を交換してあげていた。服はすっかり脱いでもらって、直接患部に薬を塗り込んでいく。
「わっと、とととっ」
「ん、炎が邪魔になってるのか」
「いや燃えたりするわけじゃないから大丈夫だけど……」
「でも傷口が見えづらいんだろ? ふぅん!」
クレインが大きく息を吸い込むと、彼の背中から放出されていた炎が次第に収まっていく。
「え、炎って格納できるんだ。初めて知った」
「できるにはできるが、これ水中で息止めてんのと同じ感覚だからな。ずっと入れてんと体温が上がってきて、むず痒くなってくんだわ」
「そっか、じゃあぱぱっと終わらせないとね」
クレインの厚意に感謝しつつ、ルチルは手短に交換を済ませていく。どうやら彼の治療をしていくにつれ慣れてきた様子。
「なあルチル、お前は炎人についてどれぐらい知ってるんだ?」
「んー……そんなに詳しくないよ。自分の意志で炎に命令できるとか、それぐらい」
このことはニーナに教えてもらった。炎人の出す炎は、基本的には装飾品なので、触れたとしても何も起こらない。そのため服を着ても引火することはないし、風呂に入っても消えない。本人にだけ感じられる熱のみを有しているのだ。
しかし炎を持つ者が『燃やす』という意思を送った時、初めて炎はその機能を果たすのだという。
「ま、そんな感じだな。この炎の仕組みってのは」
「そっちはどんな感覚なの? わたし見ての通りの始人だから、想像つかないんだよね」
「う~むむこれまた口で説明すんのがむずいんだが……こう、ぶわーっと燃え上がる感じ?」
「表現力が乏しすぎる、一切想像できない」
「うるせー! おれはケンカはつえーけど語彙力は爆散してんだよ!」
「よくある男の子の典型って感じですな~。それでいいのか皇子様」
「いいんだよ難しいことは頭いいのに任せておけば!」
「スヴァーダ帝国の明日はどっちだ……!」
雑談に興じながら、治療はあっという間に終わる。あとは寝るだけとなった矢先に――
「ふっ……ははは!」
「んっ?」
クレインは突然笑い出した。
「……どうしたの急に。思い出し笑い?」
「いやちげーよ。お前と話していると楽しいなって」
「楽しい? 本当に?」
「本当だとも。おれの周囲には同年代の女子ってそんなにいねえからよ~」
肩をごりごり回しながら、クレインはぼやくように話す。
「一応姉貴がいるけど、ほとんど城空けてるし。だからみーんなおれより年齢が上なんだよ」
「まずは世話係だろ。それから城の使用人。あと教育係のババア。そんでもって……おふくろだ!」
ルチルの耳がぴくっと動いた。彼女の心の波打ち際に押し寄せていた感情が、それを境に一気に引いていく。
「……お母さん、いるの?」
「いるぜいるぜ。これがやかましいのなんのありゃしねえ」
「……そうなんだ」
「おれが何かする度突っかかってきやがってよ~。もうおれは甘やかされる年頃じゃねーっつぅの!」
「……」
「飯作るのはまだいい、でも下着のサイズまで確認するやつがあるか!? 仮にも皇帝陛下の妻に当たる立場なんだからよ、んな庶民的なことよりもっとやるべきことがあるだろっつーか……」
「……ルチル?」
急に声がしなくなったので、クレインはベッドの方を向く。ルチルは横になっていて、彼に背中を向けていた。
「……話していたら眠くなっちゃったの。だからもうおやすみ」
「あ、ああおやすみ。でもよ、ルチルと話していると楽しいのは事実だからな!」
「それはもうわかったよ……」
程なくしてクレインの寝息が聞こえる。寝相を見るのは2回目であるが、やはり四肢が布団から飛び出した悪い寝相であった。
目を閉じて寝たふりをしていたルチルは、またしてもそんな彼の寝相を見守っている。
「……ごめんね。本当に、ごめんね……」
彼の寝顔に向けて言いたいことはあったが、口にしなかったしできなかった。
大きい感情が雫に変わる前にルチルはナイトテーブルに手を伸ばす。
そこにあった物体を2つ、ルチルは両手で包み込むようにして抱きしめた。片方は昨日子守唄を聴いた貝殻である。
そしてもう片方は、卵が2つほど丸々入りそうな大きさの瓶であった。中には植物や木の実が多数入っており、さながら一つの森のよう。
その中央には、この世の物とは思えない白をした、人の手では決して作れないような形の宝石が置かれている。
(なんで……なんでこんなにも、悲しいの。クレインはお母さんのこと、話してくれただけじゃない……)
(それなのにわたしは……わたしはどうして……)
貝殻と同様に、瓶も母から受け継がれたもの。もちろん先祖代々という点も同様だ。
故にこれには多くの人の思いが込められており、その分だけルチルにとっても宝物だ。
だから今度の冒険には、置いていこうと思っていた。万が一危機に瀕した場合に、失いたくないから。
しかし今クレインと話してみて、持っていくことを決めた。もしも冒険の途中で感情が耐えられなくなってしまったら、抑え込む手段はこれしかない。
まして彼と相談して決めたルートでは、あのヤルンヴィドの近くを通る。3年ぶりに接近して何が起こるのか、ルチル自身もわからないのだ――
さて、睡眠には感情を整理し落ち着かせる効果がある。翌日にもなると、ルチルの気持ちはすっかり整理され、引き締まった気持ちで準備に取り組むことができていた。
「なんだそのでっかいバッグは……」
「これに色々入れていくに決まってんでしょ。ふふーん」
ルチルは滑車と取っ手が付いた四角いバッグを手に、どや顔をクレインに決める。
「倉庫に眠っていたのを頑張って引っ張り出しました!」
「あー、努力は認めるんだが。そんな量持ってたら、緊急時に対応できんのか?」
「え゛っ」
思わぬ指摘にぎょっとするルチル。
「そんな大仰な荷物持っていくのは、旅行屋がパッケージしたツアーに行く時ぐらいだぜ。今回は何があるかわかんねーから……お前がいつも下げている、あのポシェットぐらいで十分だ」
「ええ……そしたらお腹空かない……?」
「パンパンに詰めとけ。そして町とかに着いたら補給してくんだよ」
「んじゃ昨日の買い物には何の意味が……」
「張り切りすぎていたな。はは、これもいい経験じゃねーか?」
慣れたように話すクレインだが、実は彼も本格的な旅はこれが初めてである。
「あとは服のポケットに入れておいたりとかな。旅行者用の服って、そういうのがいっぱい付いてんだよ。おれそれに着替えてーから、今日は服屋に行かね?」
「ん……それは賛成。わたしも別に行きたいお店があるんだ。多分、クレインの準備もそこでできると思うよ」
「おれにも関係ある店? へえ、どんなのなんだか」
朝食を済ませて、ルチルはクレインと町に出る。万が一蒼い炎がバレてしまったら大変なので、クレインには元から着ていた服の上から、さらに全身をすっぽり覆うローブに身を包んでもらうことに。
「ああー、あぢーよ、あづいあづい」
「ごめんね、わたしのお願い聞いてもらっちゃって。もうすぐ到着するからね」
「結構歩いてきたが……もうすぐか」
そこは大通りから入ってくる、裏路地とも呼べる場所。こういった所にはその道のプロしか知らないような、隠れた名店があるものだ。
「ここでーす、『ノワールのよろず屋』。服脱いでいいよ、こんにちはー」
「んん……んんっ? な、なんだこの店は?」
クレインが驚くのも無理はない。そこは鍛冶屋にあるような武器や鎧に加えて、魔道具店でしか見かけない杖やローブも取り揃えられていたのだ。
「はいよーっ、いらっしゃい。おっ!? 誰かと思えばルチルちゃんじゃねえか!?」
「おじいさんこんにちは。この人は鍛冶職人なんだよ、クレイン」
「へえ……こんにちは」
ローブを脱いだ汗だくの顔で、お辞儀をするクレイン。教え込まれたような美しい礼だった。
そして脱いですぐに背中から炎が飛び出す。おじいさんはそれを受けたのか、もっと驚いた様子で叫ぶ。
「……ばあさん! 大変だ!! ルチルちゃんが男連れてる!!!」
「ちょっ!?」
「誤解するようなこと言うなクソジジイ!!」
「かーっ!? なんだお前、初対面の爺さんに向かってジジイとは!! 教育がなってないようじゃな!?」
「いやおめーが突然変なこと言うのが悪いんじゃねーか!!」
「……なんだいうるさいね、こっちは魔道具の修繕で忙し……ってあら?」
「おばあさんこんにちは。えーと……えーとぉ」
「ちょっとあんた!! ルチルちゃんが困ってるじゃないかスカタン!!」
会計口の奥から出てきた、皺が目立つ女性。おじいさんは彼女から盛大にぶっ叩かれる。
「うげえーっ! でもよぉばあさん、男だぞ!? ルチルちゃんが男連れてきたんだぞ!?」
「あんた今日は奥に籠ってずっと武器作ってな……!!!」
「わ、それは困ります。おじいさんには相談したいことがあるんです。こっちの男の子についてなんですけど」
「は?」
突然話題の中心に連行された上に、必然的にこの老人と話さないといけないことを察し、困惑するクレイン。
「彼は斧を扱うんですけど、それがなくなっちゃって。新しいのを見繕っていただければなーと」
「はぁ~~~!? ルチルちゃんが男の為に武器の相談だとぉ!? ばあさんこれは!!!」
「一々口立てるなぁー!!! 早く営業せんかいボケェ!!!」
「んげーっ!!!」
おじいさんはおばあさんに背中をビシバシ叩かれ、武器の販売スペースに移動させられた。
「さっ、あとは二人で話しておいで。武器だけじゃなくって、服の相談にも乗ってくれると思うよ。武器を買う人は大抵が冒険者だから、服も一緒に買うことが多いんだって」
「へぇ……それに加えて魔道具も取り扱ってんだろ? 本当の意味でよろず屋なんだな」
感心しつつクレインはおじいさんの所に向かう。
この店はよろず屋の名が示す通り、武具と魔道具の双方を取り扱っている。主人のおじいさんが武具担当で、おばあさんが魔道具担当。魔法をよく扱うルチルは、おばあさんに用事があった。
「あとすみません、実は赤い鈴を切らしちゃって。新しいのいただけますか?」
「ああ、それでやってきたのかい? 少し待ってなさい」
カウンターの奥に引っ込むおばあさん。2分後には、ご指名通りの赤い鈴を手に戻ってきた。
「一昨日できたばかりの新品さ。しかし旅行先だと、上手く発揮するかどうかは微妙だがねえ」
「え……わたしが旅行に行くって話、どこから」
「町中で話題になってるさ。あの『春風の魔法少女』が、1ヶ月も仕事を休んで旅行だって」
「ふへえ~……壁に目と耳がいっぱい張り付いてるぅ~……」
とほほと落ち込むルチル。自分の影響力がいか程かを実感するのであった。
「ま、私は何をしようが気にしないけどさ。そんな間旅行に行くってんなら、魔法関連の道具も買っといた方がいいんじゃないかい?」
「んー……じゃあ『ルーンポーション』3つと、『魔法布』ください」
「あいよ。『精神石』は?」
「必要ないです」
「……そうかい」
おばあさんに連れられ、ルチルは魔道具の販売スペースに向かう。その間クレインとおじいさんが、斧を前に会話に熱中している様子を横目で見るのだった。
「あだっ! っつー……」
「きつく巻きすぎたかな? 次は気をつけるね」
「次がないように努力するけどな……」
1日が過ぎ去ろうとしている所で、ルチルはクレインの包帯を交換してあげていた。服はすっかり脱いでもらって、直接患部に薬を塗り込んでいく。
「わっと、とととっ」
「ん、炎が邪魔になってるのか」
「いや燃えたりするわけじゃないから大丈夫だけど……」
「でも傷口が見えづらいんだろ? ふぅん!」
クレインが大きく息を吸い込むと、彼の背中から放出されていた炎が次第に収まっていく。
「え、炎って格納できるんだ。初めて知った」
「できるにはできるが、これ水中で息止めてんのと同じ感覚だからな。ずっと入れてんと体温が上がってきて、むず痒くなってくんだわ」
「そっか、じゃあぱぱっと終わらせないとね」
クレインの厚意に感謝しつつ、ルチルは手短に交換を済ませていく。どうやら彼の治療をしていくにつれ慣れてきた様子。
「なあルチル、お前は炎人についてどれぐらい知ってるんだ?」
「んー……そんなに詳しくないよ。自分の意志で炎に命令できるとか、それぐらい」
このことはニーナに教えてもらった。炎人の出す炎は、基本的には装飾品なので、触れたとしても何も起こらない。そのため服を着ても引火することはないし、風呂に入っても消えない。本人にだけ感じられる熱のみを有しているのだ。
しかし炎を持つ者が『燃やす』という意思を送った時、初めて炎はその機能を果たすのだという。
「ま、そんな感じだな。この炎の仕組みってのは」
「そっちはどんな感覚なの? わたし見ての通りの始人だから、想像つかないんだよね」
「う~むむこれまた口で説明すんのがむずいんだが……こう、ぶわーっと燃え上がる感じ?」
「表現力が乏しすぎる、一切想像できない」
「うるせー! おれはケンカはつえーけど語彙力は爆散してんだよ!」
「よくある男の子の典型って感じですな~。それでいいのか皇子様」
「いいんだよ難しいことは頭いいのに任せておけば!」
「スヴァーダ帝国の明日はどっちだ……!」
雑談に興じながら、治療はあっという間に終わる。あとは寝るだけとなった矢先に――
「ふっ……ははは!」
「んっ?」
クレインは突然笑い出した。
「……どうしたの急に。思い出し笑い?」
「いやちげーよ。お前と話していると楽しいなって」
「楽しい? 本当に?」
「本当だとも。おれの周囲には同年代の女子ってそんなにいねえからよ~」
肩をごりごり回しながら、クレインはぼやくように話す。
「一応姉貴がいるけど、ほとんど城空けてるし。だからみーんなおれより年齢が上なんだよ」
「まずは世話係だろ。それから城の使用人。あと教育係のババア。そんでもって……おふくろだ!」
ルチルの耳がぴくっと動いた。彼女の心の波打ち際に押し寄せていた感情が、それを境に一気に引いていく。
「……お母さん、いるの?」
「いるぜいるぜ。これがやかましいのなんのありゃしねえ」
「……そうなんだ」
「おれが何かする度突っかかってきやがってよ~。もうおれは甘やかされる年頃じゃねーっつぅの!」
「……」
「飯作るのはまだいい、でも下着のサイズまで確認するやつがあるか!? 仮にも皇帝陛下の妻に当たる立場なんだからよ、んな庶民的なことよりもっとやるべきことがあるだろっつーか……」
「……ルチル?」
急に声がしなくなったので、クレインはベッドの方を向く。ルチルは横になっていて、彼に背中を向けていた。
「……話していたら眠くなっちゃったの。だからもうおやすみ」
「あ、ああおやすみ。でもよ、ルチルと話していると楽しいのは事実だからな!」
「それはもうわかったよ……」
程なくしてクレインの寝息が聞こえる。寝相を見るのは2回目であるが、やはり四肢が布団から飛び出した悪い寝相であった。
目を閉じて寝たふりをしていたルチルは、またしてもそんな彼の寝相を見守っている。
「……ごめんね。本当に、ごめんね……」
彼の寝顔に向けて言いたいことはあったが、口にしなかったしできなかった。
大きい感情が雫に変わる前にルチルはナイトテーブルに手を伸ばす。
そこにあった物体を2つ、ルチルは両手で包み込むようにして抱きしめた。片方は昨日子守唄を聴いた貝殻である。
そしてもう片方は、卵が2つほど丸々入りそうな大きさの瓶であった。中には植物や木の実が多数入っており、さながら一つの森のよう。
その中央には、この世の物とは思えない白をした、人の手では決して作れないような形の宝石が置かれている。
(なんで……なんでこんなにも、悲しいの。クレインはお母さんのこと、話してくれただけじゃない……)
(それなのにわたしは……わたしはどうして……)
貝殻と同様に、瓶も母から受け継がれたもの。もちろん先祖代々という点も同様だ。
故にこれには多くの人の思いが込められており、その分だけルチルにとっても宝物だ。
だから今度の冒険には、置いていこうと思っていた。万が一危機に瀕した場合に、失いたくないから。
しかし今クレインと話してみて、持っていくことを決めた。もしも冒険の途中で感情が耐えられなくなってしまったら、抑え込む手段はこれしかない。
まして彼と相談して決めたルートでは、あのヤルンヴィドの近くを通る。3年ぶりに接近して何が起こるのか、ルチル自身もわからないのだ――
さて、睡眠には感情を整理し落ち着かせる効果がある。翌日にもなると、ルチルの気持ちはすっかり整理され、引き締まった気持ちで準備に取り組むことができていた。
「なんだそのでっかいバッグは……」
「これに色々入れていくに決まってんでしょ。ふふーん」
ルチルは滑車と取っ手が付いた四角いバッグを手に、どや顔をクレインに決める。
「倉庫に眠っていたのを頑張って引っ張り出しました!」
「あー、努力は認めるんだが。そんな量持ってたら、緊急時に対応できんのか?」
「え゛っ」
思わぬ指摘にぎょっとするルチル。
「そんな大仰な荷物持っていくのは、旅行屋がパッケージしたツアーに行く時ぐらいだぜ。今回は何があるかわかんねーから……お前がいつも下げている、あのポシェットぐらいで十分だ」
「ええ……そしたらお腹空かない……?」
「パンパンに詰めとけ。そして町とかに着いたら補給してくんだよ」
「んじゃ昨日の買い物には何の意味が……」
「張り切りすぎていたな。はは、これもいい経験じゃねーか?」
慣れたように話すクレインだが、実は彼も本格的な旅はこれが初めてである。
「あとは服のポケットに入れておいたりとかな。旅行者用の服って、そういうのがいっぱい付いてんだよ。おれそれに着替えてーから、今日は服屋に行かね?」
「ん……それは賛成。わたしも別に行きたいお店があるんだ。多分、クレインの準備もそこでできると思うよ」
「おれにも関係ある店? へえ、どんなのなんだか」
朝食を済ませて、ルチルはクレインと町に出る。万が一蒼い炎がバレてしまったら大変なので、クレインには元から着ていた服の上から、さらに全身をすっぽり覆うローブに身を包んでもらうことに。
「ああー、あぢーよ、あづいあづい」
「ごめんね、わたしのお願い聞いてもらっちゃって。もうすぐ到着するからね」
「結構歩いてきたが……もうすぐか」
そこは大通りから入ってくる、裏路地とも呼べる場所。こういった所にはその道のプロしか知らないような、隠れた名店があるものだ。
「ここでーす、『ノワールのよろず屋』。服脱いでいいよ、こんにちはー」
「んん……んんっ? な、なんだこの店は?」
クレインが驚くのも無理はない。そこは鍛冶屋にあるような武器や鎧に加えて、魔道具店でしか見かけない杖やローブも取り揃えられていたのだ。
「はいよーっ、いらっしゃい。おっ!? 誰かと思えばルチルちゃんじゃねえか!?」
「おじいさんこんにちは。この人は鍛冶職人なんだよ、クレイン」
「へえ……こんにちは」
ローブを脱いだ汗だくの顔で、お辞儀をするクレイン。教え込まれたような美しい礼だった。
そして脱いですぐに背中から炎が飛び出す。おじいさんはそれを受けたのか、もっと驚いた様子で叫ぶ。
「……ばあさん! 大変だ!! ルチルちゃんが男連れてる!!!」
「ちょっ!?」
「誤解するようなこと言うなクソジジイ!!」
「かーっ!? なんだお前、初対面の爺さんに向かってジジイとは!! 教育がなってないようじゃな!?」
「いやおめーが突然変なこと言うのが悪いんじゃねーか!!」
「……なんだいうるさいね、こっちは魔道具の修繕で忙し……ってあら?」
「おばあさんこんにちは。えーと……えーとぉ」
「ちょっとあんた!! ルチルちゃんが困ってるじゃないかスカタン!!」
会計口の奥から出てきた、皺が目立つ女性。おじいさんは彼女から盛大にぶっ叩かれる。
「うげえーっ! でもよぉばあさん、男だぞ!? ルチルちゃんが男連れてきたんだぞ!?」
「あんた今日は奥に籠ってずっと武器作ってな……!!!」
「わ、それは困ります。おじいさんには相談したいことがあるんです。こっちの男の子についてなんですけど」
「は?」
突然話題の中心に連行された上に、必然的にこの老人と話さないといけないことを察し、困惑するクレイン。
「彼は斧を扱うんですけど、それがなくなっちゃって。新しいのを見繕っていただければなーと」
「はぁ~~~!? ルチルちゃんが男の為に武器の相談だとぉ!? ばあさんこれは!!!」
「一々口立てるなぁー!!! 早く営業せんかいボケェ!!!」
「んげーっ!!!」
おじいさんはおばあさんに背中をビシバシ叩かれ、武器の販売スペースに移動させられた。
「さっ、あとは二人で話しておいで。武器だけじゃなくって、服の相談にも乗ってくれると思うよ。武器を買う人は大抵が冒険者だから、服も一緒に買うことが多いんだって」
「へぇ……それに加えて魔道具も取り扱ってんだろ? 本当の意味でよろず屋なんだな」
感心しつつクレインはおじいさんの所に向かう。
この店はよろず屋の名が示す通り、武具と魔道具の双方を取り扱っている。主人のおじいさんが武具担当で、おばあさんが魔道具担当。魔法をよく扱うルチルは、おばあさんに用事があった。
「あとすみません、実は赤い鈴を切らしちゃって。新しいのいただけますか?」
「ああ、それでやってきたのかい? 少し待ってなさい」
カウンターの奥に引っ込むおばあさん。2分後には、ご指名通りの赤い鈴を手に戻ってきた。
「一昨日できたばかりの新品さ。しかし旅行先だと、上手く発揮するかどうかは微妙だがねえ」
「え……わたしが旅行に行くって話、どこから」
「町中で話題になってるさ。あの『春風の魔法少女』が、1ヶ月も仕事を休んで旅行だって」
「ふへえ~……壁に目と耳がいっぱい張り付いてるぅ~……」
とほほと落ち込むルチル。自分の影響力がいか程かを実感するのであった。
「ま、私は何をしようが気にしないけどさ。そんな間旅行に行くってんなら、魔法関連の道具も買っといた方がいいんじゃないかい?」
「んー……じゃあ『ルーンポーション』3つと、『魔法布』ください」
「あいよ。『精神石』は?」
「必要ないです」
「……そうかい」
おばあさんに連れられ、ルチルは魔道具の販売スペースに向かう。その間クレインとおじいさんが、斧を前に会話に熱中している様子を横目で見るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】
旅する書斎(☆ほしい)
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】
魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。
ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。
「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」
不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。
甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
宇宙人は恋をする!
山碕田鶴
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞/奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。】
私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。
全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの?
中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉
(表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろ」様に感謝)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる