30 / 30
最終話 生まれ変わった少女
しおりを挟む
「……うん!」
「えへへ……!」
疲れるまで泣いた後、ルチルは顔を上げた。そして自分でも驚くことに、とても晴れ晴れとした気分になっていたのである。
『安全に進むにはお前の協力が必要なんだ……ルチル。礼については後で考えるが、必ずすると約束しよう。どうかおれに力を貸してくれないか?』
『うるせー! おれはケンカはつえーけど語彙力は爆散してんだよ!』
『ま、そうかもしれねーが。逃げるのを前提に考えてたら、戦闘で力出せねーぜ? 勝つことが第一だ!』
脳裏にはたった2週間の日々が過った。同年代の異性との出会いは、とても刺激的だった。
『ルチルはやりたいこととかねえのかよ? 仕事して金貯めて、それでしてみたいことはねえのか? どんなに馬鹿げたことでもいい、何か目標はねえのかよ!!!』
『いいぜ! せっかくだからすげーの作って、土産にしてやるぜ!』
『心配そうな顔すんなって。ルチルはあんなに強い風を起こせるんだ。ルーンをいっぱい集めることができるんだから、必ずできるさ』
それは今まで味わったことのない感覚。思いもよらない方向から優しく触れてきて、そして自分に欠けているものを真剣になって教えてくれた。
『だが……それで誰かが、ルチルが不幸になるぐらいなら……おれは、馬鹿で構わねえ……』
『おれ一人じゃくたばりそうだが、お前と一緒なら――やれる! やれるはずだ! 信じているぞ、ルチル!!!』
『ルチルーっ!! じゃあなーっ!! いつか絶対に、絶対に、ぜーったいに会おうなーっ!!!』
3年もの間墓参りをしてこなかったのは、母の死を実感してしまうから。まだどこかで生きているかもしれないと、縋る気持ちがあったのである。
しかし今はそんな気持ちを取り払った。それは彼に、クレインに出会ったから。彼の生き様を見て、自分も変わろうと思ったから。
彼は信念の下に戦っていた。だからとても強くて、そして輝いていた。
自分もそんな輝きに当てられて、少しでも変わってみようと。母の死を遠ざける目的で、なんとなく生きていたのをやめようと。
そう思えたからこそ、ルチルは散々泣いた後に、晴れやかな笑顔になれたのだ。
「それじゃあね……お母さん。アップルパイ食べてね。またお休み作って来るからね。その時はもっと美味しいもの持ってくるからね――」
ルチルはレジャーシートを畳み、供えたアップルパイ以外の荷物を持って立ち上がる。別れに名残惜しさがあるのも、死を受け入れようとする揺れ動きの一つだ。
墓を背にして飛び立つ。空を飛んでいる間、様々なことをルチルは考えた。
「美味しいもの……何があるかな。お肉にお魚お野菜、甘いものばっかじゃお母さん飽きるよね」
「そうだ、なら全部買っちゃえばいいんだよ! わたしの気に入ったもの、お母さんに全部教えちゃおう! それにはお金がたっくさん必要!」
明るい未来のことを考える時、人は限りない笑顔を見せる。今のルチルはそうであった。
「お金をたくさん手に入れるには、たくさんお仕事をしないといけない。一日でたくさん運べるようになれば、その分だけお金がもらえる」
「そのためには……魔法が上手にならないと! 今すぐにでも、魔法の訓練を始めなくっちゃ!」
辛い努力や苦労であっても、それが必要であると理解できれば、すんなりと受け入れられる。
今から始める魔法の訓練は、きっと厳しいものになるだろうと、ルチルは予感していた。それすらも笑顔で受け入れることができているのだ。
「それから、クレインを呼ぶんだからね。遊ぶお金も準備しておかなくっちゃ。うう~、ここまで来るとお金を稼ぐだけじゃ足りないかなあ」
「今でもずいぶん節約してきたつもりだけど、今後はもっと気をつけなくっちゃ。どんな方法で節約できるか、ニーナさんやオーガスタさんに聞いてみよう」
「魔法のことはソフィアさんとか、ノワールさんにお任せ! あとは……どんな人がいるかな?」
「……思えばわたし、こんなにもたくさんの人に支えられてるのに、名前はそんなに覚えていないや。ばち当たりだな……」
「色んな人達に感謝の気持ちを忘れないようにしよう。わたしと出会った人全てに……もちろんお母さんにも!」
「それから、当然、クレインにだって……」
南の方角を向く。太陽がさんさんと照りつける彼方に、ホッドミーミル大陸とは違う風景が広がる、ライヴァン大陸がある。
そこにはスヴァーダという帝国があって、クレインがいるのだ。別れはしたが完全にいなくなったわけではない。会いたいと願うのなら、また会える。
そしてその願いは、自分で日々を積み上げて、掴み取るものなのだ。
「……待っててね、クレインーっ! 生まれ変わったわたし、あなたに見せてあげるからーっ!」
太陽に――その反対側で休んでいるであろう月に向かって、ルチルは叫んだ。そして本当にローゼンの町へと戻っていく。やりたいと思ったことを、今から実践しにいくのだ。
誰よりも優しく、誰よりも信念を秘めて。こうして『春風の魔法少女』は誕生した。
「えへへ……!」
疲れるまで泣いた後、ルチルは顔を上げた。そして自分でも驚くことに、とても晴れ晴れとした気分になっていたのである。
『安全に進むにはお前の協力が必要なんだ……ルチル。礼については後で考えるが、必ずすると約束しよう。どうかおれに力を貸してくれないか?』
『うるせー! おれはケンカはつえーけど語彙力は爆散してんだよ!』
『ま、そうかもしれねーが。逃げるのを前提に考えてたら、戦闘で力出せねーぜ? 勝つことが第一だ!』
脳裏にはたった2週間の日々が過った。同年代の異性との出会いは、とても刺激的だった。
『ルチルはやりたいこととかねえのかよ? 仕事して金貯めて、それでしてみたいことはねえのか? どんなに馬鹿げたことでもいい、何か目標はねえのかよ!!!』
『いいぜ! せっかくだからすげーの作って、土産にしてやるぜ!』
『心配そうな顔すんなって。ルチルはあんなに強い風を起こせるんだ。ルーンをいっぱい集めることができるんだから、必ずできるさ』
それは今まで味わったことのない感覚。思いもよらない方向から優しく触れてきて、そして自分に欠けているものを真剣になって教えてくれた。
『だが……それで誰かが、ルチルが不幸になるぐらいなら……おれは、馬鹿で構わねえ……』
『おれ一人じゃくたばりそうだが、お前と一緒なら――やれる! やれるはずだ! 信じているぞ、ルチル!!!』
『ルチルーっ!! じゃあなーっ!! いつか絶対に、絶対に、ぜーったいに会おうなーっ!!!』
3年もの間墓参りをしてこなかったのは、母の死を実感してしまうから。まだどこかで生きているかもしれないと、縋る気持ちがあったのである。
しかし今はそんな気持ちを取り払った。それは彼に、クレインに出会ったから。彼の生き様を見て、自分も変わろうと思ったから。
彼は信念の下に戦っていた。だからとても強くて、そして輝いていた。
自分もそんな輝きに当てられて、少しでも変わってみようと。母の死を遠ざける目的で、なんとなく生きていたのをやめようと。
そう思えたからこそ、ルチルは散々泣いた後に、晴れやかな笑顔になれたのだ。
「それじゃあね……お母さん。アップルパイ食べてね。またお休み作って来るからね。その時はもっと美味しいもの持ってくるからね――」
ルチルはレジャーシートを畳み、供えたアップルパイ以外の荷物を持って立ち上がる。別れに名残惜しさがあるのも、死を受け入れようとする揺れ動きの一つだ。
墓を背にして飛び立つ。空を飛んでいる間、様々なことをルチルは考えた。
「美味しいもの……何があるかな。お肉にお魚お野菜、甘いものばっかじゃお母さん飽きるよね」
「そうだ、なら全部買っちゃえばいいんだよ! わたしの気に入ったもの、お母さんに全部教えちゃおう! それにはお金がたっくさん必要!」
明るい未来のことを考える時、人は限りない笑顔を見せる。今のルチルはそうであった。
「お金をたくさん手に入れるには、たくさんお仕事をしないといけない。一日でたくさん運べるようになれば、その分だけお金がもらえる」
「そのためには……魔法が上手にならないと! 今すぐにでも、魔法の訓練を始めなくっちゃ!」
辛い努力や苦労であっても、それが必要であると理解できれば、すんなりと受け入れられる。
今から始める魔法の訓練は、きっと厳しいものになるだろうと、ルチルは予感していた。それすらも笑顔で受け入れることができているのだ。
「それから、クレインを呼ぶんだからね。遊ぶお金も準備しておかなくっちゃ。うう~、ここまで来るとお金を稼ぐだけじゃ足りないかなあ」
「今でもずいぶん節約してきたつもりだけど、今後はもっと気をつけなくっちゃ。どんな方法で節約できるか、ニーナさんやオーガスタさんに聞いてみよう」
「魔法のことはソフィアさんとか、ノワールさんにお任せ! あとは……どんな人がいるかな?」
「……思えばわたし、こんなにもたくさんの人に支えられてるのに、名前はそんなに覚えていないや。ばち当たりだな……」
「色んな人達に感謝の気持ちを忘れないようにしよう。わたしと出会った人全てに……もちろんお母さんにも!」
「それから、当然、クレインにだって……」
南の方角を向く。太陽がさんさんと照りつける彼方に、ホッドミーミル大陸とは違う風景が広がる、ライヴァン大陸がある。
そこにはスヴァーダという帝国があって、クレインがいるのだ。別れはしたが完全にいなくなったわけではない。会いたいと願うのなら、また会える。
そしてその願いは、自分で日々を積み上げて、掴み取るものなのだ。
「……待っててね、クレインーっ! 生まれ変わったわたし、あなたに見せてあげるからーっ!」
太陽に――その反対側で休んでいるであろう月に向かって、ルチルは叫んだ。そして本当にローゼンの町へと戻っていく。やりたいと思ったことを、今から実践しにいくのだ。
誰よりも優しく、誰よりも信念を秘めて。こうして『春風の魔法少女』は誕生した。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】
旅する書斎(☆ほしい)
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】
魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。
ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。
「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」
不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。
甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
宇宙人は恋をする!
山碕田鶴
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞/奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。】
私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。
全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの?
中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉
(表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろ」様に感謝)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる