ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
17 / 247
第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第16話 図書室にて

しおりを挟む
 その日の放課後。エリスとアーサーは、授業で言われた通りに職員室に来た後、ケビンに連れられ生徒相談室に移動した。




「さて……済まないな。本当はアーサーだけのつもりだったがエリスまで呼んでしまって」
「いえ、大丈夫です。元々わたしもついていこうと思っていましたから」
「ハインリヒ先生から話は聞いている。だからアーサーについては把握していたんだが……まさかエリスもだったなんてな」


 ケビンよりも先に、エリスが不安そうに切り出す。


「……わたし、魔法が使えないんでしょうか」
「それについては大丈夫だ。今回のはあくまでも検査だからな。自分の得意分野がわからないだけで魔法は使えるし、不得意な魔法を使ったところで不都合が起こるわけでもない。ただ……魔法陣が一切反応を示さなかったということは初めてだからな。我々の知りえないことが起こる可能性もある」


 アーサーは何も言わず、じっと耳を傾けている。


「……授業って魔法の演習もありますよね。その時はどうなるんですか?」
「基礎魔法ぐらいなら参加できるだろう。ただその先、合成魔法や系統別の魔法、応用魔法全般の演習の時にどうなるかがわからない」

「自分の属性と系統を把握している前提でカリキュラムを組んでいるし、不得意な系統だった場合に怪我に繋がりかねないからな……そこはやってみないことには何とも言えない。だからその都度こうして個人面談を行うので、そのつもりでいてくれ」
「はい……」


 ケビンは紅茶を啜り、今度はアーサーに身体を向ける。


「そしてアーサー、お前の場合は話が違ってくる。お前はナイトメアで騎士王だ。理論上はあらゆる魔法を扱いこなせることができる……その意思があるかどうかは別にして」
「……」


 確かに騎士王伝説においても、彼が魔法を使ったという話は一切出てこない。


 それでも理論上は、という台詞が少し引っかかるエリス。しかしそれを尋ねるのはケビンではないと考え、話を続けて聞く。


「だがそれだと演習で騎士王であることがばれる可能性もあるし、何よりお前のためにならん。そのためお前にはレポートを提出してもらって、それで演習分の評価をつけたいと思う」
「……」

「それで、本当はお前だけのつもりだったが……さっき言った通りだ。エリスは今後演習に参加できない可能性がある。だからエリスと協力して二人でレポートを完成させて、提出してほしい」
「二人で……ですか」
「そうだ。二人で協力すれば、完成させられるはずだ」



 そしてケビンはエリスとアーサーに一枚の紙を渡す。



「レポートは本を読んでもらい、内容を纏めてもらうのが五割。残りの五割は他の生徒の演習の様子を見て、感じたことや学んだことを纏めること」

「そしてこれが本のリストだ。下に行けば行くほど内容が難しくなるぞ。全て図書館にあるものから選んだから、まずは行ってみてくれ」

「枚数は……用紙一枚だな、まだ一年生だから。最初の締め切りは……五月末にしよう。それまでに私に提出してくれ」

「わかりました、ありがとうございます。ほらアーサーも」
「……」


 アーサーは無言でケビンを見つめる。態度が悪いので敵意を持っているようにも見えてしまう。


「す、すみません……」

「……まあいいさ。入学したばかりにも関わらず負担をかけて済まないが、どうか二人で頑張ってくれ」

 エリスとアーサーは立ち上がり、エリスだけが会釈をして生徒相談室を後にした。





 生徒相談室を出たエリスは、早速アーサーに話しかける。


「とりあえず……どうする? 図書室行く?」
「あんたがしたいように」

「じゃあ図書室に行こう。それでいいよね?」
「あんたがしたいように」



「むぅ……」
「何が不満だ」
「その返事」

「……」
「……まあいいや。図書室に行こう」





 図書室は同じ一階の左部分にあり、校舎に入ってからすぐ近くだった。窓や室内を緑の蔦が覆っており、自然のカーテンとなっている。漏れ込む光が本を読むのに適切な明るさを確保していた。


「えーっと……この本を探そう。『一冊でわかる魔術師、天才ウォーディガン編』」
「わかった」




 二人は図書館を歩き回って本を探し始めたが、


 暫く巡っても目的の本は見つからなかった。




「うーん……こっちにはないね。あっちかな」
「向こうは大衆文学の区画だ。あるとしたらこの辺りだと思うが」
「そっか……もっと上の方まで見ないといけないかな。はしごがいるなぁー」


 などと話しながら、立ち尽くしていると――



「ねえ、アナタ達」


 後ろから話しかけてくる生徒がいた。




「……」

「……わたし達?」

「ええそうよ。金髪男子と赤髪女子の二人」



 その生徒は明るい茶色のショートカットで、瓶底眼鏡をかけている。そして黄緑の瞳で怪訝そうに二人を見つめていた。



「さっきからずっとワタシの近くをちょろちょろしてさあ。正直迷惑なんだけど」
「ご、ごめん」
「迷惑だと思うのなら一緒に本を探せ」

「ちょ、ちょっとアーサー……」
「……どんな本?」


 アーサーは紙を生徒に見せる。顔面にぶっきらぼうに押し付ける形だったが、生徒は気にせず答える。


「ああ、この本……それならここにはないわよ」
「えっ、それって……」
「カウンターの近くに今月のお薦めの本が並べられていてね。そこにあったわよ」
「そっか、ありがとう」



「ありがとうはいいんだけどね。先ずはそちらに行かないかしら。あるいはカウンターに行って司書に訊かないかしら、ここをうろちょろする前にさあ」
「うう……」
「確かにそうだな」
「……ごめんなさい」



「……もういいわ。集中力が切れた。行くわよサリア」
「あ、待って……!」


 しかし呼び止めたのも叶わず、彼女は近くに居た花を持った妖精に呼びかけ、本を抱えてそのまま立ち去っていった。




「……?」
「どうしたのアーサー?」
「何だこれは」
「ん?」


 長方形の紙にリボンが穴に通されて、カタバミが押し花にされている。

 それが彼女の座っていた席に置かれていた。


「これはしおりだね。名前が書いてある……サラ・マクシムス」


 エリスは栞を手に取って胸ポケットに入れた。それと同時にある使命を帯びる。


「……明日もここにいるかな?」
「どうだろうな」





 そうしてカウンターの近くにやってきた二人。

 確かにサラの言った通り、受付の近くにお薦めの本が軽い紹介を添えられて低めの棚にまとめられている。曰く、『新入生にお薦めの読みやすい本色々』。



「これだな」
「うん、題名が同じだね」
「借りるぞ」
「そうだ……あ! 待って!」


 慌ててアーサーを引き留めたエリスは、同じ棚から一冊の本を持ち出す。


「これも借りたいな。というか借りちゃうよ」
「それは何だ」


 アーサーの視界には、橙色の架かった空の下、鎧を着た屈強な男が白いドレスの女性を抱えて走っている表紙絵が映っている。


「『フェンサリルの姫君』の軽小説版。表題になっているのはこれだけど、他にも色んなお話が入っているみたい」
「……?」


「アーサーも読んでみるー?」
「興味がない」
「むぅ……物語は世界を知るのに最も最適な形なんだよ。アーサーはこの世界のことを知る必要があるんだから、読もう!」
「知る必要がない」


「ならばそうだな……そうだ。わたしが命令します」
「……?」



 エリスはまた別の本を棚から取り出し、そしてアーサーに押し付けた。



「『ユーサー・ペンドラゴンの旅路』。これこそイングレンスを知るにはとっておきの一冊……まあ、現在じゃなくて大昔の時代のだけどね」
「昔……」

「もしかしたらアーサーのことも出てくるかもしれないよ。わたしはどっちかっていうとフェンサリルの方ばっか読んでたから、内容は知らないけどね」
「……」



 表紙には鎧姿の青年が、緑広がる平原を旅している様子が描かれている。奇遇にも金髪紅目でアーサーと同一だった。



「うわあ、何だか似てるね。もしかしたらアーサーの昔の姿だったりして……」
「……」


「とにかく行こう! 早く離れに帰って、苺を食べながら本を読もうっ♪」
「課題が第一だ」
「あっはい……しゅん」



 現実を突き付けられた主君と、どこまでも冷静な騎士。

 その時二人のこれからを祝うように、騎士が腰に差している鞘が一瞬光った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。  カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。 ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)  異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。  他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。  自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します

みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。 行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。 国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。 領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。 これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...