ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
46 / 247
第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第45話 宿題と女子

しおりを挟む
「うおおおおおおおお!!! 終わらねえぞおおおおおおおおおお!!!」



 ある日の裁縫の授業の途中、天を仰いで叫ぶクラリア。


 真横からの大音量攻撃を受けて、眉間に皺を寄せて嫌がるサラ。



「……耳が割れると思ったわ」
「ど、どうしたのクラリア……?」
「だから!!! 宿題が終わんねえんだ!!! 見ろよこれ!!!」


 クラリアは手元のプリント類を指差す。それはつい先ほど試験対策として配られたものだった。


「今になって追加されても困るぞおおおおおお!!!」
「ふふっ、今までやらないでいたツケが回ってきたな」

「んだとぉクラリス!! 魔法学は頑張っていたじゃねーか!!」
「魔法学だけはな。それ以外は全て投げ出して斧術の訓練――いい機会だ、やるべきことをやらないとどうなるかということを身に染みて体感できるな」
「体感したくないぞこんなのーーーっ!!!」



 クラリアは机から立ち上がり周囲をうろうろしている。そして珍しいことにクラリスはクラリアを嘲っていたのだった。


 そんな二人を横目に、エリス、カタリナ、サラの三人は話を続ける。



「ねえ……多分笑い話じゃないと思うんだよね、クラリアのこと。二人は宿題どこまで終わった?」
「全部よ」
「えっ、すごい」
「凄いも何も、当たり前だと思うんだけど?」

「えーそんな……わたしまだ帝国語と地理学が……」
「……アナタは色々あったから、まあ仕方ないんじゃないかしら」
「あ、あのっ……あたし……」
「何よ。さっさと言いなさい」
「う……」


 棘のある声に押されたのか、カタリナは肩を竦め下を向く。


 その体勢から、エリスにだけ聞こえるように話した。


「……宿題、終わってない……」
「え、そうなの?」
「ううん……本当は、大体、終わったんだけど……わからない所があって、それでどうしようって……」
「そっか……」


 その後顔を上げたエリスは、まだ狼狽したままのクラリアに向かって呼びかけた。


「クラリアー!」
「んー!? どうしたー!?」
「今週の日曜日って暇ー?」
「斧術の訓練しないといけないから暇じゃないぜー!」

「じゃあそれお休みにして! 一緒に宿題やろーよ!」
「宿題だとぉ!?」
「わたしもまだ残ってるからー! 一緒にやればきっと終わるよー!」
「うおおおおお! それはいい考えだぜー! アタシも混ぜやがれー!!!」


 クラリアの言葉に頷くエリス。そのままサラに向き直ると、


「というわけだから。サラも来てよね」




「……何でワタシ? 何でワタシ!?」
「だってぇ……わたしの知り合いの中で宿題終わってるの、サラぐらいなんだもぉん……」
「嫌よ。何故わざわざアナタ達に付き合ってやんなきゃいけないのよ。絶対行かない」

「じゃあ部屋まで呼びに行くね」
「だから何でそうなるのよ!!」
「お願いっ、人助けだと思って。終わったら苺あげるから……ね?」
「……」


 再び過ぎる逃げられないという確信――


 サラは眉間に皺をくっきりと浮かべて、心底嫌そうに言った。


「ああもう……わかったわ。行けばいいんでしょう行けば。ただあまり五月蠅いことしたら帰るから」
「ありがとっ、サラ」


 その隣でカタリナが手を挙げたのを、エリスは見逃さなかった。


「どうしたのカタリナ?」
「あ、えっと……これは……」
「何かあるんでしょ? 言ってもいいよっ」
「え、えっと……」


 カタリナは目を泳がせながらも、一歩踏み出して提案する。


「その……リーシャも誘わない? ほら、前一緒に宿題やったから、それで……」
「いいね、賛成っ。じゃあ手紙を……百合の塔にある個人の連絡箱に入れればいいんだっけ?」
「じゃあ……それはあたしがやるよ。集合場所はカフェでいいよね?」
「うんカフェで。サラもクラリアもそれでよろしくね!」
「了解したぜー!」



「……ちょっと待ちなさい。この期に及んでまだ増えるの!?」





 そして日曜日。


「リーシャ……」
「うーん……」
「リーシャ!」
「なあにぃうっさいなあ……」
「うっさいじゃないよ、今日約束してたんでしょ!」
「約束ぅ……」



「……あ゛あっ!! そうだった!!」




 リーシャはベッドから飛び起き、大慌てで洗面所に向かう。




「ちょっと!! いきなり起きないでよ!! 壁に打ち付けられるかと思ったよ!! 私体重軽いんだからね!!」
「ああごめん!!」


 リーシャを揺り起こしていた、妖精はフェアリー族のルームメイトが翅をはためかせぷりぷり怒る。


「おはよ~。洗面所ならまだ貸さないよ~」
「ええ、嘘でしょ……って!! 毎朝いっつも貴女が占領してるでしょ!! こういう日ぐらい貸してよ!!」
「早いもん勝ちだって言ってるでしょ~。ルールだよルール~」


 縮れた髪を櫛で丹念に溶かしているのは、褐色肌のトールマン族のルームメイト。


「んじゃーもういい!! 先着替えるわ!!」
「……」



「ちょっ、クローゼットも先客がー!?」
「バタバタうるsいなあ……何? 着替えるの?」


 渋々と場所を開けたのは、体長百八十センチ程で、且つ鬣のような長髪を持つ、獅子の獣人のルームメイト。


「ぬおおおおおおおお間に合ええええええええ……!!」
「そもそも約束があるってわかっていたのに、何で寝坊したの?」
「ぜぇんぶケビン先生のせいです!! 宿題が!! いっぱい!!」
「……応援してるよー。頑張れー」




 そんなドタバタがあったとは知られないような素振りで、


 リーシャは一階のカフェ前に赴き、入り口で屯していたエリスに声をかけたのだった。




「おはよ! 何だか知らない人と一緒だね?」
「……フン」

「おはようと初めましてだぜー!」
「おはよ、リーシャ。眼鏡の子がサラで、大きい耳の子がクラリアだよ。二人とは裁縫の授業で一緒なんだ。サラはね、とっても頭が良くて宿題が終わってるの。だから来てもらったんだ」
「アタシは宿題が終わってねえぜー! わはははははー!」

「なるほどね、よろしく二人共。ということはこれで全員かな」
「そうだね、今日は五人で宿題」
「じゃあもうカフェ入ろう!」
「あ……それが……」



 カタリナが止める直前に、リーシャが扉を開く。


 そしてリーシャは、そのまま顔を顰めて中を見回した。



「……うげえ」


 まだ九時台であるにも関わらず、カフェは大盛況だった。見回す限りの席は全て埋まっている。


「店員さんにもう空いている席ないって言われて……もっと早く来るべきだったなって」
「それでこの後どうしよう……って感じ」



「うーん……自習室、はうるさくできないからダメね。じゃあ第二階層?」
「カーセラムとか? でも埋まってそうだなあ……」
「まあ第二階層なら他にもお店あるよ」
「じゃあ行くだけ行ってみようか」


 意見が一致した五人は、百合の塔の外へと歩を進める。


「一致したって五人って何よ勝手にワタシの意見決めないで頂戴」
「だったらサラはこのぎゅうぎゅう詰めの中で勉強する?」
「……」



「……そういえばエリス、今日一人なんだね。珍しい」
「あー、今日は女子だけで頑張ろうって思って。女子会女子会。もっともアーサーの方もどこかに行っちゃったみたいだけど」
「へー、それは重ねて珍しい。多分あっちもあっちで宿題会やってんじゃない?」

「どうなんだろう? でもイザークの誘いなら行ってそう」
「めっちゃわかるっていうかなんていうか……そもそもあやつの交友関係がイマイチ謎だなー」
「案外生徒会とつるんでいたりして」
「その反対の不良とかもね……」
「何よぅサラァ、わたし達とお話したいの!?」
「……」





(……久々に帰ってきたな。たまにはこうして散歩をするのも悪くない)


 首元にマントのように氷を纏い、上質な服に身を包んだが広場の群衆を見つめている。


(やはり民を放っておいて国外に行くのは心が痛む……)


 少年が感傷に耽りながら噴水の縁から立ち上がると、


(……ぐわっ!?)


 後頭部に何かが衝突し、顔面を石畳に叩き付けることになってしまった。





「スノウ! そんなに張り切らないで……あっ、君大丈夫!?」


 リーシャが少年の元に駆け寄った。スノウも慌てて少年に駆け寄り、動向を見守っている。


「……大丈夫じゃないんだが?」
「ああ、鼻血出ちゃってる……!」
「ご、ごめんなさいなのです!」
「えっと、回復魔法、回復魔法……!」
「そんなものはいらない」


 少年は強く鼻を押さえ、噴水にもたれかかる。


「少量なら止血方法はいくらでもある。何かあったらすぐに魔法に頼る、そんな悪癖はよくないぞ」



「……そうね。確かにそうだけど……」
「そうだけど、何だ?」
「……」


 リーシャは鬱陶しそうな視線を少年に向けて。


「何かイラっときた」
「……はぁ!?」



「ねえねえ、わたし達宿題をする場所を探しているの。いいお店とか知らない?」
「……こいつら」


 少年はぼそっと呟き、周囲のビル群を一望する。


「……そこだ。僕の左手前の建物。そこの三階のクローバータイムって店のコーヒーは美味いぞ」
「本当? ありがとうっ!」
「早く行こうぜー!」
「……全く。これはワタシからのお詫びよ」


 サラは小銭入れから銅貨を取り出し少年に渡す。そして先に建物に入っていった四人の後を追って行った。





 その後少年は、五人がいた場所に何かを見つける。


「……何だこれは」


 それは花柄のハンカチだった。どう考えても自分の物ではない。


「さっきの小娘のか……宿題と言っていたから生徒か。くそぉ……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。  カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。 ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)  異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。  他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。  自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します

みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。 行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。 国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。 領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。 これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...