47 / 247
第1章1節 学園生活/始まりの一学期
第46話 トレック
しおりを挟む
数分後、とある店にハンカチを拾った少年が入店した。
「……失礼するよ」
「いらっしゃいませー。あらまあ、お戻りになられていたんですか」
「ほう。僕のことがわかるのか」
「だってここで商売させてもらっている身ですから」
「殊勝な心掛けだ。ところで、さっき五人組の少女達が入店してこなかったか」
「あら、その子達でしたら奥の方にご案内しましたよ」
「そうか。ちょっと落とし物をしたみたいでな、届けに来たんだ。入るぞ」
「わかりましたー」
そこから少年は店内を歩き回り、数分もせずにエリス達を発見する。
「……おい、お前達」
「あ! さっきの!」
「……何の用?」
「あのなあ……人の顔を見て鬼の首を取ったようになるな。このハンカチは誰の物だ?」
「あっ、それ私の!」
「……何となくそんな気はしていたが、やはりか」
少年はリーシャにハンカチを渡す。
「じゃあ僕はこれで……あ?」
ハンカチを受け取るのと同じタイミングで、
リーシャは少年の服の裾を掴んでいた。
「そんな帰るって言わないでさー! 宿題手伝ってよー!」
「おおおっ……やめろぉぉぉ……!?」
少年はそのままずるずると引き摺られ、
リーシャとサラの間にちょこんと着席させられた。
「じゃあ注文頼もう! カタリナ、鈴鳴らして!」
「うん、わかった」
少女達はちりんちりんと鈴を鳴らし、店員を呼び出す。
(こいつら……僕のことを生徒だと思っているな!?)
少年はやってきた店員に目配せをする。先程会計口にいた店員と同一であり、少年の様子にも気付いたようだったが。
(待て、微笑み返すな……!! お前は誠実だと思ったのに……!!)
「――オレンジジュース、レモンティー、ホットココアが一つずつ。コーヒーが二つでよろしいでしょうか?」
「貴方もコーヒーでいいよね?」
「……」
「返事がないならそうするね。コーヒー一杯追加でー」
「かしこまりました。ではごゆっくりどうぞ」
店員は伝票をポケットにしまうと厨房に向かって行く。少年は呆然とその後ろ姿を見送るしかなかった。
「よーし宿題宿題ー! ただの女子会にならないようにさっさと出せー!」
「出すぜー!」
「はぁ……」
サラ以外の四人は次々とプリントを出す。少年は圧迫感からか居心地が悪そうにしていた。
「サリアは……そうね。彼の側にいて緊張を和らげてあげて」
「だったら僕をここから逃がす手伝いをしろ」
「それは無理。ワタシこれに付き合ってるだけでもう手いっぱいだから」
「くそがぁ……」
少年の頭にサリアが乗っかる。花が頭から咲いたようにも見えた。
「あははっ、可愛い! スノウも膝にいてあげなよ!」
「はーいなのです!」
少年の膝に座った瞬間、スノウの目が忽ち丸く見開かれる。
「この人……すごく冷たいのです! すごく氷なのです!」
「わかるのかナイトメア。というかお前達も見ればわかるだろ」
「え、じゃあそのマントみたいなのって氷なの?」」
「そうだ。僕はウェンディゴなんでね。その特徴がこうやってマントみたいに発現した。かっこいいだろう?」
少年は得意そうに前髪を掻き上げる。
「うん、かっこいいと思う」
「あたしも」
「……否定できないのがムカつく~」
「すっげーかっこいいぜ! ロマンだぜ!」
「……フン」
五人の反応を見て少年は益々得意気になる。
(どうやらこいつらセンスはあるみたいだな……まあ女子だもんな)
だがすぐに女子二人に挟まれているという現実を思い出し、不機嫌に戻るのであった。
少年の心情が急降下している所に、頼んだ飲み物が運ばれてくる。
「おっ来た来た。じゃあ始めようか。皆何やるの?」
「帝国語~」
「裁縫だぜ!」
「見事に揃わねぇ~。私は地理学だ!」
「算術……ねえ、教えてもらってもいいかな?」
カタリナはサラと少年の前にプリントを差し出す。
「ふむ。文章題で詰まっているのか。文章題は誰でも引っかかる所だよな」
「何でそんなに懐かしそうなの?」
「悪いか?」
「別に。じゃあこの問題アナタが教えてね」
「はぁ!?」
サラは紅茶を啜って窓に視線を向ける。
「サラ! お前はこっちだ! 裁縫!」
「チッ……」
そして顔を顰めながらクラリアのプリントに視線を落とす。
「ていうかエリス意外だね。もう宿題終わってると思ってた」
「え~あ~それは……」
エリスは目を泳がせたが、それも数秒程で終わった。
「……みんなになら言ってもいいか。実はケビン先生から個別レポート出すように指示されているんだよね」
「ケビン先生というと、魔法学? それはどうして?」
「い、色々ありまして……」
「……あまり訊かないであげてよ」
「おお……わかったわカタリナ。何かごめんねエリス」
リーシャがプリントと対峙し始めた時を見計らって、エリスはカタリナに耳打ちをする。
「……リーシャは知らないんだったね。魔法使いとか合成魔法とか」
「うん……あれは流石に実際に見ていないと信じてもらえないと思う……」
「そうだね……」
しかしその会話は、唯一少年の耳だけに入っていた。
(……魔法使い? そうか彼女が……こんな普通の少女が?)
少年はエリスを無意識のうちに凝視していた。そんな視線を送っていたら、二人と目がばったり合う。
「どうしたの? 何か言いたいことでもあるの?」
「何でもないぞ。いいからさっさとやろう……」
こうして女子達の宿題は着々と進んでいく。
「……お疲れ様っしたああああああああ!!!」
時間はすっかり夕暮れ。勘定を終わらせ店を出た後、リーシャは思いっきり伸びをする。
「いやー結構サクサク進んだね。やっぱり宿題は皆でやるに限るね!」
「そうだね……何だか楽しかった」
「今日は誘ってくれてありがとう!」
「どういたしまして。次やる時も誘うね」
五人が思い思いに気持ちを吐き出している中、少年が咳払いをした。
「……お前達。僕に何か言うことがあるんじゃないのか」
「あ……今日はどうもありがとう。勝手に巻き込んじゃってごめんね」
「まあいいよ……こういう休日もありっちゃありだ」
「ねえ、貴方も学園に戻るんでしょ? 一緒に行こうよ」
「いや、僕の家はこの階層にあるんでね。気遣いは無用だ」
「そうなの? じゃあここでお別れだねっ」
「また会ったらよろしくね」
「さよならだぜー!」
「……ありがとう、さようなら」
「バイバイ」
「……ああ」
五人が第二階層を立ち去る後ろ姿を、少年は見送っていた。
そして、完全にその姿が見えなくなった後、
真後ろに迫ってきていた、氷塊のゴーレムに向かって――
「……来るのが遅いぞクレーベェェェェェ!!!」
突進し、肉体をごすごす殴る。
「いや、来るのが遅いって……ご主人が勝手にいなくなるのが悪いんでしょうが!!」
「お前が!!! お前が僕に追い付くのが遅れたせいで!!! 今日は散々な目にあった!!! お前の責任だ!!!」
「そんな理不尽な!! アドルフさんも何か言ってやってください!!」
「アドルフだと……?」
ゴーレムの後ろには赤いローブの男性が立っている。
彼は少年と目を合わせると、手を挙げて微笑みかけてきた。
「やあトレック。久々だが元気そうで……」
「どういうことだアドルフーッッッッッ!!!」
トレックはクレーベの肩まで昇り、アドルフと同じ高さまでよじ登った所で、顔を睨み付ける。
「今日は五人の女生徒共に絡まれてな……確か一年生だったな!!! それで日が暮れるまで宿題に付き合わされた!!! 貴様魔法学園でどういう教育をしている!? 何故一目見て僕のことを理解できない!?」
「……無茶言うなよ。お前のその見た目と声を聞いて、一発でグレイスウィル四貴族のアールイン家現当主だって、見抜くのは不可能だぞ。まして一年生なら尚更だ」
「貴様ぁー!!! 貴様まで僕のことをそう言うのか!!! 人が気にしている所を躊躇なく突っ込むのか!!! くそ……グレイスウィル史の教師は誰だ!?」
「一年生ならルドミリアだよ」
「ルド……!? あの女か……!!! 今度会ったら抗議してやる!!! グレイスウィル史の授業の時は、必ず現当主の肖像画を見せるように言いつけて――」
「お前の肖像画って大分身長盛ってなかったか?」
「……ぐわあああああああーっ!!!」
トレックはクレーベから降り地団駄を踏む。
とはいえそこは大人、貴族の領主。数分もすると流石に落ち着いてきたようで、
息を切らしながらも沈着さを取り戻しつつあった。
「ぜぇぜぇ……それで何の用だ。まさか僕に会いに来ただけとでも言うんじゃないだろうな」
「実はそうなんですよ……と言いたい所だが、重要な話がある。聖教会についてなんだが」
「何?」
聖教会という単語を聞いた途端、トレックは瞬時に顔を険しくさせる。
「……こんな人気の多い所でする話じゃない。僕の家で話せ」
「言われなくともそのつもりさ。それでお前を探していて、ばったりクレーベに会ったというわけだ」
「成程な……」
第二階層で最も大きい建物に向かって三人は足を進めていく。
その途中、細々と人がいなくなりつつある所を見計らって、トレックからアドルフに話題を切り出す。
「……先程の生徒についてなんだが」
「まだ文句が言い足りないか?」
「それはもう十分だ――そのうち一人が『魔法使い』、貴様の言っていた騎士王の主君だった」
「……」
「至って普通の少女だったぞ。魔法使いがどうこうって話を聞かなかったら、ずっと誤解する所だった」
「……そうか」
「ただ、確認しておきたいことがあってな――」
「――セーヴァとシルヴァには、彼女のことを伝えてはいないんだよな?」
ぴたりとアドルフの足が止まる。壁に開けられた窓から差し込む夕日ですら、角度が悪く彼の表情を照らせなかった。
「……ああそうだ。その二人は彼女のことを知らない。前者はルドミリアと話し合って、それが一番安全だと判断した。後者はその話し合いをする時に、偶々アルブリアの外にいたから伝えられなかった。これまでに一度も戻ってきていないので、まだ伝えられていない」
「そうか――なら安全だな。シルヴァはともかく、セーヴァに……」
トレックも立ち止まり、丁寧に掘削された岩の天井を仰ぐ。
「『帝国主義』に彼女と騎士王が渡ってしまったら、どうなるかわからんからな……」
「……失礼するよ」
「いらっしゃいませー。あらまあ、お戻りになられていたんですか」
「ほう。僕のことがわかるのか」
「だってここで商売させてもらっている身ですから」
「殊勝な心掛けだ。ところで、さっき五人組の少女達が入店してこなかったか」
「あら、その子達でしたら奥の方にご案内しましたよ」
「そうか。ちょっと落とし物をしたみたいでな、届けに来たんだ。入るぞ」
「わかりましたー」
そこから少年は店内を歩き回り、数分もせずにエリス達を発見する。
「……おい、お前達」
「あ! さっきの!」
「……何の用?」
「あのなあ……人の顔を見て鬼の首を取ったようになるな。このハンカチは誰の物だ?」
「あっ、それ私の!」
「……何となくそんな気はしていたが、やはりか」
少年はリーシャにハンカチを渡す。
「じゃあ僕はこれで……あ?」
ハンカチを受け取るのと同じタイミングで、
リーシャは少年の服の裾を掴んでいた。
「そんな帰るって言わないでさー! 宿題手伝ってよー!」
「おおおっ……やめろぉぉぉ……!?」
少年はそのままずるずると引き摺られ、
リーシャとサラの間にちょこんと着席させられた。
「じゃあ注文頼もう! カタリナ、鈴鳴らして!」
「うん、わかった」
少女達はちりんちりんと鈴を鳴らし、店員を呼び出す。
(こいつら……僕のことを生徒だと思っているな!?)
少年はやってきた店員に目配せをする。先程会計口にいた店員と同一であり、少年の様子にも気付いたようだったが。
(待て、微笑み返すな……!! お前は誠実だと思ったのに……!!)
「――オレンジジュース、レモンティー、ホットココアが一つずつ。コーヒーが二つでよろしいでしょうか?」
「貴方もコーヒーでいいよね?」
「……」
「返事がないならそうするね。コーヒー一杯追加でー」
「かしこまりました。ではごゆっくりどうぞ」
店員は伝票をポケットにしまうと厨房に向かって行く。少年は呆然とその後ろ姿を見送るしかなかった。
「よーし宿題宿題ー! ただの女子会にならないようにさっさと出せー!」
「出すぜー!」
「はぁ……」
サラ以外の四人は次々とプリントを出す。少年は圧迫感からか居心地が悪そうにしていた。
「サリアは……そうね。彼の側にいて緊張を和らげてあげて」
「だったら僕をここから逃がす手伝いをしろ」
「それは無理。ワタシこれに付き合ってるだけでもう手いっぱいだから」
「くそがぁ……」
少年の頭にサリアが乗っかる。花が頭から咲いたようにも見えた。
「あははっ、可愛い! スノウも膝にいてあげなよ!」
「はーいなのです!」
少年の膝に座った瞬間、スノウの目が忽ち丸く見開かれる。
「この人……すごく冷たいのです! すごく氷なのです!」
「わかるのかナイトメア。というかお前達も見ればわかるだろ」
「え、じゃあそのマントみたいなのって氷なの?」」
「そうだ。僕はウェンディゴなんでね。その特徴がこうやってマントみたいに発現した。かっこいいだろう?」
少年は得意そうに前髪を掻き上げる。
「うん、かっこいいと思う」
「あたしも」
「……否定できないのがムカつく~」
「すっげーかっこいいぜ! ロマンだぜ!」
「……フン」
五人の反応を見て少年は益々得意気になる。
(どうやらこいつらセンスはあるみたいだな……まあ女子だもんな)
だがすぐに女子二人に挟まれているという現実を思い出し、不機嫌に戻るのであった。
少年の心情が急降下している所に、頼んだ飲み物が運ばれてくる。
「おっ来た来た。じゃあ始めようか。皆何やるの?」
「帝国語~」
「裁縫だぜ!」
「見事に揃わねぇ~。私は地理学だ!」
「算術……ねえ、教えてもらってもいいかな?」
カタリナはサラと少年の前にプリントを差し出す。
「ふむ。文章題で詰まっているのか。文章題は誰でも引っかかる所だよな」
「何でそんなに懐かしそうなの?」
「悪いか?」
「別に。じゃあこの問題アナタが教えてね」
「はぁ!?」
サラは紅茶を啜って窓に視線を向ける。
「サラ! お前はこっちだ! 裁縫!」
「チッ……」
そして顔を顰めながらクラリアのプリントに視線を落とす。
「ていうかエリス意外だね。もう宿題終わってると思ってた」
「え~あ~それは……」
エリスは目を泳がせたが、それも数秒程で終わった。
「……みんなになら言ってもいいか。実はケビン先生から個別レポート出すように指示されているんだよね」
「ケビン先生というと、魔法学? それはどうして?」
「い、色々ありまして……」
「……あまり訊かないであげてよ」
「おお……わかったわカタリナ。何かごめんねエリス」
リーシャがプリントと対峙し始めた時を見計らって、エリスはカタリナに耳打ちをする。
「……リーシャは知らないんだったね。魔法使いとか合成魔法とか」
「うん……あれは流石に実際に見ていないと信じてもらえないと思う……」
「そうだね……」
しかしその会話は、唯一少年の耳だけに入っていた。
(……魔法使い? そうか彼女が……こんな普通の少女が?)
少年はエリスを無意識のうちに凝視していた。そんな視線を送っていたら、二人と目がばったり合う。
「どうしたの? 何か言いたいことでもあるの?」
「何でもないぞ。いいからさっさとやろう……」
こうして女子達の宿題は着々と進んでいく。
「……お疲れ様っしたああああああああ!!!」
時間はすっかり夕暮れ。勘定を終わらせ店を出た後、リーシャは思いっきり伸びをする。
「いやー結構サクサク進んだね。やっぱり宿題は皆でやるに限るね!」
「そうだね……何だか楽しかった」
「今日は誘ってくれてありがとう!」
「どういたしまして。次やる時も誘うね」
五人が思い思いに気持ちを吐き出している中、少年が咳払いをした。
「……お前達。僕に何か言うことがあるんじゃないのか」
「あ……今日はどうもありがとう。勝手に巻き込んじゃってごめんね」
「まあいいよ……こういう休日もありっちゃありだ」
「ねえ、貴方も学園に戻るんでしょ? 一緒に行こうよ」
「いや、僕の家はこの階層にあるんでね。気遣いは無用だ」
「そうなの? じゃあここでお別れだねっ」
「また会ったらよろしくね」
「さよならだぜー!」
「……ありがとう、さようなら」
「バイバイ」
「……ああ」
五人が第二階層を立ち去る後ろ姿を、少年は見送っていた。
そして、完全にその姿が見えなくなった後、
真後ろに迫ってきていた、氷塊のゴーレムに向かって――
「……来るのが遅いぞクレーベェェェェェ!!!」
突進し、肉体をごすごす殴る。
「いや、来るのが遅いって……ご主人が勝手にいなくなるのが悪いんでしょうが!!」
「お前が!!! お前が僕に追い付くのが遅れたせいで!!! 今日は散々な目にあった!!! お前の責任だ!!!」
「そんな理不尽な!! アドルフさんも何か言ってやってください!!」
「アドルフだと……?」
ゴーレムの後ろには赤いローブの男性が立っている。
彼は少年と目を合わせると、手を挙げて微笑みかけてきた。
「やあトレック。久々だが元気そうで……」
「どういうことだアドルフーッッッッッ!!!」
トレックはクレーベの肩まで昇り、アドルフと同じ高さまでよじ登った所で、顔を睨み付ける。
「今日は五人の女生徒共に絡まれてな……確か一年生だったな!!! それで日が暮れるまで宿題に付き合わされた!!! 貴様魔法学園でどういう教育をしている!? 何故一目見て僕のことを理解できない!?」
「……無茶言うなよ。お前のその見た目と声を聞いて、一発でグレイスウィル四貴族のアールイン家現当主だって、見抜くのは不可能だぞ。まして一年生なら尚更だ」
「貴様ぁー!!! 貴様まで僕のことをそう言うのか!!! 人が気にしている所を躊躇なく突っ込むのか!!! くそ……グレイスウィル史の教師は誰だ!?」
「一年生ならルドミリアだよ」
「ルド……!? あの女か……!!! 今度会ったら抗議してやる!!! グレイスウィル史の授業の時は、必ず現当主の肖像画を見せるように言いつけて――」
「お前の肖像画って大分身長盛ってなかったか?」
「……ぐわあああああああーっ!!!」
トレックはクレーベから降り地団駄を踏む。
とはいえそこは大人、貴族の領主。数分もすると流石に落ち着いてきたようで、
息を切らしながらも沈着さを取り戻しつつあった。
「ぜぇぜぇ……それで何の用だ。まさか僕に会いに来ただけとでも言うんじゃないだろうな」
「実はそうなんですよ……と言いたい所だが、重要な話がある。聖教会についてなんだが」
「何?」
聖教会という単語を聞いた途端、トレックは瞬時に顔を険しくさせる。
「……こんな人気の多い所でする話じゃない。僕の家で話せ」
「言われなくともそのつもりさ。それでお前を探していて、ばったりクレーベに会ったというわけだ」
「成程な……」
第二階層で最も大きい建物に向かって三人は足を進めていく。
その途中、細々と人がいなくなりつつある所を見計らって、トレックからアドルフに話題を切り出す。
「……先程の生徒についてなんだが」
「まだ文句が言い足りないか?」
「それはもう十分だ――そのうち一人が『魔法使い』、貴様の言っていた騎士王の主君だった」
「……」
「至って普通の少女だったぞ。魔法使いがどうこうって話を聞かなかったら、ずっと誤解する所だった」
「……そうか」
「ただ、確認しておきたいことがあってな――」
「――セーヴァとシルヴァには、彼女のことを伝えてはいないんだよな?」
ぴたりとアドルフの足が止まる。壁に開けられた窓から差し込む夕日ですら、角度が悪く彼の表情を照らせなかった。
「……ああそうだ。その二人は彼女のことを知らない。前者はルドミリアと話し合って、それが一番安全だと判断した。後者はその話し合いをする時に、偶々アルブリアの外にいたから伝えられなかった。これまでに一度も戻ってきていないので、まだ伝えられていない」
「そうか――なら安全だな。シルヴァはともかく、セーヴァに……」
トレックも立ち止まり、丁寧に掘削された岩の天井を仰ぐ。
「『帝国主義』に彼女と騎士王が渡ってしまったら、どうなるかわからんからな……」
0
あなたにおすすめの小説
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
『異界酒場 ルーナ』
みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。
カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。
ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)
異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。
他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。
自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。
無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します
みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。
行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。
国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。
領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。
これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。
手折れ花
アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。
侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。
※注意※
自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。
(2020.12.31)
閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる