ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第104話 協力的なヴィクトール

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 屋上にはパラソル付きの丸机がいくつか並んでいて、更に中央付近には屋台らしき建物が建っていた。一年生がここに立ち入ることは、高学年の生徒に対する配慮や圧力もあって滅多にない。


 そんな屋上にアーサー達は到着。三人が階段を昇るとまず、大きめのショルダーバッグを抱えたガレアと鉢合わせした。



「おや、こんな時間に珍しい」
「あんたは……確か食堂の」
「そうそう、ガレガレガレットガレア店長だよー。あ、エルフの君。今嫌そうな顔したでしょ」
「……けっ」

「それでもって金髪の君。確か学園祭でも会ったよね。まさかこんなにも早く再会できるなんてぼかぁ嬉しいなぁ」
「……はぁ」
「そうだこれあげる。今十二月の新作の試作品作ってた所なんだよねー」
「……料理の研究なら食堂とかで行った方が良いのでは?」
「何か煮詰まっててさー。外の空気浴びながら作れば閃くかなって。実際閃いたんだけど」



 ガレアはそう言って袋からチョコレートマフィンを三個取り出し、アーサーに手渡す。



「ご感想は食堂か双華の塔カフェまで。それじゃっ!」


 鼻歌交じりに、スキップを踏みながら階段を降りていった。



「……あいつってさ、いつもあんな感じなの」
「そうみたいらしいな」
「まあいい。糖分も得られたことだし、さっさと片付けるぞ」
「そうだな」





 土曜日午後の屋上は人一人おらず、横風が通り過ぎるだけの寂しい場所だった。その中で、アーサー達は丸机の一つを囲んで座る。



「……ん。そういえば今日は一人なのか。エリスと一緒じゃないんだな」
「あれ、言われれば確かに。何でだよ」
「それは用事にも関係あるんだが……これを見てほしい」


 アーサーは鞄から袋を取り出す。そして丁寧に紙束を全て取り出した。


「……何だよこれ。ボロッボロじゃん。どこで見つけたの?」
「夏季休暇で帰省した時だ。あいつの家の倉庫に埋められてあった」
「ふむ……」



 ヴィクトールは一番状態の良い紙束から順に眺めていく。



「それはあれじゃないの。誰かが日記を捨てようとして捨て……あー、だったら燃やした方が手っ取り早いか」
「そうだな。それにその紙束、意味のわからないことが山程書いてある。それも含めて……この紙束には何かがあるんじゃなかって、そう思った」
「まあ、概ね貴様の予想は当たっているだろうな」


 ヴィクトールはどこからか柄のついたレンズを持って紙束を観察していた。


「ちょっ、いつの間にそんな物。魔法具か何か?」
「魔術拡大鏡だ。これを通せば視認できない程に小さい物でも拡大して見ることが可能だ。貴様らも覗いてみろ」


 ヴィクトールに言われるがまま、アーサーとハンスは魔術拡大鏡を通して紙束を見る。


「……これは」
「魔力回路だ。今は魔力も枯渇してしまって、回路だけが残されている状態だがな」



 紙の繊維がひしめく中に、人為的に作られた円状の穴が見える。それは光沢のある素材で包まれており、何かが通りやすいようにしてあることがわかった。これが魔力回路と呼ばれるものである。



「この紙束の持ち主が紙束に魔力回路を通して何かしてたってこと? 一体何の為にさ」
「色々考えられるぞ。栞代わりにしたり、間違った箇所を瞬時に消したり、頭の中で思い浮かんだことを代わりに綴ってくれるというのも有りだな。何にせよ、本に魔力回路を通すということは珍しくはない。ただ簡単にできるかと言うとそうではないが」


 話している最中も、ヴィクトールは紙束を八方向から観察している。


「拡大しないと満足に見えない大きさの物を、容易く通せるなんて早々できないよねえ。ん? でも既製品なら話は別じゃね?」
「その可能性は低い。この紙束に書いてある文字は手書きで書き殴ったような物がほとんどだったからな。白紙の紙を何かの覚書にしていたのだとオレは考えている」
「成程。そこから推測すると、どうやらこの紙束の所持者はかなり魔法に精通していたようだな。となれば、益々これに何が書いてあるか気になる所だが」


 紙束と魔術拡大鏡を丸机に置くと、今度はアーサーがじっとそれを見つめる。


「……直せる方法はあるのか?」
「あることにはある。この紙には魔力回路が通っているから、復元魔法で元に戻せるはずだ」
「復元魔法?」

「魔力自体は枯渇しているがそれが通った跡、魔力の残滓は必ず残っている。それを辿っていき、元の形に戻していくって寸法だ」
「ほーん、成程ねえ……でもそうするにしたって、一体どれぐらいの労力がかかるんだよ」
「問題はそこだ。貴様、この紙束のことをエリス達に伝えるつもりはあるか」


 ヴィクトールはアーサーに視線を向ける。


「……さっきも言った通り、これはあいつの家の倉庫で見つかった。これは完全にオレの主観なんだが……家がある村は辺鄙へんぴな場所だ。このような大層な物が見つかったら、村人は騒ぎにするはずだ。それもなくひっそりと埋められていたということは……この本のことを隠しているか、知らないか。そのどちらかだと思っている」

「んでそれはもしかしたら、あの子の命に関わることかもしれないと。それなら本人には伝えられないねえ。はー納得納得」
「……そうだな」
「ん? どうして命に関わることだなんて、話が飛躍するんだ」



 ヴィクトールは咄嗟に疑問をぶつけてくる。


 一瞬間が空いた後、ハンスは慌てたように口を手で覆った。



「……あ~!!! それはあれだよ!!! アーサーってさ、いつもあの子と一緒にいるじゃん!!! それはあの子を守るっていう使命があるからなんだ!!!」
「何だと……? 貴様、そんな使命を背負っていたのか」
「そうそう!!! そうなんだよ!!! だからあの子に関する危険は全て排除するって感じなんだ!!!」
「……そういうことだな」
「成程。ならば単独行動で俺達の元に来たのも納得できるな」


 ヴィクトールはマフィンを口に入れ、一息つく。


「話を元に戻すぞ。貴様の考えを汲むと、今ここにいる三人以外にこの紙束のことを伝えることは不可能だな。貴様と仲が良い茶髪とカタリナあたりは絶対にエリスに伝えるだろう」
「ああ、その可能性は高いな」
「他に先輩とか島の者で、この本のことを言っても良い程に親しい人間はいるか?」
「……いないな」
「ならば決まりだ。この紙束を復元するにあたって、必要な魔力はこの三人で工面するしかない」


 その言葉にハンスはマフィンを口に入れるのをやめ、ヴィクトールを睨む。


「ちょっと待て。さらっとぼくを頭数に入れてんじゃねえよ」
「俺が手伝うのなら必然的に貴様も手伝うことになるのだぞ」
「何だよそれ。そもそもてめえ何で手伝う気満々なんだよ」
「単純に興味があるのと……魔法陣を実際に展開することによって、実践的な学びを得るためだ」
「あーはいはいそーですかー……って、魔法陣使うのか。あの変てこな模様のやつでしょ」


 アーサーは二人の会話に耳を傾けながら、自分の分のマフィンをハンスに手渡した。


「そうだ。魔法陣によって魔力を増幅させれば、俺達の魔力量でも復元できるだろう。それでも一頁直せるかどうかって所だろうがな。そもそも展開できるかどうかもわからんが……」
「何か問題あるのか?」


 ヴィクトールは溜息をついてから続ける。


「素人が魔法陣を展開するには色々準備が必要だ。魔力結晶粉末とか円を描く道具とかな。まあこの辺は買えるから問題ないが、一番の問題は場所だ」
「場所?」
「最低でも直径三メートルの円が描ける場所。それも平らな立地で。俺はともかく貴様らは魔法陣の扱いに慣れていないから、これぐらいの条件が揃っていないと魔法陣が上手く発動しないだろう」
「え~……この島にそんな場所ある?」

「ないと言っていいな。第四階層の魔術研究部の研究室にはあるが、自分達の研究で熱心な彼らが個人のために貸してくれるとは到底考えられない」
「じゃあどうするのさ。船乗って大陸まで行く?」
「大陸に行ったら行ったで、貸してくれそうな場所に心当たりがないとか、そもそも魔物が襲ってくるとか、また別の問題が出てくるな」
「あー。護衛つけようにしても話が広がっちゃうもんね。今までの流れ的にそれはまずい」


 ハンスはマフィンを頬張りながらアーサーを見遣った。


「どうすんのさ。場所が見つかんないなら復元魔法は使えない。それならこの紙束のことは……」
「……あるぞ」
「え?」
「魔法陣が展開できる土地がある場所。一つだけ心当たりがある」



 落ちてゆく太陽を背にアーサーは続ける。



「その場所に行くなら明日しか行けない。来週は予定が入っているから無理だ。明日案内するから、そこに向かうぞ」
「え、急すぎない? 準備できるの?」
「まあ、可能ではあるが……その場所は安全なんだろうな?」

「安全だ。事前に伝えておけば、人が入ってくることはない」
「へぇ、まじかよ……一体どんな場所なんだ」
「それは明日に期待しておくとしよう」


 ヴィクトールは最後の一口を放り込んで立ち上がる。アーサーは紙束を袋の後鞄に入れてから立ち上がった。


「では明日薔薇の塔ロビーに集合でいいな?」
「それで構わない」
「わかった。よしハンス、生徒会室に戻るぞ」
「ええ!? 何で戻る必要あるんだよ!? もう帰ろうよ!?」
「貴様は自分の荷物とナイトメアをほったらかしにして帰ると言うのか?」
「ああ……くそっ、忘れてた」



 ハンスも渋々立ち上がり、三人は屋上を後にしていく。
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