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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第122話 大雪原を駆る者達
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「……」
「……」
「……」
「……」
「……そこにいるのはわかってんだよ。隠れてないで出て来い」
「……すごいんだね、お姉さん。ぼくよりもちょっとだけ大きいだけなのに」
かまくらの入り口から周囲を偵察していたエマの所に、ダニエルがやってくる。
「まあな。チビであることはこの際認めてやるけど、潜り抜けた修羅場の数は計り知れねえんだぜ?」
「自分で言うんだ、それ」
「成し遂げたことを自慢にして何が悪い?」
「そっか、それもそうだね」
「わかってくれるのか。帰ったら飴玉を奢ってやろう」
「桃のケーキがいいな」
「自分で買えんなもん」
「……ははは」
「……ふっ……」
「……」
「……」
ダニエルはエマの隣にしゃがみ込む。
「……強いんだね、お姉さん」
「……ぼくも強かったら、お姉さんと一緒に戦えるのに」
「……さっきマットに話しているのを聞いた。苺の実を取りに来たんだって?」
「……うん」
「何でそんな無茶をした?」
「……みんなに示したかった。ぼくは弱虫じゃないって。魔物がいっぱいの雪原に行って帰ってきた、勇敢な男だって……」
「へぇ。友達とかから弱虫って言われてんのか?」
「……うん」
「……」
「それで強くなれるって思っている時点で、てめえは一生弱虫のままだよ」
雪が光を吸い込み始めた。
「……」
「胸に手を当てて考えてみろ。今自分が置かれている立場をな」
風が止み、舞う白雪も穏やかになり、視界が晴れてくる。
「……よし、行くぞ。あの小娘三人も呼んでこい」
「……うん」
「ウキャキャーッ!」
「ふむ。現在位置は雪原南東辺り、アルーインまでおよそ一時間。奈落の数は微増中……と」
「ウキャッ!」
「ええ、ご苦労様でしたリズ。こちらを飲んで身体を温めてください」
「キャキャーッ!」
全身が薄茶色の体毛に覆われた猿が、紙コップを乱雑に手に取り中のお湯を一気に飲み干す。
「女の子……なんですか?」
「そうですよ。乙女というものは見かけによらないものでね」
「キャッ!」
「ほら、撫でてみるか? だそうです」
「……」
エリスは恐る恐るリズの背中に手を伸ばす。
「わぁ……あったかい。人肌に近いからかな、落ち着きます……」
「彼女のチャームポイントですからね。給料の二割程はブラシに回しているんですよ……おっと」
マットが入り口の方を見ると、エマとダニエルが戻ってくるのが見えた。
「どうやらそろそろ頃合いらしいですよ。さあ、気を引き締めて。正念場とはこういう状況のことを言うのです」
空の舞台を雪が踊り、氷が冷徹なる旋律を奏でしブルニア雪原。今はその地を、四匹のレインディアが馬車を引っ張って疾走している。
「生体反応はどうだ!?」
「……まだ駄目ですね。奈落しか感知できません!!」
「ちっ……!」
目視で確認する為に開けっ放しにしていた窓から、蛙に変化した奈落の者が飛び込んでくる。アルシェスはそれを木の幹を纏った腕で殴り付けていく。
「奈落に追われてこっちに近付いてくれればよかったんだが……!」
「寧ろ南に追い詰められているのかもしれない。急げ!」
「はっ!」
「よーし……最後にもう一度確認するぞ」
「はい――」
防寒魔法を行使してもらった防寒具を着て、かまくらを出たエリス達。
吹雪が止んだとはいえ、未だ若干の視界不良を残す雪原を強行することになったのだ。
「先陣はマットとイーサンが切り拓く。倒した所には魔法をかけて安置にしておくから、そこを通れば安全だ。私達はこいつを掲げながら移動するぞ……」
「信号弾……これを見つけてもらえれば、助けてもらえる……」
エマの隣に立つセオドアの両腕は、魔法球が括り付けられた棒を強く握っていた。僅かに吹いてくる向かい風に煽られないよう、足に力を入れており、黄土色の肌に筋が浮かんでいる。
「まあ奈落も引き寄せる可能性が高いがな。いいか、生きて帰りたいなら醜くあってもしがみ付け。最後は結局根性の勝負なんだ」
「セバスン……」
「大丈夫だよカタリナ。セバスンもスノウも、私達の身体の中で頑張ってくれてる。絶対いけるよ!」
「そうだね……うん。あたしには皆が、セバスンがいてくれる……」
「……イリーナさんが来てくれるまで頑張ろうね、ダニエル君!」
「うん……!」
すると正面の方から、武器を振り回す音が聞こえて来た。
「始まったようだな。行くぞ!!」
「はいっ!!」
「おらあっ!」
「ふっ!」
一閃走り、一薙振り降ろす。黒い身体にめり込むと、瞬く間に分解され、溶けて消えていく。
「よし……現状殲滅率十割! 良い傾向だ!」
「俺にかかればこんなもんさぁ!」
「ウキャーッ!」
黒き身体に光る爪痕、リズが形を得る前の奈落の者に傷を付け、マットがそこを突いて内部から破裂させる。
「流石ですな兄者! こちらも負けていられません!」
背中から緑色の光線が放たれ、ゴブリンへと姿を変えた奈落の者に命中する。エルマーによって動きが止まっているうちに、イーサンが頭上から振り被り両断する。
「後ろは……大丈夫ですかね!?」
「ええ、姐上がしっかりと守られています。我々は一点集中で良さそうですね――!」
うっすらと見える五つの人影を確認し、マットは再び奈落の者の身体を貫く。
その身体から火柱が上がり、雪の地面に降り注いだ。
「蒸発させて敵の視界を妨害するぐらいの効果はあるでしょう。姐上の魔法があればこちらには損害無し! 引き続き行きますよ!」
「おうよ!」
「今の座標はどうなっている!?」
「かなり南へ下って参りました!! 現在はメアリー孤児院の緯度と同じ位置に来ています!!」
「しかし依然として反応は――!」
「……何故だ!! どうしてなんだ!!!」
イリーナが馬車の壁を殴り付け、それで若干馬車が揺れる。
「落ち着いてください!!! 貴女が動揺なされたら我々も不安になるんですよ!?」
「しかし……!!」
「わかってます! 二年前と同じことを繰り返したくないんでしょう!? 自分の采配で誰かを犠牲にしてしまうのは、もう沢山だ――」
その瞬間、
馬車に乗っていた全員の身体が、浮いた。
「なっ――」
「着地の体勢を取れ!!」
それから十数秒後に馬車は不時着し、中の騎士達は勢い余って外に放り出される。
「ぐっ……!」
「皆、大丈夫か――っ!」
心配をする暇もなく、アルシェスとイリーナの目の前にある地面が地響きを立てながら動き出した。
腕、腹、足、頭。氷が一塊になって、身体のパーツを成す。
所々に雪が降り積もり、加えて草や石が埋まっている。
自然物で構成されたその身体は、鮮やかな赤い瞳で足元を見据えると、
みるみるうちに白から先の見えない黒へと変貌する。
「アイスゴーレム!! これもパクっていたか!!」
「しかも擬態能力付きだと……この奈落、余程の威力の黒魔法から発生したようだな!?」
二人は後ろを見る。他に乗っていた騎士達は、全員目の前の奈落に気が向いてしまっていた。身体の奥底から湧き出る拒否反応を前にして、レインディア達も逃げようと暴れ回っている。
「テメエらは体勢を整えるのに専念しろ!!! こいつらは俺達でやる!!!」
「――初代女王イズライルよ、そして大いなるヴァルディアスよ。どうか私に力を――」
刹那、イリーナの鎧の右腕部分が弾け飛ぶ。
忽ち大気が凍り付き、彼女の右腕に纏わり付く。
その周囲に氷槍を漂わせた所で、ニーアが右手に握られる。
「――行くぞっ!!!」
「……何? 地震……?」
「……チッ。ちょっとヤバいな……」
「……ええ。目の前に数体程います」
道を切り拓いていたマットとイーサンと合流し、エリス達は一旦立ち止まる。そして進行方向を睨み付けて話し合っていた。
「……何もないよ? もしかして、段差とか……?」
「ただの段差なら良かったんだけどな……アンタらにはわからないと思うが、目の前にアイスゴーレムがいる。そして恐らくコイツらも奈落が変化したモノ……」
「げひゃひゃひゃひゃ! 両サイドからどす黒い気配を感じます! どっちに行っても返り討ちにされるだけ、ならばここを突っ切った方が安全かと……!」
「……」
ぞぞぞ
「……っ」
ごごご
ぞろぞろ
ずずずずず
移動している時には感じなかった恐怖。それを今、明確に感じる。
――それは背後にいて、側面にいて、あらゆる手段を駆使して、自分達を喰らいにやってきている。
「……そうだよ。どっちにしろ止まっている時間はねえんだよ!! 一気に行くぞ!!」
「「了解!」」
エマが叫ぶと同時に、マットとイーサンは子供四人の足に魔法を行使してやる。
「私を追いかけてこい、他の物を一切振り切って、私だけに集中しろ!!! 行くぞぉぉぉぉぉ!!!」
エマはそう叫ぶと、何も見えない白い世界に向かって飛び込んでいく。
「行きますよ!!」
「おらああああああ!!」
「たぁーっ!!!」
「――!!」
残った者も、思い思いの叫び声を上げて、それに続いていった。
「(((((())()()()))()(」
「????????????????!!!!!!!!!!」
ふかふかでしっかりと
踏み締められる白ではなく、
石畳のように固い黒。
「『』『))))))))」」」「「「「」
『”””””、、、。。、。、。””・。、、。。、””』
走り去った後ろから、
すぐにせり上がって、
正体を現す。
「次で最後だ!!! 下は降ったばかりの雪だ、怪我の心配しないで飛び降りろ!!!」
そう叫んだ後、エマは走っている地面の下に消えていった。
「はぁ…………はぁ…………!」
「頑張ってダニエル!! もう少しだよ!!」
だんだんと背後に迫ってきている、奈落の者が動き出すタイミングが早くなってきている。
それを理解したとしても、走らないといけない。
次いでマットとイーサン、その次にカタリナとリーシャも地面へと着地する。
だが、
「ああっ……!!」
「……!!」
エリスとダニエルが飛び降りる前に、乗っていたゴーレムが動き出した。
「……っ!!!」
「あっ……!!!」
考えるより先にエリスの手は動いていた。
「うわあああああああ……!!!」
自分の手に押し出されて、ダニエルが奈落の者の向こう側に突き飛ばされる姿が視界に映る。
だがそれもすぐに
黒い物体に覆い隠されて
自分はその足元に落ちていったことに
気付いた。
「あっ、あああああ、わああああ!!!」
「ダニエル……!」
「……クソがぁぁぁぁぁ!!!」
モーニングスターを片手に、エマがそれに向かって駆け出す。
しかし連中は、生命が危機を感じて動き出すよりもっと早くに、
「―――――――」
足元で蹲る新鮮な餌を見つけて、
「――【―【………≫)>>>><<>、、、、、、!!!!!!!!!!!!!」
腕を振り下ろしていた。
「間に合えっ――――!」
氷雪彩る刹那の刻。
視界、聴覚、天候、緊張。全てが光によって断ち切られる。
(……え)
あの黒い液体に包まれたら感じるであろう、不快な感覚を一切感じない。
そうしてエリスが恐る恐る顔を上げてみると、真っ先に目に入ったのは、
身体を両断されて、徐々に消滅しつつある数体の奈落の者。
そして正面に立っていた、右手に剣を握った人物。
鉄の鎧を身に着け、上質な毛皮で出来たマントを靡かせ、星のような金色の髪を持つ――
仮面の剣士だった。
「……」
「……」
「……」
「……そこにいるのはわかってんだよ。隠れてないで出て来い」
「……すごいんだね、お姉さん。ぼくよりもちょっとだけ大きいだけなのに」
かまくらの入り口から周囲を偵察していたエマの所に、ダニエルがやってくる。
「まあな。チビであることはこの際認めてやるけど、潜り抜けた修羅場の数は計り知れねえんだぜ?」
「自分で言うんだ、それ」
「成し遂げたことを自慢にして何が悪い?」
「そっか、それもそうだね」
「わかってくれるのか。帰ったら飴玉を奢ってやろう」
「桃のケーキがいいな」
「自分で買えんなもん」
「……ははは」
「……ふっ……」
「……」
「……」
ダニエルはエマの隣にしゃがみ込む。
「……強いんだね、お姉さん」
「……ぼくも強かったら、お姉さんと一緒に戦えるのに」
「……さっきマットに話しているのを聞いた。苺の実を取りに来たんだって?」
「……うん」
「何でそんな無茶をした?」
「……みんなに示したかった。ぼくは弱虫じゃないって。魔物がいっぱいの雪原に行って帰ってきた、勇敢な男だって……」
「へぇ。友達とかから弱虫って言われてんのか?」
「……うん」
「……」
「それで強くなれるって思っている時点で、てめえは一生弱虫のままだよ」
雪が光を吸い込み始めた。
「……」
「胸に手を当てて考えてみろ。今自分が置かれている立場をな」
風が止み、舞う白雪も穏やかになり、視界が晴れてくる。
「……よし、行くぞ。あの小娘三人も呼んでこい」
「……うん」
「ウキャキャーッ!」
「ふむ。現在位置は雪原南東辺り、アルーインまでおよそ一時間。奈落の数は微増中……と」
「ウキャッ!」
「ええ、ご苦労様でしたリズ。こちらを飲んで身体を温めてください」
「キャキャーッ!」
全身が薄茶色の体毛に覆われた猿が、紙コップを乱雑に手に取り中のお湯を一気に飲み干す。
「女の子……なんですか?」
「そうですよ。乙女というものは見かけによらないものでね」
「キャッ!」
「ほら、撫でてみるか? だそうです」
「……」
エリスは恐る恐るリズの背中に手を伸ばす。
「わぁ……あったかい。人肌に近いからかな、落ち着きます……」
「彼女のチャームポイントですからね。給料の二割程はブラシに回しているんですよ……おっと」
マットが入り口の方を見ると、エマとダニエルが戻ってくるのが見えた。
「どうやらそろそろ頃合いらしいですよ。さあ、気を引き締めて。正念場とはこういう状況のことを言うのです」
空の舞台を雪が踊り、氷が冷徹なる旋律を奏でしブルニア雪原。今はその地を、四匹のレインディアが馬車を引っ張って疾走している。
「生体反応はどうだ!?」
「……まだ駄目ですね。奈落しか感知できません!!」
「ちっ……!」
目視で確認する為に開けっ放しにしていた窓から、蛙に変化した奈落の者が飛び込んでくる。アルシェスはそれを木の幹を纏った腕で殴り付けていく。
「奈落に追われてこっちに近付いてくれればよかったんだが……!」
「寧ろ南に追い詰められているのかもしれない。急げ!」
「はっ!」
「よーし……最後にもう一度確認するぞ」
「はい――」
防寒魔法を行使してもらった防寒具を着て、かまくらを出たエリス達。
吹雪が止んだとはいえ、未だ若干の視界不良を残す雪原を強行することになったのだ。
「先陣はマットとイーサンが切り拓く。倒した所には魔法をかけて安置にしておくから、そこを通れば安全だ。私達はこいつを掲げながら移動するぞ……」
「信号弾……これを見つけてもらえれば、助けてもらえる……」
エマの隣に立つセオドアの両腕は、魔法球が括り付けられた棒を強く握っていた。僅かに吹いてくる向かい風に煽られないよう、足に力を入れており、黄土色の肌に筋が浮かんでいる。
「まあ奈落も引き寄せる可能性が高いがな。いいか、生きて帰りたいなら醜くあってもしがみ付け。最後は結局根性の勝負なんだ」
「セバスン……」
「大丈夫だよカタリナ。セバスンもスノウも、私達の身体の中で頑張ってくれてる。絶対いけるよ!」
「そうだね……うん。あたしには皆が、セバスンがいてくれる……」
「……イリーナさんが来てくれるまで頑張ろうね、ダニエル君!」
「うん……!」
すると正面の方から、武器を振り回す音が聞こえて来た。
「始まったようだな。行くぞ!!」
「はいっ!!」
「おらあっ!」
「ふっ!」
一閃走り、一薙振り降ろす。黒い身体にめり込むと、瞬く間に分解され、溶けて消えていく。
「よし……現状殲滅率十割! 良い傾向だ!」
「俺にかかればこんなもんさぁ!」
「ウキャーッ!」
黒き身体に光る爪痕、リズが形を得る前の奈落の者に傷を付け、マットがそこを突いて内部から破裂させる。
「流石ですな兄者! こちらも負けていられません!」
背中から緑色の光線が放たれ、ゴブリンへと姿を変えた奈落の者に命中する。エルマーによって動きが止まっているうちに、イーサンが頭上から振り被り両断する。
「後ろは……大丈夫ですかね!?」
「ええ、姐上がしっかりと守られています。我々は一点集中で良さそうですね――!」
うっすらと見える五つの人影を確認し、マットは再び奈落の者の身体を貫く。
その身体から火柱が上がり、雪の地面に降り注いだ。
「蒸発させて敵の視界を妨害するぐらいの効果はあるでしょう。姐上の魔法があればこちらには損害無し! 引き続き行きますよ!」
「おうよ!」
「今の座標はどうなっている!?」
「かなり南へ下って参りました!! 現在はメアリー孤児院の緯度と同じ位置に来ています!!」
「しかし依然として反応は――!」
「……何故だ!! どうしてなんだ!!!」
イリーナが馬車の壁を殴り付け、それで若干馬車が揺れる。
「落ち着いてください!!! 貴女が動揺なされたら我々も不安になるんですよ!?」
「しかし……!!」
「わかってます! 二年前と同じことを繰り返したくないんでしょう!? 自分の采配で誰かを犠牲にしてしまうのは、もう沢山だ――」
その瞬間、
馬車に乗っていた全員の身体が、浮いた。
「なっ――」
「着地の体勢を取れ!!」
それから十数秒後に馬車は不時着し、中の騎士達は勢い余って外に放り出される。
「ぐっ……!」
「皆、大丈夫か――っ!」
心配をする暇もなく、アルシェスとイリーナの目の前にある地面が地響きを立てながら動き出した。
腕、腹、足、頭。氷が一塊になって、身体のパーツを成す。
所々に雪が降り積もり、加えて草や石が埋まっている。
自然物で構成されたその身体は、鮮やかな赤い瞳で足元を見据えると、
みるみるうちに白から先の見えない黒へと変貌する。
「アイスゴーレム!! これもパクっていたか!!」
「しかも擬態能力付きだと……この奈落、余程の威力の黒魔法から発生したようだな!?」
二人は後ろを見る。他に乗っていた騎士達は、全員目の前の奈落に気が向いてしまっていた。身体の奥底から湧き出る拒否反応を前にして、レインディア達も逃げようと暴れ回っている。
「テメエらは体勢を整えるのに専念しろ!!! こいつらは俺達でやる!!!」
「――初代女王イズライルよ、そして大いなるヴァルディアスよ。どうか私に力を――」
刹那、イリーナの鎧の右腕部分が弾け飛ぶ。
忽ち大気が凍り付き、彼女の右腕に纏わり付く。
その周囲に氷槍を漂わせた所で、ニーアが右手に握られる。
「――行くぞっ!!!」
「……何? 地震……?」
「……チッ。ちょっとヤバいな……」
「……ええ。目の前に数体程います」
道を切り拓いていたマットとイーサンと合流し、エリス達は一旦立ち止まる。そして進行方向を睨み付けて話し合っていた。
「……何もないよ? もしかして、段差とか……?」
「ただの段差なら良かったんだけどな……アンタらにはわからないと思うが、目の前にアイスゴーレムがいる。そして恐らくコイツらも奈落が変化したモノ……」
「げひゃひゃひゃひゃ! 両サイドからどす黒い気配を感じます! どっちに行っても返り討ちにされるだけ、ならばここを突っ切った方が安全かと……!」
「……」
ぞぞぞ
「……っ」
ごごご
ぞろぞろ
ずずずずず
移動している時には感じなかった恐怖。それを今、明確に感じる。
――それは背後にいて、側面にいて、あらゆる手段を駆使して、自分達を喰らいにやってきている。
「……そうだよ。どっちにしろ止まっている時間はねえんだよ!! 一気に行くぞ!!」
「「了解!」」
エマが叫ぶと同時に、マットとイーサンは子供四人の足に魔法を行使してやる。
「私を追いかけてこい、他の物を一切振り切って、私だけに集中しろ!!! 行くぞぉぉぉぉぉ!!!」
エマはそう叫ぶと、何も見えない白い世界に向かって飛び込んでいく。
「行きますよ!!」
「おらああああああ!!」
「たぁーっ!!!」
「――!!」
残った者も、思い思いの叫び声を上げて、それに続いていった。
「(((((())()()()))()(」
「????????????????!!!!!!!!!!」
ふかふかでしっかりと
踏み締められる白ではなく、
石畳のように固い黒。
「『』『))))))))」」」「「「「」
『”””””、、、。。、。、。””・。、、。。、””』
走り去った後ろから、
すぐにせり上がって、
正体を現す。
「次で最後だ!!! 下は降ったばかりの雪だ、怪我の心配しないで飛び降りろ!!!」
そう叫んだ後、エマは走っている地面の下に消えていった。
「はぁ…………はぁ…………!」
「頑張ってダニエル!! もう少しだよ!!」
だんだんと背後に迫ってきている、奈落の者が動き出すタイミングが早くなってきている。
それを理解したとしても、走らないといけない。
次いでマットとイーサン、その次にカタリナとリーシャも地面へと着地する。
だが、
「ああっ……!!」
「……!!」
エリスとダニエルが飛び降りる前に、乗っていたゴーレムが動き出した。
「……っ!!!」
「あっ……!!!」
考えるより先にエリスの手は動いていた。
「うわあああああああ……!!!」
自分の手に押し出されて、ダニエルが奈落の者の向こう側に突き飛ばされる姿が視界に映る。
だがそれもすぐに
黒い物体に覆い隠されて
自分はその足元に落ちていったことに
気付いた。
「あっ、あああああ、わああああ!!!」
「ダニエル……!」
「……クソがぁぁぁぁぁ!!!」
モーニングスターを片手に、エマがそれに向かって駆け出す。
しかし連中は、生命が危機を感じて動き出すよりもっと早くに、
「―――――――」
足元で蹲る新鮮な餌を見つけて、
「――【―【………≫)>>>><<>、、、、、、!!!!!!!!!!!!!」
腕を振り下ろしていた。
「間に合えっ――――!」
氷雪彩る刹那の刻。
視界、聴覚、天候、緊張。全てが光によって断ち切られる。
(……え)
あの黒い液体に包まれたら感じるであろう、不快な感覚を一切感じない。
そうしてエリスが恐る恐る顔を上げてみると、真っ先に目に入ったのは、
身体を両断されて、徐々に消滅しつつある数体の奈落の者。
そして正面に立っていた、右手に剣を握った人物。
鉄の鎧を身に着け、上質な毛皮で出来たマントを靡かせ、星のような金色の髪を持つ――
仮面の剣士だった。
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