ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
134 / 247
第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第131話 幕間:獣人の国・その5

しおりを挟む
「ふうむ……」



 ヘンリー・ロイス・ウェルザイラ。グレイスウィル王家たるプランタージ家所属の魔術師で、巷では色んな趣味を持つ変人として有名。

 しかし今は魔術師としての実力を存分に発揮し、騎士達が持ち帰った土の小聖杯を隈なく鑑定している。



「どうでしょうか。やはり何か異変は……」
「いや、それはないよ。毒とかは仕込まれていないし、杯自体に加工が施されているわけでもない。ただ……」
「……ただ?」
「……この中の魔力がごっそり持っていかれている」


 杯の中を覗き込みながら、ヘンリーは淡々と告げる。


「……ああー。どうにもほいほい話が進むなあって思ったら、既に代金は頂戴しましたってやつかよ。あいつら……」
「え……それって、かなり不味いんじゃないですか……?」

「うん、かなり不味いよ。ただでさえ減っていたのにそこから更に盗られて、現在は最大値の二割五分しか入っていない。寒冷で不毛なパルズミールの地に豊穣を齎した魔力。今でも定期的にここから魔力供給を行っている現状、こんなに少ないと今後どんなことが起こるかわからない」
「……」



「だから大至急供給をしないとね。良かったら見ていくかい?」
「いいんですか?」
「まあ、普段は入れない所の見学だと思ってくれれば。ついてきてよ」





 パルズミール地方にある四つの獣人の国、それらを取りまとめ懸け橋となっている緩衝区セントラル。そこでも更に中心にある建物、パルズミール神殿に土の小聖杯は安置されている。



 ヘンリーに案内されたのはその地下。光球によって照らされる地下室には、こじんまりとした水槽が置かれていた。その両脇で魔術師達がてきぱきと何かの準備をしている。





「うぁぁぁ……」
「くっ……」
「君達大丈夫? 目や鼻に刺激が来ているんだよね?」
「はい……えっと、玉ねぎを切った時の感覚みたいなぁ……」
「ははっ、面白い表現するね君。まあそれは置いといて、その刺激はあの水槽に溜まっている魔力水が原因だね。あれの濃度七割なんだ」



 一行は水槽にどんどん近付く。


 魔力が湯気となって吹き上がっていくのが、次第に目に見えてくる。



「七……魔力に関しては五割から高濃度と言われますけど、そんなに……」
「浸透法の必要な濃度はこれぐらいだからね。魔力水の濃度は濃くしないと、魔力が残っていない物体に流れていかない。最もさっき調べた結果を踏まえると、それだと追い付かないだろうから、今後は濃度を八割五分まで引き上げる予定だ」

「そ、そんなことされたら、私ここにいられましぇえん……」
「まあ今はやらないから大丈夫だよ。ふぅ……」


 ヘンリーがゆっくり息を吐くと、彼の身体が薄い魔力の膜に覆われる。


「ヘンリー様、魔力水の準備完了しました」
「よし。では今日は僕が入れようかな……」
「お気をつけてください」



 彼はローブの内側から小聖杯を取り出し、水槽に踏み入る。



「よっと……とぉ」
「ひっ……!」
「大丈夫、ちょっと滑っただけさ。それっ……」



 一歩ずつ歩みを進め、そして中央の仕切られている空間に、静かに小聖杯を置いて戻る。





「……ああー。でもやっぱり緊張するなあ」
「近くにいるだけでも辛いのに、中に入るなんて……もう、凄いぃ……」
「まあ魔術師の端くれだからね。魔力耐性も自然に身に付くもんだよ」
「なるほどぉ~……っていうか先輩方は何ともないんですかぁ!?」

「ヘンリー殿と同じように慣れたからな。お前らは新兵だから、まだ瘴気排除演習もそんなにやってないだろ。だから高濃度の魔力に対する耐性がないのさ。ちなみにナイトメアも同様らしいから、頼ろうとしてもほぼ意味ないっぽいぞ」
「結局は自分で慣れていくしかないってことだね。さて、僕はここに残って作業していくけど、君達は……出て行った方がいいね、うん」
「すみません。流石にこれ以上は限界が……」


 カイルは鼻をつまみ目をギリギリまで細めるだけで済んでいるが、ウェンディに至っては完全に目を瞑ってレーラにしがみついている。


「貴重な場所にご案内いただきありがとうごぜえましたっと。んじゃあお仕事頑張ってください」
「それはお互い様だね。帰り道お気を付けて」





 そして四人は神殿の地下から昇り、新鮮な空気を吸って頭をすっきりさせていた。



「お前ら水銀って知ってるか? 液体の癖に金属っつー生意気な物質なんだけどよ」
「当然です」
「確か、昔の偉い人が不老不死を求めて飲んでしまったってやつですよね」
「そうそう。それと同じノリで、不老不死になるべく、浸透法による魔力供給が行われていたらしい。生身の身体に全身浸かってたんだとよ。当然適切な魔力濃度とか解明されてねえから、浸かるのは十割魔力水だ。実質大気中の魔力を凝縮してるようなもんにだ」


「……死にませんかそれええええ!?」
「死ななかったとしても、そんな痛みを受けたら精神に影響が出るわね……ん。今の言い方からすると、浸透法はそんな昔から確立されていたってこと?」
「実はなんと聖杯が生まれる前からあったらしいぞ。ここにあるのは古代に使われていた水槽を改造したもので……って聞いた」
「へえ~、昔の人って凄い技術を持ってたんですねぇ」


 四人はがらんと開けた神殿の中を歩き回りながら語り合う。


「ここ、神殿って言う割には広いですよね。その割には物があまりない」
「元々は獣人が覇を競い合う闘技場だったらしい。それをロズウェリの初代が土の小聖杯を持ってきた時に、丁度いい感じの置き場所ねーかなーって探した結果、何かと都合が付いたのがここだったんだとさ」



 話しているうちに一番広い空間に到着し、周囲を見回す。そこには祭壇の周囲に六つの巨大な石像が建てられており、またここまでやってくると人の姿もよく見受けられた。



「それぞれの獣人の先祖とされる神様を祀った像だ。ええと正面から左回りに、フェンリル、エオスカレ、シュターデン、カリュドン、ルナール、セクメトだな」
「言えるんだな、正直意外だ」
「魔法学園に入学したら覚えさせられるんだよ……全問解答するまで帰れねえ」


 アルベルトは苦い思い出を噛み締めながら頭を掻いている。


「さあて……何かもう本格的にやることなくなったな」
「それなら後は帰るまでよ。その算段も決めていかないといけないけど」
「何だかなあ……こんなにあっさりと解決するなら、もっと少人数でも良かったんじゃないのか?」

「馬鹿言わないで。もし彼等が強硬に出ていれば戦闘は避けられなかったのよ。アルビムは決して手の内を見せない集団、何をされたかわかったもんじゃないわ」
「そうですね。警戒はしておくに越したことはなかったと思いますよ」
「まあ……結果が全てか。調査なんてそんなもんよな……」



「ん……」





「ああ、アルベルトさんにレーラさん! ご無沙汰しております!」


 四人の後ろ、神殿の正面入り口からリュッケルトとリティカが入ってきて、祭壇の前で立ち止まっていた四人に近付く。


「これはこれはリュッケルト様にリティカ様。このような場所ではございますがお会いできて光栄でございます」


 レーラが一歩前に出て頭を下げ、挨拶をする。


「ううん、こちらこそ! それで、お仕事の方はどうですか?」
「殆ど終えたのでこれから後処理を行い、それから本国に帰還する予定であります」
「それなら、これから一緒にお茶でもいかがですか?」
「はっ。我々は全く構いませんが、お二方はよろしいのですか?」


「全然大丈夫です! グレイスウィルから久しぶりのお客様ですもの、こちらがお話を聞きたいぐらいだわ! 主にお母様とウィングレー家のお話をね!」
「そういうことでしたら、幾らでもお話いたします」
「やったあ! 早く屋敷に戻って、アメリア様にお知らせしましょう!」


 リティカは一足先に走り出してしまう。


「ああ、リティカ……! 駄目じゃないか、お客様を放っておいたら。仕方ないなあ、皆さんは僕についてきてくださいね」
「お心遣い、誠に感謝いたします」



 五人は神殿の入り口に向かって歩き出す。その間、レーラの後ろでアルベルトが後輩二人にひそひそと話した。



「信じられるか? あのお二方が将来アドルフ様やルドミリア様みたいになるんだぞ?」
「熱心で優秀ならそれに越したことはないのでしょうか」
「まあそうなんだがな。あんな風に下の身分の者にも優しく接してくれると、こっちもやる気出るよな」
「つまりグレイスウィルの将来は安泰ってことですね! やったあ!」


「……ウェンディ、お前って一々リアクションが面白いよな」
「どういうことですかアルベルト先輩!?」
「そのまんまの意味だ馬鹿者。ほら遅れちまってるぞ、急げ!」
「あっ、待ってくださいせんぱーい!」
「先輩……全く」



 冷たく澄んだ冬の空に、獣の臭いが漂う大地。今日も生命は理と本能のままに生きていく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

異世界に転生したので錬金術師としてダラダラ過ごします

高坂ナツキ
ファンタジー
 車道に飛び出した猫を助けた吾妻和央は車に轢かれて死んでしまった。  気が付いたときには真っ白な空間の中にいて目の前には発光していて姿形が良くわからない人物が。  その人物は自分を神と名乗り、主人公を異世界に転生させてくれると言う。  よくわからないけれど、せっかく異世界に転生できるのならと、元の世界ではできなかったことをしてダラダラ過ごしたいと願う。  これは錬金術師と付与魔術師の天職を与えられた男が異世界にてだらだら過ごすだけの物語。 ※基本的に戦闘シーンなどはありません。異世界にてポーションを作ったり魔導具を作ったりなどの日常がメインです。 投稿開始の3日間、1/1~1/3は7:00と17:00の2回投稿。1/4以降は毎日7:00に投稿します。 2月以降は偶数日の7:00のみの投稿となりますので、よろしくお願いします。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ
ファンタジー
東京・渋谷から少し外れた路地の奥、築五十年のビルの地下一階。看板は小さく、知っている人しか辿り着けない。  カウンター八席、テーブル二卓。深夜零時から夜明けまでの営業。 ルーカス(本名:ルカシュ・ヴァルド)  異世界の小さな王国の第三王子として生まれたが、王位継承争いに巻き込まれ、魔法陣の暴走によって現代日本に転移してきた。外見は三十代前半の白人男性。銀灰色の髪と、光の加減で金色にも見える瞳を持つ。日本語は「声の魔法」で習得した。  他人の「最も深い渇望」が視える力を持つ——それは意識的な欲求ではなく、本人すら気づいていない魂の底の叫び。酒や料理を通じてその渇望に応える。  自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します

みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。 行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。 国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。 領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。 これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。

処理中です...