ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章3節 学園生活/楽しい三学期

第156話 後期末試験

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「さて、今年もこの日が来てしまいましたねえ」
「いやーあっという間だったな!」
「学園生活がどんどん過ぎ去っていくぅ~」


 ここは園舎四階、四年二組の教室。今だ窓に結露が付着する中で、ノーラ、パーシー、ヒルメは集まって駄弁っている。


「一限は魔法学総論。全員必修だったよな。ということは教室移動はなしだ」
「私はあんまり勉強できませんでしたねぇ。」
「冗談もよせよヒヨコチャァン。そういうこと言う奴に限って勉強してるって、ウチ知ってんぞぉ」
「バウバウ!」
「ピイピイ!」
「ふっ……」


 パーシーは鼻を鳴らしてから教室を見遣る。


 やはり気になってしまうのは、クラスの全員が席に着いている中で、一つだけ空いている席。


「……カルの奴、やっぱり来なかったなあ」
「別室受験って可能性もあります。まだ決め付けるには早いですよ」
「だといいんだがなあ。とにかく再びこっちに来てほしいぜ」
「……どぅーだろうねえ」



 そこに扉が開き、紙束を抱えた教師が入ってくる。生徒達は会話などを止め、わらわらと正面に向き直ってナイトメアを仕舞う。



「おっすやるか~」
「頑張りましょうね」
「ああ、健闘を尽くそうぜ!」





(……うし。気付かれてないな……)


 試験時間中。ロシェは時計と監督者の動きを、悟られないようにしつつ交互に観察している。


(……魔法具及びナイトメアによるカンニング禁止。教師共、てめえらはこの制限で勝ったつもりでいるようだが……)


 現在教師はロシェを背中にするような位置にいて、自分の姿は視界には入っていない。


(魔法がダメなら古典的な方法! くっくっく……魔力の籠っていないインクならば、バレはしまい……!)


 試験用紙に視線を落とすと見せかけて、彼は机の空き空間の、僅かに覗けるスペースを凝視する。


(試験なんてなあ、点数が取れればいいんだよ……! この勝負、俺の勝ちだ……!)





「はあぁぁ……」


 合間の休み時間。リリアンは右肘を頭に回して左手で引っ張り、凝った身体をほぐしている。


「お疲れ。次終われば昼休憩だから、頑張れ頑張れ」
「ありがとうアッシュぅぅ~。あ、トイレ行きたいから留守番よろしく」
「はいはい、行っておいで」


 リリアンは立ち上がり二年四組の教室から出ていく。




 そして入り口の扉を閉めると――


「あれ?」
「……あ」
「フォルス君? フォルス君だよね!?」



 同じタイミングで階段を昇ってきた彼に向かって、リリアンは嬉々として話しかける。



「九月以来だね! 魔術大麻で身体壊したって聞いたけど、回復したの?」
「……まあ、な」

「そっか! クラスにいなかったてことは別室かな? でもとにかく園舎には来たってことは、クラスにも来れるね!」
「……」


 手を後ろに組みながら、ご機嫌に話すリリアンをフォルスは見つめる。


「……咎めねえんだな」
「え? 魔術大麻使ったことについて? そりゃあ何で使っちゃったんだろうって思ったけど……でも、フォルス君にだって色々あったんだよね?」
「……」

「人生には一度や二度、そういうこともあるよ! 寧ろ皆が支えてくれる今に踏み外して良かったんじゃないかな……なんて! でもこれからは何かあったら私に言ってね? 生徒会の私が力になるよ!」
「……」

「じゃ、私次も試験あるから! またね!」



 手を振ってその場を去っていくリリアンを、見送ってからフォルスは階段を昇って行った。





「ラーディウスくーん、次の教室どこよー?」
「化学入門。場所は五階の空き教室三だねぇ」
「だーっ……また五階かよ!? さっき行ったばかりだぞ!?」


 昼食に買ったオイルサーディンのサンドイッチを食べながら、マイケルとラディウスは語り合う。


「ところでマチルダさあ、なんかずっとニヤニヤしてるけど何なの?」
「自己採点してたんだー。さっきやった魔法学総論のねっ。そしたら、結果は百点満点! 宮廷魔術師マーロンの一人娘であるあたしにかかればこんなもんよっ!」
「所詮自採は自採なんだから盲信するだけ無駄だぞ。結果を寝て待ちやがれ。あと父親のこと鼻にかけすぎだろ」
「そういうあんたにも宮廷魔術師のおねーちゃんがいるでしょーが」
「姉というよりは同居人って感じだからなあ……あのブドウ娘は」


 そこに壁を挟んで、男女の声が聞こえてくる。


「またアザーリアとダレンだね」
「存在自体がミュージカルな男女ペア……」
「今日の昼食はツナサンドかスパゲッティかって……随分庶民的な話だな」
「アザーリアはフェリスだけど、ダレンもダレンで現王国騎士が親だからな。そう考えるとなんて……目線の低い」



「マイケル! 今わたくし達の噂話をしていましてー!?」


 アザーリアが扉を開け放ち、蝶の様に優雅にマイケル達の前までやってくる。


「何でもないです特に深い理由はない話ですさっさと食堂に行け」
「でないと売り切れちゃうかもよ?」
「うふふ、そういたしますわー!」


 そして蜂の様に真っ直ぐ走り去っていった。


「……長耳だから結構聞こえるんだろうか」
「あたしも兎耳だからか結構音聞こえるし、多分そうだと思うよ」
「マジか……今度から気を付けよーっと」





「というわけで!」
「試験!」
「お疲れ様でしたあああああ!」



 所変わって時も進んで、ここは大衆食堂カーセラム。ガゼル、クオーク、シャゼムの三人は泡の立ったオレンジジュースで祝杯を上げていた。



「んあ~……んまいっ!」
「お前らお疲れ~。ほれ、俺からの差し入れだ」
「ラニキありがと~」


 皿に乗ったポテトフライをつまみながら、ガゼルは机に倒れ込む。


「来年からはお前らも四年生だな。そうすれば試験の日程もぐっと楽になるな」
「代わりにレポートやら何やらが増えるんだけどね~」


 首をカウンターの方に向け、他にも打ち上げを行っている生徒達を流し見る。


「……あ、今カウンターに座ったの。モニカじゃねーか? モニカー!」



 ガゼルの声に気付いたのか、銀髪のショートカットの生徒はこちらに振り向く。



「え……ガゼル君?」
「モニカもこっち来いよー。一緒にポテトフライ食おうぜー」
「……じゃあ、頂こうかな」



 モニカはガゼルの隣に座ってきて、ポテトフライを食べる。



「おん? 知り合いか?」
「クラスメイトだよ。いつも教室の隅にいる大人しい子なんだ」
「まあ……落ち着くから、ね」

「つーかお前もカーセラム来るんだな。何か意外だわ」
「まあここの料理は美味いからな!」
「そうだね、たまにはこんな騒がしい所もいいかなって」


 淑い手つきで紅茶を飲む彼女の姿は、態度も感覚も一般平民な三人の中では、輪郭が際立って映る。


「んじゃまあ、ごゆっくりとだな」
「はいよ~。ラニキまた後でね~」



 このようにして他学年の生徒も、どうにか怪物たる試験期間を過ごしていたのであった。
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