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第1章3節 学園生活/楽しい三学期
第162話 巡る一年、感謝とこれから
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「さて皆――一年間よく頑張ったな!」
アドルフの快郎な声が講堂全体に響き、学生は耳を傾けたり傾けなかったりしている。
「特に一年生諸君! 今年は初めて体験することが山程あったと思う! しかし来年からは二年生になって、後輩ができる! どうか今年得られた知識を活かして後輩達を導いてほしい! これは三年生以上も同様だな!」
「自身の経験を糧に後ろに続く者を導いていく……人の営みというものは、そうして発展してきた! 故に諸君もそうして生きていってほしいと、私は切に願っているぞ!」
「では来年度も良い学園生活を送ってくれ! 以上終わり!」
その直後、側で待機していたフォンティーヌが嘶くと壇上が淡い光に包まれる。
光が止む頃には、講堂中にひらひらと桜の花びらが舞っていた。
「というわけで!!!」
「一年お疲れ様でしたあああああ!!!」
「さまでしたーーー!!!」
風が通り抜ける洞の中に、コップがぶつかり合う音が鳴する。
続き、紙袋をバリバリ開く音が輪になって木霊した。
一年お疲れ様パーティという名のお菓子を食べる会が、あの秘密の島にて開催されていたのだ。当然参加者は、この島の秘密を知っているあの十名である。
「うっへっへうっへっへお疲れ様でしたぁアーサーぁ……ボカァもう幸せだぁ……」
「気持ち悪いぞ」
「んだとぉ浮かれていると言え」
「つまり気持ち悪いということだな」
「貴様等そこで水をかけ合うのはやめろ」
「んみゃ~い。んみゃ~いんだけどこれ、ジュース飲み過ぎで漏らさないかなあ」
「その辺ですればいいんじゃない」
「アタシはそれで大丈夫だぜー!」
「……後で魔法具でも用意しとこう」
「今は我慢ね、りょうか~い」
三ヶ月程前に皆で苦心して作った丸机を囲み、適当に腹を膨らませた所で、一応の主催者であるイザークが話を切り出す。
「じゃあ……お疲れ様パーティってことで、それっぽいことはしておこうか!」
「何をするつもりだ」
「一年の感想を言うんだよ。学園生活どうだったーとかって。それぐらいならオマエでもできるだろー!?」
「下らん。勝手にやってろ」
「今マシュマロ食ったね!? お菓子食ったからには強制参加だかんなこれ!?」
「……実に学びの多い一年だった。以上」
「うっわつまんね! もっと捻ろよ!」
「シャドウ」
「――♪」
「うえっっひゃっひゃっはっひゃ!!! くすぐんじゃねえひゃっはっはっはひゃ!!!」
機嫌良く影から出て、そして眼鏡を外したヴィクトールの姿になったシャドウに、くすぐられるイザーク。地面に倒れ込んだ彼を置き去りにして企画だけが進む。
「よし……ヴィクトールから時計回りに行こうか。次ハンスね」
「え? ああ……まあ楽しかったんじゃないの。終わり」
「オマエももーちょい捻れうっひゃひゃひゃひゃはあ!」
「次は……ワタシ? そうね、この森を発見できたのが一番大きい出来事だったわね。その点については感謝してるわ。あとはここで言う程のことではないわ」
「あらじもぞんなふぁんじだず」
「ポテトチップは逃げないわ。だからどうか口に物を詰め込まないで。そしてその状態で喋ろうとしないで」
「ごくごくごく……プハー!」
瓶に残った林檎ジュースを一気に飲み干し、クラリアは満足そうに笑う。
「クラリア……さりげなくラッパ飲みをするな」
「んあー……? 残りコップ一杯分ぐらいだったし、別によかったよな?」
「そうだね。それにお代わりならまだまだあるし」
「なら問題ないな!」
「馬鹿が。今は問題にならなかったからよかったが、仮に問題になったらどうしたつもりだ」
「うーそれは……」
「はいはいストーップ! 折角のパーティなんだからさ、お説教はほどほどにしようよ!」
「……くぅ。外部から言われてしまっては従わざるを得ない……」
シャドウのくすぐり攻撃から復帰したイザークが再び椅子に座り、企画を進める。
「じゃあ改めてクラリア! よろしく!」
「おうよ! えっとな、アタシこの一年はすげー楽しかった! 友達もできたし、訓練もいっぱいできたし! それで、来年もよろしくな! 終わり!」
「うっす綺麗にまとまったな! じゃあ次ルシュド!」
「え、あ……おれ?」
「まだまとまってないなら私代わろうかー?」
「……うん」
「よっし心得た。えーと……今年は初めての学園生活ということもあって、色んなことに突撃してみた一年でした! 来年は今年広がった世界に対して、より深く掘り下げていけたらいいなーって……思います! はい!」
「うーんリーシャらしいね! あと気付いたんだけどこれ後ろになる度いいこと言わないといけないプレッシャーがかかるな!」
「えと、おれ、言います」
「オッケー! はい皆ルシュドの番だよ注目してー!」
「うう……」
ルシュドは数回程顔を背けたり振ったりし、それから言い出す。
「おれ、楽しかった。たくさん勉強、できた。たくさん訓練、できた。来年も……したい。うう、終わり」
「頑張った方だと思うぞ」
「はいどーも! よっしゃあ次ボクね! まず、皆と出会えてマックスハッピー! 次に皆と過ごせて再三ラッキー! そしてこの日を迎えられて超絶ファンタスティック! これからもよろしく~~~ねっ☆」
「……」
深い溜息をつくヴィクトールを、せせら笑いながら見遣るハンス。
「はっはっは……そんな渋い林檎を齧ったような顔すんなよ、ヴィクトール」
「ふんふんふふふふーん!!」
「……次だな」
「いでえ!!!」
アーサーの肘を顔面で喰らい、イザークは後ろに倒れ込む。
「えっと……じゃああたし、かな。とは言っても……皆あたしと仲良くしてくれてありがとうとしか……」
「感謝の気持ちを表明ね! いいんじゃないこういう場じゃないと言えないと思うし!」
「うん、下手に捻るよりもいいんじゃないかな?」
「そ、そうかな……」
「じゃあ次はわたしの番だね。えーと……」
ぐるっと洞の中を見回してから、エリスは言葉を紡ぐ。
「みんなに……秘密を共有できる友達に出会えたのが、一番良かったって思ったかな。わたし、アンディネの方から来たから初めてのことが多くて、その点でも助けられて……皆にはお世話になったなあって思うよ」
「えーそんなぁ、私の方こそエリスにお世話になってるしぃ。お互い様だよ!」
「まあそんなものじゃないの? 知らないけど」
「うっわ適当な返事~」
「黙れよ。んで最後にきみの番だけど」
ハンスがアーサーに視線を向けたのを皮切りに、他全員の視線がアーサーに注がれる。
「……」
「ワンワン!」
「……わかってる。わかってはいるが……」
「え? 何々? 何か言いたいことあるの?」
「……っ」
「……この状況では、少しな」
「何だよそれ。オマエこんな時まで……」
アーサーが若干俯いたタイミングで、木々を唸らせて風が吹き抜ける。
「わっ、強いの来たね。ゴミが飛ばされないようにしなくっちゃ」
「そうだなあ……っておい! 見ろよ、夕日が綺麗だぜ!」
「あ……本当だ」
続々と入り口に集まり、揃って中から空を見上げる。
「……ボクいいこと考えたんすけど!!」
「却下する」
「最後まで聞けや!! 今から海岸に移動するぞ!! 続きはそれからだ!」
「……待機してよう」
「そんなの許されない空気だってわかってるよねぇ~!?」
「ぐおっ……」
橙色に染まる空を、風に吹かれて旅人が行く。寂しげな色の中にも、未来への展望を感じさせる三月の夕暮れ。
水平線にも日が沈み、青い海を橙色に包み上げていく。海岸線もそれを受けて、吸い込まれそうな程の荒野と化している。
「……これはまたとない夕日だな」
「だろー!? そこでボク閃いちゃったんですけど、あの夕日に向かって叫ぶのはどうっすか!」
「叫ぶ……?」
「夕日が相手なら恥ずかしさもクソもねえだろ! というわけでボクのお手本!」
全員が横並びに立っていた中から、イザークが並の押し寄せるギリギリまで出る。
「うおおおおお!! 無駄に宿題を出してくるミーガンはくたばればいいんだあああああ!!」
そう叫んだ後、観念しろと言わんばかりに波濤の音が響く。
「……ひょっとして、単にイザークが叫びたいだけだったんじゃ?」
「半分はそうである!!」
「よっしゃあ! アタシもやるぜやるぜー!!」
「お、おれも!」
次から次へと波打ち際に近付いていき、叫んでもそうでなくても沈む夕日を前にする。
「もっともーっと強くなって、いつか兄貴を超えてやるぜーーー!!」
「おれ、頑張るーーー!!」
「お金が欲しいーーー!!」
「切実!!」
「苺が食べたいーーー!!」
「可愛いな!!」
「あと服とアクセサリーもーーー!!」
「と思った矢先にこれだよ!!」
叫ぶと当然のように声が枯れるが、今はそれすらも楽しいと思えてくる。
「へっへっへ、さあ残るはオマエらだけだぜ!」
「あたしはいいかな……」
「誰がするか」
「右に同じ」
「こんな庶民的な行い、エルフの柄じゃないね」
「んじゃあアーサーの番だな! とびっきりのを見せてくれよ!」
「……」
アーサーが夕日を前にして立ち、他は僅かな期待を込めて一歩後ろに引く。
「……ふっ」
流石にここまでお膳立てされたら、逃げるわけにはいかない。
「――イザーク!!」
それまで笑顔でノリノリだったイザークの顔が、一転呆気に取られて真顔になる。
しかしアーサーは止まらない。
「――サイリ、カタリナ、セバスン、ルシュド、ジャバウォック、リーシャ、スノウ、ハンス、シルフィ、クラリア、クラリス、ヴィクトール、シャドウ、サラ、サリア……」
「――カヴァス!! エリス!!!」
「今年色々あったけど、これからもよろしくなーーー!!!」
叫び終えた後、今日一番のさざなみが押し寄せる。
それらを背に、アーサーは後ろの友人達の方に振り向く。
「……はははっ! まあ何だ……そういうことだ! これからもよろしくな!」
夕日よりも眩しい笑顔を、彼は一面に咲かせていた。
「……オマエ……」
「オマエ……!」
「オ、マ、エ、なあ~~~~!!!」
イザークがどしどしとアーサーに迫り、そして背中を叩いた。
「ごふっ!」
「オマエなあ~~~! 散々引っ張っといて言うことがそれかよ~~~!!! 照れすぎだよ!!! もっと重大なこと言うのかと思ったじゃん!! ボクの緊張返せよこのやろ~っ!!!」
「お前っ、力がっ、強いっ……ああっ!?」
勢いが余り過ぎて、そのまま二人諸共水面に向かってドボン。
「ああ! もう何してるの~! 制服って洗濯するの大変なんだからね!? 専門の洗濯屋さんに頼まないといけないんだから!」
「そうだな、よしこいつに代金を請求しよう」
「いやいやボクも濡れてるからおあいこだよね!?」
「オレの場合はエリスに負担がかかるからいいんだよ。確か銀貨二枚だったな? いや慰謝料としてもう二枚上乗せにしておこう」
「……ごめん! 我慢してたけどもう限界だわ! 吹っ切れすぎだよアーサー!! あはは!!」
「ふん、オレだってこれぐらいっ……!?」
「こうなったらもうどうとでもなれー!!!」
イザークは海水を手で掬い、そんじょそこらにぶちまける。
「……貴様……」
「あっはっはっは!! こりゃあ傑作だ!! 水も滴るいいヴィクトールだ!!」
「……シャドウ。ウンディーネ辺りにでも変身して、目にもの見せてやれ」
「――♪」
「ちょっとーー!? 何かボクの頭上にだけ雨雲が迫ってきたんですけどーー!?」
「待って、こっちにも被害が及ぶんだけど!?」
「ぬおおおおおお!! アタシも混ざるぞおおおおお!!」
「お、おれも!」
「やめろクラリア! 濡れたまま走り回るな! 水滴が飛ぶ!!」
「ルシュドは火属性が影響してんのか、あまり濡れねーなー。ははっ!」
「……まじで何やってんの? 馬鹿みたいじゃない? いや馬鹿だったな」
謎に遊び出した彼らをよそに、ハンスは自身に風魔法を吹きかけて服を乾かす。
「ほう、貴様それは便利そうだな。俺にもやれ」
「は? 自分でやれよくそがっ」
「ぎゃはははは! ハンスオマエも逃がさねえからな!?」
「……」
「待ってえー!? 何か波がこっちに向かってきてるんだけどー!?」
「……エルフを馬鹿にしたこと、後悔させてやる」
「ずっどんばっちゃーん!!!」
「ひゃー!! 冷たーい!! 冷たいよー!!」
「なのでーす!!」
「……全く、馬鹿は一体どちらなのかしらねえ」
「あはは……」
誰も知らない島の海岸線に響く、少年少女の笑い声。
さながらそれは咲き乱れる花のよう。爽風行き交う夕暮れ空に、どこまでも飛び立っていった。
アドルフの快郎な声が講堂全体に響き、学生は耳を傾けたり傾けなかったりしている。
「特に一年生諸君! 今年は初めて体験することが山程あったと思う! しかし来年からは二年生になって、後輩ができる! どうか今年得られた知識を活かして後輩達を導いてほしい! これは三年生以上も同様だな!」
「自身の経験を糧に後ろに続く者を導いていく……人の営みというものは、そうして発展してきた! 故に諸君もそうして生きていってほしいと、私は切に願っているぞ!」
「では来年度も良い学園生活を送ってくれ! 以上終わり!」
その直後、側で待機していたフォンティーヌが嘶くと壇上が淡い光に包まれる。
光が止む頃には、講堂中にひらひらと桜の花びらが舞っていた。
「というわけで!!!」
「一年お疲れ様でしたあああああ!!!」
「さまでしたーーー!!!」
風が通り抜ける洞の中に、コップがぶつかり合う音が鳴する。
続き、紙袋をバリバリ開く音が輪になって木霊した。
一年お疲れ様パーティという名のお菓子を食べる会が、あの秘密の島にて開催されていたのだ。当然参加者は、この島の秘密を知っているあの十名である。
「うっへっへうっへっへお疲れ様でしたぁアーサーぁ……ボカァもう幸せだぁ……」
「気持ち悪いぞ」
「んだとぉ浮かれていると言え」
「つまり気持ち悪いということだな」
「貴様等そこで水をかけ合うのはやめろ」
「んみゃ~い。んみゃ~いんだけどこれ、ジュース飲み過ぎで漏らさないかなあ」
「その辺ですればいいんじゃない」
「アタシはそれで大丈夫だぜー!」
「……後で魔法具でも用意しとこう」
「今は我慢ね、りょうか~い」
三ヶ月程前に皆で苦心して作った丸机を囲み、適当に腹を膨らませた所で、一応の主催者であるイザークが話を切り出す。
「じゃあ……お疲れ様パーティってことで、それっぽいことはしておこうか!」
「何をするつもりだ」
「一年の感想を言うんだよ。学園生活どうだったーとかって。それぐらいならオマエでもできるだろー!?」
「下らん。勝手にやってろ」
「今マシュマロ食ったね!? お菓子食ったからには強制参加だかんなこれ!?」
「……実に学びの多い一年だった。以上」
「うっわつまんね! もっと捻ろよ!」
「シャドウ」
「――♪」
「うえっっひゃっひゃっはっひゃ!!! くすぐんじゃねえひゃっはっはっはひゃ!!!」
機嫌良く影から出て、そして眼鏡を外したヴィクトールの姿になったシャドウに、くすぐられるイザーク。地面に倒れ込んだ彼を置き去りにして企画だけが進む。
「よし……ヴィクトールから時計回りに行こうか。次ハンスね」
「え? ああ……まあ楽しかったんじゃないの。終わり」
「オマエももーちょい捻れうっひゃひゃひゃひゃはあ!」
「次は……ワタシ? そうね、この森を発見できたのが一番大きい出来事だったわね。その点については感謝してるわ。あとはここで言う程のことではないわ」
「あらじもぞんなふぁんじだず」
「ポテトチップは逃げないわ。だからどうか口に物を詰め込まないで。そしてその状態で喋ろうとしないで」
「ごくごくごく……プハー!」
瓶に残った林檎ジュースを一気に飲み干し、クラリアは満足そうに笑う。
「クラリア……さりげなくラッパ飲みをするな」
「んあー……? 残りコップ一杯分ぐらいだったし、別によかったよな?」
「そうだね。それにお代わりならまだまだあるし」
「なら問題ないな!」
「馬鹿が。今は問題にならなかったからよかったが、仮に問題になったらどうしたつもりだ」
「うーそれは……」
「はいはいストーップ! 折角のパーティなんだからさ、お説教はほどほどにしようよ!」
「……くぅ。外部から言われてしまっては従わざるを得ない……」
シャドウのくすぐり攻撃から復帰したイザークが再び椅子に座り、企画を進める。
「じゃあ改めてクラリア! よろしく!」
「おうよ! えっとな、アタシこの一年はすげー楽しかった! 友達もできたし、訓練もいっぱいできたし! それで、来年もよろしくな! 終わり!」
「うっす綺麗にまとまったな! じゃあ次ルシュド!」
「え、あ……おれ?」
「まだまとまってないなら私代わろうかー?」
「……うん」
「よっし心得た。えーと……今年は初めての学園生活ということもあって、色んなことに突撃してみた一年でした! 来年は今年広がった世界に対して、より深く掘り下げていけたらいいなーって……思います! はい!」
「うーんリーシャらしいね! あと気付いたんだけどこれ後ろになる度いいこと言わないといけないプレッシャーがかかるな!」
「えと、おれ、言います」
「オッケー! はい皆ルシュドの番だよ注目してー!」
「うう……」
ルシュドは数回程顔を背けたり振ったりし、それから言い出す。
「おれ、楽しかった。たくさん勉強、できた。たくさん訓練、できた。来年も……したい。うう、終わり」
「頑張った方だと思うぞ」
「はいどーも! よっしゃあ次ボクね! まず、皆と出会えてマックスハッピー! 次に皆と過ごせて再三ラッキー! そしてこの日を迎えられて超絶ファンタスティック! これからもよろしく~~~ねっ☆」
「……」
深い溜息をつくヴィクトールを、せせら笑いながら見遣るハンス。
「はっはっは……そんな渋い林檎を齧ったような顔すんなよ、ヴィクトール」
「ふんふんふふふふーん!!」
「……次だな」
「いでえ!!!」
アーサーの肘を顔面で喰らい、イザークは後ろに倒れ込む。
「えっと……じゃああたし、かな。とは言っても……皆あたしと仲良くしてくれてありがとうとしか……」
「感謝の気持ちを表明ね! いいんじゃないこういう場じゃないと言えないと思うし!」
「うん、下手に捻るよりもいいんじゃないかな?」
「そ、そうかな……」
「じゃあ次はわたしの番だね。えーと……」
ぐるっと洞の中を見回してから、エリスは言葉を紡ぐ。
「みんなに……秘密を共有できる友達に出会えたのが、一番良かったって思ったかな。わたし、アンディネの方から来たから初めてのことが多くて、その点でも助けられて……皆にはお世話になったなあって思うよ」
「えーそんなぁ、私の方こそエリスにお世話になってるしぃ。お互い様だよ!」
「まあそんなものじゃないの? 知らないけど」
「うっわ適当な返事~」
「黙れよ。んで最後にきみの番だけど」
ハンスがアーサーに視線を向けたのを皮切りに、他全員の視線がアーサーに注がれる。
「……」
「ワンワン!」
「……わかってる。わかってはいるが……」
「え? 何々? 何か言いたいことあるの?」
「……っ」
「……この状況では、少しな」
「何だよそれ。オマエこんな時まで……」
アーサーが若干俯いたタイミングで、木々を唸らせて風が吹き抜ける。
「わっ、強いの来たね。ゴミが飛ばされないようにしなくっちゃ」
「そうだなあ……っておい! 見ろよ、夕日が綺麗だぜ!」
「あ……本当だ」
続々と入り口に集まり、揃って中から空を見上げる。
「……ボクいいこと考えたんすけど!!」
「却下する」
「最後まで聞けや!! 今から海岸に移動するぞ!! 続きはそれからだ!」
「……待機してよう」
「そんなの許されない空気だってわかってるよねぇ~!?」
「ぐおっ……」
橙色に染まる空を、風に吹かれて旅人が行く。寂しげな色の中にも、未来への展望を感じさせる三月の夕暮れ。
水平線にも日が沈み、青い海を橙色に包み上げていく。海岸線もそれを受けて、吸い込まれそうな程の荒野と化している。
「……これはまたとない夕日だな」
「だろー!? そこでボク閃いちゃったんですけど、あの夕日に向かって叫ぶのはどうっすか!」
「叫ぶ……?」
「夕日が相手なら恥ずかしさもクソもねえだろ! というわけでボクのお手本!」
全員が横並びに立っていた中から、イザークが並の押し寄せるギリギリまで出る。
「うおおおおお!! 無駄に宿題を出してくるミーガンはくたばればいいんだあああああ!!」
そう叫んだ後、観念しろと言わんばかりに波濤の音が響く。
「……ひょっとして、単にイザークが叫びたいだけだったんじゃ?」
「半分はそうである!!」
「よっしゃあ! アタシもやるぜやるぜー!!」
「お、おれも!」
次から次へと波打ち際に近付いていき、叫んでもそうでなくても沈む夕日を前にする。
「もっともーっと強くなって、いつか兄貴を超えてやるぜーーー!!」
「おれ、頑張るーーー!!」
「お金が欲しいーーー!!」
「切実!!」
「苺が食べたいーーー!!」
「可愛いな!!」
「あと服とアクセサリーもーーー!!」
「と思った矢先にこれだよ!!」
叫ぶと当然のように声が枯れるが、今はそれすらも楽しいと思えてくる。
「へっへっへ、さあ残るはオマエらだけだぜ!」
「あたしはいいかな……」
「誰がするか」
「右に同じ」
「こんな庶民的な行い、エルフの柄じゃないね」
「んじゃあアーサーの番だな! とびっきりのを見せてくれよ!」
「……」
アーサーが夕日を前にして立ち、他は僅かな期待を込めて一歩後ろに引く。
「……ふっ」
流石にここまでお膳立てされたら、逃げるわけにはいかない。
「――イザーク!!」
それまで笑顔でノリノリだったイザークの顔が、一転呆気に取られて真顔になる。
しかしアーサーは止まらない。
「――サイリ、カタリナ、セバスン、ルシュド、ジャバウォック、リーシャ、スノウ、ハンス、シルフィ、クラリア、クラリス、ヴィクトール、シャドウ、サラ、サリア……」
「――カヴァス!! エリス!!!」
「今年色々あったけど、これからもよろしくなーーー!!!」
叫び終えた後、今日一番のさざなみが押し寄せる。
それらを背に、アーサーは後ろの友人達の方に振り向く。
「……はははっ! まあ何だ……そういうことだ! これからもよろしくな!」
夕日よりも眩しい笑顔を、彼は一面に咲かせていた。
「……オマエ……」
「オマエ……!」
「オ、マ、エ、なあ~~~~!!!」
イザークがどしどしとアーサーに迫り、そして背中を叩いた。
「ごふっ!」
「オマエなあ~~~! 散々引っ張っといて言うことがそれかよ~~~!!! 照れすぎだよ!!! もっと重大なこと言うのかと思ったじゃん!! ボクの緊張返せよこのやろ~っ!!!」
「お前っ、力がっ、強いっ……ああっ!?」
勢いが余り過ぎて、そのまま二人諸共水面に向かってドボン。
「ああ! もう何してるの~! 制服って洗濯するの大変なんだからね!? 専門の洗濯屋さんに頼まないといけないんだから!」
「そうだな、よしこいつに代金を請求しよう」
「いやいやボクも濡れてるからおあいこだよね!?」
「オレの場合はエリスに負担がかかるからいいんだよ。確か銀貨二枚だったな? いや慰謝料としてもう二枚上乗せにしておこう」
「……ごめん! 我慢してたけどもう限界だわ! 吹っ切れすぎだよアーサー!! あはは!!」
「ふん、オレだってこれぐらいっ……!?」
「こうなったらもうどうとでもなれー!!!」
イザークは海水を手で掬い、そんじょそこらにぶちまける。
「……貴様……」
「あっはっはっは!! こりゃあ傑作だ!! 水も滴るいいヴィクトールだ!!」
「……シャドウ。ウンディーネ辺りにでも変身して、目にもの見せてやれ」
「――♪」
「ちょっとーー!? 何かボクの頭上にだけ雨雲が迫ってきたんですけどーー!?」
「待って、こっちにも被害が及ぶんだけど!?」
「ぬおおおおおお!! アタシも混ざるぞおおおおお!!」
「お、おれも!」
「やめろクラリア! 濡れたまま走り回るな! 水滴が飛ぶ!!」
「ルシュドは火属性が影響してんのか、あまり濡れねーなー。ははっ!」
「……まじで何やってんの? 馬鹿みたいじゃない? いや馬鹿だったな」
謎に遊び出した彼らをよそに、ハンスは自身に風魔法を吹きかけて服を乾かす。
「ほう、貴様それは便利そうだな。俺にもやれ」
「は? 自分でやれよくそがっ」
「ぎゃはははは! ハンスオマエも逃がさねえからな!?」
「……」
「待ってえー!? 何か波がこっちに向かってきてるんだけどー!?」
「……エルフを馬鹿にしたこと、後悔させてやる」
「ずっどんばっちゃーん!!!」
「ひゃー!! 冷たーい!! 冷たいよー!!」
「なのでーす!!」
「……全く、馬鹿は一体どちらなのかしらねえ」
「あはは……」
誰も知らない島の海岸線に響く、少年少女の笑い声。
さながらそれは咲き乱れる花のよう。爽風行き交う夕暮れ空に、どこまでも飛び立っていった。
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自分の力を「呪い」だと思っていた時期もある。今はただ、使い道を見つけた、という感覚でいる。
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