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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦

第168話 生徒会と寮にて

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「ようし……今年もいっぱい集まったね!」
「そうですね」
「もっとリアクションしろよお前なあ!」



 ヴィクトール、リリアン、ロシェの三人は空き教室に移動し、他の生徒会役員と設営をしていた。

 何の設営かと言うと、新年度の恒例行事、新たな生徒会役員を募る面接である。



「ところでハンス君は大丈夫なの?」
「今回はリーン先生に頼んで拘束してもらいました。流石にここに奴を連れてくるわけにはいかない」
「そもそも生徒会じゃねーからなーあいつ。さて……」


 机を脇にどかし、中央に椅子を一席置く。その正面には長机二つに椅子を六つ置き、そこにヴィクトール達は座る。


「何で生徒会役員の面接ってこんなスタイルなんだろ。これじゃあ一年生は緊張しちゃうよ」
「それに耐えれる感じの、生徒を引っ張れる生徒を求めているんだろ。ほら、扉開くぞ~」
「……」


 メモ用紙を用意し、肩の力を抜いた姿勢で新入生の入室を待つ。その後、扉の外から他の役員の声が聞こえてきた。


「では今から面接を始めまーす。私達が入室の指示をするので、それに従ってくださいねー」





「……よし、一人目だね」
「ここはお前が行けよヴィクトール。二年生としての貫禄見せてやれ~?」
「……わかりました」


 手に拳を置き、尖らせた視線で正面を見据える。



「……失礼するだです……」


 少しした後、生徒が扉を開けて入り、椅子の隣に立った。



 非常に大柄な体格に浅黒い肌。濃い唇とまんまるでやや小さく青い瞳。髪は少々黒が混じった紺色で、前髪を高くして固めてある。学生服が浮いてしまうぐらいにはいかつい風貌だ。

 そして、そんな彼の肩に止まっているコマドリが彼のナイトメアなのだろう。淡い黄色と桃色の色合いで、優しそうな印象を受ける。



「あ、あの……よろしくお願いしますだです……」
「……椅子に座っていいぞ」
「はっ、はい……」


 音を立てないように慎重に座る姿には、風貌からはわからない彼の性格が透けて見える。


「まず名前と学年、それからナイトメア。可能であれば出身地も」
「あっ……ああっ。おらはマイクと言うだです。な、ナイトメアはシュガーという名前だです……出身地は、えっと、ジハール諸島のとうきび育ててる島で……」
「……学年は」
「ひぃっ! い、一年生だです!」
「……わかった」


 隣に座っているリリアンとロシェ、その他三人の生徒会役員の呆れたような視線も気にすることなく、ヴィクトールはマイクと問答を続ける。


「生徒会に入りたいと思った理由は?」
「は、はいだです。おら、南から上京してきて、にっちもさっちもいかなくて……そんなおらを、生徒会の人達は優しく導いてくれただです」
「……」

「だ、だからおらも、生徒会の人達みたいに、皆に優しくできるようになりたくて……」
「……成程」

「お、おら、生徒会に入ったら皆に慕われるように活動をしていくので、よろしくお願いしますだ!」
「……考えは十分に伝わったぞ。他に何か言いたいことは?」

「え、えっと! その、離島出身だからと言って、敬遠せずに接してほしいだ! ……あっ!」
「……もう帰っていいぞ」
「あっ、ああ……!?」


 マイクから冷や汗がどっと噴き出したのを見て、リリアンとロシェが慌てて立ち上がる。


「え、えっとね! もう訊きたいこと訊いたから帰っていいよってこと!」
「そうそう! 無礼働いたから追い払うわけじゃないから!」
「うっ、うう……」

「説明聞いてると思うけど、結果は寮のポストに届けられるから! 後は待ってて!」
「……はい。ありがとう、ございましただです……」


 それでもマイクは肩をがっくりと落として、部屋を出ていく。




「……ヴィクトールく~ん……」
「事前に指示された通りのことは訊きましたが」
「それはそうだけどよ……訊き方ってもんがあるだろうが……」
「……うん、ヴィクトール君はもう私達の面接見てて。そして勉強して」
「わかりました」


 ヴィクトールとリリアンが席を交代してから、再度面接が始まる。


「はい、次の方どうぞー」




「失礼しまーす」


 ガラガラと扉を開けて入ってきたのは、身長が高く引き締まった生徒。顔は縦に長く、シャープな印象を受ける。髪色は紺色で瞳は黄色だった。


「あっ……ユージオ君!?」
「おお、誰かと思えばリリアンか! なら都合がいいや!」



 急に緊張を解いたリリアンを見て、ヴィクトールはロシェに耳打ちをする。



「……同じクラスの方ですか」
「んあ、そーだなあ。いつも一緒に馬鹿やってるんだ。で、俺もリリアンも生徒会入ってるから、もう入っちまえって度々勧誘受けてたんだよ」
「成程」



 改めてユージオの方を見遣ると、彼は背筋を伸ばして座り直した所だった。



「……んー、そうだね! 一応形式的にもやっちゃおうか!」
「わかったよ。えっと、ユージオ・ナーディです。学年は三年生。ナイトメアはユカリン、見た目は褐色のコアラ。でも今は武術部の方を手伝わせているから連れてきていません」

「生徒会に入りたい理由は、前々から興味があったから。後はリリアンに誘われていたというのも大きいかな。二年の頃はどうしようか悩んでいたけど、新しい年度になって決心しました。よろしくお願いします!」


 要点を的確にまとめた説明、しゃきっと頭を下げるその姿は、流石三年生といった所か。


「わかりました~。他に何か言いたいことあります?」
「いえ、特には!」
「はい、わかりました。じゃあ結果は後で届きますので、待っていてくださいね~」
「ありがとうございます。それでは、失礼します!」


 最後まで折り目正しく挨拶をし、ユージオは部屋を出て行った。




「……まあ、生徒会役員からの紹介、それもリリアンからときた。殆ど加入は決まったようなものだな」
「そうですか」
「そーんなもんよ、所詮学生のやることなんて」


 椅子をぶらぶら揺らしながら、壁にもたれかかっていたロシェが起き上がって声をかける。


「さあ、まだまだ人数は残ってるぞ。この調子でどんどん捌いちまおう」
「はいはーい」
「ういーす」
「了解です」


 それからも特に滞りなく、面接を終えることができたのだった。





 それから時は過ぎて、こちらは塔へと戻る道。集会に出ていた他の生徒達も、ぼちぼち戻り出す頃合いである。



「うっほほーい!! 帰宅帰宅ー!! 飯食って風呂入って寝るぞー!!」
「――」
「え!? もう宿題は出てるって!? 何でオマエまでそういうこと言うのかなあサイリ!?」



 大股でスキップをしながら、薔薇の塔まで戻っていくイザーク。

 最後の曲がり角に差しかかったその時――



「ぬおおおおーーーーっ!?」
「ぎゃおーーーっ!?」



 衝突し合って、火花が散った。




「……」
「――」

「いでででで……」
「ちょっとアンタ! 周り見ないで走るから、ぶつかっちゃったでしょーが!!」


「んん……? ……ああっ!? おい、大丈夫ですかぁ!?」



 ひっくり返るイザークの下に、ぶつかった生徒が駆け寄ってくる。



「デネボラァ!! オマエはオレのナイトメアだろぉ!? 魔法でちゃっちゃと何とかしてくれよぉ!!」
「発現して一ヶ月程度のヒヨッコに何を求めてるんだい!! 無理だよ!!」


「……だったら保健室に連れていくとかさあ……」
「「んひぃ!! 起きた!!」」
「……」



 イザークはのっそりと起き上がり、目の前の二人をじろりと見上げる。


 ぶつかった生徒は、ニメートル近くの身長の男子生徒。真っ赤な髪をオールバックにして逆立て、そのシルエットは燃え盛る炎を彷彿とさせる。ワインレッドの瞳が鮮やかだ。そして彼と話していたナイトメアは、全身が真っ黒な雌鳥めんどりだった。



「一年生? もしかして」
「ははははい!!! 新一年生のアデル・スヴェリンです!!! 相棒はこちらの雌鶏のデネボラです!!! どどどどうかお手柔らかにいいいい!!!」
「いや、ボクそんなタチじゃねーし……」


 身体をゆっくりと起き上がらせて、頭を軽く振る。


「……でっけえな、オマエ。自己紹介がなかったら誰も一年だなんて思わねえよ」
「お褒めに預かりましてご光栄の極みにございますぜ!!!」
「……」


 イザークとアデルが何とも言えない時間を過ごしていると――



「おーっすイザーク! そんなとこで何やってんだー!?」


 声を張り上げてやってくる、狼が一匹。



「……あー、クラリアかー。ばんはばんは」

「あおっ! 誰かと思えばメーチェじゃねーか! 奇遇だな!」
「わっ、アデルくぅ~ん。こんな所で出会うなんてメーチェ、幸せっ♪」


 クラリアの後ろをぴったりとついていた女子生徒が、アデルに呼びかけられて姿を現す。


 水色とピンク色の兎耳が生えた生徒で、髪色もやや暗めの水色。瞳は黄色であったため全体的にパステルカラーだ。そんな彼女の右手には手鏡が握られている。


「……何だコイツ、知り合いか?」
「おうよ! さっき武術部の集会で出会ったんだ!」
「メルセデス・マイトと申しますぅ~。クラリア先輩のロズウェリ家にはぁ、私の実家がお世話になっているのでぇ、挨拶したんですぅ♪」

「ついでに後輩という絶好のポジションを活かしてほだしておいた」
「……?」


 イザークが声の主を確認する前に、メルセデスは持っていた手鏡を地面に叩き付け、ぐりぐりと踏み付けていた。


「あっはっは~! ところでアデル君はここで何やってたの?」
「あっ!!! それがさ、今ここにおられますえーっと……お名前なんでしたっけ!?」
「……イザークだよ。んでこっちがサイリ」
「ははーっ! かしこまりました! んでこちらにおられますイザーク先輩と正面衝突してしまい対応を考えていた所でございますぜ!!」

「……いやもう、立てるんでいいっす。何もしなくて結構だよ」
「うほっ!!!! 感服の極み!!!!」


 イザークは立ち上がりながら、手で服に着いた砂を払う。隣ではアデルがびしっとお辞儀をし、頭頂部がサイリに直撃していた。


「あれ? そういえば、アデル君も武術部って言ってたよね? さっきいなかったよね、どうして?」
「そうなのか? うーん……そうかもしれねえな。何かあったのか?」
「あーそれは……集会の時間に、丁度親父に呼ばれちまって。断るわけにもいかねーから、それで」
「ほーん、オマエの親父は呼び出しを断れない程には有名人なのかあ」



 するとそこに鐘の音が響く。やや大きく聞こえてくるので、薔薇の塔から聞こえてくるのだろう。



「……ん、もうこんな時間かあ」
「あ゛ーっ!?」
「何だよデネボラ!? 鶏が鳴くような声出しやがって!?」
「うるさいねあたしは鶏だよ!! というかアデル、お前別の友達と、薔薇の塔で約束してたんじゃないのかい!! 午後六時に待ち合わせだーとかなんとかって!!」
「むぎゃーっ!!! 忘れてたァーーーーッ!!!」

「……だったら一緒に行こうぜ。ボクも行き先同じだしな」
「ははーっ!!! 先輩あざーす!!!」
「……うん。まあ、こんなこと言えるタチじゃねえけど、わかんないこととかあったら遠慮なく聞けよ?」
「うっす! あざます!!」


 イザークとアデルは少し歩き出してから、思い出したように後ろを振り向く。


「じゃあなクラリア! また明日!」
「おう! またなイザーク!」

「アデル君、じゃあね~♪」
「まったなーメーチェー!!」


 それぞれ挨拶を交わしてから、塔への帰路を急ぐ。




「……」
「何用かな狼少女クラリスよ。私の身体、特に鏡の部分に何か付いているとでも?」

「……マレウスと言ったか。その……君はどういう性格なのかと思ってな」
「どうもこうもない。私は真実を映す鏡、それだけである」
「そ、そうか……真実か……うん、私の主君がこれからお世話になるよ」
「こちらこそよろしく。まあ、我が主君に利用されないように精々気を付けたまえ」
「……」



 クラリスはメルセデスの持っている手鏡を見つめ、そして渋い顔をしながら、クラリアの後を追っていくのだった。
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