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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第175話 好敵手
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「……ふっ」
「おっ、お前今笑ったな。久々に見た」
「……どうにもここ最近、また笑えるようになったみたいだ」
そう言ってカルは窓から離れ、ヒルメも彼の隣まで歩き出す。
「へえ、それは何より。あれか? リーシャからチョコレートもらったから?」
「何故君がそれを……ああ、そういや君の差し金だったな」
「アンタに渡したいーって相談されたら、そりゃあ断るわけにはいかないっしょ。愛と感謝の祭日にオチカヅキーで、これにはシュセ神も布団の中からにっこりスマイル」
「……そうだな。確かに君の言う通りだ」
そう言って二人が向かった先は、体育館の吹き抜けだった。
後をついていたヒルメは眉を釣り上げる。
「……おいおい、ウチの言う通りだとか言って、今日もここからなのかい」
「ああ」
「なぁんだよ、折角ウチがキュウピッドになってやったっていうのに。あまり関係進んでないじゃねーか」
「俺と彼女はそのような……」
その時、カルの口が止まる。
「……」
「……どした?」
「……あの生徒、中々やるな」
「んー……? 今マットで練習している子か?」
「そうだ。身体がしなやかでしかも流れるように動かせている……」
「……メリーさん、視力強化頼むわ。ウチも見てみる」
「バウッ!」
「……ふんっ」
バトンを上に投げ、地面を蹴る。
「はぁっ!」
前方に進んで側転を二回、右手でバトンを取ってから、更に加えて身体を前方に向けながら、空中捻り回転。
「……うっし。お嬢さん、中々いい調子でっせ」
「ありがとうございます、シンシン」
バトンを手渡され、ミーナはシンシンの頭をそっと撫でた。
「……」
生徒達が各々の練習を行っている中で、ネヴィルは呆然としてそれらに目を向けていた。
「おいおいどうした、マネージャー君よ。仕事してもらわないと困るよ」
「……へあっ。申し訳ありません」
「起きてたか、よろしい。あまりにもアグレッシブで衝撃受けたか?」
「受けてます。正直。女性の方があそこまで身体を曲げて、素早く身体を動かすなんて……間近で見たら、やっぱり衝撃ですよ」
「優雅極振りなんて、そんなの曲芸体操じゃないからね。ルーツは知ってるでしょ?」
「当然です。初代女王イズライルが、曲芸で見世物にされていた時の演技が起源。苦汁を飲んでいたウェンディゴ族の歴史そのもの、ですよね」
「やっぱターレロさんの息子さんだ。わかってんじゃん!」
先輩部員は持っていた水筒を、ネヴィルの頭にぐりぐり押し付ける。
「いだだっ! いだいですよぉぉぉ!!」
「ただ単に女子生徒の尻追っかけてきただけじゃねえってことだ! ねえリーシャ!」
「……リーシャ? 大丈夫?」
「えっ、ああ……うん」
リーシャは軽く頭を振り、正面に向き直る。
「……私、行ってくる」
「ああ、リーシャさん! これ僕が作ったドリンクなんですが、飲んでくださいませんか!?」
恭しくボトルを差し出すネヴィルの隣を、リーシャは無視して歩いていく。
「……」
「固まるなよマネージャー君。それ私が貰うから。にしても、どうしたのかなリーシャ……」
「……」
ちらちらとミーナの方を見ながら、リーシャはマットの準備をする。
「……へいき、なのです……?」
「……わからない」
「……」
「たあっ」
バトンを上に飛ばして、
前方に向かって側転二回――
「――あうっ」
「……! 大丈夫なのです?」
「痛たぁ……」
ちょうど側転から上がった脳天に、バトンがこつんと落ちてきた。
「……ふむ」
「全体的に統一感がないですね」
リーシャが練習している隣で水を飲んでいたミーナが、水筒を置いてすっと歩き出してきた。
「……統一感」
「ええ。ポイントは二つで、まずバトンの投げた方向が曲がっていました。そんなでは取れるわけがありません。もう一つ、側転の方向も曲がっていました。これでは観客は失望するでしょうし、あと怪我や事故に繋がりますよ」
「……よく見てるんだね」
「私と貴女では積んできた差がありますので。では失礼」
「……」
ミーナが次の練習を行う姿を見て、リーシャは指を噛む。
「……事実、だけどさ」
「……何か、ムッと来るなあ……」
言葉にならない何かを抱えながら、バトンを上に向かって飛ばす。そのいずれもが真っ直ぐ上には飛んでいかなかった。
「……うーむ。ライバル出現って言ったところかのう」
「バウッ!」
視力を強化していたメリーが出てきた所で、ヒルメはカルの顔を窺う。
彼もずっと感心しきりで彼女の様子を見ていたようだ。
「どう見ますよカル先生。リーシャン、あの子に追いつけるかなあ」
「それは練習次第って言った所だな」
「じゃあどんな練習をすればいいと思う?」
「先ずは基礎練習は欠かせないだろう。何度も同じ動きを繰り返して、身体に染み込ませる。それを組み合わせて大技に繋げばいい」
「じゃあそれを誰があの子に教える?」
「……」
そこまで言われて、カルはヒルメの顔色に気付いた。
普段彼女が見せないような、憮然とした目付き。
それは聳え立つ壁、あるいは――雷を落とすか悩んでいる黒雲。
「『俺が直接指導してやる』」
「……ヒルメ」
「『当たり前だろう、俺は君の』「やめて、くれないか」
「君にはやはり才能がある。俺の見立てには「やめてくれ」
「『そうだな、俺も一緒に――』「やめろ!!!」
静まり返った講堂に、悲壮が混じった声が響く。
下で活動している生徒達は吹き抜けを見上げるが、声の主をしっかりと捉えることはできなかった。
「……アンタ、やっぱり過去から逃げているだけじゃん」
「……」
「リーシャとあの子を照らし合わせてしまって……そうして思い起こされる自分の罪と、真正面から向かい合うことを怖がっている」
「……」
「――ウチはさ、アンタに前に進んでほしいんだよ。だって友達だから」
「壁ばっかり恐れていても、何も変わらないんだよ――」
それだけ言い残すと、ヒルメは吹き抜けを出ていった。
後にはカルが、悩み苦しむ彼だけが残される。
「おっ、お前今笑ったな。久々に見た」
「……どうにもここ最近、また笑えるようになったみたいだ」
そう言ってカルは窓から離れ、ヒルメも彼の隣まで歩き出す。
「へえ、それは何より。あれか? リーシャからチョコレートもらったから?」
「何故君がそれを……ああ、そういや君の差し金だったな」
「アンタに渡したいーって相談されたら、そりゃあ断るわけにはいかないっしょ。愛と感謝の祭日にオチカヅキーで、これにはシュセ神も布団の中からにっこりスマイル」
「……そうだな。確かに君の言う通りだ」
そう言って二人が向かった先は、体育館の吹き抜けだった。
後をついていたヒルメは眉を釣り上げる。
「……おいおい、ウチの言う通りだとか言って、今日もここからなのかい」
「ああ」
「なぁんだよ、折角ウチがキュウピッドになってやったっていうのに。あまり関係進んでないじゃねーか」
「俺と彼女はそのような……」
その時、カルの口が止まる。
「……」
「……どした?」
「……あの生徒、中々やるな」
「んー……? 今マットで練習している子か?」
「そうだ。身体がしなやかでしかも流れるように動かせている……」
「……メリーさん、視力強化頼むわ。ウチも見てみる」
「バウッ!」
「……ふんっ」
バトンを上に投げ、地面を蹴る。
「はぁっ!」
前方に進んで側転を二回、右手でバトンを取ってから、更に加えて身体を前方に向けながら、空中捻り回転。
「……うっし。お嬢さん、中々いい調子でっせ」
「ありがとうございます、シンシン」
バトンを手渡され、ミーナはシンシンの頭をそっと撫でた。
「……」
生徒達が各々の練習を行っている中で、ネヴィルは呆然としてそれらに目を向けていた。
「おいおいどうした、マネージャー君よ。仕事してもらわないと困るよ」
「……へあっ。申し訳ありません」
「起きてたか、よろしい。あまりにもアグレッシブで衝撃受けたか?」
「受けてます。正直。女性の方があそこまで身体を曲げて、素早く身体を動かすなんて……間近で見たら、やっぱり衝撃ですよ」
「優雅極振りなんて、そんなの曲芸体操じゃないからね。ルーツは知ってるでしょ?」
「当然です。初代女王イズライルが、曲芸で見世物にされていた時の演技が起源。苦汁を飲んでいたウェンディゴ族の歴史そのもの、ですよね」
「やっぱターレロさんの息子さんだ。わかってんじゃん!」
先輩部員は持っていた水筒を、ネヴィルの頭にぐりぐり押し付ける。
「いだだっ! いだいですよぉぉぉ!!」
「ただ単に女子生徒の尻追っかけてきただけじゃねえってことだ! ねえリーシャ!」
「……リーシャ? 大丈夫?」
「えっ、ああ……うん」
リーシャは軽く頭を振り、正面に向き直る。
「……私、行ってくる」
「ああ、リーシャさん! これ僕が作ったドリンクなんですが、飲んでくださいませんか!?」
恭しくボトルを差し出すネヴィルの隣を、リーシャは無視して歩いていく。
「……」
「固まるなよマネージャー君。それ私が貰うから。にしても、どうしたのかなリーシャ……」
「……」
ちらちらとミーナの方を見ながら、リーシャはマットの準備をする。
「……へいき、なのです……?」
「……わからない」
「……」
「たあっ」
バトンを上に飛ばして、
前方に向かって側転二回――
「――あうっ」
「……! 大丈夫なのです?」
「痛たぁ……」
ちょうど側転から上がった脳天に、バトンがこつんと落ちてきた。
「……ふむ」
「全体的に統一感がないですね」
リーシャが練習している隣で水を飲んでいたミーナが、水筒を置いてすっと歩き出してきた。
「……統一感」
「ええ。ポイントは二つで、まずバトンの投げた方向が曲がっていました。そんなでは取れるわけがありません。もう一つ、側転の方向も曲がっていました。これでは観客は失望するでしょうし、あと怪我や事故に繋がりますよ」
「……よく見てるんだね」
「私と貴女では積んできた差がありますので。では失礼」
「……」
ミーナが次の練習を行う姿を見て、リーシャは指を噛む。
「……事実、だけどさ」
「……何か、ムッと来るなあ……」
言葉にならない何かを抱えながら、バトンを上に向かって飛ばす。そのいずれもが真っ直ぐ上には飛んでいかなかった。
「……うーむ。ライバル出現って言ったところかのう」
「バウッ!」
視力を強化していたメリーが出てきた所で、ヒルメはカルの顔を窺う。
彼もずっと感心しきりで彼女の様子を見ていたようだ。
「どう見ますよカル先生。リーシャン、あの子に追いつけるかなあ」
「それは練習次第って言った所だな」
「じゃあどんな練習をすればいいと思う?」
「先ずは基礎練習は欠かせないだろう。何度も同じ動きを繰り返して、身体に染み込ませる。それを組み合わせて大技に繋げばいい」
「じゃあそれを誰があの子に教える?」
「……」
そこまで言われて、カルはヒルメの顔色に気付いた。
普段彼女が見せないような、憮然とした目付き。
それは聳え立つ壁、あるいは――雷を落とすか悩んでいる黒雲。
「『俺が直接指導してやる』」
「……ヒルメ」
「『当たり前だろう、俺は君の』「やめて、くれないか」
「君にはやはり才能がある。俺の見立てには「やめてくれ」
「『そうだな、俺も一緒に――』「やめろ!!!」
静まり返った講堂に、悲壮が混じった声が響く。
下で活動している生徒達は吹き抜けを見上げるが、声の主をしっかりと捉えることはできなかった。
「……アンタ、やっぱり過去から逃げているだけじゃん」
「……」
「リーシャとあの子を照らし合わせてしまって……そうして思い起こされる自分の罪と、真正面から向かい合うことを怖がっている」
「……」
「――ウチはさ、アンタに前に進んでほしいんだよ。だって友達だから」
「壁ばっかり恐れていても、何も変わらないんだよ――」
それだけ言い残すと、ヒルメは吹き抜けを出ていった。
後にはカルが、悩み苦しむ彼だけが残される。
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