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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第176話 新年度生徒会
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「というわけで『お偉い様』の化身のお帰りです」
「お偉い様じゃねえ!!! パンジャンドラムだあああああーーーッ!!! ウッ!!!」
「マイク君、力は強い方ですか? 気絶しているうちに彼を部屋の隅の方に放り投げてください」
「えっ……あの……」
マイクが扉の奥とノーラを交互に見ていると、部屋の隅から一人顔を出す。
「……お戻りっすか」
「これはクオーク君、丁度いい所に。パーシーをガラクタの山に向かって放り投げてください」
「あいよ。んじゃあ貰うよ」
「えっ………えっ……」
臆することなく引き剥がし、投げ飛ばしたクオークを見て、マイクはまた口を開ける。
「……いいんだですか……?」
「まあ君はまだ一年生ですし、遠慮してしまうのもわかります」
「でも活動してくうちに慣れっから。この俺のようにな~」
「確かにクオーク君はここ数年で目付きが悪くなりましたね」
「五月蠅いですねぇ。っと……」
<お疲れ様ですわー!!
「この気品あるハイトーンボイスはアザーリアですか。相変わらず元気ですねえ」
「……そうだった。外の地獄を潜り抜けてた所申し訳ないんですけど、現在中も相当の地獄っす」
「い、一体何が……?」
気の焦りからか、マイクは二人よりも先に生徒会室に入る。
「まあマイク君! ノーラ先輩もお帰りなさいませ~!」
「あっ……ああ、アザーリア先輩……」
「……」
彼を出迎えたのは、大変上機嫌のアザーリアと椅子に座ってやさぐれた目をしたヴィクトールだった。
「今日はお菓子を買ってきましたの! 紅茶と一緒に飲むと美味しいビターチョコレートですわ! さあお召し上がりになって!」
「あっ、ありがとうございますだ!」
「うふふ、さあ立ちながらというのもあれですし、お座りになって?」
「は、はいだです!」
マイクはヴィクトールから見て左前の椅子に座る。
「……よくも帰ってきたものだな」
「どわっ! ヴィクトール先輩!」
「……何だその反応は」
「うふふ、そんな後ろから怖い声で話しかけられたら、誰でも驚きますわ。さあ、紅茶もどうぞ」
「あ、ありがとうございますだ」
目の前に差し出された紅茶をごくごく飲み、箱からビターチョコレートを取り出しばくばく食べるマイク。
「美味しい……! アザーリア先輩、ご馳走になりますだ!」
「まあまあ、美味しいって言ってもらえてわたくしも嬉しいですわ! それでですね、少しばかしわたくしの話を聞いてもらいたいのですけれど……」
「はい! 先輩のお話なら何でも聞きますだ!」
「本当ですの!? それではですね、演劇部の新入部員のことなのですけれど……!」
嬉々として話し出すアザーリアと、こちらもまた嬉々として聞く体勢に入るマイク。
そんな二人をヴィクトールが眺めていると、クオークとノーラが耳打ちしてくる。
「健気ですねえ彼。本当に人の役に立ちたいというか、言われたことは断れないタイプですかね」
「……」
「でもまあ助かったぜ。アザーリアの熱弁、今日だけで何人も巻き込まれてるからな~。かく言う俺もさっき巻き込まれて大変だった」
「……」
「……ヴィッキー君。ヴィッキー君?」
「……何ですか」
「お前なあ、そんなにあのエルフのことが心配か?」
「騒ぎを起こされたらこちらに被害が及ぶのです。だから――」
「いいじゃねえか別によぉ。いくら寛雅たる女神の血族で要警戒対象っつたって、たまには監視の目ぐらい解いてやってもいいだろ。俺だったらやってらんないね~」
「……」
『おや、君はマイク君じゃないか! ヴィクトールから話は聞いているよ、こいつに面接されたんだってね!』
『あれ? ということはヴィクトールが手をかけた後輩ってことだよね? ヴィクトール、君は後輩に何も教えようとせずぼくばっかりに気をかけるつもりかい? え~そんなわけないよね~、セ、ン、パ、イっ!』
『じゃっ、邪魔しちゃ悪いからぼくは帰るとするよ! 先輩後輩水入らずで楽しんでねっ♪ 』
(……二度と同じ轍を踏まないように対策を興じなければ……)
「な、何だかヴィクトール先輩の目付きが怖いだです……」
「彼はいつもあのような目をしておりますの。さあ、お話の続きをしましょう?」
一方その頃城下町では。
「あぐぅ……っ」
「ははっ、いい気味だ。ぼくに道を譲らなかったからこうなったんだぞ?」
「で、でもここはっ」
「先に並んでいたって? エルフには道を譲らないといけねえんだよ」
「そんな……」
「ああ? また何か文句あんの? なあ?」
「ぐああああっ……!」
ヴィクトールの心配は悲しくも的中してしまっていた。ハンスは城下町にて我が物顔で振る舞っている。
「……」
二階の窓から、店の前の喧騒をただ眺めていた女性が一人。
「師匠、頼まれた布を持ってきました」
「……ん、ありがと。そこに置いておいてよ」
「わかりました」
「……」
グリモワールは再度窓から下を覗き、溜息をつく。
「何かありましたか、師匠」
「いや……下でちょっとした騒ぎがあってさ。並び順がどうのこうのって、こっちからしてみれば迷惑なんだけど……」
「……」
「……高潔なるエルフ……」
「……聞こえたの?」
「何せこの長耳なもので」
「ああ、なるほどね……」
「……少し外に出てもいいですか?」
「何すんの?」
「まあ、見ていてくださいって」
「ハッハッハッハッハァ……! 楽しい! 楽しいなあ!! あのクソ眼鏡がベッタベタ纏わりついててできなかったけど、これは最高だぁ……!」
ハンスは倒れて肩で息をする人間の少年を、何度も踏み付け続けている。
空いた手では風を操り壁を作っているらしく、野次馬は一定の距離を保ってその光景を見つめるしかできなかった。
「……れ……」
「ああん?」
「も、もう……ゆ、る、し……」
「誰が許すか!!!」
心臓がある辺りを目掛けて、渾身の力を込めて踏み付ける。
「ハハッ……いい機会だ、本当に!! ここんとこ束縛されてずーっとイライラしてたんだ。だからぼくは許さない。絶対に、ぼくの気が――」
「す、む……まで……」
踏み付けにどんどん勢いがなくなる。足から力が抜けていき、そこから上に向かって力が抜けていく。
(……なん、だ、この……匂いは……?)
地面にへたれ込むしかなくなったハンスは、後ろを振り向く。
「どうやら効果は抜群みたいね☆」
「ええ、感謝しますよカナ」
一軒の店から迫ってくるエルフの少女とノーム。エルフはピンクのベレー帽を被り、フリルとレースで飾った白と黒のエプロンドレスを着ていた。一方のノームは、髪も髭も手入れをしていないのに、服装だけが女性らしいネグリジェを着ている。
悪寒が走って、背中にこびりつく。
「ご機嫌よう、慇懃なエルフ様。大層人を見下して、さぞかし気分がよろしいようで」
桃色の瞳が彼を見下ろす。その目付きは凛として、さながら冬の朝に降りる霜のようで。
「……何だよ、てめえ……」
「ぼくですか? ぼくはセシルと申します。ナイトメアはこっちのノーム、カナという名前です。グレイスウィル魔法学園に入学した一年生で……」
「違えよ……何で、何で……」
「ああ、この行いの理由ですか? ぼくはこの辺りに住んでいるんですけど、貴方の行いが目に付いたので注意しに来たんですよ」
「……!!」
ハンスがセシルに向かって手を伸ばした瞬間、辺りを満たしていた匂いが更に強くなる。
「これ、カナに頼んで魔術をやってもらってるんですよ。対エルフ特効です。もっと言うなら貴方特効です」
「……く、そ……」
「糞ですか。高潔なるエルフがそんな下品な言葉を使うんですね?」
「……ゆ、る、さ……」
言葉の端を言い終える前に、ハンスは地面に横たわってしまった。
「……ふう。これで万事解決ですね」
「あら、解決じゃないわよ☆ この傷だらけの男の子はどうするのかしら☆」
「うーん……とりあえず二階に連れ込みましょうか、このエルフ諸共。師匠とか職人の方に治療をしてもらってから、然るべき場所に帰ってもらいましょう」
「わかったわ☆」
カナは両手を上に挙げると、倒れた二人を易々と浮き上がらせる。そのままグリモワールの店に向かって歩き出した。
「ふふっ、思っていた以上に野次馬が散ってくれましたね」
「セシルちゃんのことなんかどうでもよくなる魔法もかけておいたの☆ 感謝して☆」
「ええ、ありがとうございます。帰ったらエルフィンハーブティーでも淹れましょうね」
「お偉い様じゃねえ!!! パンジャンドラムだあああああーーーッ!!! ウッ!!!」
「マイク君、力は強い方ですか? 気絶しているうちに彼を部屋の隅の方に放り投げてください」
「えっ……あの……」
マイクが扉の奥とノーラを交互に見ていると、部屋の隅から一人顔を出す。
「……お戻りっすか」
「これはクオーク君、丁度いい所に。パーシーをガラクタの山に向かって放り投げてください」
「あいよ。んじゃあ貰うよ」
「えっ………えっ……」
臆することなく引き剥がし、投げ飛ばしたクオークを見て、マイクはまた口を開ける。
「……いいんだですか……?」
「まあ君はまだ一年生ですし、遠慮してしまうのもわかります」
「でも活動してくうちに慣れっから。この俺のようにな~」
「確かにクオーク君はここ数年で目付きが悪くなりましたね」
「五月蠅いですねぇ。っと……」
<お疲れ様ですわー!!
「この気品あるハイトーンボイスはアザーリアですか。相変わらず元気ですねえ」
「……そうだった。外の地獄を潜り抜けてた所申し訳ないんですけど、現在中も相当の地獄っす」
「い、一体何が……?」
気の焦りからか、マイクは二人よりも先に生徒会室に入る。
「まあマイク君! ノーラ先輩もお帰りなさいませ~!」
「あっ……ああ、アザーリア先輩……」
「……」
彼を出迎えたのは、大変上機嫌のアザーリアと椅子に座ってやさぐれた目をしたヴィクトールだった。
「今日はお菓子を買ってきましたの! 紅茶と一緒に飲むと美味しいビターチョコレートですわ! さあお召し上がりになって!」
「あっ、ありがとうございますだ!」
「うふふ、さあ立ちながらというのもあれですし、お座りになって?」
「は、はいだです!」
マイクはヴィクトールから見て左前の椅子に座る。
「……よくも帰ってきたものだな」
「どわっ! ヴィクトール先輩!」
「……何だその反応は」
「うふふ、そんな後ろから怖い声で話しかけられたら、誰でも驚きますわ。さあ、紅茶もどうぞ」
「あ、ありがとうございますだ」
目の前に差し出された紅茶をごくごく飲み、箱からビターチョコレートを取り出しばくばく食べるマイク。
「美味しい……! アザーリア先輩、ご馳走になりますだ!」
「まあまあ、美味しいって言ってもらえてわたくしも嬉しいですわ! それでですね、少しばかしわたくしの話を聞いてもらいたいのですけれど……」
「はい! 先輩のお話なら何でも聞きますだ!」
「本当ですの!? それではですね、演劇部の新入部員のことなのですけれど……!」
嬉々として話し出すアザーリアと、こちらもまた嬉々として聞く体勢に入るマイク。
そんな二人をヴィクトールが眺めていると、クオークとノーラが耳打ちしてくる。
「健気ですねえ彼。本当に人の役に立ちたいというか、言われたことは断れないタイプですかね」
「……」
「でもまあ助かったぜ。アザーリアの熱弁、今日だけで何人も巻き込まれてるからな~。かく言う俺もさっき巻き込まれて大変だった」
「……」
「……ヴィッキー君。ヴィッキー君?」
「……何ですか」
「お前なあ、そんなにあのエルフのことが心配か?」
「騒ぎを起こされたらこちらに被害が及ぶのです。だから――」
「いいじゃねえか別によぉ。いくら寛雅たる女神の血族で要警戒対象っつたって、たまには監視の目ぐらい解いてやってもいいだろ。俺だったらやってらんないね~」
「……」
『おや、君はマイク君じゃないか! ヴィクトールから話は聞いているよ、こいつに面接されたんだってね!』
『あれ? ということはヴィクトールが手をかけた後輩ってことだよね? ヴィクトール、君は後輩に何も教えようとせずぼくばっかりに気をかけるつもりかい? え~そんなわけないよね~、セ、ン、パ、イっ!』
『じゃっ、邪魔しちゃ悪いからぼくは帰るとするよ! 先輩後輩水入らずで楽しんでねっ♪ 』
(……二度と同じ轍を踏まないように対策を興じなければ……)
「な、何だかヴィクトール先輩の目付きが怖いだです……」
「彼はいつもあのような目をしておりますの。さあ、お話の続きをしましょう?」
一方その頃城下町では。
「あぐぅ……っ」
「ははっ、いい気味だ。ぼくに道を譲らなかったからこうなったんだぞ?」
「で、でもここはっ」
「先に並んでいたって? エルフには道を譲らないといけねえんだよ」
「そんな……」
「ああ? また何か文句あんの? なあ?」
「ぐああああっ……!」
ヴィクトールの心配は悲しくも的中してしまっていた。ハンスは城下町にて我が物顔で振る舞っている。
「……」
二階の窓から、店の前の喧騒をただ眺めていた女性が一人。
「師匠、頼まれた布を持ってきました」
「……ん、ありがと。そこに置いておいてよ」
「わかりました」
「……」
グリモワールは再度窓から下を覗き、溜息をつく。
「何かありましたか、師匠」
「いや……下でちょっとした騒ぎがあってさ。並び順がどうのこうのって、こっちからしてみれば迷惑なんだけど……」
「……」
「……高潔なるエルフ……」
「……聞こえたの?」
「何せこの長耳なもので」
「ああ、なるほどね……」
「……少し外に出てもいいですか?」
「何すんの?」
「まあ、見ていてくださいって」
「ハッハッハッハッハァ……! 楽しい! 楽しいなあ!! あのクソ眼鏡がベッタベタ纏わりついててできなかったけど、これは最高だぁ……!」
ハンスは倒れて肩で息をする人間の少年を、何度も踏み付け続けている。
空いた手では風を操り壁を作っているらしく、野次馬は一定の距離を保ってその光景を見つめるしかできなかった。
「……れ……」
「ああん?」
「も、もう……ゆ、る、し……」
「誰が許すか!!!」
心臓がある辺りを目掛けて、渾身の力を込めて踏み付ける。
「ハハッ……いい機会だ、本当に!! ここんとこ束縛されてずーっとイライラしてたんだ。だからぼくは許さない。絶対に、ぼくの気が――」
「す、む……まで……」
踏み付けにどんどん勢いがなくなる。足から力が抜けていき、そこから上に向かって力が抜けていく。
(……なん、だ、この……匂いは……?)
地面にへたれ込むしかなくなったハンスは、後ろを振り向く。
「どうやら効果は抜群みたいね☆」
「ええ、感謝しますよカナ」
一軒の店から迫ってくるエルフの少女とノーム。エルフはピンクのベレー帽を被り、フリルとレースで飾った白と黒のエプロンドレスを着ていた。一方のノームは、髪も髭も手入れをしていないのに、服装だけが女性らしいネグリジェを着ている。
悪寒が走って、背中にこびりつく。
「ご機嫌よう、慇懃なエルフ様。大層人を見下して、さぞかし気分がよろしいようで」
桃色の瞳が彼を見下ろす。その目付きは凛として、さながら冬の朝に降りる霜のようで。
「……何だよ、てめえ……」
「ぼくですか? ぼくはセシルと申します。ナイトメアはこっちのノーム、カナという名前です。グレイスウィル魔法学園に入学した一年生で……」
「違えよ……何で、何で……」
「ああ、この行いの理由ですか? ぼくはこの辺りに住んでいるんですけど、貴方の行いが目に付いたので注意しに来たんですよ」
「……!!」
ハンスがセシルに向かって手を伸ばした瞬間、辺りを満たしていた匂いが更に強くなる。
「これ、カナに頼んで魔術をやってもらってるんですよ。対エルフ特効です。もっと言うなら貴方特効です」
「……く、そ……」
「糞ですか。高潔なるエルフがそんな下品な言葉を使うんですね?」
「……ゆ、る、さ……」
言葉の端を言い終える前に、ハンスは地面に横たわってしまった。
「……ふう。これで万事解決ですね」
「あら、解決じゃないわよ☆ この傷だらけの男の子はどうするのかしら☆」
「うーん……とりあえず二階に連れ込みましょうか、このエルフ諸共。師匠とか職人の方に治療をしてもらってから、然るべき場所に帰ってもらいましょう」
「わかったわ☆」
カナは両手を上に挙げると、倒れた二人を易々と浮き上がらせる。そのままグリモワールの店に向かって歩き出した。
「ふふっ、思っていた以上に野次馬が散ってくれましたね」
「セシルちゃんのことなんかどうでもよくなる魔法もかけておいたの☆ 感謝して☆」
「ええ、ありがとうございます。帰ったらエルフィンハーブティーでも淹れましょうね」
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