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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第184話 対抗戦説明
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五月に入ったばかりのある日、二年一組のナイトメア学の授業。ハインリヒからは今回の授業は二十五分で行うと告げられる。
「先ず最初の二十五分では、六月から始まる魔法学園対抗戦の説明を行います。私が担任をしているクラスなので、ついでというわけです。ナイトメア学の授業は残りの二十五分で行います」
遂に出てきた対抗戦の話に、授業時間の短縮で浮足立っていた生徒達も背筋を直す。
「とうとう来やがったな……この時期が」
「憂鬱なのか?」
「強制参加なんだよ、二年生以上は。一年も実質そうだけど。取り敢えず説明聞いておけ?」
アーサーが黒板を見ると、ハインリヒは杖で黒板に魔力を流している所だった。隣に座っているエリスとカタリナも、じっと話を聞いている。
「皆さんは初めての対抗戦なので、一番大切な所を最初に」
「新時代になってからというものの、グレイスウィルは優秀な人材を育成することを目標に様々な取り組みを行ってきました。国直属の騎士や魔術師達の支援、生徒達の社会貢献の奨励と言った具合にです。その一環で、他国にある魔法学園との交流も積極的に行ってきました」
口を開け咆哮している獣、火水土風のアラベスクに囲まれたクリスタル、月桂樹の葉に囲まれた剣と杖、金貨と算盤が乗せられた天秤、氷塊に座り竪琴を奏でる女性、交差するペンと本。
最後に赤い薔薇が、六つのシンボルが囲う中央に出現する。
「パルズミール、エレナージュ、ウィーエル、リネス、イズエルト、ケルヴィン、そしてグレイスウィル。世界に存在する七つの魔法学園の実力を確かめ合い、親交を深める交流戦。それがこの対抗戦の意義です」
「対抗戦の方式は陣取り合戦ですねぇ。七つある魔法学園から三つを選出し、その三つで領土を取り合っていきますぅ。最終的に一番領土が広かった魔法学園が勝ちというわけですねぇ」
ミーガンが指を鳴らすと、二年二組の教室には二つの魔法具が現れる。
片方は彼のすぐ隣の床に現れた、長い筒状の魔法具。中には粘性のある液体が入れられており、光を放っている。
もう片方は教卓の上に乗せられた、うっすらと光を放つ玉。ミーガンはそれを手に取り、顔の右に持ってくる。
「この二つは領土を指定するために用いられる、対抗戦の為だけに作られた特別な魔法具ですぅ。こっちの長いのが『フラッグライト』、私が手に持ってるこれが『トーチライト』と呼ばれていますねぇ。今回は特別に持ってきてみましたぁ。触ってみてくださぁい」
そう言ってミーガンは、教卓の正面の席のルシュドにトーチライトを渡す。
「……触る、すべすべ。青く光る……」
「なあなあ俺にも俺にも!」
「あっ……」
「うおっ!? 俺が触ったら緑色に光ったぞ!?」
その拍子でジャバウォックはトーチライトを落としてしまい、他の生徒が拾いに入る。すると今度は赤く光った。当然生徒は驚く。
「いいですねえ、もっと驚いてくださぁい。それをどんどん回して触ってみてくださぁい」
言われた通りに生徒達はトーチライトを渡していく。持ち主が変わる度、光球は赤と青と緑の発光を順繰りに繰り返している。
「対抗戦を行う魔法学園のイメージカラーを予め設定しておいて、その三色に光るよう指定してあるんですぅ。もっとも今回はそんなのないので、適当に赤青緑にしましたけどぉ。因みにグレイスウィルの色は、大抵赤になってますねぇ」
「えっと、校章、赤い薔薇。それ?」
「鋭いですねぇルシュド君」
ミーガンはそう言って生徒間を一周してきたトーチライトを受け取る。
「この魔法具ですがぁ、魔力をまだ込めていないので下手な使い方しても作動はいたしませぇん。詳細な使い方は魔法学でやると思いますので、その時にぃ。とにかくこんな魔法具を使うってことを頭に入れて置いてくださぁい」
「それでこの対抗戦。日程は一年近くかけて行われるわ。というのも、対抗戦にも三つの種類があってね……」
教壇に立つリーンの話を、二年三組の生徒達は口を結んで真剣に聞いている。ノートにペンを走らせる生徒もいる程だ。
「まず五月末から六月第三週にかけて行われる『武術戦』。武器に長けた生徒達の肉弾戦の応酬ね。次に十一月第二週から十二月の頭まで行われる『魔術戦』。魔法がガンガン飛び交う遠距離の戦い。そして最後は二月第三週から三月第二週にかけて行われる『総合戦』。本当に何事もアクシデントがなければ、この日程で終わるわ」
リーンの視線はハンスに向けられたが、当の彼は何処吹く風で机に頭を突っ伏している。
「総合戦に出場できるのは、前の二つの対抗戦で優秀な戦いぶりを見せた生徒だけなの。加えて行われるのは年が明けてからだから、一先ずは問題ないわ。重要なのは前二つよ、何せどちらかには必ず出場しないといけないのだから」
ええ~という嘆息の声が、教室をどんよりと満たす。
「ついでに言っておくけど、もしこの対抗戦で己を高める様子が見られなかった場合には、試験の素点にマイナス入るから。逆に言うと対抗戦で優秀な成績を残せば、赤点でも何とかしてもらえることもあるわ」
それを聞いて咆哮を上げるのはクラリア。それ以外にもやる気が出てきた様子の生徒はちらほらいる。
「うふふ、そうね。普段座学が苦手な生徒でも、今回は頑張れるって人は多いかもね。実践が苦手な生徒もこれをいい機会だと思ってみて、訓練に勤しんで頂戴ね」
「……」
ヴィクトールは普段よりも鋭い眼差しで、その話に耳を傾けていなかった。
「で、今回の対抗戦にはちょーっとばかし注意があってな……戦いの舞台がどこになるか知っているか?」
「はーい。ログレス平原でーす」
「おおっ知ってたかっ」
二年四組の女子生徒の返答の速さに驚いたのか、ヘルマンは持っていた杖を落としてしまう。
「――」
「ありがとうサタ子」
「♪」
「えへへ、サタ子ちゃんの仕草は可愛いなあ」
机に乗っかったサタ子の頭を、リーシャは優しく撫でる。膝の上にはスノウがむすっとした顔で座っていた。
「珍しいですよね、サタ子ちゃんがこっち来るなんて、普段は家で家事をさせているんでしょう?」
「ああ。というのも俺は他の先生のような、黒板に図を表示させる魔術が得意でなくてな……」
「化粧や変装魔術は得意なのに?」
「うるせいやい。ともかくそんなわけだから、サタ子にはサポートに入ってもらったってわけだ。よっと」
準備の終わったヘルマンが杖で黒板を叩くと、ログレス平原の地図が現れる。
「これがログレス平原の大まかな地図だ。今回の対抗戦はこの辺り……北西方面、パルズミール国境に近い所で行うことになっている」
ヘルマンは杖を通して黒板に魔力を送り込む。すると北西の辺りが拡大され、更に中央付近が赤く点滅する。
「今点滅している所にはティンタジェルという名の遺跡がある。ここについて知っている者は?」
「はい、僕が答えます」
「ほいよろしく」
「ティンタジェルは、聖杯時代に存在した城とその城下町の遺跡です。ここから発掘された遺物によって、聖杯の存在は証明されました」
興味深い話に思わずリーシャの耳が傾く。その隙にスノウが机に乗ってきて、サタ子と睨み合いを始める。
「その通りだ、座っていいぞ。凄く簡単に言ってしまえばめちゃくちゃスンバラスイートな遺跡で、先程言ってくれたように聖杯に関する遺物があるだけじゃないんだ」
「建築物の保存状態がかなり良好で、聖杯時代の人々の生活がわかるという観点からも歴史的価値が高い。様々な考古学者が研究を進めていて、まだ解明されていない部分もあるぐらいだ」
「そんな遺跡を少しでも破壊してみろ……」
一旦息を切った所で、教室中の明かりがぽつぽつと消えだす。
次いで襲いかかる寒気。滴り落ちる冷や汗。
「世界中の考古学者に……もっと具体的に言うとウィングレー家当主ルドミリア様に何をされるか……」
いつの間にか外からの光も遮断され、暗闇の中にヘルマンの姿だけが浮かぶ。
「それで大切な物を失ったとしても……俺は……知らんぞおおおおおおおおお!!!」
「――というわけだからこの遺跡には立ち入らないようにしてくれよな!」
「♪」
一瞬にして教室の様子は元通りになり、ご機嫌なサタ子が教卓の上に乗ってくる。リーシャはほっと一息つき、スノウは驚きのあまりひっくり返ってしまっていた。
「……もしかしてサタ子ちゃん連れてきたのこのためじゃ……」
「まあ当日は強力な結界が施されるし、入れるもんなら入ってみろって感じなんだけどな実際!」
「それは薄々予想ついてたからさあ! さっきの弁明しなさいよ先生! 怖すぎてあたしちびっちゃう所だったわよ!」
「女の子が大勢の前でちびるなんて言うんじゃありません!!」
「っと……これで説明は最後かな? じゃあ質問に……」
「先生、肝心なこと忘れてます。野営の話です」
「っあー……忘れてた、ありがとう。そうだこれも大切な話だ」
二年五組の生徒達の前で話していたディレオは、手元のメモ帳に目を通してから教室を見回す。
「えーっと、野営です。対抗戦でアンディネ大陸に行っている最中は、ログレス平原に天幕を張ってそこで寝泊まりしてもらいます。そして対抗戦の日程中、戦闘が終わった後やその前には狩猟や採取のお題が出ます」
告げられた衝撃の事実に声を上げる生徒一同。ただその中で、サラは興味深そうに耳を傾ける。
「ま、まあ……経験則から言わせてもらうと、そんな疲れるお題は出ないから。死にそうになっても先生達がフォローしてくれるし、ちゃんと向かう場所も指定される。そんなに気構えずに、薬草学とかの実習ぐらいに思って気楽に行ってほしいな」
「でも戦闘もするのにんなこたーできないっすよぉ~~~」
「……ごめんまた忘れてた。お題が出るのはその対抗戦に参加しない生徒だけだよ。武術戦の時には魔術戦、魔術戦の時には武術戦に出場する生徒がこれをこなすんだ」
「うっそぉー!? じゃあ魔術戦に申請して、五月は悠々自適に生活することもできないってこと!?」
「反応が素直だ、その通り」
課題を先送りにするな、とサラは心の中で悪態をつく。
「生徒会所属の子は、武術戦と魔術戦の双方で課題を行うことになってるんだ。各回毎の量は少なくなるけどね。それでも総合戦では課題はないのは変わりない。皆で応援できるよ」
「まあそれぐらいはね。それにしても、狩猟に採取……ああ~筋肉痛が酷くなる~……」
「滅多にない機会だと思って楽しむといいよ。対抗戦は三年に一度しか行われないんだから。ねえサラさん?」
「……」
このディレオとかいう教師は、事あるごとにサラに話題を振ってくる。クラスに馴染めるようにといった彼なりの配慮なのだろうが、彼女にとっては迷惑千万以外の何物でもない。
「……ええそうですね。頑張っていきましょう」
「うん、その通りだ! じゃあ本当に説明はここで終わりにするけど、質問があったら遠慮なく来てね!」
「先ず最初の二十五分では、六月から始まる魔法学園対抗戦の説明を行います。私が担任をしているクラスなので、ついでというわけです。ナイトメア学の授業は残りの二十五分で行います」
遂に出てきた対抗戦の話に、授業時間の短縮で浮足立っていた生徒達も背筋を直す。
「とうとう来やがったな……この時期が」
「憂鬱なのか?」
「強制参加なんだよ、二年生以上は。一年も実質そうだけど。取り敢えず説明聞いておけ?」
アーサーが黒板を見ると、ハインリヒは杖で黒板に魔力を流している所だった。隣に座っているエリスとカタリナも、じっと話を聞いている。
「皆さんは初めての対抗戦なので、一番大切な所を最初に」
「新時代になってからというものの、グレイスウィルは優秀な人材を育成することを目標に様々な取り組みを行ってきました。国直属の騎士や魔術師達の支援、生徒達の社会貢献の奨励と言った具合にです。その一環で、他国にある魔法学園との交流も積極的に行ってきました」
口を開け咆哮している獣、火水土風のアラベスクに囲まれたクリスタル、月桂樹の葉に囲まれた剣と杖、金貨と算盤が乗せられた天秤、氷塊に座り竪琴を奏でる女性、交差するペンと本。
最後に赤い薔薇が、六つのシンボルが囲う中央に出現する。
「パルズミール、エレナージュ、ウィーエル、リネス、イズエルト、ケルヴィン、そしてグレイスウィル。世界に存在する七つの魔法学園の実力を確かめ合い、親交を深める交流戦。それがこの対抗戦の意義です」
「対抗戦の方式は陣取り合戦ですねぇ。七つある魔法学園から三つを選出し、その三つで領土を取り合っていきますぅ。最終的に一番領土が広かった魔法学園が勝ちというわけですねぇ」
ミーガンが指を鳴らすと、二年二組の教室には二つの魔法具が現れる。
片方は彼のすぐ隣の床に現れた、長い筒状の魔法具。中には粘性のある液体が入れられており、光を放っている。
もう片方は教卓の上に乗せられた、うっすらと光を放つ玉。ミーガンはそれを手に取り、顔の右に持ってくる。
「この二つは領土を指定するために用いられる、対抗戦の為だけに作られた特別な魔法具ですぅ。こっちの長いのが『フラッグライト』、私が手に持ってるこれが『トーチライト』と呼ばれていますねぇ。今回は特別に持ってきてみましたぁ。触ってみてくださぁい」
そう言ってミーガンは、教卓の正面の席のルシュドにトーチライトを渡す。
「……触る、すべすべ。青く光る……」
「なあなあ俺にも俺にも!」
「あっ……」
「うおっ!? 俺が触ったら緑色に光ったぞ!?」
その拍子でジャバウォックはトーチライトを落としてしまい、他の生徒が拾いに入る。すると今度は赤く光った。当然生徒は驚く。
「いいですねえ、もっと驚いてくださぁい。それをどんどん回して触ってみてくださぁい」
言われた通りに生徒達はトーチライトを渡していく。持ち主が変わる度、光球は赤と青と緑の発光を順繰りに繰り返している。
「対抗戦を行う魔法学園のイメージカラーを予め設定しておいて、その三色に光るよう指定してあるんですぅ。もっとも今回はそんなのないので、適当に赤青緑にしましたけどぉ。因みにグレイスウィルの色は、大抵赤になってますねぇ」
「えっと、校章、赤い薔薇。それ?」
「鋭いですねぇルシュド君」
ミーガンはそう言って生徒間を一周してきたトーチライトを受け取る。
「この魔法具ですがぁ、魔力をまだ込めていないので下手な使い方しても作動はいたしませぇん。詳細な使い方は魔法学でやると思いますので、その時にぃ。とにかくこんな魔法具を使うってことを頭に入れて置いてくださぁい」
「それでこの対抗戦。日程は一年近くかけて行われるわ。というのも、対抗戦にも三つの種類があってね……」
教壇に立つリーンの話を、二年三組の生徒達は口を結んで真剣に聞いている。ノートにペンを走らせる生徒もいる程だ。
「まず五月末から六月第三週にかけて行われる『武術戦』。武器に長けた生徒達の肉弾戦の応酬ね。次に十一月第二週から十二月の頭まで行われる『魔術戦』。魔法がガンガン飛び交う遠距離の戦い。そして最後は二月第三週から三月第二週にかけて行われる『総合戦』。本当に何事もアクシデントがなければ、この日程で終わるわ」
リーンの視線はハンスに向けられたが、当の彼は何処吹く風で机に頭を突っ伏している。
「総合戦に出場できるのは、前の二つの対抗戦で優秀な戦いぶりを見せた生徒だけなの。加えて行われるのは年が明けてからだから、一先ずは問題ないわ。重要なのは前二つよ、何せどちらかには必ず出場しないといけないのだから」
ええ~という嘆息の声が、教室をどんよりと満たす。
「ついでに言っておくけど、もしこの対抗戦で己を高める様子が見られなかった場合には、試験の素点にマイナス入るから。逆に言うと対抗戦で優秀な成績を残せば、赤点でも何とかしてもらえることもあるわ」
それを聞いて咆哮を上げるのはクラリア。それ以外にもやる気が出てきた様子の生徒はちらほらいる。
「うふふ、そうね。普段座学が苦手な生徒でも、今回は頑張れるって人は多いかもね。実践が苦手な生徒もこれをいい機会だと思ってみて、訓練に勤しんで頂戴ね」
「……」
ヴィクトールは普段よりも鋭い眼差しで、その話に耳を傾けていなかった。
「で、今回の対抗戦にはちょーっとばかし注意があってな……戦いの舞台がどこになるか知っているか?」
「はーい。ログレス平原でーす」
「おおっ知ってたかっ」
二年四組の女子生徒の返答の速さに驚いたのか、ヘルマンは持っていた杖を落としてしまう。
「――」
「ありがとうサタ子」
「♪」
「えへへ、サタ子ちゃんの仕草は可愛いなあ」
机に乗っかったサタ子の頭を、リーシャは優しく撫でる。膝の上にはスノウがむすっとした顔で座っていた。
「珍しいですよね、サタ子ちゃんがこっち来るなんて、普段は家で家事をさせているんでしょう?」
「ああ。というのも俺は他の先生のような、黒板に図を表示させる魔術が得意でなくてな……」
「化粧や変装魔術は得意なのに?」
「うるせいやい。ともかくそんなわけだから、サタ子にはサポートに入ってもらったってわけだ。よっと」
準備の終わったヘルマンが杖で黒板を叩くと、ログレス平原の地図が現れる。
「これがログレス平原の大まかな地図だ。今回の対抗戦はこの辺り……北西方面、パルズミール国境に近い所で行うことになっている」
ヘルマンは杖を通して黒板に魔力を送り込む。すると北西の辺りが拡大され、更に中央付近が赤く点滅する。
「今点滅している所にはティンタジェルという名の遺跡がある。ここについて知っている者は?」
「はい、僕が答えます」
「ほいよろしく」
「ティンタジェルは、聖杯時代に存在した城とその城下町の遺跡です。ここから発掘された遺物によって、聖杯の存在は証明されました」
興味深い話に思わずリーシャの耳が傾く。その隙にスノウが机に乗ってきて、サタ子と睨み合いを始める。
「その通りだ、座っていいぞ。凄く簡単に言ってしまえばめちゃくちゃスンバラスイートな遺跡で、先程言ってくれたように聖杯に関する遺物があるだけじゃないんだ」
「建築物の保存状態がかなり良好で、聖杯時代の人々の生活がわかるという観点からも歴史的価値が高い。様々な考古学者が研究を進めていて、まだ解明されていない部分もあるぐらいだ」
「そんな遺跡を少しでも破壊してみろ……」
一旦息を切った所で、教室中の明かりがぽつぽつと消えだす。
次いで襲いかかる寒気。滴り落ちる冷や汗。
「世界中の考古学者に……もっと具体的に言うとウィングレー家当主ルドミリア様に何をされるか……」
いつの間にか外からの光も遮断され、暗闇の中にヘルマンの姿だけが浮かぶ。
「それで大切な物を失ったとしても……俺は……知らんぞおおおおおおおおお!!!」
「――というわけだからこの遺跡には立ち入らないようにしてくれよな!」
「♪」
一瞬にして教室の様子は元通りになり、ご機嫌なサタ子が教卓の上に乗ってくる。リーシャはほっと一息つき、スノウは驚きのあまりひっくり返ってしまっていた。
「……もしかしてサタ子ちゃん連れてきたのこのためじゃ……」
「まあ当日は強力な結界が施されるし、入れるもんなら入ってみろって感じなんだけどな実際!」
「それは薄々予想ついてたからさあ! さっきの弁明しなさいよ先生! 怖すぎてあたしちびっちゃう所だったわよ!」
「女の子が大勢の前でちびるなんて言うんじゃありません!!」
「っと……これで説明は最後かな? じゃあ質問に……」
「先生、肝心なこと忘れてます。野営の話です」
「っあー……忘れてた、ありがとう。そうだこれも大切な話だ」
二年五組の生徒達の前で話していたディレオは、手元のメモ帳に目を通してから教室を見回す。
「えーっと、野営です。対抗戦でアンディネ大陸に行っている最中は、ログレス平原に天幕を張ってそこで寝泊まりしてもらいます。そして対抗戦の日程中、戦闘が終わった後やその前には狩猟や採取のお題が出ます」
告げられた衝撃の事実に声を上げる生徒一同。ただその中で、サラは興味深そうに耳を傾ける。
「ま、まあ……経験則から言わせてもらうと、そんな疲れるお題は出ないから。死にそうになっても先生達がフォローしてくれるし、ちゃんと向かう場所も指定される。そんなに気構えずに、薬草学とかの実習ぐらいに思って気楽に行ってほしいな」
「でも戦闘もするのにんなこたーできないっすよぉ~~~」
「……ごめんまた忘れてた。お題が出るのはその対抗戦に参加しない生徒だけだよ。武術戦の時には魔術戦、魔術戦の時には武術戦に出場する生徒がこれをこなすんだ」
「うっそぉー!? じゃあ魔術戦に申請して、五月は悠々自適に生活することもできないってこと!?」
「反応が素直だ、その通り」
課題を先送りにするな、とサラは心の中で悪態をつく。
「生徒会所属の子は、武術戦と魔術戦の双方で課題を行うことになってるんだ。各回毎の量は少なくなるけどね。それでも総合戦では課題はないのは変わりない。皆で応援できるよ」
「まあそれぐらいはね。それにしても、狩猟に採取……ああ~筋肉痛が酷くなる~……」
「滅多にない機会だと思って楽しむといいよ。対抗戦は三年に一度しか行われないんだから。ねえサラさん?」
「……」
このディレオとかいう教師は、事あるごとにサラに話題を振ってくる。クラスに馴染めるようにといった彼なりの配慮なのだろうが、彼女にとっては迷惑千万以外の何物でもない。
「……ええそうですね。頑張っていきましょう」
「うん、その通りだ! じゃあ本当に説明はここで終わりにするけど、質問があったら遠慮なく来てね!」
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