ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦

第224話 私とそのひと

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「わーすごかったねえ」
「おーすごかったなー」
「わおーんわおーん」

「もうなーんにもわかんなーい」
「すべてがどーでもいーい」
「わふーんわふーん」

「ばくはつしちゃーう」
「ばくはつするー」
「わんわんわわんわんわ」
「よーしオマエらそろそろバカから戻れ」



 イザークにはたかれるエリスとアーサー。主君に釣られてカヴァスも元に戻る。



「……お前、あれ観てよく平常心でいられるな? 生徒としてはどう見ても異常だろ」
「途中から思考放棄したんで。照り焼きチキンサンドうまうま」
「……」

「あ、レモネード飲む? 買ってきたんだ」
「うん、一旦お腹を満たすとしましょうねー、うん」
「オレにもくれ」
「どうぞ」


 カタリナからボトルを受け取り、ストローからレモネードをちゅーちゅーする二人。

 程よい炭酸のしゅわしゅわが脳を刺激する。


「戦闘の参考になるかと思ったが、まあそんなことはなかった。頭が馬鹿になるだけだった」
「アーサーがそこまで言うとはなぁ。こんなんなら訓練していた方がまだマシだったか」
「えー、先輩の試合観ないのは後輩としてどうなのー」
「それ言われちゃ何にも反論のしようがぬぇー」


 それから数分程、とりとめのない試合の感想を話し合っていると。


「……ん?」
「あれは……リーシャだな」
「あ~……あ~! そうだ、リーシャにも協力してもらおう!」
「何の話?」
「内緒! おーいリーシャー!」



 しかし、エリスはそのまま虚に向かって手を振ることになる。



「……はえ? スルー? スルーなの?」
「ん~……なんつーか、こっちの声が全く聞こえていなかった感じじゃね?」
「何か急ぐ用事でもあったのかな……」

「……」
「ん? どしたんアーサー?」
「今、リーシャが向かっていった方向……あっちは確か……」





「リイシア、こっちは……」
「いいのスノウ、そんなの関係ない……!」



 戦況を翻した化物のような姿の彼。

 ただ一心不乱にそんな彼に会いたい。

 その一心で道を必死で走っていく。



「でも! リイシア、おかおが赤いのです! きっと熱があるのです!」
「そんなの、この平原が暑いからだよ! スノウもそう思うでしょ!?」
「う……」



 掻き乱される。


 心も、身体も、全部、全部、


 誰かに棒を突っ込まれて、めちゃくちゃにされている感覚。



「試合が終わった今だからこそ声をかけてあげないと――ねえスノウ!? そう思うでしょ!?」
「……はい、なのです……」



 項垂れながらも、ついていくしか彼女にはできない。



 足元に草が絡まり妨害をしてくる。



 ここは草木生い茂る森の中だ。



「まだいるよね……!? まだ屯って話とか、しているよねきっと!?」
「……リイシア。道を外れているのです。こっちはしあいのかいじようなのです」
「えっ、嘘――」





 元の道に戻ろうと、振り返ったその先に、彼はいた。





「あ――」
「……」



 禍々しい姿だった彼は、瞬きをするその一瞬に、元に戻っていた。



 美しい銀の髪に、澄んだ蒼の瞳。



「……あの!」



 何か言わなきゃ。

 何か言わないと。

 言ってあげなきゃ、きっと――



「あの、試合――」
「怖いか、リーシャ」





          ざあざあ





「何も知らない生徒だって、俺の姿を見て顔を引き攣らせていたよ」



         ぴとん、ぴとん



「そして君も……そうだろう。俺の姿を見て、恐怖に顔を歪ませた」



      しんしんつもる、しろいゆき



「怖いか――俺のことが怖いか、リーシャ」



      ずんずんしみこむ、くろいあめ





「……怖い、なんて、」



           アアアアアアアアアア



「思うはず、ないじゃ、」



    いや……いやあああああああああアアアアアアアアアアア!!!!



     どうして、どうして、どうして、このようなことヲ、なさるノデスか……



       やめてくれ屋芽手区霊嫌馬手くれ!!!!!



                 もう、出せる物なんて、




ナアアアアアアアアアア亜唖亞吾んにもないのニ……





「ない、ですか、何を、」



    だいじょうぶ、ダイジョウブ、第状部、ダいジョうぶ、大丈夫、だからね、



「言って、いるん、です、か……」          



       父さんと、母さんは、すこし、おわかれ、スルダケ、ダカラ、ネ、





         マ                               ネ
                タ          エ

      イ             ア    
               ツ                        ル          

             カ

                     カ
                             ラ





「――大丈夫!! 大丈夫です!!」
「リイシア……」


「私は平気です!! だって先輩は、先輩以外の何者でもありませんから!!」
「リイシア!」


「私に敵意があるわけでもないのに、どうして――!!」
「リイシア!! だめなのです!!」



「……!」



 我に立ち返った時、


 近くに落ちていた木の棒を拾って、


 自分の喉に突き刺そうとしていた。




 スノウが身体全体で下から支え、そこからカルが手首を握り締めている。




「あ……」
「……」


「す、すみま、せん、私……」
「……君も、俺と同じだな」


「え……」
「あの戦いから抜け出せていない。永劫に抜け出せることはない。そうだ、きっと、必ず、絶対そうなんだ」



 手首をそっと降ろし、立ち上がり、カルは背中を向ける。



「……これから、俺が君にしてやることは」

「傲慢で、欺瞞な、己を慰める行為に他ならない」

「恐ろしいと感じたら、君は俺を拒んでも構わない」



 一歩踏み出し、立ち去っていく。



「絶対零度の王は、愛を奏でることすら叶わないのだから」



 去り際の一言だけは、誰の耳にも入ることはなく――







    ……シャ


    ……リーシャ


    ――リーシャ!





「……あれ?」



 意識が戻る。目を擦って瞬きすると、


 エリス、アーサー、カタリナ、イザークの四人が、心配そうに自分を見下ろしていた。



「リーシャ、大丈夫? 何だかぼーっとしていたみたいだけど」
「オマエ、ボクらが声かけたの無視して行っちまうんだもんな。でもって試合会場の方行こうとしてたから止めにきたんだよ」

「……怖い物でも、見た?」
「……!」


 カタリナの問いに、激しく頭を振って返す。


「……そっか。うん、何があったのかは訊かないよ」
「……ありがとう。ごめんね、ごめんね……」
「リイシア……」


 震える身体を暖めるように、スノウを抱き締める。


「……よし」
「……エリス?」

「気分転換しよう、リーシャ。わたし達は料理部でしょ。料理でも作って、気を紛らわせようよ」
「……」


 目をぱちぱちさせるリーシャ。アーサーとカタリナに支えられ、ようやく立ち上がることができた。


「実はいい食材が入荷しましてー。どんな料理がいいか、一緒に考えようよっ」
「……」

「……大丈夫、だよね? どうする、一旦保健室行く?」
「……そうしたい。ごめんね、迷惑かけちゃってごめんね……」
「いいよ、そんなのお互い様。さあ行こう行こう!」
「うん……」



 エリスはリーシャの手を引っ張って、整備された道に戻っていく。



「……リーシャ、普段と様子が違っていたな。大丈夫か」
「まあ……ボクらがどうこうできる問題じゃないっしょ、多分」
「……そうだ、リーシャにもレモネード買ってあげようかな」
「おほー、名案。じゃあアーサーの奢りでサンドイッチな」
「何故オレに振るんだ……」


 そうして他の三人も、遅れて後をついて行ったのだった。
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