ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦

第234話 名も無き生徒の立食会・その2

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 一方こちらはルシュドとハンス。入り口に入るや否や、ルシュドはハンスを伴って天幕が並ぶ中を移動していた。



「お、おお……」
「はい兄ちゃん、牛肉の岩塩焼きだ。二つだったよな?」
「は、はい。えっと、銀貨、二枚」
「はいどーも」

「ハンス、これ」
「ああ……」




 熱が込められた石の皿を持って、フォークで刺して肉を頬張る。肉汁が顔に飛び散るのも気にしないルシュドと、それがかなり気になるハンスであった。




「おおルシュド、ここにいたのか」
「あ、シャゼム先輩。こんにちは。違う、こんばんは」
「あはは、こんばんは」
「……!!」


 急にハンスの身が震え上がり、その場を去ろうとする。


「……ハンス? どうした?」
「……う」
「お腹、痛い? 食べたい、もの、ある?」
「ぐぬぅ……!」
「あっはっはー、今日は逃げられなかったね!」



 高らかに笑うのはガゼル。彼の姿を見て、ハンスは悔しそうに顔を歪ませる。



「気付いていたよ? ここ一年ずーーーっと僕のこと避けていたの。僕はもっと話したいことが山のようにあるのにさ!」
「てめえ、てめえ、あっち行け……!!」

「……? ハンス、先輩、嫌い?」
「相性ってもんがあるんだよ。ところでお前らもこれ食えや」
「ありがとう、です。はふはふ」


 クオークから受け取ったのは、二人分のじゃがバター。熱々のバターがほんの少し手につく。


「あちち。ふーふー。もぐもぐ……おいひい」
「お前可愛いな」
「!?」
「いや、その反応がな? 美味しそうに食うんだもん、この芋とバターも感無量だろうよ」

「ハンスも食べたら? ちなみに僕とクオークとクソババアと秀麗たるトパーズ御婆様とで仕込みを行いました」
「食べない!! 絶対に!!」
「……だったら私がも貰おうかな?」



 その生徒の声が聞こえてくるや否や、ガゼル、クオーク、シャゼムの三人はぴんと背筋を張る。



「……あ? 誰だよてめえ」
「初めまして……かな? 私はモニカ、ガゼル君達の同級生なんだ」
「ふーん。興味無いわ」

「おれ、ルシュド、です。この人、ハンス、です」
「ルシュド君か。シャゼム君から話は聞いているよ。熱心で真面目な後輩がいるって」
「……えへへ」
「露骨に照れんなや~~~!?」


 ルシュドの背中をがしがし叩くシャゼム。


「もう、そんな強さで叩いたら食べた物吐いちゃうよ」
「ん! それもそうか!! すまんかった!!!」
「……はい」



「話を戻そっか。それ、もらっていい?」
「ああ……これぐらいなら、やるよ」


 ハンスはモニカに、ふてぶてしくじゃがバターを渡す。


「ありがと……はふっ、はふぅ。美味しいな」
「そぉーれはよかった!! 本当によかったなー!!」



 鼻の下が伸び切ったガゼルを、横目で見ながらハンスは引き笑い。心の底から侮蔑するのであった。



「ねえ皆、次は何を食べるつもり?」
「「特に決まってない!!」」
「同じく。おすすめとかあったら教えてほしいわ」


「んっとね、向こうにスムージー出してる天幕があって、そこに行こうかなって」
「スムージー?」
「野菜や果物を混ぜ合わせた飲み物だよ」
「おお、美味しそう。おれ、気になる。ハンス、行こう」
「え、あ、ああ、そうだな……」


「僕もモニカのおすすめとあらば行かざるを得ないなー!! ハンス君と行き先同じだなぁー!!」
「てめえぶっ殺す!!」







 こちらはパルズミールの紋章が刻まれた天幕。クラリアは特設の椅子に座って、包み焼きを片っ端から食している。


 そんな彼女の隣に座って、サラはミルクティーを飲みながら食事の様を眺めていた。



「レイチェルさん!! お代わり!!」
「はいよー!!」
「……これで十人前を食べ切ったことになるんだけど」
「まだまだ食い足りないぜー!! うおおおおおお!!」



 包み焼きの天幕の前には、クラリアを始めとした獣人の生徒が数多く並んでいる。やはりそれだけ、彼らに好まれている料理なのだろう。



「クラリアせんぱぁ~い、お疲れ様ですっ♪」
「んん!! メルセデス!! 久しぶりだな!! 元気してたか!!」
「はぁい! この平原で天幕張って暮らすのも、悪くないと思えてきました♪」
「そうか!! ところでこれ食え!!」

「えっ何ですかこれは」
「グラスホッパーの唐揚げ!!」
「ゲテモノ料理じゃねーかああああああ!!」





 ~メルセデスが奮闘しているが非情にも中略~





「ぜぇーっ、ぜぇーっ……」
「……お疲れ様」
「あざっすサラ先輩……クソっ。ここではおしとやかにしていたいんだよ……レイチェル様が来てらっしゃるんだから……」


 サラから差し入れられた水を飲み干し、ゲーッと鈍い溜息をつく。虫特有のえぐみが消えてくれない。


「兎耳だからやっぱり関係あるのかしら?」
「……実家がアグネビット家に仕える商人なんですよ」
「ああ、そういう」
「いつ消え去ってもおかしくない弱小商家だから、ここで媚びておこうと思ったのに……!! 話が違えよ!! イメージと違くて本当に困るわ!!」

「……それ、教えてもらっても?」
「え、イメージの件ですか? いいですけど先輩にチクらないでくださいね!?」
「それは当然」




 どこから来たのか、いつの間にかクラヴィルも隣に座り、クラリアと共に包み焼きを平らげている。クラリスとアネッサも同様だ。主君の食べっぷりに対して、半ばやけくそになっているようだが。


 その光景を視界に入れつつ、サラはメルセデスから話を聞く。




「……先輩、幼少期はかなりおしとやかだったらしいですよ? ドレスも大好きでピアノも得意。絵に描いたようなお嬢様だったって」
「想像つかないわね」
「アタシもです。んでもお母様が亡くなってしまって、それで性格が変わってしまったって」


「……亡くなった? 母親が?」
「そうです。お母様が亡くられたというのは聞いていました。でもその影響で性格が変わったってことは、アタシもつい最近知ったんですよ」
「珍しく真面目モード」
「うるせえよマレウス。でもまあ、何か不思議ですよね。クライヴ様は次期ロズウェリ家当主、クラヴィル様も凄腕の戦士として名を馳せているのに、一番下の先輩だけ社交関係が音沙汰ないって」


「本当にそうなのか両親に訊いてみたら、あんな性格になられていて驚きだって。何でもパルズミールの四貴族と呼ばれる方々としか交流がなかったとか……」
「……」



 あまりにも礼儀がなっていないので、表に出ることを禁じられた。これが最も有力。

 しかしそれでも、こっそり町に出たりとかして怒られそうなものだ。彼女の性格なら。



 それに母親が死んだという話は、本人の口から聞いたことがない。最もそれは、積極的に話すような話題ではないが。

 いずれにしても、今は――



「……アイツの過去を知れただけでもありがたいわ。お礼はアルブリアに戻ってからしてあげる」
「あざーっす!! でも何で先輩、急にこのこと知りたいって思ったんです?」
「それ訊くなら報酬無しよ」
「ひっで!!」



「おーい!!」



 クラリアが手を振って、こちらに呼びかけている。噂話に興じる時間は終わりだ。



「サラ、あとメーチェ!! いっぱい食った!! だから片付けを手伝え!!」
「はーっ、どうしてこうなるのかしら!」
「二十五枚! 先輩、凄い食べっぷりですねっ♪」
「真面目モードから媚びモードへ移行」
「うっせーぞこのトンチキ手鏡がァー!!!」
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