元会計には首輪がついている

笹坂寧

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29.新入生歓迎会 そのいち

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 新入生歓迎会、および交流会とは。

 読んで字の如く、高等部1年生を歓迎すると共に、上級生との関わりを持つ機会を作ることで今後の学生生活をより過ごしやすくしよう、というイベントである。
 理事長の家が経営している超高級ホテルを2泊3日で貸し切って行われるこの無駄に豪勢なイベントは、例年大いに盛り上がるらしい。

 新入生からすれば自分の好きな先輩と繋がれる大きなチャンス。上級生からすれば、手軽に摘める新入生を選ぶチャンス。

 ーーそして、生徒会役員と風紀委員会が己の手腕を生徒達に見せつけるイベントでもある。


「えーこれから俺達はクラスごとにこの送迎バスでホテルに向かう。もう引き返せねーから忘れもんあるなら今のうちだぞー」


 担任の気が抜けた呼び掛けを片耳に、俺はハルの肩に頭を預け端末を弄る。八束センパイから俺とハル周辺を固める親衛隊員の配置と交代の時間帯等を共有しているのだ。
 ハルは監査委員会委員長のメッセージをブロックしているらしく暇そうだ。普通ならばそろそろクビになる所だが、ハルを相当気に入っているらしい監査委員会委員長によって未だその地位は守られたままのようだ。

 俺達は忘れ物もしっかり確認済みであるため、既にバスの最後尾を陣取っている。別に席に拘りはなかったけれど、何故かクラス全員に最後尾を譲られた。
 4人用の座席を2人で占有している状態だが、大型バスは人数に随分余裕があるようなので有難く良席を頂戴しておく。

 ちなみに、2泊3日を過ごすホテルは2人部屋で、ペアの希望が通るとの事だったので2人で申請し既に登録済みだ。


「ナツ」
「んー?」
「13時にホテルに着いたら17時まで自由時間だって。どっか行く?」
「んー……」


 チラリと端末に視線を落とす。13時から17時までは親衛隊員の穴も無さそうだし、問題ないか。
 八束センパイに『親衛隊員の皆さん観光好きですかー』と送ると『好きですがご随意にとの事です』と、俺に絶対服従な彼にしては直情的な返事が返ってきた。観光にさほど興味がなければ、たとえ他の部下が観光を望んでいようとも、八束センパイは俺にそのことを悟らせるようなメッセージは送ってこない。
 彼も、彼なりにこのイベントを楽しみにしているのだろう。少々浮かれたその返事が何となく微笑ましくて、俺はクスリと笑った。

 こういう欲なら、全然いい。


「ハルは?」
「どっちでも」
「じゃあ2時間くらい観光して、あとはホテルでゆっくりするか」
「ん。なら14時から16時にしよ,それなら休憩も前後に取れる」
「だねー」


 その旨を八束センパイに送る。即『承知致しました。そろそろ発車時刻になりますので、どうぞお楽しみ下さいませ』と返ってきたため安心して端末を閉じる。

 ふわ、と欠伸が漏れ、目を瞬かせる。何度かの瞬きの後に目を開けると、丁度ハルが欠伸をしたところだった。俺はハルの手から予定表を回収し、余った2席分にフワフワのブランケットを敷いてやった。


「寝ときなー」
「ありがと」
「いーえ」


 合計3席分に足を曲げて横になったハルは、目を閉じた3秒後に微かな寝息を立て始めた。ハルは俺達の朝ご飯を作る為に俺よりも2時間くらい早起きしている為、こういう時は寝ておいた方がいい。

 手伝えよ、と思っただろ?手伝った方が悲惨なんだ。

 俺は時折手持ち無沙汰にハルの頭を撫でつつ、予定表を捲っていく。
 2泊3日の間、様々な人間と多少なりとも関わりを持たなければならないと思うと、かなり気が滅入る。ハルと一緒に観光してイベントに参加出来るのは楽しみではあるが、それ以上に不安要素が多過ぎる。

 取り敢えず1日目の予定のページを開いて中を読んだ。

 
 …………。読み進めるにつれて表情が険しくなっていく様はさぞ滑稽だろう。

 
【1日目】
13:00 ホテル着
(自由時間 ※30分前にはメインホールに集合)
17:00 交流会①
 (1年生、2年生、3年生の3人1グループ グループは開始15分前に各部屋のテレビで放送する)
18:00 ディナー
 (グループはそのまま)
20:00 入浴
 (1年生から順番 ※入浴場所を指定する生徒は19:45までに端末で呼び出すので確認しておくように)
22:00 就寝準備
22:30 消灯
22:45 役員会議
 (生徒会・風紀委員会幹部・監査委員会幹部・保健委員会幹部・放送委員会幹部のみ)


 1日目は何かと慌ただしいこともあり、交流会が主なイベントであるようだ。生徒に負担のないよう組まれているのだろうが、俺からすると、絶対にハルと離れる事が確定しているイベントなんてなんの楽しみにもならない。
 その後ろのページには一定条件を満たす生徒親衛隊持ちはその親衛隊員とはグループにならない旨が補足されている為、八束センパイと一緒になることも出来ないのだ。

 ギリギリまでメンバーが分からないまま観光をするのかと思うと気が滅入るが、嫌になったら体調不良とでもなんとでも偽って退室すればいいだけだ。俺はこんな事よりもハルとの旅行を楽しみたいのだから。
 すぅ、すぅ、と穏やかな寝息を立てるハルに、自然と笑みが浮かぶ。途端前の方の席から何やら破裂音が響いたが、ハルの寝顔に夢中な俺は気にしなかった。


 暫くの間そうしてぼんやりとハルの髪を梳いていると、ヴー、というバイブ音と共に懐の携帯が震え出す。取り出して画面を起動すれば、最近ではお馴染みの風紀委員長からのメッセージ通知が光っていた。


『よ』
『おはようございます。要件はなんでしょうか』
『はぁ、いきなり面白くねぇやつだな』


 メッセージになると、彼特有の間延びした雰囲気が消え、なんだか別人のようだ。


『交流会、ガチのNGだけ教えとけ』
『で、マッチさせるんでしょ?大したご慈悲ですね』
『ちげーよ。取り敢えず御門と宝華、監査委員長は外してるが……他にいるか』
『生徒会役員全員、風紀委員会幹部全員、保健委員長、保健副委員長、監査委員会委員長、副委員長、2年、3年のF組全員』
『多いわ絞れ』


 これでも随分妥協した選択肢だ。眉を顰めて深い溜息を吐きつつ、再度考える。
 生徒会と風紀委員会は全員やっぱりNGだ。保健委員会というか保健室が俺的トラウマなのでその辺は全員無理。監査委員会委員長はハルを傷つけた罪で死罪に処す予定なので無理、副委員長は……いや無理だ、知ってて無視してるんだから無理。

 で、F組。
 F組とは、所謂問題児ーー風紀委員会に補導された続けて殿堂入りした生徒や成績不良の生徒、権力者の反感を買って堕とされた生徒、裏の世界に坐するお家の子息等ーーが生息している魔境だ。入ったら最後、奇跡でもない限り出ることは出来ない蟻地獄。
 御門に捕らえられた当初、俺は此処に入れられると思っていた。奴隷にされると怯えていたのも、F組で一定以上の立場を手に入れられなかった生徒の当然の末路だったから。元会計のF組なんて、真性サイコパスの巣窟では恰好の餌だ。

 結論、絞れない。

 とはいえ、流石にここまでの我儘を逆に通される方が困る。後々対価を要求されるかもしれないから。
 俺は少しの間思案し、再度画面をタップしていく。


『会長、会計、会長補佐、庶務補佐、風紀委員長、風紀副委員長、保健委員長、監査委員会委員長』
『俺とか絞らん?』
『中等部で俺に何したか覚えてらっしゃらないようで』
『暴行』
『カスが』


 シッカリカッチリ覚えてんじゃねぇか死ね。こんな場所で舌打ちをする訳にも行かないので、癒される為にハルの寝顔を覗き込む。あーもう可愛いなぁ。癒された。
 俺はハルの頬を人差し指でスルリと撫で、端末に打ち込んでいく。

 
『悪いですが、何がどう転んでも俺は赦しませんよ』
『別に赦されようなんざ思ってねぇよ。ただお前に恩があるだけだ』
『恩……?』
『あぁ。命でも返しきれねぇ程のな』


 風紀委員長にそんな貸しを作った記憶が全くないのだが。『人違いでは』と送ってみるが、間違っていないという。
 まぁ、貰えるものは貰っておいて、八束センパイに警戒しておいてもらえばいいか。


『ちなみにハルのNGは生徒会長、会長補佐、監査委員会委員長、副委員長、秋風君です』


 各学年1人と銘打ってはいるが、実際にそうなるとは限らない。奴らはするし、そもそも学年の合計人数にも多少差があるからダブリはある筈だ。
 この学校の闇の深さ故か、人数日は3年<2年<1年である。減った生徒が何処に行ったかって?ーー知るわけが無い。

 まぁ、一族を含めてまともな生活は送れなくなるだろうとは思っている。


『感謝は勝手にしていただいて構いませんが、近付かないで下さい。特にハルに』
『お前はいいのか』
『よくねーよ馬鹿が』



 ケラケラと軽快に笑う風紀委員長が簡単に想像出来た。

 最低限絞ったNGリストに『わかった』と返ってきたので、一先ず安堵する。ハルのNGリストには監査も入れておくようにと伝えると、同じ委員会同士はマッチングしないとの事で。
 有難い気遣いではある為、なけなしの感謝を込めて『ありがとうございます』と送っておいた。会話を切りたいのが分かったのだろう。『( ⸝⸝⸝  ̳   ̫   ̳ ⸝⸝⸝)』とやたら可愛い絵文字で帰ってきた。
 
 端末を消し、ふと下を見下ろす。


 ーービクゥッッ


「また端末」
「ゴメン」


 眉を顰めたハルが、深淵のような目をかっぴらいて此方を見上げていた。





 
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