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30.新入生歓迎会 そのに
しおりを挟む「わぁ……すっごく綺麗」
「なに、初めてなの?僕3回泊まったことあるんだから!」
「3回?僕は5回だよ。理事長様直々にパーティにご招待頂いたこともあるんだから」
「僕はーー」
なんてクラスメイト達のマウント合戦を横耳に、俺はバスの運転手からキャリーバッグを受け取る。礼を言ってウトウトと俺の背に凭れているハルの分も受け取れば、何故かバスの運転手は顔を真っ赤にして恐縮していた。
ハルを引き摺りながら2人分のキャリーバッグを両手で引き、玄関ロビーの自動ドアを潜る。
外装も海外の城か?と思う程豪奢だったけれど、内装もそれに勝るとも劣らない美しさと豪華さだ。ご丁寧にお辞儀をしてくれるホテルマン達(この3日間は女性従業員はいない)に会釈を返しつつロビーの中央に入れば、気だるそうにソファにふんぞり返った担任が俺達を見上げた。
「名前呼んだ順にルームキー受け取りに来いよー。ペアのどっちかでいいぞー。何時までも集るなー受け取ったやつからさっさと上がれー。
ほれ、頼んだ秋風」
「僕じゃなくて学級委員長に頼んで下さい。はいどうぞ委員長」
「死ねよ」
「僕が呼びまーす。はい、先ずはーー」
憐れ秋風君。君は全然間違ったことは言ってないよ……。しょんぼりしながら名簿を読み上げ始める秋風君をぼんやりと見つめていると、未だに凭れかかったままのハルに目を隠された。
目覚めたならキャリーバッグを持ってくれ。持ち手をもう片方の手に握らせておく。
「夏樹ーイチャついてねーで取りに来い」
担任の呼び声にのんびり群衆の中へ向かうと、俺が来た瞬間海が割れたように群衆が二手に別れる。
秋風君の前に立つと、丁度同じくらいの身長の彼とバッチリ目が合う。
「はいこれ鍵」
「ありがとーございますー」
「どういたしまして」
「楽しんでね」
「俺の隣にはハルがいるので既に楽しいですー」
「あははははははなら良かったー!」
「お前ら仲良いなー」
良くねぇよクソが。とは言えないので、担任の背後に誰も居ないのをいいことに無表情で担任を見下ろしておく。ビビった様子で追い払われる仕草をされたので、俺は笑顔を作り直してハルの所に戻った。
手を差し出してくるハルに鍵を渡せば、ハルは気だるそうな仕草のまま俺と手を繋いで歩き始める。
交流会の一貫として、ホテルの部屋はクラスや学年によって決まっている訳ではなく完全にランダムだ。勿論『階級』によって割り振られる部屋の等級はある程度決まってはいるが。
ペアに『金』がいる生徒達は18-20階のスイートルーム。
ペアに『銀』がいる生徒達は15-17階のジュニアスイートルーム。
ペアに『銅』がいる生徒達と教員陣は、10-14階のラグジュアリールーム。
『白』の生徒達は5-9階のデラックスルームだ。
別に『白』でも充分豪華で広いのだが、金持ちな生徒達はデラックスでは満足出来ないらしい。新入生歓迎会の2週間前くらいからは、『銅』以上の生徒に自分をペアにしてくれとアピールする生徒達が続出していた。主に大食堂に。
俺とハルは誰がどう見ても2人でペアを組むと決まっているので1度も声は掛けられなかったが。ーーまぁ、御門と敵対したことも理由の一つだとは思うけど。
「ここかぁ」
「うん」
順番をしっかり守ってエレベーターに乗り、14階で降りた先。廊下1番奥の真っ白な扉の前に立った俺達は、ゆっくりと息を吐く。
角部屋ラッキー!等と安直に喜べる程、俺達は帝華を信用していない。
「1つ上の階は『銀』か」
「エレベーターから遠いねぇ」
「非常用階段は近い。逃げるのは難しいが、連れ去るには丁度いい」
まぁ、最初からただただ平和なイベントになるなんて思ってはいない。とはいえここまであからさまだと最早笑ってしまう。
俺は端末を取り出し、ハルに一言断って八束センパイに連絡をする。
『1410の部屋になりましたぁー。角部屋です』
『畏まりました。事前にお渡ししておいたピアスは身に付けていらっしゃいますか?』
『2人とも付けてますよー』
発信機と録音機能付きの盗聴機が埋め込まれているらしいピアスは、事前にハルとお揃いで八束センパイから渡されたものだ。万が一の際に俺とハルの居場所が逐一八束センパイに知らされるように。
ちなみに、緊急時1度ピアスをタップすると起動するので、普段の俺達のプライバシーが破られる事は無い。
そんな仕様でなくとも、八束センパイがそんなことをするとはもう思っていないけれど。
『親衛隊副隊長が銀フロア16階、親衛隊暗殺部隊が銅フロアの13階、12階になっておりますので、彼等の連絡先を念の為お送り致します。自分は17階です。
このイベント終了後削除して頂いて構いませんが、イベント期間中のみ彼等と情報共有をお願い致します』
「暗殺部隊……?」
「流石過激派」
「何、帝華学園って殺人未遂まで揉み消されてるの?」
「普通にされてると思う」
されてんだ……。
物悲しい気持ちになりながら、送られてくる連絡先を登録していくと、次々と親衛隊員から挨拶の連絡がくる。その全てが『ご返信は不要ですので、どうぞ春名様とごゆっくりお過ごし下さいませ』という文末で締めくくられていた為、有難くそうさせてもらう。
ハルはハルで八束センパイから同様の連絡先が送られてきたらしく、端末をポチポチと弄っていた。
取り敢えずカードキーをスキャナーに翳して入室し、各々荷物を置く。次いで、馬鹿広い寝室にクイーンサイズのベッドが2つ置かれているのを見つめ、俺達は視線を交わした。
「一緒のベッドで良いや」
「うん。もう1つはお菓子パーティー用にしよ」
「あり」
そうと決めたら早速荷解きをし、制服から普段着へと着替える。
八束センパイになんか知らんけどプレゼントされたオーバーサイズの黒パーカーをハルとお揃いで着用し、白のスリムパンツを履いた。ハルはスキニーパンツだ。
全身鏡の前でハルとツーショットを撮って八束センパイのメッセージに添付すれば、0.5秒位で既読が着いた。
が、返事が来ない。
「あれー?返事来ないな」
「なんかあった?」
「分かんなーい」
すると、ポン、と通知音がなって新しく追加したばかりの親衛隊副隊長からメッセージが来た。
そこには、先程まで俺達がいたロビーの床に俯せに倒れている八束センパイが映っていて。……え、死んだ?
『隊長から直接お返事が出来ず申し訳ございません』
『えーと、ご無事ですかー?』
『はい。ただ気を失っているだけなので、私共が責任をもって運びます』
『それは無事なんですか……?』
『はい。ご心配ありがとうございます』
ならいいけど。俺はそれ以上考えることをやめ、もう一度ハルとツーショットを撮る。両親と弟に『親友』と一言メッセージを送っておいた。
ちなみに、3日に1回は家族とちゃんと連絡を取っている。家の仕事など、御門から圧力がかかったりは取り敢えずしていない事も確認済み。
俺達はベッドに向かい合うようにして寝そべり、手を繋ぐ。濡れ羽色の瞳はウトウトと未だに眠たそうで、可愛い。
このまま時間まで眠ってしまうのもありな気がしてきた。
それはハルも同じなようで。
「ナツ、部屋にいよ」
「そーだね。ルームサービスでおやつだけ頼んでゆっくりしようか」
「うん」
八束センパイにその旨を連絡すれば『下が騒がしい為、その方がよろしいかと』と、という了承の返事と共に、写真についての賛美のメッセージが10行ぐらいで来た。
「ナツ」
「んー?」
「風紀委員長に写真送っといた」
「なんで???」
有難うだって。
と、とろとろに溶けた声で呟き、ハルは眠りについた。
「……いや、なんで?」
「要」
「……」
八束 要は、ニヤニヤと不遜な笑みを浮かべて立つペアの男を振り返る。ゆったりとした足取りで近付いてきた男は、八束の頬をするりと撫でて、満足したようにキングサイズのベッドへと腰掛けた。
端末を持ったまま無表情で立つ八束を見上げ、男は瞳を愉悦に染める。
あぁ、嫌いだなぁ。としみじみ思っていると、その思いを読み取ったのか男は益々歪に口角を上げた。
「そんなけったいな顔せんでや」
「お前とペアになったのは夏樹様と春名様の為だ。図に乗るなよ塵」
「春名様、ねぇ。夏樹はんは兎も角あんな平凡受け入れるとは思わんかったわ」
「殺すぞ」
実は勝手に夏樹様とお揃いにしているスタンガンを彼の喉に当て、八束は殺意を向ける。瞬きの間もなく己の急所を掴まれた男は、それでも一切怯えることなくニヤニヤと嗤った。
あぁ、己が用意した服を着て下さった麗しいお2人を見る事が出来たのに、本当に死んでくれ。
ギチリ、と歯を食いしばって「死ね」と呟く。
「ふ、ふ、えらい可愛なったなぁ、要」
「黙れ死ね」
「ちょっと前まで死人みたいやったんにイキイキしよって……あかんで、そんなん」
向けられたスタンガンの先端を手に取り、グンッと引かれる。躊躇うことなくスイッチを押すが、その瞬間手を離されてしまった。
あと少しで殺せたのに。
ケラケラと嗤う男は、距離を取って殺意を向ける八束をじっとりと見つめ、再度「あかんで」と呟いた。
「壊したなるやん?」
「死ね」
「ふ、ふ、夏樹はんの為に俺と同室なったんやったら機嫌でも取りや」
「殺すぞ」
「まぁまぁ」
蛇のように細められた目を瞬かせ、男は形ばかりの降参のポーズを取る。
ーーダァン!!!
「ッぐ、ぅーー!!」
「真宮と組んだな?」
抵抗する間もなく首を掴まれ、壁に叩きつけられる。構えようとしたスタンガンは腕ごと掴んで拘束され、身動きが一切取れなくなった。
八束はぐらぐらと揺れる脳を何とか動かして、目の前で嗤う男を睨み付ける。その行為になんの意味もないことは自分が1番よく分かっているが、何もしない方が腹立たしかった。
「流石の要もこうなったら形無しやなぁ」
「だま、れ」
「なんのつもりや?言え」
「……」
「あいつか?」
ピク、と微かに口元が震える。
男はそれを見逃してはくれない。
「…………妬けるやん」
手が、迫ってくる。
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