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第2話。

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 謁見の間に入った俺は、サムシング辺境伯様の右斜め後ろに両膝をついて、右手を左胸に当てて畏まった。

「サムシング辺境伯よ。久しいな。息災であったか」
「は。お陰様にて病知らずにございます」
「それは何よりであったな。して? その者が?」
「は。我が領都を本拠地にしておりますSSランク冒険者でございます」
「SSランク冒険者とな? 其の方、名は何と言う?」

 国王陛下の御下問ではあるが、口は閉ざしている。
 その代わりに、陛下の傍らに控えている宰相コンラッド侯爵閣下に目配せをした。
 その意味を察した宰相閣下は、微かな感嘆の表情を見せた。

「陛下の御下問である。お答え致せ」
「は。ミューラーと申します」

 古式正しい作法「恐懼」を目の当たりににして、国王陛下も「ほう」と驚いた様子だ。

「良い。面を上げよ」
「面を上げよとの御下命である」
「畏れながら、御威光に圧せられて叶いません」
「許す。面を上げよ」
「面を上げよとの仰せである」

 俺は、そっと頭を上げるが、目線は下を見ている。

「顔を見せよ。面倒じゃ。恐懼は終いじゃ。直答を許す」
「は。身に余る光栄にございます」
「其の方が"ドラゴンバスター"のミューラーであるか」

 「ドラゴンバスター」とは、ソロで何体ものドラゴンを討伐した者に贈られる称号だ。

「は。若輩の身には過ぎたる称号でございます」
「ははは。謙遜では畏れいる」

 国王陛下の機嫌は良いようだ。

「時にミューラーよ。我が娘マリューがドラゴン肉を馳走になったと自慢しておったが、予にも馳走してくれぬかの?」
「御下命とあらば、否やはございません」
「おおっ、左様か。なれば、夕食に食べたいの。楽しみじゃのぅ」

 ははは、と楽しげにわらっている陛下に、サムシング辺境伯様が俺を見て小さく頷いた。俺も頷き返す。

「陛下。陛下と王妃様に献上の品がございます」
「ほう。予ばかりではなく、妃にもか。如何なる品かの?」
「これにございます」

 サムシング辺境伯様はポケットから取り出した小さな宝箱を、近侍に渡した。
 宰相閣下が受け取って、改めて陛下に渡す。

「卿よ。これは?」
「まずはご覧くださりませ」
「ふむ」

 陛下は慎重な手付きで宝箱を開ける。

「指輪…?」

 中身は二個の指輪だった。
 美しいデザインではあるが、この指輪が何だと言うのだろう?

「ご説明致します。その二つの指輪には.【対物対魔攻撃絶対防御】が付与してあるダンジョン産の逸品にございます」
「【対物対魔攻撃絶対防御】じゃと…!?」

 秘蔵の国宝級の魔導具だと分かり、陛下の顔が引き攣っている。

「サムシング辺境伯殿。今、ダンジョン産と申されましたな?」
「如何にも申しました」
「では、もしやして?」

 宰相閣下の目が俺に向けられた。

「ご推察通り。このミューラーが命懸けで入手した逸品にございます。何しろ我が領地の100階層ダンジョンを踏破したSSランク冒険者にございますれば」

 サムシング辺境伯様は我が事の如く、胸を張って自慢する。
 と、陛下と宰相閣下が笑った。

「卿よ。お主の領内にSSランク冒険者がいるのは分かったが、何も卿が胸を張る事ではあるまい」
「左様ですな。まるで、我が子を自慢するかのようでございましたな」

 二人から揶揄われたサムシング辺境伯様は、照れくさそうに頬を掻いた。

「畏れながら。手前からも陛下に献上の品がございます」
「ほう? 其方から、の。この魔導具よりも優れた品か?」
「はい。但し、魔導具ではございません」
「魔導具ではない?」
「は。コレでございます」

 空間魔法のイベントリから、細長い宝箱を取り出した。
 その宝箱には、ダイヤモンド、サファイア、ルビー、アメジスト、オパールで装飾してあった。
 中身が無くても、宝箱だけでもかなりの価値がある。
 コレも近侍に渡し、陛下に献上した。

「開ける前に教えよ。中身は何じゃな?」
「魔剣ガルドバルグでございます」
「「……? ……ッ!? ま、魔剣!?」」

 陛下と宰相閣下の顔が驚きを超えて、恐怖に歪んだ。
 
 〔魔剣〕

 それは、国の威光を示し、大陸に覇を唱えるに不足ない代物だ。
 隣国ガルシア帝国と海を挟んだフリイバード皇国に秘蔵してあるとは聞いていたが…。

「遂に我が国も〔魔剣〕を手にしたか」
「陛下。これは御子様の誕生を祝うのには最も相応しき逸品でございますな」
「うむ。そうじゃな。ミューラーよ。この魔剣は生まれ来る我が子への祝いの品とし貰い受けるぞ。卿も、斯様に優れた
者に引き合わせてくれた事、嬉しく思うぞ。礼を言う」

 国王陛下は、そう言って本当に頭を下げた。
 サムシング辺境伯様は、それ以上に頭を下げて、御子様の誕生を祈願する旨を言上した。
 が、俺は違う事を考えていた。

(へえ。国王陛下には赤ちゃんが生まれるのか。それはおめでたい事だな。何かプレゼントしたいけど、何か相応しい物は無かったかな?)

 心の中でアイテムボックスの中を隈なく探す。
 と、

「(あった! コレなら…良し!)畏れながら、お尋ね致したい事がございます」
「うん? 別に構わぬが、何を聞きたいのじゃ?」
「この度、陛下におかれましては御子様が誕生なされるのでございますか?」
「うむ。五十を過ぎての、恥の掻き捨て子というものだがな。医師や治癒師の見立てでは男の子である事が分かっておるのじゃ。名前も決めておるのじゃ。知りたいか?」
「それは、もう。是非ともお伺い致したき事にございます」
「そうか、そうか。ならば、特別に教えて遣わす。その名は…ヴォルフラム。どうじゃ。良き名であろう?」
「ヴォルフラム王子殿下…。何とも心躍るお名前にございます。流石は陛下。素晴らしき事と敬服仕りまする」

 俺が褒め称えると、陛下の顔が緩みっぱなしのデレデレになった。

「では。ヴォルフラム王子殿下には、御誕生の祝いの品を献上致します」
「…え?」

 陛下の顔が引き攣った。

「このネックレスには、【シールド】と【スタンボルト】の魔法が付与してあります。邪なる者が近付くと、自動的に【シールド】が発動し、触れた者は【スタンボルト】の餌食になります。王子殿下を守護するには相応しき品かと。何卒、お受け取り頂きたく存じまする」
「ミューラーよ。貴族に叙爵してやろうか?」
「?」

 俺が首を傾げると、陛下は言った。

「このネックレスもダンジョン産の品なのであろう? 我が子の事を思えば、これ程嬉しい物はない。故に有り難く受け取ろう。じゃが、予には其方の好意に報いるに相応しき物が思い浮かばぬ。ならば、せめて貴族に叙爵するしか術がないのじゃよ。本当なら大公爵でも良いのじゃがの。この国も一枚岩ではないでな。侯爵で我慢してはくれぬかの?」
「…陛下。侯爵位の叙爵は辞退致します」
「…不満か?」
「さにあらず。常日頃から手厚い庇護を受けている辺境伯様より上の爵位を得るなど、恩を仇で返すも同じ事。辺境伯様を侯爵に陞爵なされるか、叙爵されるとしても一つ下の伯爵位。それも、一代限りの名誉伯爵であれば有り難くお受け致します」

 陛下、宰相閣下、サムシング辺境伯様方は、目を合わせて頷いた。

(何と欲の無い男であろうか)

 三人心の中で、感心した。
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