レンガの家

秋臣

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強くて弱い

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4年になり、陽南は就活が本格化し、プレッシャーと連日の緊張感で相当疲れているようだった。
近くにいてやりたい、そばで寄り添ってやりたい、しかし今はそれすらも負担になるような気がしてもどかしい。

「辛かったら無理せず言うんだよ、いつでもそっちに行くから」
「ありがとう、でも私も頑張りたい、頑張らせて」
「わかった、連絡待ってる。
どんな連絡でも待ってるから」
「うん、甘やかさないでくれてありがとう」
「その代わり、連絡来たらすぐにそっちに行くよ?いいね」
「うん、早く会いたいから頑張るね」


俺も陽南に伝えなくてはいけないことがある。
でも今ではない、陽南の連絡を待ってからだ。
それまで俺もやるべきことをやる。
それだけだ。


8月、陽南から連絡が来た。
珍しく電話だ。
早く出たいが怖い。
でも陽南の声を聞きたい。
「もしもし、陽南?」
「壮祐くん?」
「うん、どうした?」
「あのね、内定もらえた!」
マジか!?
「おめでとう!どこ?本命?」
「うん!そう!」
「陽南、よく頑張ったね、偉いよ!」
「うん…壮祐くんなら褒めてくれると思った…私褒めて欲しい…」


俺は陽南に言わないといけないことがある。
「陽南、俺、約束守れない」
「え?」
「連絡きたらすぐにそっちに行くって約束しただろ?」
「うん、来てくれないの?」
「話がある」
「……なに?」
陽南の声のトーンが落ちる。

「先に言っておくけど絶対別れないよ」
「本当?別れ話ではない?」
「別れる理由がない、一緒にいたい理由しかない」
「やだ…かっこいいこと言ってる」
「かっこつけさせてよw」

「陽南、俺、院試受けた」
「え?」
「大学院に行きたいんだ、研究を続けたい」
「卒業しないってこと?」
「あと2年やりたい」
「……」
「ごめんな」

「壮祐くん」
「ごめん、伝えなくてごめん」
「壮祐くん、それは謝ることなの?」
「え?」
「伝えられなかったのは私が就活で余裕がなかったからでしょ?」
「…うん。陽南に余計な心配させたくなかった」
「壮祐くんが大学院に行ったらなにか変わるの?」
「だって…そっちに戻るのが遅くなる…」
「私、社会人になるの」
「うん」
「生活が変わるのは私。
多分余裕ありません!」
「え?」
壮祐くんが夢中になって研究している間、私はグランドスタッフとして食らいついていかないといけない。
お互い、まだまだ必死ということですのでもっと頑張りましょう」

ふはっ!
強い、陽南は本当に強い。
俺が東京に戻るのをあんなに楽しみにしていたのにそれを一切言わない。
泣き声が震えているのに、あんな言葉を言い切れる。

でも俺は知ってる。
陽南は強くて弱い。

「壮祐くんの結果はいつ出るの?」
「9月上旬」
「結果が出たら教えて」
「もちろん」

「壮祐くん」
「ん?」
「わがまま言ってもいい?」
「いいよ、なんでもどうぞ」
「なんでもいいの?」
「なんでもいいよ」

「壮祐くんに会いたい……」


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