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違和感
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京佐の部屋の鍵を手に入れた俺は、自由に部屋を出入りしていた。
京佐がいなくても入って待てる。
暑くても寒くても無敵だ。
なんなら飯を作って待ってたりすることもある。
インスタントをチンするくらいならできるから、手土産の代わりとでも思ってくれ。
俺がこの部屋の主を出迎えるたびにその主である京佐はうんざりとした顔をして、
「いい加減鍵を返せ」
と顔を見るたびに言う。
そんな時はこうする。
すりっ……と近寄り、
「待ってた……」
と首筋にキスする。
そこが弱いのは知ってるし、わざとやってる。
「風呂入ってから……」
と京佐は言うが、お前わかってねえなあ。
そのまんまがいいんだろ?
石鹸の香りもいいけどさ、そのまんまの匂いがエロいんだよ……
って俺変態か?
セフレ宣言をしてからの京佐のノリの良さは俺を益々ダメにしていく。
セックスは楽しくやりたい。
正直、いろいろ気を遣ってやるのは気が削がれて集中できない。
心底楽しんでくれた方がこちらとしても有り難いし、楽しめる。
京佐はそこをわかってる。
うるさいのは鍵のことだけだ。
失くさないから安心しろよ。
そんな俺たちだったが、春から夏に季節が変わろうとする頃、それに伴うように変化が起き始めていた。
梅雨に入り、いつものようにアポ無しで京佐の部屋にいた。
バイトは遅い時は23時に終わるらしい。
だから帰りが0時近いこともある。
外で待つわけではないのでのんびりしていた。
京佐の部屋のものは俺のもの、というわけではないが、好き勝手に使わせてもらっていた。
パソコンやタブレットは使用NG。
中を見られたくないというより、間違ってデータ飛ばしたら取り返しがつかないのでそこは俺も承知している。
あとは手紙や書類も勝手に見ない約束になっている。
それは人として当然のことだからな。
ナポリタンが食いたいなと思って、下ごしらえして待つ。唯一作れる料理だ。
俺のナポリタンはなかなか美味いのだ。
作ると京佐も、
「美味いな」
と毎回褒めてくれる。
なのになかなか帰ってこない。
0時を回っている。
いつもは0時前には帰るのに。
LINEしてみるも既読にならない。
電話しても出ない。
まだバイト終わってねえのかな……
先食っちまうぞ。
0:30を過ぎても帰ってこない。
腹減り過ぎて倒れそうだから自分の分だけ作って食べた。
帰ってきたら作ってやるから許せ。
1 時を過ぎても2時近くになっても帰らない京佐にさすがに心配になる。
LINEも電話もつながらない。
どうしたんだよ、京佐……
いつもの間にか寝てしまっていたようだ。暑くて目が覚める、7:00過ぎだ。
部屋は夜のままの状態だった。
え……京佐は?
ベッドにもいない。
風呂も入った形跡がない。
帰ってないのか?
こんなこと今までなかった。
何かあったのか?
LINEも電話もない。
連絡をとってみてもやはり繋がらない。
今日は京佐も2限からのはず。
とりあえず学校に行こう。
学校に行けば京佐はいる、たぶん。
わけがわからないまま俺は京佐の部屋の鍵をかけた。
学校に行くと京佐はいた。
依田と喋ってる。
お前どうしたんだよ、ずっと待ってたんだぞ、なんで連絡しないんだよ、何かあったのか?
聞きたいこと、言いたいことが山ほどある。
「よっす!」
曽川だ。
「あれ? きょうさにしてはTシャツ派手じゃね?」
「だよな、俺もそう思って聞いてたとこ」
依田が答える。
「そんなに変?」
「変じゃねえよ、いつもそういうの着ないじゃん」
「そうそう」
「自分でも落ち着かないんだけどね」
と京佐は笑ってる。
「なんで? 趣味変わったとか?」
「そうじゃなくてさ、昨日バイト仲間と飲みに行って遅くなったからみんなで後輩の部屋に泊まったんだよ。エアコンの効きが悪くて、朝起きたら汗だくで後輩が着替えのTシャツ貸してくれた」
「なるほどね」
「原色とかネオンカラーとかが好きらしくて、どれも派手で、その中でもおとなしめのを選んだんだけど、それでも派手だったみたい」
「意外と似合ってるけどな」
「うん、悪くないぞ」
「そう?」
「なあ、似合ってるよな?禄郎」
「え? ああ……結構似合うな」
「ほらな」
「普段が地味すぎるのかな、俺」
「地味だな、京佐は」
「爺さんみたいな時あるよな」
「それな!」
曽川と依田が爆笑してる。
「爺さんは言い過ぎだろ!」
3人でギャーギャー騒いでる。
そっか、泊まったのか。
それなら連絡くらいくれればいいのに。
曽川と依田が京佐のファッションを変えてやると、あれこれ勝手にコーディネートを考えノートにイラストを描いている。
それを横目で笑いながら俺に話しかける。
「昨日、LINEとか返せなくてごめん、充電切れちゃって」
「うん……」
「なにか急ぎだった?」
「いや……大したことじゃないから」
「そう? 出られなくてごめん」
「うん」
京佐は二人の考えた酷いコーディネートにダメ出しをする。
確かに酷いコーディネートだ。
笑ってしまう。
いつもの京佐だった。
でも何か違和感があるような気がしたが、その時の俺には全くわからなかった。
京佐がいなくても入って待てる。
暑くても寒くても無敵だ。
なんなら飯を作って待ってたりすることもある。
インスタントをチンするくらいならできるから、手土産の代わりとでも思ってくれ。
俺がこの部屋の主を出迎えるたびにその主である京佐はうんざりとした顔をして、
「いい加減鍵を返せ」
と顔を見るたびに言う。
そんな時はこうする。
すりっ……と近寄り、
「待ってた……」
と首筋にキスする。
そこが弱いのは知ってるし、わざとやってる。
「風呂入ってから……」
と京佐は言うが、お前わかってねえなあ。
そのまんまがいいんだろ?
石鹸の香りもいいけどさ、そのまんまの匂いがエロいんだよ……
って俺変態か?
セフレ宣言をしてからの京佐のノリの良さは俺を益々ダメにしていく。
セックスは楽しくやりたい。
正直、いろいろ気を遣ってやるのは気が削がれて集中できない。
心底楽しんでくれた方がこちらとしても有り難いし、楽しめる。
京佐はそこをわかってる。
うるさいのは鍵のことだけだ。
失くさないから安心しろよ。
そんな俺たちだったが、春から夏に季節が変わろうとする頃、それに伴うように変化が起き始めていた。
梅雨に入り、いつものようにアポ無しで京佐の部屋にいた。
バイトは遅い時は23時に終わるらしい。
だから帰りが0時近いこともある。
外で待つわけではないのでのんびりしていた。
京佐の部屋のものは俺のもの、というわけではないが、好き勝手に使わせてもらっていた。
パソコンやタブレットは使用NG。
中を見られたくないというより、間違ってデータ飛ばしたら取り返しがつかないのでそこは俺も承知している。
あとは手紙や書類も勝手に見ない約束になっている。
それは人として当然のことだからな。
ナポリタンが食いたいなと思って、下ごしらえして待つ。唯一作れる料理だ。
俺のナポリタンはなかなか美味いのだ。
作ると京佐も、
「美味いな」
と毎回褒めてくれる。
なのになかなか帰ってこない。
0時を回っている。
いつもは0時前には帰るのに。
LINEしてみるも既読にならない。
電話しても出ない。
まだバイト終わってねえのかな……
先食っちまうぞ。
0:30を過ぎても帰ってこない。
腹減り過ぎて倒れそうだから自分の分だけ作って食べた。
帰ってきたら作ってやるから許せ。
1 時を過ぎても2時近くになっても帰らない京佐にさすがに心配になる。
LINEも電話もつながらない。
どうしたんだよ、京佐……
いつもの間にか寝てしまっていたようだ。暑くて目が覚める、7:00過ぎだ。
部屋は夜のままの状態だった。
え……京佐は?
ベッドにもいない。
風呂も入った形跡がない。
帰ってないのか?
こんなこと今までなかった。
何かあったのか?
LINEも電話もない。
連絡をとってみてもやはり繋がらない。
今日は京佐も2限からのはず。
とりあえず学校に行こう。
学校に行けば京佐はいる、たぶん。
わけがわからないまま俺は京佐の部屋の鍵をかけた。
学校に行くと京佐はいた。
依田と喋ってる。
お前どうしたんだよ、ずっと待ってたんだぞ、なんで連絡しないんだよ、何かあったのか?
聞きたいこと、言いたいことが山ほどある。
「よっす!」
曽川だ。
「あれ? きょうさにしてはTシャツ派手じゃね?」
「だよな、俺もそう思って聞いてたとこ」
依田が答える。
「そんなに変?」
「変じゃねえよ、いつもそういうの着ないじゃん」
「そうそう」
「自分でも落ち着かないんだけどね」
と京佐は笑ってる。
「なんで? 趣味変わったとか?」
「そうじゃなくてさ、昨日バイト仲間と飲みに行って遅くなったからみんなで後輩の部屋に泊まったんだよ。エアコンの効きが悪くて、朝起きたら汗だくで後輩が着替えのTシャツ貸してくれた」
「なるほどね」
「原色とかネオンカラーとかが好きらしくて、どれも派手で、その中でもおとなしめのを選んだんだけど、それでも派手だったみたい」
「意外と似合ってるけどな」
「うん、悪くないぞ」
「そう?」
「なあ、似合ってるよな?禄郎」
「え? ああ……結構似合うな」
「ほらな」
「普段が地味すぎるのかな、俺」
「地味だな、京佐は」
「爺さんみたいな時あるよな」
「それな!」
曽川と依田が爆笑してる。
「爺さんは言い過ぎだろ!」
3人でギャーギャー騒いでる。
そっか、泊まったのか。
それなら連絡くらいくれればいいのに。
曽川と依田が京佐のファッションを変えてやると、あれこれ勝手にコーディネートを考えノートにイラストを描いている。
それを横目で笑いながら俺に話しかける。
「昨日、LINEとか返せなくてごめん、充電切れちゃって」
「うん……」
「なにか急ぎだった?」
「いや……大したことじゃないから」
「そう? 出られなくてごめん」
「うん」
京佐は二人の考えた酷いコーディネートにダメ出しをする。
確かに酷いコーディネートだ。
笑ってしまう。
いつもの京佐だった。
でも何か違和感があるような気がしたが、その時の俺には全くわからなかった。
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