恋人ごっこはおしまい

秋臣

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互いの気持ち 

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涙が溢れた。
俺の手には返された合鍵が握られている。
そしてもう一つ、使えなくなった京佐の部屋の鍵。

居ても立っても居られなかった。
走り出した俺は京佐の部屋へ向かう。

バイトかな、バイトだよな、この時間はそうだから。こんなことも把握してるくらい一緒にいたのに……
一緒にいたから……俺は……

電車に乗り、京佐の部屋に着く。
部屋の明かりは点いていない。
バイトか……
駅からずっと走ってきたから息が上がってる。
もしかしたら使えるかもしれない……
鍵を鍵穴に挿し込んでみる。
やはり鍵穴に入らない。
拒絶されているみたいで怖くなる。
いや、鍵を返されたのだから拒絶なんだ……

いつかのようにドアの前に座り込む。
暑い……夜になっても気温が下がらない。

京佐、まだここに住んでるよな?
引っ越したから鍵変わったとかないよな?

マイナスな考えしか浮かんでこない。

京佐……



ガサッ。
ビニール袋の音がする。
コンビニの袋を持った京佐が俺を見ていた。

「なんで……」
京佐はまたスマホを取り出しスケジュールを確認してる。

京佐の前に立つ。

「……約束はしてない」
「……」
「鍵が使えない」
「……」
「どうして俺の合鍵返したんだ?」
「……」

京佐が目を合わせずに言う。
「もう遅いし帰ったほうがいいよ、あと少しで終電だから……」
京佐は俺の横をスッと通ると鍵でドアを開ける。
鍵には赤いハートのキーホルダーが付いていた。

「女いるのか?」
「え?」
「付き合ってる人いるのか?」
「……」
「京佐……」
「……ごめん、疲れてるから……おやすみ……」

京佐がドアを閉めようとするのを阻止する。
無理矢理体を捩じ込んで玄関の中に入る。
「禄郎……」
京佐が明らかに困惑している。


この前までなにも考えずに抱きしめられた。
今は怖くてできない。

京佐のTシャツを摘む。
手が震える。

「俺じゃダメ?」
「……え?」
「俺じゃダメか?」
「なにが? 禄郎?」


「京佐が好きだ」


怖い……
俯いたまま顔を上げられない。
でも……
でも伝えないと……

「俺、やっとわかった。
俺の心の中にあるものがなにか、やっとわかったんだ」
「……」
「俺、京佐が好きで……どこにも行ってほしくなくて……俺だけの京佐でいて欲しくて……」
「……」
「大切にしなきゃいけなかったのにできてなかった。
やり方を間違えた。
体が先行したけど、それは絶対に後悔なんてしてない。
繋がれたことを後悔なんかしたくない。
でも気持ちを置いてきぼりにした。
俺が大事なことを伝えなかったのが悪い」
「……」


京佐の胸におでこをつける。

「頼む……否定でも拒絶でもいい。
なんでもいいからなにか言ってくれ……」

「俺は……」
京佐の鼓動が聞こえる。すごく速い。

「俺は……これ以上禄郎とこうしていたら友達に戻れなくなる。
今ならまだなんとか間に合う……
だから、もうやめたい、やめてくれ……」
 
「京佐……」


「禄郎は恋人ごっこしようぜって言ったけど俺はできなかった。
自分を欺くようなことをするなら、いっそのこと体だけと割り切ったセフレの方がまだマシだった。
ごっこもセフレも気持ちがないのが同じなら、その方がマシだって、それならできるって受け入れた。
できると思ったけど……
やっぱりこれ以上は無理だ、ごめん……」

京佐……

「セフレならいいよ」
京佐がそう言った時、意外だと思った。
それと同時にノリが良くて最高じゃんとも思った。

バカなのか、俺は。
人の気持ちを何一つ理解しようとしていなかった。
言葉の裏にあるものを見ようともしなかった。
これじゃ振られて当然だ。

でも、俺はここで引くわけにはいかない。
ここで引いたらまた俺は京佐の気持ちを踏みにじる。
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