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旅の計画
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あれから数週間経った。
少しずつ俺と京佐は元の状態を取り戻しつつある。
普通に話せる、普通に遊べる、普通に泊まれる。
俺が京佐の部屋に行くことが圧倒的に多いけど、前のように泊まらせてくれる。
たまに俺の部屋にも来る。
でもセックスはしない、キスもしない。
そして合鍵はもらえない。
俺の部屋の鍵もいらないと言われてから、無理強いしないようにしていた。
友達に戻りたい、京佐がそう言うならそうする。
絶縁ではなく戻りたい、そう思ってくれる気持ちを大切にしたい。
俺の気持ちはひとまず封印した。
今は京佐の気持ちを一番に考えたい。
焦るな、ゆっくりだ。
ただ京佐への気持ちが明確になってからというもの、気持ちと体のアンバランスが生じてとてもきつい。
あれから体の関係は一切ないけど、ないから余計に体が勝手に反応してしまうことがある。
好きだと自覚した相手とのそれを思い出してしまうのだ。
きっつい。
一緒にいて不意に風呂上がりなどに体を見てしまうとムラッと来ないわけがなく、耐えろ耐えろと悶々と鬱屈していく。
それでも大切にしたい気持ちが心の中でビンタして、目を覚ませっ! と叱咤してくれる。
そうだ、ここで同じ轍を踏むな。
好きな相手を悲しませるな。
そう思い直すことができるようになった。
気づくのが遅過ぎたけど。
偉いぞ、俺。
そう自分で自分を褒めてやることでなんとか自分を保っている。
当たり前のことがやっと当たり前にできるようになってきたばかりの、恋愛初心者のような俺は相当かっこ悪い。
夏休みに入る前、曽川が、
「なあなあ、海行かね?」
と誘ってきた。
「日帰り?」
と俺が聞くと、
「日帰りでもいいけど疲れるから泊まりたい」
と騒ぐ。
「でも今からだと宿取れないんじゃない?ハイシーズンで宿泊費高いだろうし」
と京佐が曽川に現実を突きつける。
「え~行こうよ~、水着の女の子いっぱいいるぜ」
「それは捨てがたい」
「同意」
そこは誰も反対しない。
「となると、宿問題だな」
黙って聞いていた依田が、
「伊豆でもいい?」
と言ってきた。
「伊豆でもいい?って、依田、伊豆行きたいのか?」
「いや、そうじゃなくて伊豆ならうちの別荘がある」
「マジでっ!?」
3人同時に叫んだ。
「お前んち、別荘持ってんの?」
「うん、山と海にある。山は長野で、海は静岡の伊豆」
「依田ってお坊っちゃんなのか?」
「いや? じいちゃんが医者やってて、医者仲間に誘われて始めた登山に嵌って、好き過ぎて長野に別荘買ったんだよ。で、俺の親父が登山より釣りが好きで、それにじいちゃんも付き合ってたら釣りも好きになって、だったら海の近くにも別荘買おうって買ったらしい」
「お坊っちゃんじゃん」
「だよな」
「発想が金持ちのそれ」
「でも親父、病院継いでないからなあ」
「誰か継いでんのか?」
「叔父さん。親父の弟」
「依田の親父さんは何してんの?」
「弁護士」
「マジで!?」
「エリート家族かよ」
依田が突然笑い出す。
「笑い出したよ、こいつ」
「きもっ……」
「依田、どうした?」
「いや……エリートとかそういうことじゃなくてさ、一応親父が長男なんだよ。
じいちゃんは親父に継いで欲しかったみたい」
「うん」
「そうよな」
「わかる」
「でも親父は血とか内臓とかからっきしダメで医者にはならない、絶対継がないって頑なに断ったんだって」
「それは向いてないわ」
「むしろ医者になるな」
「確かにw」
「あまりにも親父が頑固だからじいちゃんがキレて、『継がないなら面倒ごとが起きた時のために弁護士になれ』って。それが継がない条件」
「すげえじいさんだな」
「強い……」
「ガチガチのレール敷かれたな」
「親父は逃げ道無くなって弁護士になるしかなかったってわけ。だから純粋にエリートとは言えないんじゃない?」
「いやいやいやいや! 曲がりなりにも医者二代に弁護士だろ? エリートじゃん」
曽川が反論する。
「だな」
「うん」
「まあ、うちの話はどうでもよくて、伊豆でいいなら使えるけど」
「伊豆のどこ?」
「S田。海釣り目当ての別荘だから有名な海水浴場からは少し距離あるよ。
ごじんまりとした人が少ないプライベートビーチみたいなところなら近くにあるけど」
曽川が依田の手を取り、握手する。
「充分です! 乗った!」
「依田いいの?」
「じいちゃんの登山のサポートで今年は山の方の別荘使うって言ってたから海の方は空いてるよ」
「お願いします!」
3人で頭を下げる。
「その代わりホテルとか旅館じゃないから自炊しなきゃいけないし、車じゃないと面倒だよ」
「そんなの全く問題ない!」
「レンタカー借りるか」
「ワンボックスでいいかな」
「車は俺のがあるよ」
依田坊っちゃん! 神っ!
「ガソリン代と高速代は割り勘な」
「了解!」
「依田、宿泊費はどうすればいい?」
京佐が気にする。
「いらないよ、食費だけで済むからそれも割り勘しようぜ」
「お坊っちゃん、あざーっす!」
「やめろ、お坊っちゃんじゃねえ」
依田坊っちゃんのご厚意で格安伊豆旅行が決定した。
少しずつ俺と京佐は元の状態を取り戻しつつある。
普通に話せる、普通に遊べる、普通に泊まれる。
俺が京佐の部屋に行くことが圧倒的に多いけど、前のように泊まらせてくれる。
たまに俺の部屋にも来る。
でもセックスはしない、キスもしない。
そして合鍵はもらえない。
俺の部屋の鍵もいらないと言われてから、無理強いしないようにしていた。
友達に戻りたい、京佐がそう言うならそうする。
絶縁ではなく戻りたい、そう思ってくれる気持ちを大切にしたい。
俺の気持ちはひとまず封印した。
今は京佐の気持ちを一番に考えたい。
焦るな、ゆっくりだ。
ただ京佐への気持ちが明確になってからというもの、気持ちと体のアンバランスが生じてとてもきつい。
あれから体の関係は一切ないけど、ないから余計に体が勝手に反応してしまうことがある。
好きだと自覚した相手とのそれを思い出してしまうのだ。
きっつい。
一緒にいて不意に風呂上がりなどに体を見てしまうとムラッと来ないわけがなく、耐えろ耐えろと悶々と鬱屈していく。
それでも大切にしたい気持ちが心の中でビンタして、目を覚ませっ! と叱咤してくれる。
そうだ、ここで同じ轍を踏むな。
好きな相手を悲しませるな。
そう思い直すことができるようになった。
気づくのが遅過ぎたけど。
偉いぞ、俺。
そう自分で自分を褒めてやることでなんとか自分を保っている。
当たり前のことがやっと当たり前にできるようになってきたばかりの、恋愛初心者のような俺は相当かっこ悪い。
夏休みに入る前、曽川が、
「なあなあ、海行かね?」
と誘ってきた。
「日帰り?」
と俺が聞くと、
「日帰りでもいいけど疲れるから泊まりたい」
と騒ぐ。
「でも今からだと宿取れないんじゃない?ハイシーズンで宿泊費高いだろうし」
と京佐が曽川に現実を突きつける。
「え~行こうよ~、水着の女の子いっぱいいるぜ」
「それは捨てがたい」
「同意」
そこは誰も反対しない。
「となると、宿問題だな」
黙って聞いていた依田が、
「伊豆でもいい?」
と言ってきた。
「伊豆でもいい?って、依田、伊豆行きたいのか?」
「いや、そうじゃなくて伊豆ならうちの別荘がある」
「マジでっ!?」
3人同時に叫んだ。
「お前んち、別荘持ってんの?」
「うん、山と海にある。山は長野で、海は静岡の伊豆」
「依田ってお坊っちゃんなのか?」
「いや? じいちゃんが医者やってて、医者仲間に誘われて始めた登山に嵌って、好き過ぎて長野に別荘買ったんだよ。で、俺の親父が登山より釣りが好きで、それにじいちゃんも付き合ってたら釣りも好きになって、だったら海の近くにも別荘買おうって買ったらしい」
「お坊っちゃんじゃん」
「だよな」
「発想が金持ちのそれ」
「でも親父、病院継いでないからなあ」
「誰か継いでんのか?」
「叔父さん。親父の弟」
「依田の親父さんは何してんの?」
「弁護士」
「マジで!?」
「エリート家族かよ」
依田が突然笑い出す。
「笑い出したよ、こいつ」
「きもっ……」
「依田、どうした?」
「いや……エリートとかそういうことじゃなくてさ、一応親父が長男なんだよ。
じいちゃんは親父に継いで欲しかったみたい」
「うん」
「そうよな」
「わかる」
「でも親父は血とか内臓とかからっきしダメで医者にはならない、絶対継がないって頑なに断ったんだって」
「それは向いてないわ」
「むしろ医者になるな」
「確かにw」
「あまりにも親父が頑固だからじいちゃんがキレて、『継がないなら面倒ごとが起きた時のために弁護士になれ』って。それが継がない条件」
「すげえじいさんだな」
「強い……」
「ガチガチのレール敷かれたな」
「親父は逃げ道無くなって弁護士になるしかなかったってわけ。だから純粋にエリートとは言えないんじゃない?」
「いやいやいやいや! 曲がりなりにも医者二代に弁護士だろ? エリートじゃん」
曽川が反論する。
「だな」
「うん」
「まあ、うちの話はどうでもよくて、伊豆でいいなら使えるけど」
「伊豆のどこ?」
「S田。海釣り目当ての別荘だから有名な海水浴場からは少し距離あるよ。
ごじんまりとした人が少ないプライベートビーチみたいなところなら近くにあるけど」
曽川が依田の手を取り、握手する。
「充分です! 乗った!」
「依田いいの?」
「じいちゃんの登山のサポートで今年は山の方の別荘使うって言ってたから海の方は空いてるよ」
「お願いします!」
3人で頭を下げる。
「その代わりホテルとか旅館じゃないから自炊しなきゃいけないし、車じゃないと面倒だよ」
「そんなの全く問題ない!」
「レンタカー借りるか」
「ワンボックスでいいかな」
「車は俺のがあるよ」
依田坊っちゃん! 神っ!
「ガソリン代と高速代は割り勘な」
「了解!」
「依田、宿泊費はどうすればいい?」
京佐が気にする。
「いらないよ、食費だけで済むからそれも割り勘しようぜ」
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「やめろ、お坊っちゃんじゃねえ」
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