恋人ごっこはおしまい

秋臣

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赤いハートのキーホルダー

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気づいたら朝になっていた。
カーテンの隙間から差し込む太陽がジリジリと照りつける。

朝までこのままでいられた。
欲に勝ったというより、ただの寝落ち。
ふっ
ウケる。
でも賭けは勝ちだ。
京佐は俺の恋人だ。
誰がなんと言おうと恋人になったのだ。

相変わらず寝起きの悪い京佐は俺の腕の中で、すやすやすぴーと爆睡している。
あんな賭けを言い出しておいてこれだもんな。
笑ってしまう。
でもそんな京佐が好きなんだ。
そんな京佐だから好きなんだ。

そんじゃ恋人の特権ということで熱烈キスで起こそうかな。
おっと、歯を磨いておこう。
起こさないようそっとベッドを抜け出し入念に歯を磨く。舌クリーナーとマウスウォッシュもして準備万端。
さて、それではいかせてもらいましょうか。
俺は京佐にディープキスする。


京佐は爆睡中にディープキスされて息ができなくなり、死にそうになりながらすごい勢いで俺を突き飛ばして起きた。
「マジで死ぬかと思った……」
「うはは!」
「せめて軽いやつにしろよ……」
「恋人の特権なんでね」
「あ、そっか……」
お前、忘れてたとか言うなよ。

京佐がモゾモゾ起きてベッドの上に正座する。
ん? なんだ?

「おはようございます」
「おはよう」

「……それでは改めまして……
お付き合い、よろしくお願いします」

京佐が頭を下げる。

ふはっ!
「なんだよ、それw」
「一応言っておこうかと」
ふっふっ
俺も正座する。
「京佐、俺の恋人になってください」
「承知しました」

ふっ
ふはっ!

「あのさ、言ってることはかっこいいんだけど、その寝癖なんとかしてくれw」
「うるせえな、鏡見ろ。禄郎だって酷えぞ」

京佐を押し倒す。
「おっ早速か?」
「お前は情緒ってもんがねえのか?」
「押し倒しといて善人ぶるな」

ちゅっとキスをする。
抱きしめ合う。
本当は嬉しくて嬉しくて爆発しそうなんだ。

でも。

「京佐」
「ん?」
「聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「俺の部屋の合鍵を返してきたこと前にもあっただろ? 理由はわかるんだ、あの時の俺が酷かったからだよな?
でも京佐の部屋の鍵を使えなくさせるほど嫌だったのか?
それともあの時期女がいたのか?」


ずっとずっと気になってたんだ。
どうして鍵が使えなくなったのか。
赤いハートのキーホルダーは女にもらったものなのか。
女がいたのか?
今確かめておきたい。 
全部クリアにしたい。

京佐はキョトンとし、すぐに笑い出した。
「笑い事じゃないんだ、俺すごく悩んだんだ」
京佐はくくくと笑いながら話し出した。


「禄郎に俺の部屋の合鍵を持っていかれたじゃん?」
「うん」
「その頃に同じアパートで空き巣未遂があったんだよ。入られそうになってるところに住人がたまたま帰ってきて未遂で済んだんだけど、大家さんがそれをすごく気にしてくれてさ。怖いだろうからって管理会社に言って全部の部屋の鍵を交換したんだ」
「え? じゃあ鍵穴にも挿せなくなったのって……鍵ごと交換したからなのか?」
「そういうこと」
「だから返せって言ったのか」
「うん。まあ、スペアが元々一つしかなかったしマジで失くされると困るから返して欲しかったのは本当。その上鍵を交換したら古い鍵を返さないといけなくて」
「だからか……」
「そう。でもあの時期は俺も悩んでたし、『合鍵なんて大したもんじゃない』って言った禄郎に腹が立って理由言わなかった。
俺、合鍵は特別だと思ってるから」

拒否は拒否だけど不可抗力が含まれた拒否に少しホッとするも、俺の不用意で無神経な言葉で京佐を傷つけたんだ。俺が悪い。
でももう一つは……

「あの時期女いたのか?」
「なんでそう思うのかがわからないんだけど」
「だって赤いハートのキーホルダーなんてお前つけてなかったじゃん。女にもらったんだろ?」

ぶはっ!
京佐がめっちゃ笑ってる。
「答えろよ!」
「いや、待ってwウケるw」
「全然笑えねえんだけど!」
「ウケるw」
「答えろ!」

ヒーヒー言ってる京佐がリュックの内側にカラビナでつけた鍵を外し、赤いハートのキーホルダーを俺に見せる。
「これさ、鍵を交換した時に大家さんのおばあちゃんが『怖い思いと面倒なことさせてごめんなさいね』って鍵につけるキーホルダーくれたんだよ。アパートの住人全員に配ったらしいんだけど、種類がいくつかあって早い者勝ちだったんだって。
俺最後でさ、赤いハートしか残ってなかったんだよ。『男の子なのにこれでもいいかしら?』って大家さんのおばあちゃんが恐縮してるのがかわいくてさ、喜んで付けさせてもらいますってもらったんだ」

「マジか……」
「女にもらったは合ってるなw」
「婆さんじゃねえかよ」
「いい大家さんなんだぞ!」
「確かに」
「誤解は解けた?」
「うん……鍵使えなくてめっちゃ焦ってたし、キーホルダーにめっちゃ嫉妬してた」
「ウケるw」

使えなくなった京佐の部屋の鍵はずっと財布に入れていた。
諦めきれなくて……
何かの間違いであってくれ、もしかしたら使えるかもしれないと思い返せなかった鍵だ。
それをやっと京佐に返す。

「俺もしかしてすごいヤキモチ焼きなのかもしれない……」
「いいんじゃね?w」
「ヤキモチ焼かせんなよ」
「禄郎次第かな」
「俺、めっちゃいい彼氏になるから」
「楽しみだな、期待してる」
「任せろ」

俺たちは改めて恋人としてキスをした。


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