いきたがり

秋臣

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寝る

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家に帰ると八雲さんはちゃんと家にいた。
出たくても出られないのだからいるしかないけど。
それでも逡巡したのがよくわかる。ソファーの隅に寄りかかるようにして床で座ったまま寝ていた。
どこかの部屋のベッドで寝ればいいのに、 体ガチガチに痛くなるぞ。

また八雲さんを担ぎ上げ、ベッドへ運ぶ。
面倒だから俺のベッドでいいか。
ベッドに寝かすと、うにゃうにゃ言ってるが起きる気配はない。なかなか肝の据わったおっさんだな。
とりあえず俺はシャワーを浴びてくることにする。

シャワーから戻ると、ベッドの上でキョロキョロしながら正座してる八雲さんがいた。
なにしてんだ、この人。
吹き出しそうなのを堪えて
「八雲さん、起きたの?まだ夜中だよ」
そう声をかけると
「俺なんでここにいるんだ?」とブツブツ言ってるので、
「寝ますよ、ほらベッドに入って」
「え?は?」
「ホストも寝るんですよ、寝かせてくださいよ」
「ここに?ここで?あなたと?」
「キングサイズだから問題ないです」 
無理矢理八雲さんを引っ張り込み、布団をかけて寝かしつける。
「はい、おやすみ~」
「…おやすみなさい」
この人、秒で寝たわ。すげーなおっさん。


翌日、八雲はまたもベッドの上で正座をしていた。
なんなの?このおっさんは。
「おはようございます」
声をかけるとビクーーッ!と全身で飛び跳ねてる。どういう生き物?
「あのぉ…私は橋の上にいたはずなんですよ?」
そこから?そこまで記憶が飛びましたか。
説明が面倒だな、省こう。
「不思議ですね」
「不思議です」
丸め込むのチョロすぎ。
「とりあえず朝…というかもう昼ですけど、ご飯食べませんか?」
「ああ、はい」
食べるのね、あなた死ぬ気は失せたのね?
寝て忘れただけっぽいけど、まあいいや。

どうも世話焼きのいるホテルとでも思ってるようなので、そういうことにしておく。
コンシェルジュの嶋さんにケータリングを手配してもらう。
「もうすぐケータリング来ますんで。それまでコーヒーでも飲んでてください。あ、シャワーと洗面所は廊下の右側です」
「すみません、シャワー浴びてきます」
「はい、どうぞ」

どうも記憶が曖昧な八雲さんだけど、一から説明するのは面倒だしどうするかなと考えていたらケータリングが来て、テーブルをセッティングし、料理を取り分け盛り付ける。
一通り終えたら帰ってもらう。
頃合いを見て嶋さんがまた片付けに寄越してくれるだろう。そのあたりは言わなくても嶋さんが手配してくれる。
しばらくすると八雲さんがシャワーから戻ってきた。
「バスローブがあったんで着ちゃったんですけど…」と姿を見せたのだが、おいおい!
おっさん、あんたなんだその体は!
担いだ時にゴツゴツしてんのは知ってたけど、バスローブから覗く胸筋凄いんだが。
「柔道着みたいですね」
「ああ、そうかもしれないですね。帯締めたくなります」
「鍛えてるんですか?」
「いや、筋肉が付きやすいだけです。昔の名残というか。今は全然です」
それでそれか。
「ケータリング来たので食べましょう」
「はい」
一晩たったら妙に素直になったな。
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