いきたがり

依頼

朝食という昼食をとっている間に八雲さんはだんだん記憶を取り戻し、
「なんで俺はここにいるんだ！」とまた言い出したので、
「昨日も言いましたけど、もうやめましょうよ、死ぬの」
「だからそれはあなたが決めることじゃないんです」
うん、昨日聞いたわ。
「それに私は住む所も金もないんです。死一択なんです」
「それなんですけど、八雲さん、ファイナンシャルプランナー持ってますか？」
「なにをいきなり…」
「持ってます？」
「…FPですか？２級でしたら持ってますが…」

よし！
「俺、ホストクラブのオーナーやってるのは言いましたよね？
そこで時々店の若い子達に稼いだ後の金の使い道というか運用というか、まあうまく使いなさいよってことを話してるんですけど、なかなか難しくてちゃんと聞かないんですよね。税理士にお願いしてるから余計専門用語とか混じって難しくなるみたいで。
八雲さん、元銀行員だしFP持ってるなら資産運用とかもう少し噛み砕いて説明出来るかなって」
「はあ。それで私にどうしろと？」
「資産運用講座を開いてもらうのと、個別に若い子たちのお金の相談に乗ってやってくれないかというお願いです」
「私がですか？ホストクラブで？」
「はい、講座は月１くらいでいいんですが、相談は依頼があったら都度ということで頼めませんか？もちろん報酬をお支払いします。希望額があれば言ってください」
「うーーん…」
実際死ぬにしてもなんにしても六文銭では電車に乗れない。これは使えないのだ。
交通費だけでも早急になんとかせねばならん。仕方がない。
「噛み砕いてお話しできるかは分かりませんが、少しやってみましょう」
「よかった。必要なものがあったら言ってください、すぐ用意します。
とりあえず八雲さん用のパソコンとプリンター、タブレットは早急に必要ですね。八雲さんスマホは？」
「解約しました」徹底しすぎだろ。
「身分証明書はありますか？」
「はい、死んだ時身元がわかるよう携帯してます」死んだ後のこと考えすぎだ。

八雲さん用に使ってない部屋を一つ当てがう。
ベッドとデスクは備え付けてある。
パソコン、プリンター、タブレット、スマホは食事を終えてから八雲さんと買いに行った。
最低限のスペックがあればいいとはいっていたが、なんだかんだ現役の血が騒いだのか選んだものはそれなりの価格帯のハイスペックのもので、選んでから自分の金じゃないことに気づき、
「いらない！こんなハイスペいらないです！」と突然遠慮し始めたが、
「俺が選んだところで必要なものはわからないから、それでいいですよ」と選んだものを購入した。
プリンターやタブレット、スマホも同様に。
当面の衣類も必要なので、俺が使っているブランドに連れて行き、
「この人に合うサイズのものを生活するために必要な物を必要なだけ用意してくれ」と頼むと、テキパキ用意してくれた。
スーツも何着か買ったが、スーツ着るとなかなかいい男に見える。
総額を聞いて八雲さんはあわあわ言ってたが無視する。

「三木さんのお店には税理士さんはいらっしゃいますよね？」
「はい」
「その方ではダメなのですか？今更ですが」
いい質問です、八雲さん。
「ダメだったんです。古川さん…うちの税理士なんですけど、仕事できる人なんですけどね、ゼロ、もしくはマイナススタートの人に説明するって難しいんですよ。うちの若い子達も例に漏れず聞く耳持たなくてね」
「はあ」
「そこに白羽の矢が立ったのが八雲さんです」
「はあ」
聞いてんのか？
「税理士さんでダメだったのに私で通用するとお思いですか？」
「うん、八雲さんなら大丈夫だと思う。粘り強いし」
うんざりするくらいねちっこくてしつこいしな。
褒められたと思ったのか、ちょっと顔が綻んでる。
危ない、ニヤけるところだった。
「一度その方にお会いすることは可能ですか？どういうお話をされたのか聞いておきたいです」
「それなら古川さん呼ぶので店に一緒に来てください」
「ホストクラブにですか⁈」
「ホストクラブはいかがわしい店じゃないですよ。健全な大人の遊び場です」
「健全…」
「それに狂うかどうかはお客様次第ってことですね」
「狂う…確かに狂いますね…」
あ…そうだった、身近に狂った人いたんだった。
「思い出すから嫌ですか？それなら無理にとは言いませんが」
「いえ、大丈夫です」
おっ、スイッチ入ったか？