好きを教えて

秋臣

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俺はおじいちゃんとおばあちゃんに一緒に住まないかと言われた。
おじいちゃんとおばあちゃんはいつも優しい、すごく優しい。
一人になった俺と一緒に住みたいって言ってくれる。

それとは別にお葬式の時に初めてお父さんに会った。赤ちゃんの時に離婚したから覚えてない。
今まで会ったことなかったけど、お父さんは俺のことすぐにわかった。
お母さんが毎年俺の誕生日に写真を送ってたんだって。お父さんが離婚する時にお母さんにお願いしたらしい。
お父さんの印象は、この人がお父さんなんだって思った。
あとは優しそうな人って思った。
嫌な感じが全然しなかった。

「才……」
初めて会ったお父さんが恐る恐る俺を抱きしめる。
「ずっと会えなくてごめんね……」
「うん」
「ねえ、才、お父さんと暮らさないか?」
「え?」
「お父さん、才と暮らしたいんだ」

だって知らない人、お父さんだけど、嫌な感じはしないけど、俺知らない。
この人に連れて行かれたら俺は頼やおじいちゃん、おばあちゃんに会えなくなる?
怖くなって頼の後ろに隠れる。

「頼くん」
「お義兄さん、ご無沙汰しています」
「そんな、こちらこそご無沙汰していて……」
「才、考える時間が欲しいなら考えればいいよ。今すぐ答えなくていい」
頼がそう言う。
「……ない」
「ん?」
「……かない」
「才?」
「いかない」
頼にしがみつく。

お父さんはそれを見て悲しそうにしてる。
その顔を見ていたら胸がチクチク痛くなった。
「才、お父さん一緒には暮らせないみたいだね……」
「……いかない」
「もっと早く会いにくればよかった……
もっと早く一緒に暮らそうって言えばよかった……」
そう言ってお父さんは泣き崩れた。

「頼、おれ、いけないことしちゃった?
おこられる?」
そう頼に聞いたら、
「怒られないよ、才が思う通りにすればいい」
「でもおとうさん、ないちゃった」
「才、そういう時どうするんだっけ?」
泣いちゃった時?
俺が泣いた時、お母さんは、頼は……

俺はお父さんの頭を手でポンポンする。
お父さんは涙でぐしゃぐしゃの顔を上げて俺を見る。
お父さん、まだ泣いてる。
ポンポン足りないんだ。
ポンポン。
お父さんはもっと泣いちゃった。

「才のこと、どうかお願いします」
と膝につきそうなくらい頭を下げながら。

「おとうさん?」
袖をくいっと引っ張る。
お父さんは泣きながら顔を上げて、
「ん?」
と無理矢理笑う。
「おとうさん、おれのなまえはどうぶつのサイがすきだから才なの?」
頼が笑いを堪えてる。
「ほんとう?」
お父さんは、あはは! と笑うと、ここは笑ってはいけない場所だったと気づき慌てて口を押さえる。
そして、
「そうだよ、お母さんと動物園に行った時、サイを見てたら才がお腹の中からいっぱい蹴ったんだよ」
「だから才?」
「お父さんもお母さんもすごく好きな
名前なんだけど、才は嫌だった?」
「サイすき、なまえもすき」
「ほら、やっぱり!」
と言ってお父さんは俺をギュッと抱きしめた。


「才はどうしたい?」
今度はおじいちゃんに聞かれる。
俺は……俺はどうしたい?
ランドセルをギュッと抱える。
お母さん……
泣きそうになるのを我慢する。

「頼といっしょにいたい」

おじいちゃんは全然驚かない。
「そうか、頼も才と住みたいって言ってたぞ」
「おじいちゃん、だめ?」
「頼と一緒に住むか?」
「うん」
「才ちゃん、おばあちゃんにも会いに来てくれる?」
おばあちゃんが震える声で言う。
「いついってもいいの?」
「いいわよ、いつでもおいで」
おじいちゃんとおばあちゃんが俺をランドセルごと抱きしめてくれた。
 

おじいちゃんと頼は俺が転校しなくてもいいように、お母さんと住んでた所の近くに頼と住む家を建ててくれた。

俺は全然知らなかったんだけど、お母さんは俺と住むための家を建てる計画を進めていたんだって。
おじいちゃんが土地を買ってくれていて、お母さんが建物を建てる。
完成した家を俺の誕生日に見せる予定だったんだって。

お母さんに、
「才はどんな家に住みたい?」
ってよく聞かれた。
だからたくさん絵に描いて見せたんだ。雲みたいにふわふわした家、海にぷかぷか浮かぶ家、地下にあるトンネルみたいな家、積み木のように重ねられる家……
お母さんは、
「全部は無理かなあ」
って笑ってた。

それを見て頼も俺とお母さんの家を描いてくれた。
頼は絵が上手い、すっごく上手なかっこいい家を描いた。
お母さんと、
「かっこいいね! このいえにすみたいね」
って褒めたんだ。
「それじゃ俺の夢の店もこの家にくっつけちゃおうかな」
と言って家に店を付け足した。
「それいいわね」
お母さんが乗り気になってる。
「頼もいっしょにすむの?」
って聞いたら、頼は、
「店だけで充分だよ、時々泊めてくれ」
と笑ってた。

それからしばらくすると、お母さんに連れられて家がたくさん並んでるところへ遊びに行ったり、紙にいろんな線が書いてあるものを見ながら知らないお兄さんやおじさんが、お母さん、おじいちゃん、時々頼とああでもない、こうでもないと話し合っていたりした。
俺はなんだかよくわからなくてお絵描きしながらその様子を見ていた。

お母さんの体の具合が悪くなって入院してからは、おばあちゃんと頼が俺の家に泊まっていた。
お母さんは、
「才、一緒に住めなくてごめんね」
とずっと言っていた。
「どうして? びょうきがなおればだいじょうぶだよ。またいっしょにすめるからはやくかえってきて」
って俺は言うんだけど、お母さんはずっとごめんねって言ってた。

お母さんはそのまま帰ってこなかった。


おじいちゃんは、
「才、これはお母さんの夢なんだ。お母さんの夢を頼に叶えてもらってもいいか?」
と俺に聞く。
頼も、
「お母さんの分も頑張るから俺にやらせてくれないか?」
といつか頼が描いてくれた家の絵を見せる。

この絵を本物にしてくれたの?


家が建つまでの間、頼がお母さんと住んでたマンションに引っ越してきた。
おじいちゃんとおばあちゃんと頼は、名義がどうとか、ローンがなんたらとか全然わからない話をいっぱいしていた。
遺産とか相続とか贈与とか難しいこと言ってたけどそれもよくわからない。


お母さんが叶えたかった夢の家が完成した。
頼は出来上がった新しい家の前で、いつか俺が描いた雲みたいなふわふわの家の絵を出してきて、
「お母さん、空の上で家がなくてきっと困ってるから雲の家を届けてあげよう」
と言った。
俺の誕生日、7つの赤い風船と一緒に空に飛ばした。
お母さん、ふわふわだからきっと気持ちいいよ。


それから俺はお父さんとおじいちゃん、おばあちゃん、そして頼とたくさん話をした。

お父さんはお母さんと離婚してからずっと俺に養育費というのを払っていたらしい。お母さんが受け取ってくれないからおじいちゃんに毎月送ってて、おじいちゃんとおばあちゃんはそれをずっと貯金してたみたい。
お父さんは俺に幸せになってほしいとだけ言った。

俺は頼と養子縁組という手続きをした。
頼と今よりもっと強い家族になったんだって。

「頑張らないとな」
そう言って頼の顔つきが変わったんだ。


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