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再会と懺悔
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ある夜、友だちとご飯を食べに行った。
美味しい店を教えてもらって、たらふく食った帰り駅に向かって歩いていたら、俺の目の前を微かな記憶が横切った。
え?
なんだっけ?
その横切ったものを確かめる。
微かで朧げな記憶が次第に鮮明になる。
「才、どうした?」
友だちが声をかける。
「ごめん、先帰ってて」
「おう? わかった」
友だちと別れてその姿を追う。
つい追ってしまった。
だって、俺の記憶が間違ってなかったら……
その姿はバーに消えた。
18歳、未成年ではないがまだ酒は飲めない。
頼はそういうところはなあなあにせず、二十歳になるまで酒は飲むなと言われている。
大人しくそれに従っている俺もガキだなとは思う。
でも頼のその当たり前の感覚、俺はいいなと思ってる。
ちょっと躊躇したけど、どうしても気になる。
えい、入っちゃえ!
「いらっしゃいませ」
そこは外の喧騒が嘘のように、静かな音楽が流れる異空間だった。客は数人いるが騒がしくない。静まり返っているかというとそんなこともない。不思議な感じ。
ドアの前に立ち尽くす俺にバーテンらしき人が訝しげな視線を送る。
やば……
どうしよう、帰った方がいいかな……
でも……
「あの……」
「お客様」
同時に声を発していた。
「お客様いかがなさいましたか?」
「あ、あの……」
「はい、なんでしょうか?」
「あの……」
こんなところ来たことなかったから緊張して言葉が出ない。
「当店は初めてでいらっしゃいますか?」
「あ、あ、はい」
「失礼ですが、お若いように見受けられます。年齢を確認させていただけますでしょうか」
あ、やばい、追い出される……
「あの……」
どうしよう……
「才?」
え?
声のする方を見る。
その声には聞き覚えがある、優しくて心地よくて時に少し怖い声。
「才か?」
「京さん……」
「才!」
やっぱり、さっき見かけたのは京さんだった。
「才! お前でかくなったなあ!」
と俺をハグする。
あ……この感じ、京さんだ。
「お前いくつになった?」
「18です」
「そうか、でかくなるわけだよなあ。
で、なんでここにいるんだ?」
「あ……あの……さっき駅前で京さん見かけた気がして、つい追いかけちゃった……」
「ふっ 追いかけちゃったんだw」
「うん……」
だってこれ逃したらもう会えないと思ったから……
それに京さん、寂しそうに見えたんだ。
「店長?」
あ、そうだった、俺、追い出されるところだった。
「志垣さん、俺の知り合いだから大丈夫」
「しかし……」
「わかってる、飲ませないよ」
「……はい、承知しました」
カウンターに並んで座る。
京さんがさっきのバーテンさんに言ってジンジャーエールを出してくれた。
「ここ京さんのお店なの?」
「そう」
「お店やってたんだね」
「才は? 今なにしてるんだ?」
「大学生」
「へえ、専攻は?」
「美大に行ってる、デザイン」
「ふっ」
「なに?」
「いや……そういえば才に図案描いてって言ったことあったなって思い出した」
「あ……」
「結局ボツだったけどw」
「だって小学生だったし……」
「俺はいいと思ったけどね」
「そう頼がダメだって……」
「……」
「……」
「……頼、元気か?」
京さんが聞きたかったこと、多分一番聞きたかったこと。
「うん、元気」
「まだ店やってんの?」
「やってるよ、忙しくしてる」
「そっか……」
なによりも聞きたいことがあるはず。
「まだ一人だよ」
「……」
「才」
「なに?」
「……才、悪かった」
「え?」
「あの時、俺……子どものお前に大人げなかった……ごめんな」
「あ……」
あの時のこと……初めて怖い京さんを見た時の……
「悪かった」
今日さんは立ち上がって頭を下げる。
「ちょっと、やめてよ」
慌てて座らせる。
「俺、あの時思い通りにならない頼に腹が立ってお前に八つ当たりした。なんで俺のものになってくれないんだって悔しくて……
だからってお前に当たっていいわけないよな、頼に怒鳴られて当然だ」
「……」
「傷つけたよな……ごめん」
「ううん……」
「頼から聞いてるかもしれないけど、俺、頼と付き合ってたんだ」
「……うん、聞いた」
「才を泣かせて頼に怒鳴られて、殺すぞって言われて、拒否されて……もうバツが悪すぎて店に行けなくなっちゃった」
と薄く笑う京さんが寂しそうだった。
「来ればよかったのに」
「行けるかよ、そこまで図太くねえよ」
「京さん来ないと売り上げ落ちちゃうって頼と言ってたんだよ」
「ふっ……なんだよ、それ。こっちは散々悩んで凹んで泣いたのに」
京さん、泣いたんだ……
そんなに頼のこと好きだったんだ……
「京さん、描きかけあるよね?」
「え?」
「タトゥー」
「……うん、そう、中途半端になってる」
そう、この前頼がファイル整理してたら未完の中に京さんの図案があった。
「仕上げに来れば?」
「だからバツが悪いって……」
「俺と普通に話せてるじゃん、頼、そんなに根に持つタイプじゃないよ」
「お前結構強引だな」
だって……
「頼に会いたくない?」
「……会いたい」
震える手を自分で必死に抑えてる。
まだそんなにも頼のこと……
「ねえ、いつ空いてる?」
「え?」
「予約取ろう」
「いや、でも……」
「京さんはもっと強引でわがままなはず」
「酷い言われようだな」
「仕上げようよ」
「……」
俺は頼の店の予約サイトを開く。
「うーん、結構埋まってるなあ、いつでもいい?」
「……」
京さんは答えない。
「じゃあ勝手に入れておくね」
「おい!」
「だって京さん決めてくれないから」
「……」
「この日でいいよね」
「……その日はダメだ、こっちにしてくれ」
京さんがカレンダーを指差した。
美味しい店を教えてもらって、たらふく食った帰り駅に向かって歩いていたら、俺の目の前を微かな記憶が横切った。
え?
なんだっけ?
その横切ったものを確かめる。
微かで朧げな記憶が次第に鮮明になる。
「才、どうした?」
友だちが声をかける。
「ごめん、先帰ってて」
「おう? わかった」
友だちと別れてその姿を追う。
つい追ってしまった。
だって、俺の記憶が間違ってなかったら……
その姿はバーに消えた。
18歳、未成年ではないがまだ酒は飲めない。
頼はそういうところはなあなあにせず、二十歳になるまで酒は飲むなと言われている。
大人しくそれに従っている俺もガキだなとは思う。
でも頼のその当たり前の感覚、俺はいいなと思ってる。
ちょっと躊躇したけど、どうしても気になる。
えい、入っちゃえ!
「いらっしゃいませ」
そこは外の喧騒が嘘のように、静かな音楽が流れる異空間だった。客は数人いるが騒がしくない。静まり返っているかというとそんなこともない。不思議な感じ。
ドアの前に立ち尽くす俺にバーテンらしき人が訝しげな視線を送る。
やば……
どうしよう、帰った方がいいかな……
でも……
「あの……」
「お客様」
同時に声を発していた。
「お客様いかがなさいましたか?」
「あ、あの……」
「はい、なんでしょうか?」
「あの……」
こんなところ来たことなかったから緊張して言葉が出ない。
「当店は初めてでいらっしゃいますか?」
「あ、あ、はい」
「失礼ですが、お若いように見受けられます。年齢を確認させていただけますでしょうか」
あ、やばい、追い出される……
「あの……」
どうしよう……
「才?」
え?
声のする方を見る。
その声には聞き覚えがある、優しくて心地よくて時に少し怖い声。
「才か?」
「京さん……」
「才!」
やっぱり、さっき見かけたのは京さんだった。
「才! お前でかくなったなあ!」
と俺をハグする。
あ……この感じ、京さんだ。
「お前いくつになった?」
「18です」
「そうか、でかくなるわけだよなあ。
で、なんでここにいるんだ?」
「あ……あの……さっき駅前で京さん見かけた気がして、つい追いかけちゃった……」
「ふっ 追いかけちゃったんだw」
「うん……」
だってこれ逃したらもう会えないと思ったから……
それに京さん、寂しそうに見えたんだ。
「店長?」
あ、そうだった、俺、追い出されるところだった。
「志垣さん、俺の知り合いだから大丈夫」
「しかし……」
「わかってる、飲ませないよ」
「……はい、承知しました」
カウンターに並んで座る。
京さんがさっきのバーテンさんに言ってジンジャーエールを出してくれた。
「ここ京さんのお店なの?」
「そう」
「お店やってたんだね」
「才は? 今なにしてるんだ?」
「大学生」
「へえ、専攻は?」
「美大に行ってる、デザイン」
「ふっ」
「なに?」
「いや……そういえば才に図案描いてって言ったことあったなって思い出した」
「あ……」
「結局ボツだったけどw」
「だって小学生だったし……」
「俺はいいと思ったけどね」
「そう頼がダメだって……」
「……」
「……」
「……頼、元気か?」
京さんが聞きたかったこと、多分一番聞きたかったこと。
「うん、元気」
「まだ店やってんの?」
「やってるよ、忙しくしてる」
「そっか……」
なによりも聞きたいことがあるはず。
「まだ一人だよ」
「……」
「才」
「なに?」
「……才、悪かった」
「え?」
「あの時、俺……子どものお前に大人げなかった……ごめんな」
「あ……」
あの時のこと……初めて怖い京さんを見た時の……
「悪かった」
今日さんは立ち上がって頭を下げる。
「ちょっと、やめてよ」
慌てて座らせる。
「俺、あの時思い通りにならない頼に腹が立ってお前に八つ当たりした。なんで俺のものになってくれないんだって悔しくて……
だからってお前に当たっていいわけないよな、頼に怒鳴られて当然だ」
「……」
「傷つけたよな……ごめん」
「ううん……」
「頼から聞いてるかもしれないけど、俺、頼と付き合ってたんだ」
「……うん、聞いた」
「才を泣かせて頼に怒鳴られて、殺すぞって言われて、拒否されて……もうバツが悪すぎて店に行けなくなっちゃった」
と薄く笑う京さんが寂しそうだった。
「来ればよかったのに」
「行けるかよ、そこまで図太くねえよ」
「京さん来ないと売り上げ落ちちゃうって頼と言ってたんだよ」
「ふっ……なんだよ、それ。こっちは散々悩んで凹んで泣いたのに」
京さん、泣いたんだ……
そんなに頼のこと好きだったんだ……
「京さん、描きかけあるよね?」
「え?」
「タトゥー」
「……うん、そう、中途半端になってる」
そう、この前頼がファイル整理してたら未完の中に京さんの図案があった。
「仕上げに来れば?」
「だからバツが悪いって……」
「俺と普通に話せてるじゃん、頼、そんなに根に持つタイプじゃないよ」
「お前結構強引だな」
だって……
「頼に会いたくない?」
「……会いたい」
震える手を自分で必死に抑えてる。
まだそんなにも頼のこと……
「ねえ、いつ空いてる?」
「え?」
「予約取ろう」
「いや、でも……」
「京さんはもっと強引でわがままなはず」
「酷い言われようだな」
「仕上げようよ」
「……」
俺は頼の店の予約サイトを開く。
「うーん、結構埋まってるなあ、いつでもいい?」
「……」
京さんは答えない。
「じゃあ勝手に入れておくね」
「おい!」
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「……」
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