好きを教えて

秋臣

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国宝級

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「ただいま」
頼は仕事場の片付けをしていた。
「おかえり、遅かったな。飯は食ったんだよな?」
「うん、友だちと食べてきた」
「風呂入れ」
「頼」
「ん?」
ゴム手袋を外して手を洗ってる。

「京さんに会った」
頼の手が一瞬止まった。
でもすぐ動き出す。
「そうか」
「うん、元気だったよ」
「ん」
「お店やってるんだって」
「へえ……」
「今度ここに来るよ」
「は?」
「予約入れた」
「は? え?」
頼がPCの予約を確認する。
「マジだ……」
「京さん、中途半端になってるのがあるでしょ?」
「よく覚えてんな」
「京さん、来たらダメ?」
「客だろ?」
「そうだけど……」
頼はそれだけなの?
「さっさと風呂入れ」
「……うん」
余計なことしたのかな、俺……


頼に京さんに会った、予約入れたと伝えた後、もう一度京さんのお店に行って頼に伝えたことを伝えた。
なに言ってんだ? 俺。
なんか双方にちゃんと伝わってないといけない気がして……
京さんにそれだけ伝える。
「お前それだけのために来たのか?」
「うん」
「そんなの電話でいいだろ?」
「連絡先知らない」
店に電話しようかと思ったけど、なんか違うと思ってやめて直接来た。
またバーテンさんには怪訝そうな顔されちゃったけど。
「あ、そっか。才、スマホ持ってる?」
「うん」
「連絡先交換しようか」
「うん」
LINEを交換した。


二週間後、京さんが店に来た。
事前に京さんから、
「行きづらい……やっぱり行かない」
と連絡が来たから、店の前で待ってるから一緒に入ればいいよと返した。
それでも京さんはグズグズ言って渋ってた。
でも来た、ちゃんと来てくれた。

「頼ー、京さん来たよ」
「よう、久しぶり」
「……ん」
「うちの売り上げに貢献したくなったか?」
頼がにやっと笑う。
ふっと京さんも笑う。
「それなら俺の店にも貢献しろよ」
「どこよ?」
「中目黒」
「お前、中目好きだなあ」
「頼もだろ?」
「中目のどの辺?」
「駅に近いよ」
「マーノってまだあるのか?」
「懐かしい名前出すなwやってるよ、店長さん元気だぞ」
「嘘!? まだやってんだ! 俺そっち行くわ」
「俺の店に来いよ!」
うははははは!

一瞬で6年という歳月を飛び越えてしまった。



数日後。
学校から帰ったら見上さんが珍しくヤクザの顔してた。
怖っ! やっぱりこの人本物だったんだ……

しきりに、
「なんでだよっ!」
と怒ってる。
というか拗ねてる?
その横で頼がうんざりした顔してる。
なに?
いつものようにドアの前でスンとした顔してる深町さんに、
「見上さん、珍しく怒ってますね」
と言ったら、
小さい声で、
「頼さんが『今日は予定があるから18時までしかできない』と予約の時から言っていたんですが、頭がその理由を聞いたら怒り出してしまって……」
と教えてくれた。

あれ? 今日って確か京さんのお店に頼が行く日……
「頼、なんて言ったの?」
「『友だちの店に行く』と」
「それでどうして見上さんが怒るの?」
「……気づきませんか?」
「え?」
「どうして頭が頼さんの店に通い続けているのか……」
「タトゥーを入れるためですよね?」
「才くんはなかなか鈍いですね」
「どういうこと?」

待って、整理する。
見上さんはこの店ができてすぐの時から通ってるから12年は来てる。
月に3回は来る。
来ると短くても3時間はいる。
頼が断っても来る。
なんとしてでも来る。
なにがなんでも来る。
ということは……

「いいお客さん?」

「国宝級の鈍さです」


納得しない見上さんに深町さんが耳打ちする。
すると見上さんは急にシュンとおとなしくなった。
え? 魔法?
「……帰る」
と言った背中があまりにも小さくてちょっとかわいそうになった。
それは頼も同じだったようで、
「見上さん、予約入れておくから。ごめんな」
と頼が声をかけると、見たことないようなかわいい笑顔を見せた。
怖っ!
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