ゆらり、揺れる

秋臣

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嬉しいままで

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家に帰って早速炊飯器をキッチンに置いてみる。
うん、いいな。
帰ってから気づいたが調味料入れや米櫃も必要だった。
細々したものがいろいろ足りない。
「足りないものは少しずつ買い足しましょう」
「そうだな」
満足そうにしている俺を見て、
「買っただけで満足してませんか?」
と由尭くんが揶揄う。
ちょっとそんな気になってた。

「米を炊いてみたい」
「いいですね」
説明書を読む。
米を研ぐ、釜に研いだ米と水を入れてスイッチを押す。
なんだ、簡単じゃないか。
由尭くんが無洗米というのを教えてくれた。研がなくていいそうだ。
米を測って水を入れればいい。
「どのくらい入れればいいんだ? 
えーと、このカップの1のところまで米を入れて炊飯器に入れる……」
由尭くんは口出ししない。
「次は水を1の線のところまで入れる……」
入れた。
「蓋をして炊飯スイッチを押す……」
押した。
炊飯器が動き始めた。

「できてる?」
「できてますよ」
「ほら、俺だってできるんだ」
「かわいい……」
「やめろ」

50分くらいすると炊飯器からピーピー音がする。
炊けたらしい。
蓋を開けてみる。
うわ……炊けてる。

「一絃さん、どうやって食べますか?」
「おにぎりも教えてもらいたいけど、腹減ってるし、卵かけご飯にしたい」
「いいですね」
茶碗にご飯をよそう。
やはり由尭くんの分の食器も買うべきだったか、俺一人で食べるのは気が引ける。
「由尭くん、お椀でもいいか?」
「はい!」
なんでも喜んでくれるんだな。
お椀にもご飯をよそう。

ご飯の真ん中に箸で窪みを作って、そこへ卵を割る。
あ、失敗した。
黄身が崩れた。
「どうせ混ぜちゃうから大丈夫ですよ」
それもそうだな。
そこへ醤油をたらりとかける。
美味そうだ。

「いただきます」
二人で手を合わせて卵かけご飯を食べる。
うーん、美味い!
こんなに簡単にできるならもっと早く炊飯器買えばよかったな。
でもジムに通い始めなければ必要性も感じなかったしな。
「シンプルだけど美味いな」
「ですよね」

ふう、食った、美味かった。
一合だと二人で食べるには少ないんだな。
今ひとつ量がわからないが満足感が強い。
すごいことを成し遂げた気になっていたが、炊飯器で米を炊き、卵をかけただけだ。
33でこの体たらく……いかんな。
満足して、つい手が腹をさする。
おっと、これをなんとかしたくてジムに通い始め、食生活を改善しようとしてるんだった。
本来の目的を忘れるところだった。

「ご飯の後はコーヒーじゃなくてお茶が欲しいですね」
「そうだな、今度急須と湯呑みも買ってみる」
「いいと思います」

ソファーの隣に由尭くんが座る。
あ……この雰囲気は……

俺の腰に手を回す。
「今日の一絃さんはずっとかわいかったです」
「……」
俺の顔を覗き込む。
「ほら、かわいい……」
思わず目を背ける。
「こっち見て一絃さん、俺を見て。見ないとキスしますよ」
目が合う。
「やっぱり好きです」
ふっ
「なんの確認だ?」
「会えないと会いたくなる、会うと欲しくなる、こんなにも一絃さんが好きだって突きつけられる」
「……」

胸が痛む。
「ごめん」
「どうして謝るんですか?」
「君を傷つけた」
「え?あ……」
食器のことだと察したようだ。
「ごめん」
「謝らないで。一絃さんが安心できるまで、俺、待ちますから」
「……」
「一絃さん、今日は買い物に付き合わせてくれてありがとう。俺、嬉しかったです」
「うん」
「楽しかったです、また行きましょう」
「うん」

愛されている。
それだけを信じればいい。
それだけでいいのに……

目が合う。
キスされる。
唇が離れる。
きつくきつく抱きしめられる。

「俺だけの一絃さんでいて……」

貪るようなキスをされる。
キスの最中に目線が絡む。
「そんな目で見ないで……もっと好きになる……」
由尭くんの舌が俺から出ていってくれない。
俺の舌に絡んで離さない。
「んっ……由尭くん……」
俺の頭を抱え込んでキスをやめない。
「たまらない……」

由尭くんの手が俺の服の中に潜り込む。
胸も腹も背中も愛おしそうにその手は這い回る。
締まりのない体が恥ずかしいのに、恥ずかしさを欲望が上回る。
触って欲しい。
触られると触れたところ全てが敏感に震える。
そのゾクゾクした快感を味わいたくて由尭くんの背中に腕を回す。

ふと思い出す。

セックス断ちする。

そうだった。

「……こら、今日はしないって言っただろ?」
「ここでそれ言うの?」
「……ダメだ」
「こんなになってるくせに……」
そうだよ、溶けかけてるよ……
「……ダメ……」
「その声……色気ダダ漏れなの、わかってる?」
もう触らないでくれ……
「今日は嬉しかった。嬉しいまま今日を終わらせて……」

この甘え上手な年下の恋人に俺は弱い。
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