Colour

秋臣

文字の大きさ
5 / 15

ズレ

しおりを挟む
「別れよう」

そう碧斗に言われた時、またいつものかと軽く流した。
時々碧斗はこういうことを言い出す。
大体俺がなにかやらかした時だ。
そう言われてもおかしくないことを俺はしてきた。
飲みに行っては見知らぬ人と仲良くなり、終電を逃すとノリと勢いで部屋に連れて帰った。
自分の部屋のこともあったが大抵碧斗の部屋だった。
だって俺の碧斗を見せたかったんだ。
みんなには話してないけど、話してないからこそ俺の男だぞ!って自慢したかった。
言えない分、見せつけたかった。
碧斗は俺の自慢の恋人なんだ。

でも碧斗にしたら迷惑でしかなかった。
夜中に知らない人を連れ込まれて朝まで雑魚寝させるなんて怒って当然だ。
何度も怒られた。
「今度やったら別れるからな!」
と何度も言われた。
怒る碧斗を見て悪いことしたと反省するんだけど、怒る碧斗もかわいくてつい手を出しちゃう。
「セックスに持ち込んで誤魔化すな!」
ってそれも怒るんだけど、体を合わせるとお互い溺れて気持ちよくて……
そんな碧斗が好きで、ずっと大好きで……


初めて出会った時、互いにサークルの勧誘にうんざりしていたところだった。
「義務かよ……」
いい加減嫌になってたから碧斗の腕を掴んで逃げた。
全然知らない奴だったけど、そんなことにうんざりしているところが似てて面白かった。気が合いそうと思った。
それからつるむようになったが思っていたとおりだった。
とにかく一緒にいて疲れない、楽。
遊んでても何も話さなくても、そばにいるだけで不思議と心が落ち着けた。

海の家のバイトをやった時にマンスリーを借りて二ヶ月くらい一緒に過した。
碧斗とずっと一緒にいたくて、離れたくなくて、碧斗にもそう思っていて欲しくて、最後のバイトの日に想いが溢れた。
碧斗は俺と繋がってくれた。
同じ想いでいてくれたことが本当に嬉しかった。
友達を超えてくれたことが嬉しかった、
碧斗を離したくなかった。


なのに、どこで、どこからズレてしまったのだろう。

あの時の、
「別れよう」
は軽く流していいものではなかった。
碧斗はもう二度と俺を受け入れようとはしなかった。
いつものように体を合わせれば元に戻る。
ごめんと謝って一晩経てば許してくれる。
そう思っていたのに、碧斗は俺から本当に離れようとしている。

なんで?
そんなの嫌だ。
なにがいけなかった? どこで間違った?
なにもかもダメで、全て間違えたのか?
原因は一つかもしれないし全部かもしれない。

碧斗を失うのだけは嫌だった。
耐えられない。

飲みに行くのを控えた。
飲みに行っては碧斗の部屋に知らない奴らを連れ込むのがそもそも悪い。
これは自覚がある、だからそこから改めようと思った。今更すぎる。

部屋に行ってもドアを開けてくれない。
合鍵は自分がいない時に他人を連れ込まれるのは絶対に嫌だからとくれなかった。
だから持ってない。
今日はいつもの癖で、ついうっかりといった様子で開けてしまっただけのようだった。

なんとか話したい。
触れたい。
そうすればなんとかなるんじゃないか、
そうすることに縋るしかなかった。

もうどうしていいのかわからなかった。
セックスしか思いつかなかった。
碧斗を悦ばせられれば、気持ちよくさせてあげられれば、戻ってきてくれる、そう思いたかった。

碧斗は気持ちよくなると泣くことがある。
泣かせてしまったと慌てたこともあったが、碧斗は、
「生理現象で悲しくないのに涙出てきちゃうだけだから気にすんな」
と照れながら笑っていた。
そんな碧斗が愛おしいと思った。

なのに……
今日の碧斗の涙は違った。
悲しみの涙だった。
どうして泣くの? どうして悲しいの?
俺とのセックスで悲しくならないで、碧斗……
だってこれじゃまるでレイプじゃないか……

その涙を見て別れたいという碧斗が本気だということが嫌でもわかってしまった。
嫌だ、嫌だ……
碧斗を失いたくない。
お願い、やり直させて……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

お使いはタバコとアイスとお兄さん

秋臣
BL
風景が動いた気がした。 居酒屋でバイトをしている俺はよく客からお使いを頼まれる。 お使い途中の陸橋で見かけるその人はいつも寂しそうな顔をしていて、俺はそれが気になっていた。ある夜、降り出した雨の中佇むその人を放っておけず傘を差し出した俺。 ただの風景だったはずのその人が熱を持った人間だと初めて感じた…

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

カフェ・コン・レーチェ

こうらい ゆあ
BL
小さな喫茶店 音雫には、今日も静かなオルゴール調のの曲が流れている。 背が高すぎるせいか、いつも肩をすぼめている常連の彼が来てくれるのを、僕は密かに楽しみにしていた。 
苦いブラックが苦手なのに、毎日変わらずブラックを頼む彼が気になる。 今日はいつもより温度を下げてみようかな?香りだけ甘いものは苦手かな?どうすれば、喜んでくれる? 「君の淹れる珈琲が一番美味しい」
苦手なくせに、いつも僕が淹れた珈琲を褒めてくれる彼。 照れ臭そうに顔を赤ながらも褒めてくれる彼ともっと仲良くなりたい。 そんな、ささやかな想いを込めて、今日も丁寧に豆を挽く。 甘く、切なく、でも愛しくてたまらない―― 珈琲の香りに包まれた、静かで優しい記憶の物語。

愛と猛毒(仮)

万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。 和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。 「……本当、バカだよな。お前も、俺も」 七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。 その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。

手紙

ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。 そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

処理中です...