Colour

秋臣

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宝島

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ぐずぐずとなかなか切れない珀次との関係に嫌気が差し、金曜日だしおそらくまた部屋に来るであろう珀次のことを考えると気が重くなる。

珀次と付き合っている時に無性に一人になりたい時があった。
珀次が嫌いなのではない、俺の性格なんだと思う。
時々、一人の時間がどうしても欲しくなる。
その時間があるからまた珀次に会いたくて堪らなくなるんだ。

部屋に帰ると珀次が来るから、俺は避難場所を見つけることにした。
会社のある最寄駅から自宅のある方向とは逆の電車に乗ってみた。
とりあえず一つ目の駅で降りてみる。
たった一駅、それだけなのに世界が変わった。
俺の知らない場所はこんなに身近にまだまだたくさんある。
賑やかな居酒屋を避け、静かに飲める店を探す。駅前をウロウロしていると、とあるビルに『Colour』というバーを見つけた。Colorじゃないんだ……とちょっと興味をひかれてその店に入った。

気後れするくらい重厚という言葉がピッタリの店だった。
もう少しカジュアルだと思ったんだけど、失敗したかも……と思いつつ、バーテンさんに、
「いらっしゃいませ」
と声をかけられてしまったので、どうぞと促されるままカウンターに座った。

「ご注文はいかがなさいますか?」
店名から察するにそっちだろうと思い、
「スコッチをお願いします」
「こちらでよろしいでしょうか?」
スコッチはそれほど詳しくないがそれが高い酒であることは知っていた。
バーテンさんは、
「不躾ですが、お客様はお名前に色は入ってますでしょうか?」
「色?」
「もし色が入ってましたら、ご新規のお客様には一杯サービスさせていただいております」
へえ、そうなんだ。
「『碧』という字が入ってます」
念のため、免許証を見せる。
「『あお』ですね、サービスさせていただきます」
「ありがとうございます」
名前で得したのは初めてだった。

「割りますか?」
「はい」
「水割りよりトワイスアップの方が薄まらず香りを楽しめます」
「ではそれでお願いします」
「かしこまりました」

水割りよりも少し濃いめのスコッチだ。
香りが立つ。
「美味いですね」
「ありがとうございます」
「こちらの店はイギリスに縁があるのですか?」
バーテンさんはにっこりと笑う。
「わかりますか?」
「店名の『Colour』が『Color』じゃないのでそうなのかなと思いました」
「オーナーがイギリス育ちなんです」
「なるほど」
「なんの捻りもなくて申し訳ない」
「あははは」

店内の雰囲気は重厚なのに流れる空気は重くない。
不思議だ。
その不思議な感じがいいなと思った。
静かで落ち着く。
それ以来、一人になりたい時はこの店に来る。
この店だけは珀次に教えなかった。
教えたら必ず来る、あいつが来たら意味がなくなる。
たった一駅、方向を変えただけで知らない世界に触れられた。俺にとってこの店は大袈裟だけど冒険で見つけた宝島だった。
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