お使いはタバコとアイスとお兄さん

秋臣

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雨と傘

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高左右たかそうくん、タバコ頼める?」
「はーい、いつものですか?」
「悪い、切らしちゃった」
「買いに行くなら俺のもいい?」
「俺もいい?ワンカートン頼みたい」
「先払いでお願いしますね」
「しっかりしてんなあ」
「タバコ高いんで。踏み倒されたらバイトした意味無くなるんで」
「確かに」
「いつも悪いね、頼むね」
「行ってきます」
「雨降り出しそうだから傘持って行った方がいいぞ」
店長が声をかけてくれる。
「はーい」

店を出ると空気が湿っぽかった。
本当だ、雨が降り出しそうな空気だ。
店の予備傘を手に取る。
コンビニまでは約5分、傘は持ったけど降られるの嫌だから急ごう。

陸橋に差し掛かると、あの人がいた。
俺の中では陸橋とその人がセットになって風景の一部みたいになっていた。
雨降りそうだよ,早く帰った方がいいよ。
口には出さないけど忠告する。

タバコを買ってコンビニを出る。
ポツ、ポツ…
あ、降り出した。
傘持ってきてよかった。
ポツポツポツポツ……
雨粒がだんだん大きくなってきている。
傘は持ってるけど急いで帰る。

あ……

陸橋のあの人…
まだあそこにいる。
雨降ってきたのに動こうとしない。
目の前を通り過ぎる。

通り過ぎたけど…

どうしても気になって体が動く。


「あの!」
「…え?」
「あの、これ使ってください」
傘を差し出す。
「え?」
「濡れます」
「え…でも…」
「俺、すぐそこなんで大丈夫です。使ってください」
傘を受け取らないその人がもどかしいのと、引っ込みがつかなくなったのとで、俺はぐいぐい強引に傘を押し付けた。
その人が受け取ったのかさえわからないが、そのまま走ってその場から離れた。
善意の押し付け、自己満。
それでもあの雨の中、そのままにしておけなかった。

店に戻る。
「傘持っていかなかったのか?」
「コンビニに忘れてきた」
誰も疑わない。
「風邪ひくぞ、早く拭け」
「悪かったなあ、雨の中行かせちゃって」
「いえ、大丈夫です」

俺は大丈夫。
あの人は大丈夫かな。



数日後。
バイト帰りに振り込みしようといつもタバコを買いに行くコンビニに向かった。
家の近くのコンビニでも良いのだけれど、今日が振り込み期限だから覚えてるうちに行かないと忘れてしまう。

陸橋に差し掛かると、あの人がいた。
いつもの風景…ではなかった。
いつも電車を見てるその人はこっちを見ていた。

「君!」
その人が俺に駆け寄る。
「良かった、会えて。これ」
そう言って傘を差し出す。
「貸してくれてありがとう」
そう言うと穏やかな笑みを浮かべた。

この人、こんな顔もするんだ…

なかなか受け取らない俺に、
「あれ?君じゃなかったかな?間違えたかな?」
と慌てている。
ふっ
「すみません、俺です、合ってます」
「そうだよね?君だよね?」
「はい、俺です」
「俺に貸してくれたから君が濡れちゃったよね、申し訳ない」
「いえ、バイト先すぐそこなんで大丈夫です」
「そうか」
俺に傘を渡す。
それと一緒にカードを渡された。
某コーヒーショップのギフトカードだ。
「コーヒー飲むかな?」
「はい、好きです」
「よかったら受け取ってもらえる?」
「でも…」
「傘のお礼です」
「それじゃ遠慮なく…ありがとうございます」
「よかった」

また穏やかに微笑む。

「それじゃ…」
その人は頭を下げると歩き始める。

風景が動いた気がした。


「あの!」

その人の後ろ姿に思わず声をかける。
俺は何を言うつもりなんだ?

「え?」
「あの…」
「ん?」
あの穏やかな笑みを見せる。

そんな顔できるのに、それなのに…

「どうしていつも寂しそうなんですか?」

俺はいきなり何を聞いてるんだ!

その人は面食らったような顔をしている。
ふっと俯きながら笑う。

「俺、寂しそう?」
「はい」
「俺、君に会ったことあったかな?」
そっか、俺のこと気づいてなかったのか。

「俺、何度かお兄さん見かけたことがあります…」
「え?そうなの?」
「いつも夜に陸橋のところにいて…」
「あ…ああ…」
表情が少し曇る。
「俺、そっちの方がいいと思います」
「え?」
「…お兄さん、絶対笑ってた方がいい」
ふっ
「そんなこと初めて言われたよ」
「俺も初めて言いました」

「…ありがとう、それじゃあね」

その人は俺の返事を待たずに歩き出していた。

なにか声をかけたかった。
でもその背中はそれを求めていなかった。
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