もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!

ありぽん

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1巻

1-3

「初めまして。ジョーディ坊っちゃん。俺は騎士団で団長をしているアドニスだ。よろしくな」
「団長、その挨拶あいさつは何ですか! 初めましてジョーディ様。私は副団長のクランマーと申します。よろしくお願いします」

 二人は騎士団の団長さんと副団長さんでした。団長さん達が、僕にご挨拶してくれたから、僕もちゃんとご挨拶しないとね。最近覚えた挨拶を披露ひろうです。僕は手を挙げて、

「ちゃっ‼」

 と声を張り上げました。

「おお、ちゃんと挨拶できるのか」

 団長さんのアドニスさんが、僕の頭をぐりぐり撫でます。ガクンガクン、頭が前に行ったり後ろに行ったり……ふらふらします。

「団長! ジョーディ様はまだ小さいんです。そんな撫で方をしたら首が折れてしまいますよ!」
「お、りぃりぃ」

 パッと手を離してくれました。ほんと、もうやめてね。
 二人がスプリングホースの方に戻っていって、僕達はこれからどうするのかな?って思ってたら、パパとお兄ちゃんがお家から出てきました。
 僕達は一番前の馬車に乗るみたいです。最初にパパが馬車に乗って、次にお兄ちゃん。それからママが僕をパパに渡して、僕は馬車の中に。最後にママが乗りました。後ろの馬車には誰が乗るのかな?
 馬車の中は僕が思っていたよりも広くて、赤い絨毯じゅうたんいてありました。窓の所にはカーテンが付いていて、風でヒラヒラしています。
 ママの隣にお兄ちゃんが、僕はパパの隣です。カゴみたいなのが付いていて、僕はその中に入れられました。一緒にサウキーのぬいぐるみを入れてくれます。パパはそれからカゴの横にカバンを置きました。

「それでは動きます。お気を付けください!」

 前の方から声が聞こえて、馬車がガタンって音を立てて進み始めました。僕達が向いている方が馬車の進む方向です。パパが窓からお顔を出して「行ってくる」って、誰かに言ってました。
 お兄ちゃんがママに言います。

「ママ、お外見ていい?」
「もう少ししたらね。ジョーディは初めてだから、今は馬車にならしてあげて」
「泣くようならあやすさ。あとのことを考えて確認したいこともあるしな」

 あとのことって何かな? でもお外が見られるなら、僕は見たいです。だってお家とお庭以外、まだ知らないから。見たことない物ばっかりのはずだもん。
 馬車が走り始めて少ししてから分かったこと。それは、馬車は結構揺れるってことです。まだ少ししか乗っていないのにお尻が痛い。僕はパパに訴えます。

「ぱ~ぱ。いちゃ」

 お尻を手ですりすりします。

「あっ、しまった忘れていた。ジョーディすまん」

 パパが、僕の隣に置いてあったカバンの中を、ゴソゴソ探します。ちょっと大きいカバンです。カバンから取り出したのは、小さいクッションでした。僕を持ち上げてクッションをカゴに入れて、僕をその上に乗っけます。
 おお‼ 痛くない! 今までガタガタ揺れてお尻が痛かったのに。クッションがとってもふわふわだからかも。パパ、ちゃんと最初から、忘れないでクッション入れてよ。


 どれくらい走ったかな? 僕が泣いたり騒いだりしないから、パパ達が驚いていました。お兄ちゃんが初めて馬車に乗った時は、凄く泣いたのにって。

「これなら雨が降っても大丈夫そうだな。雨の時は窓が開けられないから心配してたんだが」

 パパがさっき言っていた「あとのことを考えて」って、雨のことだったみたいです。

「そうね。でも……さぁ、今日は天気もいいし、飽きて泣かれても困るから、カーテンを開けましょうか。マイケルもそろそろ限界みたいだしね」

 お兄ちゃんがとってもニッコリして、カーテンをバッて開けます。急に馬車の中が明るくなって、僕は目をつぶりました。そっと開けてお兄ちゃん!
 それからそっと目を開けてお外を見ようと……そう思ったけど、僕の手は全然窓に届きません。

「ぱ~ぱ、こっこ!」
「待て待て。ほらこれでいいだろ?」

 パパが一度僕をカゴごと足元に下ろして、僕のいた場所に座ります。それから僕をお膝に乗っけてくれました。

「にょおぉぉぉぉぉ!」
「相変わらずジョーディの、喜んでる時と、驚く時の声は面白いな」

 馬車のお外に見えたのは、何処までも続く草原でした。草原だけでした。それから道を歩く人や、魔獣に乗っかって進む人。たまに横を馬車が追い抜いていきます。

「にょお?」

 う~ん? なんか僕の考えていたのと違いました。地球とおんなじ感じだと思ってたの。家がいっぱいあって、人も車……はないから馬車だけど、もっといっぱいだと思ってました。
 なんとなく僕は下の方を見ます。あっ、ローリーだ。何処にいるのかと思ったら、馬車の横を走ってました。

「リー‼」
『にゃうにゃぁ!』
「ジョーディ見てて!」

 お兄ちゃんがカバンの中から、先っぽに丸いポンポンがついた棒を出して、それを窓からヒョンヒョンってしました。そしたらローリーが一回転しながらポンポンに飛びつきます。僕、拍手です。

「馬車に乗るといつも、ローリーとこれで遊ぶんだよ」

 面白そう! 僕もやりたい!

「マイケル、ジョーディにも貸してあげて」
「よし、ジョーディはパパとやろうな。棒を落としたら面倒だしな」

 僕はパパと棒を持ちました。

「にょにょ、にょにょ」

 棒が揺れると声が出ちゃって、それを聞いてパパとママが笑ってます。どうして声が出ちゃうの。
 ローリーが走りながらお手々でシュッシュってたわむれてきて、たまに両方のお手々でポンポンを掴みます。よく走りながらできるよね。
 お兄ちゃんはカバンの中をゴソゴソして、別の棒を出してきます。二人で一緒ににょにょ、にょにょ。ローリーがいっぱい遊んでくれました。
 たくさん遊んでくれたから、ローリーは休憩です。僕達もカーテンは閉めないけど、ちゃんと元の席に戻って座ります。
 棒をカバンにしまうと、カバンの中が気になってきました。クッションが入ってたし、ローリーの棒も入ってたでしょう、他には何が入ってるのかな?

「ぱ~ぱ、に?」

 僕はカバンの方に手を伸ばして、バシバシと叩きました。

「ん? カバンが気になるのか?」

 パパがカバンを持ち上げて、最初に置いてあった、僕の横の位置にカバンを戻します。僕はカバンの中を覗きました。中には、クマさんのぬいぐるみでしょう、それから積み木と乗り物のおもちゃ、あとは絵本が何冊か入ってました。

「そのカバンの中にはマイケルとジョーディが馬車の中で遊べるように、色々な物が入ってるんだぞ」

 そうか。僕達が馬車の中で飽きてぐずぐずしないように、遊び道具を持ってきてるんだね。
 どんどん馬車は進んで、僕はカバンから出したクマさんのぬいぐるみで、お兄ちゃんと一緒に遊んでたんだけど、いつの間にか寝ちゃってました。起きた時には馬車から降りていて、パパが僕のことを抱っこして歩いてたよ。

「お、ちょうど起きたな。今日はこの宿でお泊まりだぞ」

 おじいちゃんのお家、一日じゃ着きませんでした。お宿にお泊まりです。ていうか、まだお昼ご飯の時間なのにお泊まり?
 宿のご飯を食べるお部屋に行って、ジュースを飲みながらパパ達のお話を聞きます。
 あっ、あのね、トレバーとレスターとベルもいたの。もしかしたら僕達の後ろの馬車に乗ったのは、レスター達かもです。見てなかったから分かんないけど、たぶんそう。
 パパが明日のことを話します。

「明日は森を抜けるからな、準備を万全に。朝早く出発する。時間通りに進まないと森を抜けるのが遅くなって、夕方までに次の街に着かないからな」
「夜に森を抜けるのは危険だものね」

 ママが相槌あいづちを打ちました。パパがそれに頷いて、部屋の後ろの方に目を向けます。

「トレバー、皆に十分に休むように、それから今日の仕事は終わりだと伝えてくれ」
「かしこまりました」

 トレバーがお宿のお外に出て行きました。ママもベルにお話をします。

「明日の昼食の準備を。それから一応非常食もよ。何があるか分からないから」
「かしこまりました」

 ベルも出て行っちゃいました。
 明日は森を通るみたいです。早くお宿に泊まったのは、明日のためだったんだね。でもなんかちょっと怖そう。だって夜に森を抜けるのは危険だとか、非常食とか言ってるし。
 お昼を食べたら僕はお昼寝の時間です。馬車の中で寝たのにまたお昼寝。それでお昼寝から起きたら、パパとお兄ちゃんと、レスターも一緒に、お宿のお外を歩きました。
 僕は初めてこの世界のお店を見ました。それから自分のお家以外のお家も。
 お店では色々な物を売ってます。食器ばっかり売ってたり、剣や盾、槍とか武器ばっかり売ってたりするお店、それから美味しそうな匂いのする食べ物が並んだお店。
 もっと色々見たかったけど、お散歩はすぐに終わり。お宿に戻ってから少しして、夜のご飯を食べたらもう寝る時間です。明日早く出発だから早く寝ましょうねって、ママが言って僕らはベッドに入りました。


 ガタガタ、ガタガタ。何かの音が聞こえます。

「う?」

 誰? うるさいの。目を擦りながら窓の方を見たら、ちょっとだけお外が明るくなっています。いつもはまだ寝ている時間です。

「ジョーディ起きたのか?」

 声が聞こえて、よく見るとパパとママがもうお着替えをしてました。それからお兄ちゃんも起きて、みんなで早い朝のご飯を食べた後、昨日みたいにママが僕にグミをくれたよ。

「ふふふ、二人ともそっくりね。髪をとかしたのに、まだ寝癖がつんつんだわ」

 ん? 寝癖? ママが鏡の前に連れて行ってくれます。お兄ちゃんと僕の髪型が、そっくりに爆発してました。


     *********


 その頃、ある森で。
 男達が息を切らして走っていた。
 一人が弾んだ声で笑う。

「ハハハ、上手くいったぞ! 急げ!」
『わおおおぉぉぉ~んっ‼』

 後ろから遠吠えが聞こえ、仲間が焦った顔をした。

「ちっ、もう気付かれたのか⁉ まずいぞ‼」
「せっかく手に入れたんだ! 逃げ切ってやる!」

 まだ日が昇り切らない深い森の中、男達は振り返らずに駆けて行った。



 2章 森の異変


 馬車に乗って朝早くから出発! 僕とお兄ちゃんの爆発した髪の毛は……半分だけ直りました。まだちょっとぼわっとしてます。馬車に乗ってすぐ、僕は外が見たいとアピールです。

「ぱ~ぱ、しょと」
「ああ、今のうちに見せておいた方がいいか。森に入ったらちゃんと座っててもらわないと、かなり馬車が揺れて危ないからな」

 え? そんなに揺れるの? 今もけっこう揺れてるのに。
 窓を開けてもらって、昨日みたいにローリーと遊びます。遊んでたらパカパカと音がして、スプリングホースに乗ったアドニスさんが下がってきて、窓の所で止まりました。

「坊っちゃん、初めての馬車の旅はどうだ?」
「う~、にょお!」
「それは楽しいのかそうじゃないのか、どっちなんだ?」

 片眉を上げるアドニスさんに、パパが馬車の中から答えます。

「アドニス、今のは楽しい時の反応だ」
「そうか、それは良かった」

 すぐにアドニスさんは前の方に戻って行っちゃいました。アドニスさんがいなくなってパパが、僕が初めての旅だから、心配して様子を見に来てくれたって、ママとお話ししてました。それから、相変わらず子供好きだって。お兄ちゃんの初めての旅の時も、疲れてないかとか、具合が悪くなってないかとか、とっても心配してくれたみたいです。
 優しくてカッコいいおじさんだね。何歳か分かんないけど。
 少しして、パパがそろそろだって、僕をカゴに戻して窓を閉めちゃいました。もうすぐ森なのかな? すると、前から声が聞こえます。

「旦那様! 森が見えてきました!」

 やっぱりそうでした。でも……。
 声が聞こえたその時、ローリーが大きなお声で鳴いたのです。パパが止まってくれって言って、すぐに馬車が止まります。それで閉めたばっかりの窓をまた開けました。

「どうしたローリー?」
『にゃにゃ、にゃぁ』

 パパ達がお話を始めます。またパカパカと音がして、アドニスさんが再び僕達の所に。最初は馬車の中でお話ししていたパパは、途中から馬車から下りて、お外での話し合いに。どうしたのかな?

「街に一人送ろう」
「こっちにこのまま向かってきたら……」
「我々もすぐに離れた方が」

 お話の全部は聞こえないけど、森から離れるってことかな? 森で何があったんだろう? 初めての森でドキドキしていたはずが、ソワソワしてきちゃいました。僕、まだこの世界のことを全然知らないから、これからどうなるのか予想もつきません。
 僕がソワソワしていることに気付いたママが、抱っこしてくれます。それからカバンから絵本を出して、読んでくれました。お兄ちゃんも僕の手を握りながら、一緒に絵本を見ます。
 窓の外では、パパ達の話がひとまず落ち着いたようでした。

「とりあえず、流れを止めるぞ。旅人をこれ以上進ませないように、部下達を立たせよう」
「我々もすぐここから離れ……」

 アドニスさんにパパが答えようとしたその時――。

『にゃにゃにゃあ‼』
「まずい‼ 急げ!」

 ローリーの鳴き声に続いて、初めて聞くパパの怖い声がして、それから急いで馬車に乗ってきました。ママが絵本をしまって僕はカゴに戻され、パパがカゴと僕を一緒に抱きしめました。お兄ちゃんはママが抱きしめます。

「行きます!」

 そう聞こえた瞬間、馬車が勢い良く動き出して、ギュンって回った感じがしました。みんな左側に寄っちゃいます。何々⁉
 ガタタタタタッ‼
 今までカタカタ、カタカタ、と走っていた馬車が、とても大きな音を立てました。凄いスピードで走り始めたのが分かります。僕、ちょっと怖くて泣きそうになっちゃった。

「ふえっ⁉」
「大丈夫だぞジョーディ。ちょっと速くスプリングホースが走ってるだけだからな。怖くないぞ」

 僕の頭を撫で撫でしてくれるパパ。僕の大好きなニッコリなお顔です。ママの方を見ると、おんなじお顔をしていました。
 それからパパがほらって、曲がった時に落ちちゃった、サウキーのぬいぐるみを僕に持たせてくれます。僕はサウキーをぎゅっと抱きしめて、それからパパにぺったりくっ付きました。
 外から、早く逃げろとか、止まるなとか、いろんな声が聞こえてきます。多分、僕達の他にも道を通ってた人達が少しだけいたから、その人達に言ってるんだね。
 何が追いかけてきてるのかな? 怖い魔獣とか悪い人達? ママが読んでくれた絵本の中に出てきたの。
 外からまた、ローリーの大きな鳴き声が聞こえました。
 パパが険しい表情で窓の方を見ます。

「まずい! 追いつかれた! 私は外へ行く、ルリエット、君は子供達を」
「あなた、気を付けて!」

 ママがそう言った時、馬車が止まりました。馬車の周りからいろんな鳴き声が聞こえてきます。犬みたいな声と、ローリーみたいなネコっぽい声です。
 パパが僕のことをママに渡しました。僕はサウキーと一緒に、今度はママにぎゅって抱きつきます。
 パパが剣を持って、バンッて外に出て行きました。それからすぐに周りがしんって静まり返ります。何にも聞こえないの。さっきまでザワザワしていて、人の悲鳴も聞こえたし、あんなにうるさかったのに。
 でもまたすぐに騒がしくなりました。さっきよりももっとです。

「お前達! 何をした‼」

 パパの怒鳴どなる声が聞こえました。


     *********


 私――ラディスが窓を閉め、ジョーディをカゴの中に座らせ、いよいよ森に入るとなった時、突然ローリーが止まれと声をかけてきた。馬車を止め、閉めたばかりの窓を開けて、ローリーにどうしたのか聞けば、複数の人間が魔獣の群れから逃げてこちらにやってくると。

『すべて赤だ』

 それを聞いてまずいと思った私は、すぐに馬車を下り、アドニス達を呼ぶ。

『逃げているのは人間達だ。が、すべて赤だ。そして追っている魔獣。あれは怒りの反応の赤だな。赤の種類が違う。おそらく人間達が何かしでかして、魔獣達に追われているんだろう』

 ローリーは、広範囲の気配を探知する能力を持っている。まぁ、それ自体はそこまで珍しい能力ではないのだが、ローリーの場合、その探知能力がちょっと変わっているのだ。ちょっと、いや、かなり珍しい探知能力だ。
 気配を探知するだけではなく、その気配が良いものか悪いものかも判断できるのだ。そしてそれはローリーいわく、色で見分けられるらしい。時々分からないこともあるが、ほぼほぼ分かるという。
 青は我々にとって害のないもの。赤は反対に脅威きょういになるもの。先程ローリーはすべて赤だと言った。同じ赤でも種類があるようだが、何にしろ反応が赤なのはまずい。
 私はアドニスや騎士と話し合う。

「街に一人送ろう」
「こっちにこのまま向かってきたら……」
「我々もすぐに離れた方が」

 アドニスが騎士を一人、街へ向かわせる。今こちらに来ている者達や、これから街から来ようとしている者達を止めるためと、冒険者ギルドに知らせるためだ。

「とりあえず、流れを止めるぞ。旅人をこれ以上進ませないように、部下達を立たせよう」

 部下に命令して戻って来たアドニスが言った。
 朝早いとはいえ、ちらほらと旅人が森へ向かって進もうとしている。せめて彼らだけでも助けたい。もうすでに入ってしまった者達には気の毒だが、今の我々では、そちらにまで戦力を割いてはいられなかった。

「我々もすぐここから離れ……」
『まずい、スピードを上げたぞ。魔獣達が我々にも気付いた‼』

 ローリーの言葉に慌てて命令を出す。

「まずい‼ 急げ!」

 私はすぐに馬車に乗り込むと、ジョーディをルリエットから受け取り、カゴに入れてカゴごと抱きしめる。マイケルのことはルリエットが抱きしめた。その瞬間御者ぎょしゃが「行きます!」と言い、馬車が急回転する。
 突然のことにジョーディが泣きそうになったが、私達が安心させるように笑いかけると、不安そうな顔はしているものの、何とか泣かずに静かに私にくっついてきた。
 まさかジョーディの初めての遠出が、こんなことになるとは。まだ小さいジョーディの記憶には残らないだろうが、それでも楽しい旅にしてやりたかった。何も初めての旅で、こんな怖い思いをしなくても……。
 馬車はどんどん加速し、どれだけ進んだか。このまま何とか逃げ切れればと思ったのだが、そう簡単にはいかなかった。

『囲まれるぞ! 回り込んできた奴らもいる!』

 ローリーの声に、私は腹をくくった。

「まずい! 追いつかれた! 私は外へ行く、ルリエット、君は子供達を」
「あなた、気を付けて!」

 私はジョーディをルリエットに渡すと、剣を取り馬車から下りた。すでにかなりの騒ぎになっている。そして色々な方向から、魔獣達の唸り声が聞こえた。周りには逃げ切れなかった旅人と、冒険者の服装の男達が六人程。
 私はローリーを見た。彼が頷く。そうか、この冒険者達が、追われていた奴等か。
 冒険者達を見張っていると後方から、大きなダークウルフと、標準サイズのダークウルフが、私達に追いつき、続いて横の林から、さらにかなりの数のダークウルフが姿を現した。
 ダークウルフ、かなり危険な魔獣だ。冒険者ギルドでAランクに指定されている。魔獣は強さに応じてランクが決められており、SSランクが最強で、次にS、A、B、C、Dと続き、最後がEランクだ。ちなみにローリーもダークウルフと同じ、Aランクに指定されている。
 まさかダークウルフが追いかけてきていたとは。そんなことを思っていたら、ローリーが『まだだ』と言い、さらに身構える。
 その言葉の後、ダークウルフ達が出てきた林から、何かが飛び出してきたかと思うと、ダークウルフ達とは反対の方へ展開した。

「ホワイトキャット……」

 そこにはまたもやAランクに指定されている、大きなホワイトキャットと標準サイズのホワイトキャットがかなりの頭数で並び、私達を威嚇いかくしてきた。
 何故Aランクの魔獣達がこんなに。ダークウルフだけでも無事ではすまないのに、さらにホワイトキャットまでいたら……。
 近くで護衛しているアドニスが息を呑んだのが分かった。そして私はといえば、無意識に冒険者達に怒鳴っていた。

「お前達! 何をした‼」

 どちらの魔獣もめったに森の奥からは出てこない。まぁ彼らの仲間すべてがそうではないが、私達人間が余計な手出しをしなければ、そう簡単に襲ってこないのだ。
 ローリーによれば、怒りの反応だと言っていたからな。この逃げてきた冒険者達が何かやったに決まっている。
 黙ったままの冒険者達。この時私は、一番最悪の事態にだけはなってくれるな、と願っていたのだが、双方が睨み合いを続ける中、この馬鹿な冒険者達のせいで、それが現実になろうとしていた。

「くそ! 返せばいいんだろう!」

 冒険者の一人がダークウルフの方へ、小さなあさの袋を投げた。それを見た別の冒険者も、今度はホワイトキャットの方へと、やはり同じような麻の袋を投げる。
 ホワイトキャットの方へ投げた麻の袋が投げた反動で開き、そしてダークウルフの方へ投げた麻の袋は、あの大きい――おそらく変異種であろうダークウルフが、牙で切り裂いた。
 袋の中身がわかり、アドニスやクランマー、騎士達が冒険者達を睨みつけた。もちろん私もだ。
 中から出てきたもの、それはダークウルフの子供とホワイトキャットの子供だった。私の一番近くにいた冒険者が、袋を投げた仲間達に怒鳴り散らす。

「馬鹿野郎! 何勝手に返してるんだ! これだけ人が、騎士がいるんだぞ。上手くいけばこいつらをおとりに逃げられたかもしれないのに!」

 何処まで腐っているんだ。クランマーが、怒鳴った冒険者の首に剣を突き付ける。すると今度は言い訳を始めた。


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