文字の大きさ
大
中
小
2 / 213
1巻
1-2
「ジョーディ、静かにしてないと連れて行ってあげないわよ」
僕はすぐに大人しくします。ちゃんと連れて行ってもらわないと。
「あら、本当に静かになったわ。ママが何言ったか、分かったのかしら。まさかね」
うん、分かるよ。分かるけど、まだお話しできないもんね。ベルがドアを開けてくれて、いよいよお部屋の外に。
お部屋の外は……長い長い廊下でした。その廊下を歩いて行くママとベル。そのうち大きな階段のある所に到着します。ここに来るまでにお部屋がたくさんありました。
「ジョーディ、今のあなたにお話ししても分からないでしょうけど、ジョーディのお部屋があるのは二階よ。それから……」
分からないと思ってても説明してくれるママ。ママありがとう!
僕が今いるのは二階みたいです。それから上は四階まであって、階段の上を見たら、魔法でキラキラ光らせている綺麗なライトが見えるの。
えっと、前に本で読んだことがあります。確かシャンデリア。あれに似てるんだよ。それから一階の方は広い広い場所で、ママが玄関ホールだと教えてくれました。
僕は玄関ホールに行ってみたくて、手を伸ばしてママにアピールです。
「ま~ま、あうあ~」
「どうしたのジョーディ?」
「あうあうあ~」
また手をバタバタ、それからその手を下に。
「下に行きたいの? ジョーディはまだだめよ。もう少ししたらね」
そ、そんなぁ。そのまま来た方向へ廊下を戻っていくママ達。その途中に絵が三枚飾ってあって、描かれていたのはパパとママとお兄ちゃんでした。絵の下に何か文字が書いてあります。僕がその文字に手を伸ばしたら、ママに止められました。
「絵に触ってはダメよ。その文字は名前が書いてあるのよ。もう少ししたらジョーディも絵を描いてもらいましょうね。それからお名前も。ジョーディはただのジョーディじゃないのよ。ジョーディ・マカリスターというの。私達はマカリスター家の人間よ」
マカリスター? 名前と苗字って感じかな?
廊下を一周して初めてのお外は終わっちゃいました。もっと色々見たかったのに。ちょっと残念。でもこれからは少しずつお外に出られるようになるのかな?
僕がそう思った通り、次の日もその次の日も、毎日ちょっとずつお部屋から出られるようになりました。ママと一緒だったり、パパと一緒だったり。
でもパパはいつも、僕と一緒にいる所をレスターに見つかって、すぐに僕をママに託して連れて行かれちゃいます。レスターに、
「また仕事をおサボりになりましたね。今日はお昼は抜きで仕事を。そうしなければ終わりません」
って怒られて三階に上がって行くのです。……パパ、お仕事サボっちゃダメだよ。
お外に慣れてきた頃、ママがついに僕を抱っこから下ろしてくれました。ハイハイで廊下を進みます。
階段の所では、ベルやお家で働いてる他のメイドさん? それからレスター達とおんなじお洋服を着た男の人達が、僕が階段を下りないようにバリアしています。ちょっと残念だけど、長い廊下を端っこから端っこまでハイハイできるだけでも嬉しいです。
それからまた少しして、今日はいつもとちょっと違いました。
自分のお部屋の床を、ハイハイで遊んでママを待つ僕。早く廊下で遊びたいのに、なかなかママもベルもお迎えに来てくれません。僕はドアの前に行って、パシパシ叩きます。ママまだぁ~?
その時でした。ガチャって音がして、ドアがほんのちょっとだけ開きました。ちゃんとドアが閉まっていなかったみたいです。もう、赤ちゃんの僕がいるのに危ないよ。でも……ふふふ。
僕はハイハイしながら頭でドアを開けて、廊下に出ました。
廊下に出てすぐ左は行き止まり、だから右に進み始めます。誰にも止められないハイハイ。う~ん、なんか楽しい! 止まらずにハイハイして、ついに階段の所に到着です。
上を見て、それから一階の方を見て、その時でした。手が滑っちゃって、体がグラッて。落ちる‼ 僕は目をつぶりました。
……あれ? 少ししたけど、何にも起きません。僕グラッて落ちそうになったよね? でも転がってない? 体も痛くないし……転がり落ちてたら絶対に体が痛いよね? う~ん。痛くないけど、でも首のところ、変な感じがします。
そっと目を開けると、目の前にはやっぱり階段があって、しかも落ちる寸前のところで止まっています。
慌てて手をバタバタしたら、ひょいって誰かが僕のことを持ち上げました。持ち上げた? 何かにぶら下がっているみたいに体がゆらゆらして、その後階段から離れていきます。
ゆらゆら、ゆらゆら。誰? 僕のこと、ブラブラさせてるの。パパ? ママ? 何で何も言ってくれないの? なんか不安になってきちゃったよ。
階段からずっと遠くに離れて、やっと僕のことをぶら下げていた人が、廊下に下ろしてくれました。ちょこん。座ったけど、すぐにハイハイで後ろを振り向きます。
ドキッ‼ とってもビックリしちゃいました。ドキドキが止まりません。
僕の後ろには大きな大きな、黒いヒョウ?みたいな動物がお座りしていて、僕のことをじっと見ていました。だ、誰? 何処から来たの? 僕のこと食べないよね? もうパニックです。だって本当に大きいんだよ。今の僕、この動物の足くらいの背しかないです。
僕がハイハイのままじりじり後ろに下がったら、黒いヒョウが近づいてきます。どうしてついて来るの⁉ また僕は下がって、そしたら黒いヒョウが近づいてきて、少しの間それの繰り返しです。
どんどん下がる僕。でも壁にぶつかって、それ以上下がれなくなっちゃった。こ、怖い。
泣きそうになっちゃいます。
「ふえっ……」
僕が泣きそうになった瞬間、黒いヒョウがごろんって寝転がって、お腹を見せてゴロゴロして、にゃあにゃあ鳴き始めました。え?
僕に構わず、ゴロゴロし続ける黒いヒョウ。そのうち、長いしっぽをぶんぶん振り始めました。
ヒョウのお顔も、さっきまでみたいに怖くありません。怖いヒョウじゃないのかな? 僕はそっとそっと黒いヒョウに近づきます。僕が近づいてもヒョウはお腹を出したままです。
これ以上近づけないって所まで近づいたら、黒いヒョウがもう一回「にゃあ」って鳴きました。何故かそれが触って良いよ、って言っているみたいに聞こえて。だから僕は、そ~っと手を伸ばして、黒いヒョウのお腹を撫で撫で、撫で撫で。それからすぐに手を引っ込めます。
怒ってない? 大丈夫? ヒョウは僕が撫で撫でしてもそのままです。そのお目々が、もっと撫でてって言っているように見えました。もう一度お腹を撫でます。
『なにょうぉぉぉ!』
嬉しそうにヒョウが鳴いた時、パタパタ、と誰かが走ってくる音が聞こえました。
「ジョーディ! 何でここにいるんだ⁉ ママはどうした? ベルは?」
パパが走ってきたの。それで僕のことを急いで抱っこします。
「ローリー、一体何があったんだ」
『にゃうにゃう、にゃあにゃあ』
「うん、うん、それで」
え? パパ、黒いヒョウとお話ししてる? ビックリして、パパとヒョウのことをじぃ~って見つめちゃいました。
「そうか、そうだったのか。ありがとうなローリー。よしみんなで戻ろう」
僕達の後ろをヒョウがついて来ます。僕のお部屋に戻って、パパが僕を抱っこしたままソファーに座ると、パパの足元でヒョウが伏せの姿勢を取りました。
「ジョーディ、この子の名はローリー、ブラックパンサーという魔獣だ。まだジョーディに話しても分からないと思うが……」
この黒いヒョウの名前はローリー。ローリーは動物じゃなくて魔獣でした。ブラックパンサーっていう魔獣さん。
魔獣はこの世界にいる生き物で、たくさんいて、森とか林とか、色々な所に住んでいます。人と仲良くしてくれる魔獣もいるし、逆に人間を襲う怖い魔獣もいて、僕の大好きなぬいぐるみのサウキーも魔獣なんだよ。
ローリーは、ずっと昔からパパの側にいる魔獣で、何処かにお出かけする時もずっと一緒。パパとローリーは魔獣契約をしています。魔獣契約っていうのは、ずっと一緒にいるってこと、お友達になることなんだって。それから、二人で力を合わせてお仕事したりもするんだって。
あとあと、一番ビックリしたのは、魔獣契約すると、契約した魔獣とお話しできるようになるってこと。だからパパとローリーはさっきお話しできたんだよ。
魔獣さんとお話しできるなんて凄いねぇ。僕もいつか魔獣さんとお友達になれるかな? ちゃんと魔獣契約できるかな? 契約の仕方とか知らないけど、それはもう少し大きくなったらお勉強すればいいし。また楽しみが増えちゃいました。
パパのお話が終わるとローリーが起き上がって、お顔を僕の顔に近づけて、自分のお鼻をスリスリしてきました。
『にゃうにゃう』
「ん? そうなのか」
何々? 何て言ってるの?
「ジョーディ、ローリーが『契約はできないけど、ジョーディとお友達になってくれる』と言ってるぞ」
お友達! 本当? わわわ、僕の初めてのお友達! 僕嬉しくて笑っちゃいます。
「キャッキャッキャ!」
「はは、友達が何なのか、ちゃんと分かってるみたいな反応だな。まぁいいか」
「リー、リー」
「そうだぞ。ローリーだ」
『にゃうにゃう!』
僕はローリーの頭をそっと撫でました。
次の日から、時々お部屋に遊びに来てくれるようになったローリー。一緒にボールを転がして遊んだり、僕がハイハイでローリーの下を潜ったり。
それから廊下でも一緒に遊んでくれます。遊んでくれるし、守ってくれるんだよ。僕が危ない所に近づくと、僕のお洋服を咥えて安全な所に戻してくれるの。
僕の初めてのお友達は、とっても優しいブラックパンサーのローリーでした。
ローリーとお友達になった次の日から、
「リー!」
ローリーは僕が呼ぶと、いつもすぐに来てくれます。何処にいても来てくれるの。それで僕と遊んでくれます。
ローリーと遊ぶようになって、パパが乗り物を作ってくれました。木の乗り物で、箱みたいな物に木のタイヤが付いています。乗り物には長いピンクの紐が付いていて、僕が乗ると、ローリーがその紐を引っ張って動かしてくれるんだ。
たまにお兄ちゃんが引っ張ってくれるんだけど、ちょっと不安。急に走り出すんだもん。スピードが上がりすぎて、乗り物が横倒しになったこともあるし。初めて倒れた時は泣いちゃいました。
それからはパパかママがいないと、乗り物を引っ張っちゃダメってことになっちゃって、お兄ちゃんはちょっとだけブーブー怒ってました。
それから僕、ちょっとずつ言葉が話せるようになったんだよ。話せるって言っても、抱っこしてもらいたい時は「だ」とか、おなかすいた時は「ま」とか、そんな感じです。でもパパ達はちゃんと分かってくれます。
そして今日、またまた初めてのことが。
朝、僕におはようしに来てくれたパパとローリー。その時パパがママとお話ししてて、今日はパパとローリーはなんかの訓練があるって言ってました。だからみんなが僕のお部屋から出て行っちゃって一人でつまんなくても、ローリーのことを呼びませんでした。何の訓練か分かんないけど、邪魔しちゃダメだもんね。
仕方ない。そう思った僕は、お気に入りのサウキーのぬいぐるみで遊ぼうって、お部屋の中を見渡します。けれど床の何処にも落ちてなくて、今度はちょっとだけ首を伸ばして、僕のちいさな椅子の上とかも確認。
あっ、あれ! ソファーの所に、ちょっとだけサウキーのお耳が見えました。ハイハイで近づいて手を伸ばします。う~ん、あとちょっとなのに届きません。よしもう一回。ソファーにつかまりながら手を伸ばして。
グググっ!
なんか体が動いた感じがしました。そのとたんサウキーに手が届いて。ん? なんかいつも見てるソファーじゃない? 僕はいつもお座りしているから、ソファーの足しか見えないのに、今は座るところが見えています。
何でだろう? 僕はサウキーを抱きしめながら、上を見て下を見て……。あっ!
「たぁ‼」
僕、いつの間にか立ってました。今まで高速ハイハイしかできなかったのに、ソファーにつかまってはいるけど、立ってるの。
嬉しい‼ 前よりもいろんな物が見えるようになった気がします。僕は嬉しくてサウキーを持ち上げて、やったぁ‼の万歳をしました。そうしたら……。
「お?」
体が後ろに倒れ始めて、そしてゴチンッ‼
「うっ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁん‼」
そのまま倒れて、おもいっきり頭をぶつけちゃいました。い、痛い~! 初めて立てたのは、ソファーにつかまっていたからだったのに、万歳して手を離したから倒れちゃったの。そこまで考えてませんでした。
僕が大泣きしてたら、ヒュッ‼ 開いていた窓から何かが入ってきました。入ってきたのはローリーで、すぐにこちらに来て、僕の顔にすりすりしてくれます。
僕が泣いているといつも側にいてくれるローリー。今も僕が泣いているのに気付いて、すぐに来てくれたみたいです。
ローリーが来てくれてすぐ、今度は廊下をバタバタ走ってくる足音がたくさん聞こえて、バンッてドアが勢い良く開き、パパ達がお部屋に入ってきました。
「どうしたのジョーディ⁉」
ママが僕を抱っこしてくれます。
『にゃうにゃ』
泣いている僕の代わりにローリーが説明しました。
「ああ、転んだのか? お座りしてて後ろに倒れたってところだな。待ってろジョーディ。すぐに痛いの消してやるからな」
パパが僕の頭のところに手を当てて、それから頭の上が明るくなりました。見えないけど、たぶんパパの手が光ってるんだと思います。
「ヒール」
パパがそう言ったら頭の上がもっと明るく光って、そうしたらあれだけ痛かった頭が、すぅって痛くなくなりました。
「ひっく、う?」
「どうだジョーディ。もう痛くないだろう」
もしかして怪我を治す魔法? もう全然痛くありません。痛くないってことを伝えるために、僕は両方の手を上げてニコニコ笑ってみせます。
「大丈夫みたいだな。ふぅ、驚いたぞ。いきなりローリーが、ジョーディがまずい!なんて言って走り出すから」
「私もあなたがいきなり走って来て、ジョーディが大変だって言うから、もう心臓がドキドキだったわよ。ジョーディ、ママ達を驚かせないで」
ごめんなさい。でも嬉しくて手を離しちゃったんだ。
あっ、そうだ! 僕、立てたんだよ! 立てたことも忘れちゃうところだった。パパ達に立ったところを見せなくちゃ。
僕を抱っこしているママに、手と足をバタバタして見せます。これをすると下ろしての合図だから、すぐにママが床に下ろしてくれました。
「ジョーディ、気を付けろ」
大丈夫、大丈夫。今度は手を離さないから。
ハイハイでソファーの所まで行って、さっきとおんなじことをします。できるかな? さっきは上手にできたけど、まだ一回しかやってないもんね。
息を吸って、フン! 手と足に力を入れます。そして……良かった、立てました! さっきみたいに完璧です。
見て見て。僕がパパ達の方を見たら、パパもママも、それにローリーまで、ビックリした顔をして固まっています。ど、どうかな? 上手に立ててる?
「ジョーディが立ったぞ‼」
「ジョーディが立ったわ‼」
『にゃにゃにゃにゃ~ん‼』
この日、お家の中は大騒ぎでした。パーティーが始まっちゃって、僕のお部屋の中は凄いことに。僕は赤ちゃん用フルーツ?スペシャルジュースを飲ませてもらえて。メイドさんや、あとトレバー達も、順番に僕におめでとうと言いに来てくれて。
でもね。少し落ち着いてから、トレバー達にも見せてあげようと思って頑張ったんだけど、その後は一回も成功しませんでした。とっても残念そうなトレバー達。みんなごめんね。
それからも立つ練習をして、だいぶ上手になってきました。最初は立つのがやっとだったのに、今はよちよちなら歩けるようになったんだ。
歩けるようになって少しして、ママが僕に靴を履かせてくれました。歩くと先っぽが光る靴です。今までは靴下だけだったんだ。お部屋の中か、廊下しか歩かなかったからね。
そして靴を履いた僕はついに、二階から一階へと下りました。初めて一階に行った時は、あんまり嬉しくて、歩かないでハイハイして玄関ホールをグルグル周っちゃったよ。
ママが、せっかく靴履いてるのにって残念そうだった。だって歩くよりもハイハイの方が楽だから、喜んだり嬉しくなったりした時は、ハイハイでグルグルしちゃうんだよ。
初めて一階に下りてからまた少しして、今日もママがいつもみたいに一階に連れて行ってくれます。でも今日はすぐに床に下ろしてくれません。そのまま大きな大きなドアに近づいて行って。
「ジョーディ、今日はこれからお外に出るのよ。初めてのお外、驚かないと良いのだけれど」
外⁉ お外に出られるの⁉ 本当?
「とぉ、とぉ」
「そうよ、お外よ」
さぁ行きましょうって、ベルがドアを開けてくれようとした時、ママって呼ぶ声が。お兄ちゃんが二階から下りて来ました。
「僕も一緒って言ったでしょう!」
「そうだったわね。ママもなんだか嬉しくて忘れてたわ。ごめんなさい。さぁ、今度こそお外に出るわよ!」
ベルがガチャン、とドアを開けてくれて、ママが僕を抱っこしたままお外に。ま、眩しい! 最初は目を細めていた僕。慣れてくると、ぱっちり目を開けます。
「にょおぉぉぉぉぉぉ!」
「ジョーディの声、面白! ふふふっ」
「さぁ、ジョーディ、初めてのお外よ!」
ひ、広い! 玄関の前には長~い道が続いていて、その脇には木も花もいっぱいです。
僕が喜んで手をバシバシしていたら、ママ達が横に歩いて行きます。ちょっと進むと、玄関前より木も花も多くなって、お花のトンネルがあったり、お池もあったりしました。もっと進むとテーブルとお椅子が置いてあって、そこにパパ達がいました。
「お、来たな。ママ、ここなら大丈夫だから下ろしてあげたらどうだ?」
「大丈夫かしら?」
ママがそっと庭に下ろしてくれます。下ろしてもらったら、もう誰も僕を止められないよ。あっちによちよち、こっちによちよち。さっき見たお池も見てみたいし、初めてのお外に、僕、大興奮です。たまに前のめりになって転びそうになると、ローリーが僕のお洋服を咥えて支えてくれます。
僕がふらふらしてたら、レスターが何か運んできました。お茶とお菓子を持って来てくれたみたいです。それらがテーブルに並べられた後、僕はパパに掴まってそのお膝に座ります。
「初めての外はどうだ、ジョーディ」
「とぉ! ちぃ‼」
「そうか楽しいか。良かった良かった」
僕はフルーツジュースを、パパ達はお茶とお菓子を口にします。周りをキョロキョロしながらジュースを飲んでたら、パパ達がお話を始めました。
パパが「父さんが」とか「母さんが」とか、いつ出かけるかとか話すと、ママがそろそろ用意を始めないととか、僕の誕生日パーティーがとか。僕の誕生日パーティー? ん?
ジュースを飲んで少し遊んだら、今日はもうお外で遊ぶのは終わりだって。少ししか遊べませんでした。もうちょっと遊びたかったのに。
でもそれからは、短い時間お外で遊べるようになって、少したったら長い間お外で遊べるようになりました。
遊べる場所もだんだん多くなって、僕のお家には、魔獣を飼ってる小屋があることが分かりました。
ママが順番に指差して紹介してくれます。
「しゃうきー!」
「そうよ。サウキーよ」
「わんわん!」
「そうね、ワンワンね」
「しゅぷ!」
「スプリングホースよ」
僕の大好きなサウキーに、毛がぼうぼうのワンちゃん。それから頭の毛がぼうぼうで、しっぽの毛もぼうぼうのお馬さん。走るのがとっても速いんだって。他にもたくさん魔獣を飼ってます。
「今度おじいちゃん、おばあちゃんのお家に行く時は、このお馬さんが馬車を運んでくれるのよ」
この頃、お家の中がバタバタしてます。お出かけの準備をしているみたい。この前パパ達がお話ししてたでしょう? あれは僕のお誕生日のお話で、パパのお父さんとお母さんのお家に行って、パーティーしてくれるってことだったんだ。
パパのお父さんとお母さんだから、僕のおじいちゃんとおばあちゃんに会えるの。それから僕のお誕生日のパーティー……えへへ、嬉しいね!
「さぁ、ジョーディ様、お着替えいたしましょうね」
今日は朝起きたら、いつもと違う、なんかカッコいいお洋服を着せられました。それからママがグミみたいな小さい食べ物をくれて、お口に入れたらすぐに溶けてなくなっちゃったんだ。ママは僕の口を開けて、グミがなくなったのを確認します。
「これで馬車に乗っても酔わないわね」
それからすぐに、抱っこされて玄関ホールからお外に出たら、目の前にカッコいい馬車が止まってました。馬車は二台で、その後ろにも馬車みたいなのが止まってて、それからお馬さんと騎士さんもいっぱいいます。
騎士さん。そう、この世界には騎士さんがいるんだ。時々お庭にいるんだよ。
「さぁ、ジョーディ。これからおじいちゃんのお家に出発よ」
みんな初めて会う人ばっかり、しかもこんなに人が周りにいるのは初めてで、僕はママに抱っこしてもらったまま固まっちゃいました。おじいちゃんのお家に行くだけだよね?
僕が固まってたら、スプリングホースの所にいた、大きな体の男の人が僕を見て、隣にいた男の人に声をかけて近づいてきました。
僕はすぐに大人しくします。ちゃんと連れて行ってもらわないと。
「あら、本当に静かになったわ。ママが何言ったか、分かったのかしら。まさかね」
うん、分かるよ。分かるけど、まだお話しできないもんね。ベルがドアを開けてくれて、いよいよお部屋の外に。
お部屋の外は……長い長い廊下でした。その廊下を歩いて行くママとベル。そのうち大きな階段のある所に到着します。ここに来るまでにお部屋がたくさんありました。
「ジョーディ、今のあなたにお話ししても分からないでしょうけど、ジョーディのお部屋があるのは二階よ。それから……」
分からないと思ってても説明してくれるママ。ママありがとう!
僕が今いるのは二階みたいです。それから上は四階まであって、階段の上を見たら、魔法でキラキラ光らせている綺麗なライトが見えるの。
えっと、前に本で読んだことがあります。確かシャンデリア。あれに似てるんだよ。それから一階の方は広い広い場所で、ママが玄関ホールだと教えてくれました。
僕は玄関ホールに行ってみたくて、手を伸ばしてママにアピールです。
「ま~ま、あうあ~」
「どうしたのジョーディ?」
「あうあうあ~」
また手をバタバタ、それからその手を下に。
「下に行きたいの? ジョーディはまだだめよ。もう少ししたらね」
そ、そんなぁ。そのまま来た方向へ廊下を戻っていくママ達。その途中に絵が三枚飾ってあって、描かれていたのはパパとママとお兄ちゃんでした。絵の下に何か文字が書いてあります。僕がその文字に手を伸ばしたら、ママに止められました。
「絵に触ってはダメよ。その文字は名前が書いてあるのよ。もう少ししたらジョーディも絵を描いてもらいましょうね。それからお名前も。ジョーディはただのジョーディじゃないのよ。ジョーディ・マカリスターというの。私達はマカリスター家の人間よ」
マカリスター? 名前と苗字って感じかな?
廊下を一周して初めてのお外は終わっちゃいました。もっと色々見たかったのに。ちょっと残念。でもこれからは少しずつお外に出られるようになるのかな?
僕がそう思った通り、次の日もその次の日も、毎日ちょっとずつお部屋から出られるようになりました。ママと一緒だったり、パパと一緒だったり。
でもパパはいつも、僕と一緒にいる所をレスターに見つかって、すぐに僕をママに託して連れて行かれちゃいます。レスターに、
「また仕事をおサボりになりましたね。今日はお昼は抜きで仕事を。そうしなければ終わりません」
って怒られて三階に上がって行くのです。……パパ、お仕事サボっちゃダメだよ。
お外に慣れてきた頃、ママがついに僕を抱っこから下ろしてくれました。ハイハイで廊下を進みます。
階段の所では、ベルやお家で働いてる他のメイドさん? それからレスター達とおんなじお洋服を着た男の人達が、僕が階段を下りないようにバリアしています。ちょっと残念だけど、長い廊下を端っこから端っこまでハイハイできるだけでも嬉しいです。
それからまた少しして、今日はいつもとちょっと違いました。
自分のお部屋の床を、ハイハイで遊んでママを待つ僕。早く廊下で遊びたいのに、なかなかママもベルもお迎えに来てくれません。僕はドアの前に行って、パシパシ叩きます。ママまだぁ~?
その時でした。ガチャって音がして、ドアがほんのちょっとだけ開きました。ちゃんとドアが閉まっていなかったみたいです。もう、赤ちゃんの僕がいるのに危ないよ。でも……ふふふ。
僕はハイハイしながら頭でドアを開けて、廊下に出ました。
廊下に出てすぐ左は行き止まり、だから右に進み始めます。誰にも止められないハイハイ。う~ん、なんか楽しい! 止まらずにハイハイして、ついに階段の所に到着です。
上を見て、それから一階の方を見て、その時でした。手が滑っちゃって、体がグラッて。落ちる‼ 僕は目をつぶりました。
……あれ? 少ししたけど、何にも起きません。僕グラッて落ちそうになったよね? でも転がってない? 体も痛くないし……転がり落ちてたら絶対に体が痛いよね? う~ん。痛くないけど、でも首のところ、変な感じがします。
そっと目を開けると、目の前にはやっぱり階段があって、しかも落ちる寸前のところで止まっています。
慌てて手をバタバタしたら、ひょいって誰かが僕のことを持ち上げました。持ち上げた? 何かにぶら下がっているみたいに体がゆらゆらして、その後階段から離れていきます。
ゆらゆら、ゆらゆら。誰? 僕のこと、ブラブラさせてるの。パパ? ママ? 何で何も言ってくれないの? なんか不安になってきちゃったよ。
階段からずっと遠くに離れて、やっと僕のことをぶら下げていた人が、廊下に下ろしてくれました。ちょこん。座ったけど、すぐにハイハイで後ろを振り向きます。
ドキッ‼ とってもビックリしちゃいました。ドキドキが止まりません。
僕の後ろには大きな大きな、黒いヒョウ?みたいな動物がお座りしていて、僕のことをじっと見ていました。だ、誰? 何処から来たの? 僕のこと食べないよね? もうパニックです。だって本当に大きいんだよ。今の僕、この動物の足くらいの背しかないです。
僕がハイハイのままじりじり後ろに下がったら、黒いヒョウが近づいてきます。どうしてついて来るの⁉ また僕は下がって、そしたら黒いヒョウが近づいてきて、少しの間それの繰り返しです。
どんどん下がる僕。でも壁にぶつかって、それ以上下がれなくなっちゃった。こ、怖い。
泣きそうになっちゃいます。
「ふえっ……」
僕が泣きそうになった瞬間、黒いヒョウがごろんって寝転がって、お腹を見せてゴロゴロして、にゃあにゃあ鳴き始めました。え?
僕に構わず、ゴロゴロし続ける黒いヒョウ。そのうち、長いしっぽをぶんぶん振り始めました。
ヒョウのお顔も、さっきまでみたいに怖くありません。怖いヒョウじゃないのかな? 僕はそっとそっと黒いヒョウに近づきます。僕が近づいてもヒョウはお腹を出したままです。
これ以上近づけないって所まで近づいたら、黒いヒョウがもう一回「にゃあ」って鳴きました。何故かそれが触って良いよ、って言っているみたいに聞こえて。だから僕は、そ~っと手を伸ばして、黒いヒョウのお腹を撫で撫で、撫で撫で。それからすぐに手を引っ込めます。
怒ってない? 大丈夫? ヒョウは僕が撫で撫でしてもそのままです。そのお目々が、もっと撫でてって言っているように見えました。もう一度お腹を撫でます。
『なにょうぉぉぉ!』
嬉しそうにヒョウが鳴いた時、パタパタ、と誰かが走ってくる音が聞こえました。
「ジョーディ! 何でここにいるんだ⁉ ママはどうした? ベルは?」
パパが走ってきたの。それで僕のことを急いで抱っこします。
「ローリー、一体何があったんだ」
『にゃうにゃう、にゃあにゃあ』
「うん、うん、それで」
え? パパ、黒いヒョウとお話ししてる? ビックリして、パパとヒョウのことをじぃ~って見つめちゃいました。
「そうか、そうだったのか。ありがとうなローリー。よしみんなで戻ろう」
僕達の後ろをヒョウがついて来ます。僕のお部屋に戻って、パパが僕を抱っこしたままソファーに座ると、パパの足元でヒョウが伏せの姿勢を取りました。
「ジョーディ、この子の名はローリー、ブラックパンサーという魔獣だ。まだジョーディに話しても分からないと思うが……」
この黒いヒョウの名前はローリー。ローリーは動物じゃなくて魔獣でした。ブラックパンサーっていう魔獣さん。
魔獣はこの世界にいる生き物で、たくさんいて、森とか林とか、色々な所に住んでいます。人と仲良くしてくれる魔獣もいるし、逆に人間を襲う怖い魔獣もいて、僕の大好きなぬいぐるみのサウキーも魔獣なんだよ。
ローリーは、ずっと昔からパパの側にいる魔獣で、何処かにお出かけする時もずっと一緒。パパとローリーは魔獣契約をしています。魔獣契約っていうのは、ずっと一緒にいるってこと、お友達になることなんだって。それから、二人で力を合わせてお仕事したりもするんだって。
あとあと、一番ビックリしたのは、魔獣契約すると、契約した魔獣とお話しできるようになるってこと。だからパパとローリーはさっきお話しできたんだよ。
魔獣さんとお話しできるなんて凄いねぇ。僕もいつか魔獣さんとお友達になれるかな? ちゃんと魔獣契約できるかな? 契約の仕方とか知らないけど、それはもう少し大きくなったらお勉強すればいいし。また楽しみが増えちゃいました。
パパのお話が終わるとローリーが起き上がって、お顔を僕の顔に近づけて、自分のお鼻をスリスリしてきました。
『にゃうにゃう』
「ん? そうなのか」
何々? 何て言ってるの?
「ジョーディ、ローリーが『契約はできないけど、ジョーディとお友達になってくれる』と言ってるぞ」
お友達! 本当? わわわ、僕の初めてのお友達! 僕嬉しくて笑っちゃいます。
「キャッキャッキャ!」
「はは、友達が何なのか、ちゃんと分かってるみたいな反応だな。まぁいいか」
「リー、リー」
「そうだぞ。ローリーだ」
『にゃうにゃう!』
僕はローリーの頭をそっと撫でました。
次の日から、時々お部屋に遊びに来てくれるようになったローリー。一緒にボールを転がして遊んだり、僕がハイハイでローリーの下を潜ったり。
それから廊下でも一緒に遊んでくれます。遊んでくれるし、守ってくれるんだよ。僕が危ない所に近づくと、僕のお洋服を咥えて安全な所に戻してくれるの。
僕の初めてのお友達は、とっても優しいブラックパンサーのローリーでした。
ローリーとお友達になった次の日から、
「リー!」
ローリーは僕が呼ぶと、いつもすぐに来てくれます。何処にいても来てくれるの。それで僕と遊んでくれます。
ローリーと遊ぶようになって、パパが乗り物を作ってくれました。木の乗り物で、箱みたいな物に木のタイヤが付いています。乗り物には長いピンクの紐が付いていて、僕が乗ると、ローリーがその紐を引っ張って動かしてくれるんだ。
たまにお兄ちゃんが引っ張ってくれるんだけど、ちょっと不安。急に走り出すんだもん。スピードが上がりすぎて、乗り物が横倒しになったこともあるし。初めて倒れた時は泣いちゃいました。
それからはパパかママがいないと、乗り物を引っ張っちゃダメってことになっちゃって、お兄ちゃんはちょっとだけブーブー怒ってました。
それから僕、ちょっとずつ言葉が話せるようになったんだよ。話せるって言っても、抱っこしてもらいたい時は「だ」とか、おなかすいた時は「ま」とか、そんな感じです。でもパパ達はちゃんと分かってくれます。
そして今日、またまた初めてのことが。
朝、僕におはようしに来てくれたパパとローリー。その時パパがママとお話ししてて、今日はパパとローリーはなんかの訓練があるって言ってました。だからみんなが僕のお部屋から出て行っちゃって一人でつまんなくても、ローリーのことを呼びませんでした。何の訓練か分かんないけど、邪魔しちゃダメだもんね。
仕方ない。そう思った僕は、お気に入りのサウキーのぬいぐるみで遊ぼうって、お部屋の中を見渡します。けれど床の何処にも落ちてなくて、今度はちょっとだけ首を伸ばして、僕のちいさな椅子の上とかも確認。
あっ、あれ! ソファーの所に、ちょっとだけサウキーのお耳が見えました。ハイハイで近づいて手を伸ばします。う~ん、あとちょっとなのに届きません。よしもう一回。ソファーにつかまりながら手を伸ばして。
グググっ!
なんか体が動いた感じがしました。そのとたんサウキーに手が届いて。ん? なんかいつも見てるソファーじゃない? 僕はいつもお座りしているから、ソファーの足しか見えないのに、今は座るところが見えています。
何でだろう? 僕はサウキーを抱きしめながら、上を見て下を見て……。あっ!
「たぁ‼」
僕、いつの間にか立ってました。今まで高速ハイハイしかできなかったのに、ソファーにつかまってはいるけど、立ってるの。
嬉しい‼ 前よりもいろんな物が見えるようになった気がします。僕は嬉しくてサウキーを持ち上げて、やったぁ‼の万歳をしました。そうしたら……。
「お?」
体が後ろに倒れ始めて、そしてゴチンッ‼
「うっ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁん‼」
そのまま倒れて、おもいっきり頭をぶつけちゃいました。い、痛い~! 初めて立てたのは、ソファーにつかまっていたからだったのに、万歳して手を離したから倒れちゃったの。そこまで考えてませんでした。
僕が大泣きしてたら、ヒュッ‼ 開いていた窓から何かが入ってきました。入ってきたのはローリーで、すぐにこちらに来て、僕の顔にすりすりしてくれます。
僕が泣いているといつも側にいてくれるローリー。今も僕が泣いているのに気付いて、すぐに来てくれたみたいです。
ローリーが来てくれてすぐ、今度は廊下をバタバタ走ってくる足音がたくさん聞こえて、バンッてドアが勢い良く開き、パパ達がお部屋に入ってきました。
「どうしたのジョーディ⁉」
ママが僕を抱っこしてくれます。
『にゃうにゃ』
泣いている僕の代わりにローリーが説明しました。
「ああ、転んだのか? お座りしてて後ろに倒れたってところだな。待ってろジョーディ。すぐに痛いの消してやるからな」
パパが僕の頭のところに手を当てて、それから頭の上が明るくなりました。見えないけど、たぶんパパの手が光ってるんだと思います。
「ヒール」
パパがそう言ったら頭の上がもっと明るく光って、そうしたらあれだけ痛かった頭が、すぅって痛くなくなりました。
「ひっく、う?」
「どうだジョーディ。もう痛くないだろう」
もしかして怪我を治す魔法? もう全然痛くありません。痛くないってことを伝えるために、僕は両方の手を上げてニコニコ笑ってみせます。
「大丈夫みたいだな。ふぅ、驚いたぞ。いきなりローリーが、ジョーディがまずい!なんて言って走り出すから」
「私もあなたがいきなり走って来て、ジョーディが大変だって言うから、もう心臓がドキドキだったわよ。ジョーディ、ママ達を驚かせないで」
ごめんなさい。でも嬉しくて手を離しちゃったんだ。
あっ、そうだ! 僕、立てたんだよ! 立てたことも忘れちゃうところだった。パパ達に立ったところを見せなくちゃ。
僕を抱っこしているママに、手と足をバタバタして見せます。これをすると下ろしての合図だから、すぐにママが床に下ろしてくれました。
「ジョーディ、気を付けろ」
大丈夫、大丈夫。今度は手を離さないから。
ハイハイでソファーの所まで行って、さっきとおんなじことをします。できるかな? さっきは上手にできたけど、まだ一回しかやってないもんね。
息を吸って、フン! 手と足に力を入れます。そして……良かった、立てました! さっきみたいに完璧です。
見て見て。僕がパパ達の方を見たら、パパもママも、それにローリーまで、ビックリした顔をして固まっています。ど、どうかな? 上手に立ててる?
「ジョーディが立ったぞ‼」
「ジョーディが立ったわ‼」
『にゃにゃにゃにゃ~ん‼』
この日、お家の中は大騒ぎでした。パーティーが始まっちゃって、僕のお部屋の中は凄いことに。僕は赤ちゃん用フルーツ?スペシャルジュースを飲ませてもらえて。メイドさんや、あとトレバー達も、順番に僕におめでとうと言いに来てくれて。
でもね。少し落ち着いてから、トレバー達にも見せてあげようと思って頑張ったんだけど、その後は一回も成功しませんでした。とっても残念そうなトレバー達。みんなごめんね。
それからも立つ練習をして、だいぶ上手になってきました。最初は立つのがやっとだったのに、今はよちよちなら歩けるようになったんだ。
歩けるようになって少しして、ママが僕に靴を履かせてくれました。歩くと先っぽが光る靴です。今までは靴下だけだったんだ。お部屋の中か、廊下しか歩かなかったからね。
そして靴を履いた僕はついに、二階から一階へと下りました。初めて一階に行った時は、あんまり嬉しくて、歩かないでハイハイして玄関ホールをグルグル周っちゃったよ。
ママが、せっかく靴履いてるのにって残念そうだった。だって歩くよりもハイハイの方が楽だから、喜んだり嬉しくなったりした時は、ハイハイでグルグルしちゃうんだよ。
初めて一階に下りてからまた少しして、今日もママがいつもみたいに一階に連れて行ってくれます。でも今日はすぐに床に下ろしてくれません。そのまま大きな大きなドアに近づいて行って。
「ジョーディ、今日はこれからお外に出るのよ。初めてのお外、驚かないと良いのだけれど」
外⁉ お外に出られるの⁉ 本当?
「とぉ、とぉ」
「そうよ、お外よ」
さぁ行きましょうって、ベルがドアを開けてくれようとした時、ママって呼ぶ声が。お兄ちゃんが二階から下りて来ました。
「僕も一緒って言ったでしょう!」
「そうだったわね。ママもなんだか嬉しくて忘れてたわ。ごめんなさい。さぁ、今度こそお外に出るわよ!」
ベルがガチャン、とドアを開けてくれて、ママが僕を抱っこしたままお外に。ま、眩しい! 最初は目を細めていた僕。慣れてくると、ぱっちり目を開けます。
「にょおぉぉぉぉぉぉ!」
「ジョーディの声、面白! ふふふっ」
「さぁ、ジョーディ、初めてのお外よ!」
ひ、広い! 玄関の前には長~い道が続いていて、その脇には木も花もいっぱいです。
僕が喜んで手をバシバシしていたら、ママ達が横に歩いて行きます。ちょっと進むと、玄関前より木も花も多くなって、お花のトンネルがあったり、お池もあったりしました。もっと進むとテーブルとお椅子が置いてあって、そこにパパ達がいました。
「お、来たな。ママ、ここなら大丈夫だから下ろしてあげたらどうだ?」
「大丈夫かしら?」
ママがそっと庭に下ろしてくれます。下ろしてもらったら、もう誰も僕を止められないよ。あっちによちよち、こっちによちよち。さっき見たお池も見てみたいし、初めてのお外に、僕、大興奮です。たまに前のめりになって転びそうになると、ローリーが僕のお洋服を咥えて支えてくれます。
僕がふらふらしてたら、レスターが何か運んできました。お茶とお菓子を持って来てくれたみたいです。それらがテーブルに並べられた後、僕はパパに掴まってそのお膝に座ります。
「初めての外はどうだ、ジョーディ」
「とぉ! ちぃ‼」
「そうか楽しいか。良かった良かった」
僕はフルーツジュースを、パパ達はお茶とお菓子を口にします。周りをキョロキョロしながらジュースを飲んでたら、パパ達がお話を始めました。
パパが「父さんが」とか「母さんが」とか、いつ出かけるかとか話すと、ママがそろそろ用意を始めないととか、僕の誕生日パーティーがとか。僕の誕生日パーティー? ん?
ジュースを飲んで少し遊んだら、今日はもうお外で遊ぶのは終わりだって。少ししか遊べませんでした。もうちょっと遊びたかったのに。
でもそれからは、短い時間お外で遊べるようになって、少したったら長い間お外で遊べるようになりました。
遊べる場所もだんだん多くなって、僕のお家には、魔獣を飼ってる小屋があることが分かりました。
ママが順番に指差して紹介してくれます。
「しゃうきー!」
「そうよ。サウキーよ」
「わんわん!」
「そうね、ワンワンね」
「しゅぷ!」
「スプリングホースよ」
僕の大好きなサウキーに、毛がぼうぼうのワンちゃん。それから頭の毛がぼうぼうで、しっぽの毛もぼうぼうのお馬さん。走るのがとっても速いんだって。他にもたくさん魔獣を飼ってます。
「今度おじいちゃん、おばあちゃんのお家に行く時は、このお馬さんが馬車を運んでくれるのよ」
この頃、お家の中がバタバタしてます。お出かけの準備をしているみたい。この前パパ達がお話ししてたでしょう? あれは僕のお誕生日のお話で、パパのお父さんとお母さんのお家に行って、パーティーしてくれるってことだったんだ。
パパのお父さんとお母さんだから、僕のおじいちゃんとおばあちゃんに会えるの。それから僕のお誕生日のパーティー……えへへ、嬉しいね!
「さぁ、ジョーディ様、お着替えいたしましょうね」
今日は朝起きたら、いつもと違う、なんかカッコいいお洋服を着せられました。それからママがグミみたいな小さい食べ物をくれて、お口に入れたらすぐに溶けてなくなっちゃったんだ。ママは僕の口を開けて、グミがなくなったのを確認します。
「これで馬車に乗っても酔わないわね」
それからすぐに、抱っこされて玄関ホールからお外に出たら、目の前にカッコいい馬車が止まってました。馬車は二台で、その後ろにも馬車みたいなのが止まってて、それからお馬さんと騎士さんもいっぱいいます。
騎士さん。そう、この世界には騎士さんがいるんだ。時々お庭にいるんだよ。
「さぁ、ジョーディ。これからおじいちゃんのお家に出発よ」
みんな初めて会う人ばっかり、しかもこんなに人が周りにいるのは初めてで、僕はママに抱っこしてもらったまま固まっちゃいました。おじいちゃんのお家に行くだけだよね?
僕が固まってたら、スプリングホースの所にいた、大きな体の男の人が僕を見て、隣にいた男の人に声をかけて近づいてきました。
感想 599
あなたにおすすめの小説
世界樹を救ったのは転生幼児のハズレスキル【草むしり】でした〜ぐうたらおっさん精霊を更生させながら、もふ神獣たちと聖域生活始めます〜
神様のミスで死んでしまった高橋快晴(25)は、お詫びとして憧れの剣と魔法の異世界へ転生。魔法の名家として知られる、ヴァルディス侯爵家の3男、アルフレッドとして第2の人生を歩み始める。
だが、3歳で行われた魔法判定の儀で、歴代最高の魔力を持ちながら、属性魔法を一切使えない無能だと判明。さらに授かった固有スキルは、どう考えてもハズレスキルの【草むしり】で……。
そのため、実力至上主義の侯爵家では、アルフレッドが人々の目に留まることを恐れ、事故に見せかけて処分することを決定。『呪われた魔の森』と呼ばれる、誰も近寄ることのない森へ捨てられてしまう。
この状況に、死を覚悟するアルフレッド。しかしここで彼の前に現れたのは、敵意のない妖精たちで。なぜか彼らに気に入られたアルフレッドは、導かれるままにある場所へ向かうことに。そして連れられた先にあったのは、今にも枯れてしまいそうな『世界樹』だった。
するとそこで、ハズレスキルだと思っていた【草むしり】が、思いもよらない形で、世界樹を救うことになり?
この出来事をきっかけにアルフレッドは、ぐうたらなおじ守護精霊や、もふもふの神獣たちに囲まれながら、世界樹の元で新たな生活を送ることになるのだった。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
もふもふ神獣の幼児が、私から離れてくれません。〜事務能力で完璧なお世話をしていたら、甘えん坊な溺愛っ子になってしまいました〜
事務官として「効率化の鬼」と呼ばれていた私、エリーゼ。
職を失った私が次に選んだ仕事は、呪いで獣の姿になったまま幼児退行してしまった公爵家跡取り・レオ様のお世話係だった。
「誰も懐かない」「凶暴で手に負えない」と噂されるレオ様。
――けれど、それはただの『管理不足』が原因では?
私は持ち前の事務能力と、魔獣の生活リズムに基づいた『完璧なスケジュール管理』で、彼のお世話をスタート。
適切な室温、栄養バランスの取れた食事、そして至高のブラッシング。
私が粛々と業務をこなすと、あんなに凶暴だったレオ様が、みるみるうちにトロトロの甘えん坊に変貌して……!?
「おねえちゃん、だっこぉ……」
気づけば、私の膝の上はふかふかの獣の公爵令息の定位置に。
完璧な管理を目指したはずが、今日も彼にべったり甘やかされる、癒やしと溺愛の(ちょっと困った)スローライフが幕を開ける。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
王宮の雑用係を追放されたので、辺境の森で「もふっ子保育園」を開いたら、なぜか国中から溺愛が押し寄せてきました
「お前のような無能な雑用係は、今日から我が家の恥だ。出ていけ!」
理不尽な理由で実家を追い出され、王国から放り出された少女・コレット。
けれど彼女は絶望するどころか、「やった! これで朝早く起きなくていいし、のんびり暮らせる!」と心底清々した顔で辺境の森へと旅立つ。
寂れた村のはずれで古民家を借りたコレットは、そこで傷ついた「手のひらサイズの可愛いもふもふ(実は最強の神獣)」を拾う。
「うちの子になったからには、美味しいご飯をたくさん食べさせてあげるね!」
そう言って彼女が気ままに振る舞うお茶や料理、そして特製のスープは、なぜか世界の常識を覆す【神級のチート効果】を秘めていた。
コレット本人は「私なんてただの一般人ですよ?」と無自覚だが、
彼女の作るご飯と圧倒的な母性に惹かれ、村の子どもたちや魔獣の赤ちゃんたちが次々と集まってきて――気がつけば、自宅は賑やかな**「もふっ子保育園」**に!
さらに、噂を聞きつけて辺境までやってきた「冷徹と恐れられる最強騎士団長」や「訳ありの王族末っ子」までもが、子どもたちのお世話を手伝う名目で毎日通い詰めるようになり……?
「おい、今日も他の男を園に近づけるな」「俺以外の男の作った飯を食うな」と、外ではクールな男たちが神獣や子どもたちと低レベルな嫉妬のバトルを繰り広げ、裏では元実家の国が「あの雑用係がいないせいで王宮の子供たちが大号泣して手がつけられない!」と大パニックで自滅中!?
基本は1話完結で、美味しいご飯と可愛いもふっ子たちに癒やされる、安心のほのぼの日常をお届けします。
笑えて、キュンとして、お腹が空いて、最高に癒やされる、無自覚チートな辺境ほのぼの保育園ラブコメ、開幕!