もふもふが溢れる異世界で幸せ加護持ち生活!

ありぽん

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1巻

1-1

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 プロローグ


 う~ん、僕、どうしたのかな? 僕は入院していて、いつもみたいにたくさん検査して、それでちょっと疲れて眠っていたと思ったんだけど。起きてるのに目が開けられない? あれ? そっか僕……。
 あっ、お父さんとお母さんが、僕の頭を撫でてくれてる。もう何も見えないけど、でも絶対に間違わないよ。僕、お父さん達に頭撫でてもらうの、大好きなんだもん。
 それからお父さん達、泣いてる……。

啓太けいた、今までよく頑張ったわね。もういいのよ。ゆっくり眠ってね」
「お父さん達はいつも、啓太のことを思っているからな」
「お母さんもお父さんも、啓太が大好きよ」
「俺達の元に生まれてきてくれてありがとう」

 お父さんお母さん泣かないで、僕も二人とも大好きだよ。もっと一緒にいたかったなぁ。もし生まれ変われたら、僕、またお父さん達と家族になりたい!
 だからそれまで、さようなら、お父さんお母さん。


 ……ん? あれ? ここ何処だろう? とっても綺麗な場所だね。僕、病院のベッドで寝ていたと思うんだけど。今僕の周りには綺麗なお花がたくさん咲いていて、それが何処までも続いていました。とっても悪い病気で入院していたはずなのに。……そっか、僕。
 僕、お父さん達にさようならって言ったんだ。もう一緒にいられないって分かったから。でも……何でお花畑にいるんだろう?
 ぱあぁぁぁぁぁぁ!
 な、何、この光?

「こんにちは、如月きさらぎ啓太くん。私はセレナと言います。あなた達の世界では女神と言われている存在よ。よろしくね。私と話をしましょう」

 光の中からいきなり綺麗な女の人が現れて、僕はビックリして声が出ません。女神のセレナさんって言うんだって。セレナさんは、どっかから出した椅子に座って、僕にも椅子を出してくれて。
 僕が椅子に座ってから、セレナさんは色々お話をしてくれました。
 最初にお話ししてくれたのは、僕がどうして病気で死んじゃったか。それは、僕の魂が地球に合わなかったからなんだって。本当は別の世界に生まれるはずだったんだけど、別の神様が間違えちゃって、地球に生まれました。それで魂が地球に合わなくて、病気になって死んじゃったんだって。
 セレナさんが神様の手紙をくれました。手紙にはごめんねぇ~って書いてあったよ。本当に神様のせいなの? 僕が病気だから、お父さんもお母さんも、いつもとっても悲しいお顔をしてたのに!

「気持ちは分かるわ。これについては将来、神様に会える日がくるから、その時に思いっきり怒って」

 怒っていいの? うん、僕、いっぱいいっぱい神様のこと怒るよ!
 神様を怒っていいってお話が終わると、次のお話。今度は、僕が本当に生まれるはずだった世界に行けるっていう内容でした。

「神様のせいだもの。生まれ変われて当たり前よ。今度は間違えないように私が送るわ。だから啓太はその世界で、今までにできなかったことをやってみない? 嫌ならこのまま天国に連れて行くけど、あなた、やりたいことがいっぱいあるんじゃない?」

 僕のやりたいこと? 僕、お友達作りたいな。それから外で遊ぶとか。ずっと病院の中にいたから、やりたいことはいっぱいある。でも……。

「お父さんとお母さんは泣いてるのに。僕だけ楽しいのはダメ」
「あなたは本当に優しい子ね。入院してる時も、お父様とお母様のことをいつも一番に考えて。そうだわ! 私が女神の加護かごを、あなたのお父様とお母様に与えるわ。それから……」

 女神の加護がもらえると、これからずっと良いことばっかりで、たくさんニコニコできるんだって。だから泣いてる暇なんかなくなるって。
 それからもう一つ。いつか僕もお父さん達も、お爺ちゃんお婆ちゃんになって死んじゃったら、天国で会わせてくれるって。

「本当?」
「ええ、約束するわ。天国で再会したら、あなたの新しい世界での楽しい生活のこと、お父様達にお話ししてあげれば良いのよ。そうすればきっと、お父様達もあなたが幸せになってくれたって喜ぶわ」

 そうかな? 僕の新しい世界の話をしたら、お父さん達は喜んでくれるかな?
 セレナさんがニコって笑います。それから近づいてきて僕の手を握りました。

「如月啓太くん。お父様達の願いを伝えます。生まれ変わって、そして今度こそ幸せに暮らしてほしいと。いつでもお父様達は啓太くんの幸せを思っていると」

 お父さん、お母さん、ありがとう。うん! お父さん達が言うんだもん。僕、新しい世界でたくさん楽しいことをして、いつかまた会えた時、そのお話をするよ!

「その顔は決まったみたいね。じゃあこれからあなたを、別の世界の新しい家族の元に送るわね。何かお願いはある? それと記憶はそのままにしておくわね。お父様達との思い出は大切だもの」

 新しい家族……お願い……。う~ん、そうだ!

「家族みんな仲良しで、ずっと元気がいいなぁ。たまに風邪引くくらいはいいけど、でもたくさんお外で遊べて、友達がたくさんできて」
「それで良いの? 幸せになるのは決まっているのよ。他にもっと、お金持ちになりたいとか」
「ううん、僕仲良しと、元気でいい!」
「……そう! じゃあ決まり!」

 セレナさんが現れた時みたいに光り始めました。そうしたら僕の体も光り始めて周りが真っ白になり、何も見えなくなります。それから僕は急に眠くなって……最後にセレナさんの声が聞こえました。
 今度こそ幸せに。いつも私が見守っています。あっ、言い忘れてたわ。また赤ちゃんからスタートだから、もしかすると記憶が残ってても、感情は小さい子になっちゃうかもしれないわ。でも大丈夫。大きくなれば今の状態にちゃんと戻るから。それじゃあね!
 え? どういうこと?
 次に目が覚めた時に見えたのは、綺麗な女の人と広い天井でした。


     *********


 啓太を新しい世界に送り出して、無事に着いたことを確認した私――セレナは、ほんの少し前、彼がここへ来る直前の、神様との会話を思い出した。

「これもすべて、神様のせいですよ」
「分かっておる」
「分かっておる?」
「申しわけない!」

 私の前で、ジャンピング土下座をする神様。

「まったく! 私は今から啓太の所に行って来ますから。神様は啓太の時のようなことがないように、しっかり仕事をしてください! サボったらどうなるか分かっていますよね? それと私からの加護は決定事項ですから。あと、他にも数人、啓太に加護を与えたいという女神が集まっていますので」
「そんなに初めから加護を与えるのものう……」
「原因はどなたにあるんでしたっけ?」
「よろしく頼む!」

 そんなやり取りを神様として、この花畑で啓太を迎えた。私は、女神セレナ。本来の居場所へ向かう啓太に、加護を与える者。
 まだ幼く、小学三年生という若さでその命を終えてしまった啓太。それもこれも、すべては神様のせいだわ。神様が初めからちゃんと、啓太が生まれるべき世界へと送っていれば。神様の手違いにより、地球で生を受けてしまい……。
 そんな啓太は地球に順応することができず、それは原因不明の病という形で体に表れた。そして今日、啓太は病を克服こくふくすることができず、地球での一生を終えてしまった。あんなに互いを思いやる、素晴らしい家族だったのに、啓太も家族もどれほど別れが辛かったことか。
 でも、これから彼には新しい生活が待っている。今度こそ幸せになってもらわなければ。そして次に、最初の両親と再会した時に、思い出とともに、幸せだったと伝えられるように。
 さぁ、啓太! 思いきり新しい世界を楽しんで!



 1章 新しい世界


 僕が起きた時に初めて見たあの綺麗な女の人は、新しいお母さんでした。それが分かったのはちょっとしてから。起きてすぐの僕は、ビックリしちゃって大変だったの。
 今までは病院のベッドの上であんまり動けなかったんだけど、起きてからはもっと動けなくて、さらに自分の手を見てビックリ。とっても小さくて、『手』じゃなくて『お手々』って感じ。
 それで、セレナさんが話していたことを思い出しました。赤ちゃんからスタートってこと。僕、本当に赤ちゃんになったんだ。
 小さな手を見て、それから知らないお部屋の風景を見て、やっと本当に新しい世界に生まれたんだって思えた。セレナさんに心の中でありがとうって言ってたら、ご飯の時間?だったみたいです。
 女の人が僕のことをしっかり抱っこしてくれて、僕は自然におっぱいに吸いつきます。でも全然気になりませんでした。赤ちゃんだからかな?
 ご飯の時に、綺麗な女の人が、

「起きたのねジョーディ、ママよ。さぁ、おちちにしましょうね」

 って言ったから、この人が新しいお母さんだと分かりました。それから僕の名前がジョーディっていうことも。
 返事をしようと思ったけど、「あう」とか「うう」とかしか話せません。赤ちゃんだからお話しできませんでした。でもお母さん、ううん、ママのお話はちゃんと分かるから、もう少し大きくなってしゃべる練習をしたら、すぐにお話しできるようになるかも?
 ご飯が終わって、ママが知らないお歌を歌いながら僕を抱っこしたまま、背中をぽんぽんしてくれます。前のお父さんもお母さんも、僕のことをたくさんギュウってしてくれました。僕、それが大好きだったんだ。
 抱っこしてもらっていたら、ドアをトントン叩く音がします。ママが返事をしたら、背の高いカッコいい男の人と、小さな男の子が入ってきました。男の人がママに尋ねます。

「ルリエット、もうお乳は終わったか?」
「ええ。さぁマイケル、そっと頭を撫でてあげて。そっとよ」
「うん!」

 男の子の名前はマイケル。それから男の人がママのことをルリエットって。ママがベッドに座って、隣にマイケルが座ります。それでマイケルが本当にそっとそっと、僕の頭を撫でてくれました。気持ち良くて僕はニコニコ、思わず「きゃきゃ、あう!」って声が出ます。

「さすがお兄ちゃんね。撫でてもらって、ジョーディとっても喜んでるわ」

 マイケルは僕のお兄ちゃんみたい。

「どれ、私も」

 今度はカッコいい男の人が僕の頭を撫でてくれて、また気持ち良くて、ニコニコ、きゃっきゃっ。

「私のも喜んでくれたな。ジョーディ、パパからプレゼントだぞ」

 カッコいい男の人は僕のお父さん、パパでした。パパは僕の胸のところに、たぶん、うさぎさん?のぬいぐるみを置いてくれます。

「さっきマイケルとお店に行って、買って来たんだ」
「あら可愛いサウキーのぬいぐるみね。良かったわねジョーディ」

 うさぎさんじゃなくてサウキーっていうみたいです。耳が長くてしっぽがまん丸。どう見てもうさぎだよ。
 その時またまたドアをノックする音が。それでパパが返事して、男の人が中に。

「ラディス様、そろそろお時間です」
「もうそんな時間か? はぁ」

 パパの名前、ラディスだって。パパはブツブツ言いながら、寂しそうに部屋を出て行きました。


 ご飯のおっぱいを飲んで、抱っこしてもらって、それを繰り返す日が続いて……僕はまだ歩けないから、いつもベッドの上。最初は目だけ動かして周りを調べて、そのうち頭を動かせるようになって、もっと周りを見ることができるように。
 それで、僕がいるお部屋がとっても広いことがようやく確認できました。だって最初はほとんど天井しか見えなかったから――天井もとっても広かったけど――それだけじゃよく分かんなかったんだ。
 とっても広いお部屋に、ベッドは僕が寝ているこの赤ちゃん用のしかないみたいです。
 それからタンスみたいな家具と、小さい机と椅子と、あとはおもちゃがいっぱい。ぬいぐるみもいっぱい。僕のベッドの中にもいっぱいです。たまにお兄ちゃんがおもちゃを持ってやって来て、それで遊んでいます。
 それから僕のお部屋には、パパ達以外にもたくさん人が出たり入ったり。一番中に入ってくることが多いのは、スーツ?を着ているお爺さんとカッコいいお兄さん、それから紫のお洋服を着ている可愛いお姉さんです。パパ達がお話ししてるのを聞いて、三人のお名前が分かりました。
 お爺さんのお名前はトレバー。カッコいいお兄さんのお名前はレスター。可愛いお姉さんのお名前はベルです。
 トレバーとレスターは、パパを呼びに来ることが多くて、そのうちレスターは、僕には優しいけどパパのことを怒るの。呼びに来るといつも早く仕事してくださいって叱っています。
 レスターがいない時に僕を抱っこしながらパパが、レスターは相変わらずにらみが怖いって、トレバーに言ってました。そしたらトレバーが、

「途中で仕事を抜け出さずに早く終わらせて、それからジョーディ様の所に来られれば、睨まれることはありませんよ」

 って。睨み? 怖い? レスターがパパのことを怒っている時の顔は、僕のいるベッドからはよく見えないから分からないけど、確かに声はちょっと怖いよね。
 ベルは僕のお部屋にいてお掃除してくれる、いつもニコニコしている優しいお姉さんです。あとはお洋服を着せてくれたり、ママの代わりに絵本を読んでくれたり。もう一人のママみたい。お歌も歌ってくれるんだ。
 僕がこの世界に生まれて、最初の頃に分かったのはこれくらい。だってお部屋から出ないし、その前に起き上がれないし。
 早く大きくなりたいなぁ。そして前にできなかった、お外を走ったり、お友達を作ったり。やりたいことがいっぱい!
 でもその前に、歩く練習とお話しする練習をしなくちゃ。それからお部屋を出て、まずはお家の中を探検したい。お外も楽しみだけど、お家探検も楽しみ!


 僕がこの世界に生まれてどのくらい経ったのかな。僕はいつの間にかゴロンって、横に寝返りが打てるようになりました。ベッドの中だったら、ゴロゴロ転がれるようになって。
 ゴロンゴロン以外だと、話す練習をしています。というか、それしかすることがないの。ママ、パパ、お兄ちゃん、まずはその練習から。
 あ~あママあ~あパパにょうにゃお兄ちゃん……うん、ほとんど変わりません。
 今日もダメかぁ。そう思っていたら、ママがいつもみたいにお部屋に入って来て、いつもみたいに抱っこしてくれて、おっぱいくれて。僕もいつもみたいに、ありがとうと言います。

「あにょう」

 ママはなぁにって笑います。やっぱり伝わってません。でも言うことが大切だよね。
 そうだ! 今日はありがとうに、ママもつけちゃおう!

あにょうありがとうま~まママ

 ん? バタバタさせていた手足が止まっちゃいました。今ママって言えた? 言えたかな? うん気のせいだね。でももしかしたら……。よし、もう一回言ってみよう。

「ま~ま」

 ⁉ 言えた⁉ ママって言えたよね⁉ ママって言えた‼ 僕は嬉しくなって、止まっていた足と手を、またバタバタし始めます。
 ママ、ママって言えたよ! ちゃんと聞こえた? 僕の耳には「ま~ま」って聞こえたんだけど。上手に言えたよね。
 それで気付きました。ママ、何も言ってない。あれ? そういえばさっきまで背中をポンポンしてくれていたのに、それも止まっちゃっています。
 僕はそっとママの方を見ました。
 ママ、とっても驚いたお顔をしています。僕は思わず体がビクッてしちゃったよ。どうしたの? 僕はママをじっと見つめます。ママと目が合った瞬間、とってもニッコリ、いつもの優しい笑顔に変わりました。
 それからママは、僕のことを抱っこしたまま、急にドアの所までダッシュ。お部屋からは出なかったけど、ドアの隙間からお顔を出してパパとお兄ちゃんを呼んで、すぐに部屋の中に戻っちゃいました。
 またお部屋から出られなかった。もうお部屋の中、見飽きちゃったよ。だっていつもおんなじなんだもん。いつお部屋から出られるのかな? 抱っこして連れて行ってくれないかなぁ。
 バタバタって廊下を走る音がして、すぐにママに呼ばれたパパ達がお部屋に来ました。

「どうした⁉」

 パパ達だけじゃなくて、トレバー、レスター、ベルまで走って来たみたいです。みんないつもは澄ましたお顔で、はぁはぁすることなんてないのに、今はとっても焦ってるの。

「奥様いかがされましたか? 坊っちゃまに何か⁉」
「あら、ごめんなさい。私、とても嬉しくて叫んじゃったのよ。別にジョーディに何かあったわけではないのよ」

 みんなが大きなため息をつきます。みんなママの叫び声を聞いて、僕に何かあったと思って、走って来てくれたみたい。僕がしゃべったから……ごめんなさい。

「それで何があったんだ? 嬉しいことって?」

 パパがママから僕を受け取って、ヒョイって抱っこしてくれます。


「ジョーディがママって言ってくれたのよ!」
「何だって‼」

 今度はパパのお声にビックリ。ドキドキしちゃって、涙が自然と出て来ちゃいます。僕が赤ちゃんだからかな? 前に入院していた時は、泣かないようにとっても頑張ってたの。だってお父さん達が心配するから。でも今はすぐ泣いちゃうんだ。

「ふえっ……」
「ああ、すまないジョーディ。ほら怖くないぞ、ごめんなぁ」

 パパが僕を揺らしながら、その場をグルグル回ります。

「もう何してるのよ。ほらジョーディ、サウキーよ」

 ママがサウキーのぬいぐるみを、僕の胸の上に置いてくれます。
 僕が落ち着くのを待って、パパが僕を抱っこしたまま、近くに置いてあった椅子に座りました。その周りをみんなが囲みます。じぃ~って見られると緊張する……。

「さぁ、ジョーディ、もう一回ママって言って。ママよ。ま~ま」

 そう言われて、僕は「ママ」にもう一回挑戦。

「あ~あ」

 あ~、あ~あに戻っちゃった。さっきは言えたのに。ママが諦めずママ、ママって言います。僕も諦めずにチャレンジして……。

「あ~あ、あ~あ、ま~ま」

 言えた‼ 僕がま~まって言った途端、みんなが一斉に拍手しました。それから凄い凄いって、ベルは魔法でシャボン玉を作って飛ばしてくれます。
 そう、この世界には魔法があります。ママがお水の魔法を使っているところを初めて見た時は、ビックリしすぎて、そして興奮して、そのまま寝ちゃいました。気絶?しちゃったんだ。だって魔法だよ!
 起きてから僕は、何とかママにもう一度魔法を使ってもらおうと思ったけど、その日は失敗。でもその後は、普通に魔法を見ることができました。
 僕も大きくなったら、魔法が使えるようになるのかな? 僕、とっても楽しみ‼
 と、それよりも、さっきからパパの声が聞こえません。僕はそっとパパを見てみました。
 …………うん、見なかったことにしよう。カッコいいパパが、ダメダメなパパに。涙でぐちゃぐちゃな、とってもだらしないニコニコなお顔になっちゃってます。

「ジョーディがママって。うう、凄いぞジョーディ」

 そんなに喜んでもらえるなら、頑張って練習して良かった。けど、そのお顔はダメダメな気がする。

「ほらあなた、涙を拭いて」

 ママがパパにハンカチを渡します。それで涙を拭いたパパが、デレデレなお顔のまま、

「ジョーディ、今度はパパって言ってくれ。パパだ。ぱ~ぱ」

 と言い始めました。
 仕方ないなぁ。

「あ~あ、あ~あ」

 なかなかパパって言えません。パパのデレデレした顔が、ちょっとしょんぼりになっちゃった。待って、もう少しで言えると思うから。

「あ~あ、あ~あ」

 でもその日のうちにパパって言うことはできませんでした。ママになぐさめられながらお部屋から出て行くパパ。パパ、ごめんね。


 初めてママって言えてから少しして、パパとお兄ちゃんも言えるようになりました。

「ジョーディ、パパだぞ」
「ぱーぱ」
「お兄ちゃんだよ」
「にー」

 パパとママは何とか言えるんだけど、お兄ちゃんはちょっと難しくて「にー」になっちゃいます。でもみんな喜んでくれてるからいいよね。
 初めてパパって言った時、パパがとっても大変なことになりました。ママって初めて言った時以上に泣いちゃって、デレデレのお顔がもっとデレデレに。しかも何回も言ってくれって頼まれたから、僕も頑張って応えたら、疲れちゃってぐったり。
 それを見たママが、当分の間、僕にパパって言わせるのを禁止にしちゃいました。パパはガックリしながら、トレバーに部屋から連れ出されて行ったよ。
 パパ、お兄ちゃんが言えるようになってから少しして、今度はゴロゴロ転がるんじゃなくて、ハイハイで移動できるようになりました。
 ハイハイできた時に側にいたのはベル。ベルは掃除用具を放り投げて、ドアを思い切り開けると、ダダダダダッ!と走って行っちゃいました。そして、遠くからトレバーの怒る声が。
 でもその後すぐ、たくさんの足音が聞こえてきて、パパ達がお部屋になだれ込んできました。
 うん、それからは大変だったんだ。パパの方にハイハイ。ママの方にハイハイ。お兄ちゃんの方にハイハイ……と何回も何回も。僕は途中で力尽きて、その場でバタっとうつ伏せになったまま寝ちゃいました。
 起きたらパパ達がごめんねの抱っこをしてくれたのと、頭を撫でてくれたから許しちゃったけど、もう何回もハイハイやらないからね。
 あっ、ハイハイができるようになって、僕の楽しみにしていたことがありました。ママが初めてお部屋から僕を連れ出してくれたの。

「ジョーディ、さぁ、今日は初めてお部屋の外に出るわよ」

 それを聞いた時の僕は、嬉しくて高速ハイハイでお部屋の中をグルグルしちゃいました。ママが抱っこしてくれてからも、足をバタバタ、腕をバタバタ。
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