毎日スライム討伐していたらいつの間にか勇者になっていた

七瀬ななし

文字の大きさ
34 / 141

第33話 リアルなお金と、リアルな居場所

 その日は、珍しく事務所に呼び出された。

 

 凛の事務所は、外から見ると控えめなビルだが、中に入ると一気に空気が変わる。防音仕様の廊下、ガラス越しのスタジオ、行き交うスタッフの無駄のない動き。静かな緊張と、どこか非日常の気配が漂っていた。

 

 案内された会議室は、シンプルだが整然としている。白いテーブルに、柔らかな照明。窓の外には、都会のビル群が広がっていた。

 

 凛は、すでにそこにいた。

 

「来たわね」

 

 いつもの調子だが、その目は少しだけ真剣だった。

 

「で、何の話?」

 

 椅子に座りながら聞くと、凛は腕を組んだ。

 

「まず、冒険者活動のこと」

 

「うん?」

 

「そろそろやめたら?」

 

「は?」

 

 予想外の一言だった。

 

「お金あるんだから」

 

「いやいや」

 

 即座に反論する。

 

「お金は必要でしょ」

 

 そう言うと、凛はため息をついた。

 

「馬彦」

 

「……あんた、自分の口座見たことある?」

 

「あるよ?」

 

「うち経由で、日本政府とかからどれくらい入ってると思ってるの?」

 

「……」

 

「もう、億超えてるわよ」

 

「……」

 
 確かにそうだ。

 

 だが。

 

「いやいや」

 

 首を振る。

 

「それはさ」

 

「本当のお金じゃないんだよ」

 

「……は?」

 

 凛の顔が、明らかに怪訝なものになる。

 

「だってさ」

 

「投資とか、売上とかで入ってくるお金ってさ」

 

「リアルじゃないでしょ?」

 

「……」

 

「自分の汗で稼いだものじゃないと」

 

「なんか気持ち悪いんだよ」

 

 

 凛は、しばらく黙ったあと。

 

 

「……要するに」

 

「自分の力で稼いだお金じゃないと嫌ってこと?」

 

 

「そう」

 

 

「でもそれ、あんたの力じゃん」

 

 

「え?」

 

 

「全部、あんたのスキルが元でしょ」

 

 

「……」

 

 

 言われてみれば。

 

 

 だが。

 

 

「いや、なんか違うんだよなあ……」

 

 

 うまく言えないが。

 

 

 スライムを潰して。

 

 魔石を拾って。

 

 ちょっとだけコピーして。

 

 納品して。

 

 

 その一万円、二万円。

 

 

 それが——

 

 リアルなのだ。

 

 

 

「それに」

 

 

 俺は、少し声を落とした。

 

 

「俺、まだ死にたくないし」

 

 

「……は?」

 

 

「俺がスライムジェルの納品やめたらさ」

 

 

「女性冒険者たちが」

 

 

「草の根を分けても俺を探し出して」

 

 

「お仕置きしそうなんだよ……」

 

 

 ぶるっ。

 

 

 想像して、震えた。

 

 

 凛は、じっと見ていた。

 

 

「……まあ」

 

 

「それは、ありそうね」

 

 

「だろ?」

 

 

 

「とにかく」

 

 

「こっちは続けさせてもらうよ」

 

 

「俺の生きがいだから」

 

 

 

「……」

 

 

 凛は、少しだけ笑った。

 

 

「じゃあさ」

 

 

「せめて、もっと深層行きなさいよ」

 

 

「踏破とか」

 

 

「馬鹿なこと言うな」

 

 

「まだ死にたくねえ」

 

 

「いやいや」

 

 

 凛はあっさり言う。

 

 

「あんた、多分死なないわよ」

 

 

「踏破なんて余裕でしょ」

 

 

「……」

 

 

 その言い方。

 

 

 完全に確信している。

 

 

「まあいいけど」

 

 

「人それぞれだしね」

 

 

 あっさり引いた。

 

 

 そして。

 

 

「で、相談なんだけど」

 

 

「うん?」

 

 

「あんた、付与できるでしょ?」

 

 

「まあ……」

 

 

「私の従者たちにさ」

 

 

「簡単な回復、付与してくれない?」

 

 

「……」

 

 

「そうすれば」

 

 

「“聖女の従者になれば力が得られる”ってことで」

 

 

「コキ使える……」

 

 

「……」

 

 

「いや」

 

 

「心酔して、従ってくれるじゃん」

 

 

 言い換えた。

 

 

 どっちもひどい。

 

 

「……」

 

 

 俺は、凛を見た。

 

 

 キラキラしている。

 

 

 物理的に。

 

 

 光っている。

 

 

(……黒いな)

 

 

 内心で思う。

 

 

 完全に人間を逸脱している。

 

 

 俺も同じように、不老で階梯は上がっているはずなのに。

 

 

 この差はなんだ。

 

 

(ああ……)

 

 

 気づく。

 

 

(隠蔽か)

 

 

 俺は、目立たない。

 

 

 徹底的に。

 

 

 それに。

 

 

(キラキラしてモテたら……)

 

 

 紗奈の顔が浮かぶ。

 

 

 にっこり。

 

 

 物理的説得。

 

 

 ぶるっ。

 

 

 震えた。

 

 

 

 その日の午後。

 

 

 いつものダンジョン。

 

 

 ぷちゅ。

 

 

 スライムを潰す。

 

 

 静かだ。

 

 

 平和だ。

 

 

「……これが一番だな」

 
 仕事終わりの発泡酒。時々贅沢してビール。

 
 それこそが……

 
 リアルだ。

 

 心から、そう思った。
感想 3

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

神様の手違いで異世界転生した俺の魅了チートが、勇者のハーレムを根こそぎ奪って溺愛ハーレム作りました!

まさき
恋愛
ブラック企業で働き続けた俺、佐藤誠が過労で倒れ、気づけば異界の地。 「手違いで死なせちゃってごめん!」という神様から、お詫びに貰ったのは規格外の【魅了】スキル——。 だが、元社畜の俺にはその自覚が微塵もない! ​ただ誠実に、普通に生きようとしているだけなのに、エルフの賢者、獣人の少女、最強の聖女、さらには魔王の娘までもが、俺の「社畜仕込みの優しさ」に絆されて居座り始める。 ​一方で、10年かけて仲間を集めたはずの「勇者・勝利」は、自身の傲慢さゆえに、誠へとなびく仲間たちを一人、また一人と失っていく。 「俺は勇者だぞ! なぜ手違い転生者に負けるんだあああ!?」 ​人界から天界、そして宇宙の創造へ——。 無自覚な誠実さで世界を塗り替えてしまう、元社畜の究極溺愛ハーレムファンタジー、ここに開幕!

限界突破の無双サバイバル〜鑑定スキルと無限レベルアップで未開の島を制覇し、助けた美女たちと最高の村を作ります〜

仙道
ファンタジー
異世界の島に転移した駆(かける)は、与えられた『鑑定』スキルと、上限なく上昇し続けるステータスを手に入れた。 魔獣がうごめく島で、俺は圧倒的な物理攻撃と鑑定スキルを活用して安全な水や食料を確保し、サバイバルを始める。 探索を続ける中で、魔獣に襲われる人間の少女リアナ、主人の毒に怯えるメイドのサリア、強敵に追い詰められたエルフの戦士リーファ、素材不足で困窮するエルフの治癒士フィリアを発見する。俺は限界を突破したステータスと的確な指示で、彼女たちの脅威や問題を次々と物理的に排除していく。 命や生活の基盤を確実に救済された美女たちは、俺の実力に圧倒され、激しく溺愛してくるようになる。 やがて集落の村長を引き受けた俺は、鑑定スキルで見つけた豊富な資源を使い、村を快適に作り変えていく。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

ダンジョンで迷惑配信者をやっていた俺。うっかりアイドル配信者を襲ってたドラゴンをぶっ飛ばした結果、良い人バレして鬼バズる

果 一@【弓使い】2巻刊行決定!!
ファンタジー
 矢上一樹は、ダンジョンでマナー違反行為を繰り返す迷惑系配信者だ。  他人の獲物を奪う、弱いモンスターをいたぶる、下品な言葉遣い。やりたい放題やって人気を得ていた彼だったが――ある日、うっかり配信を切り忘れて律儀な一面がバレてしまう。  焦った一樹はキャラを取り繕うも、時すでに遅し。一樹の素は大々的に拡散され話題沸騰していて――さらには、助けた美少女が人気アイドル配信者だったことで、全国レベルでバズってしまい!? これは、炎上系配信者が最強でただのいいヤツだった的な、わりとよくある物語。 ※本作はカクヨムでも連載しています。そちらでのタイトルは「ダンジョンで迷惑配信者をやっていた俺。うっかりアイドル配信者を助けた結果、良い人バレして鬼バズってしまう~もう元のキャラには戻れないかもしれない〜」となります。

天才物理学者の異世界実験録 〜神の奇跡が非効率すぎるので、物理学で最適化したら世界最強になってしまった件〜

あとりえむ
ファンタジー
地球の天才物理学者・湯川連は、自身の理論を証明するためブラックホールに飛び込み、魔法が存在する異世界へと転生した。 辺境伯の息子「レイ」として生まれ変わった彼は、この世界の魔法を見て呆れ果てる。 「エネルギー効率が悪すぎる。ただの不完全燃焼じゃないか」 魔法とは神の奇跡などではなく、未解明の物理現象に過ぎない。 レイは地球の圧倒的な物理学の知識を駆使し、異世界の常識を次々と破壊していく。 ・太陽光を集めただけの『大気レンズ』で超高火力を叩き出し、試験官を驚愕させる。 ・『共振現象』で絶対防御の壁を指一本で粉砕。 ・根性論を語る筆頭魔法教官を『熱力学』で完全論破! 圧倒的な知識チートで、エリート魔法使いや教団の奇跡を次々と数式でねじ伏せていくレイ。 彼の目的はただ一つ。異世界に巨大な加速器を建造し、地球に自らの「論文」を送ること! 落ちこぼれの不確定少女、守銭奴の商人、未来予測の秀才を仲間に加え、天才物理学者の常識破壊の実験が今、幕を開ける。 神様、あなたの奇跡は私が物理学で証明してあげましょう。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。