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第33話 リアルなお金と、リアルな居場所
その日は、珍しく事務所に呼び出された。
凛の事務所は、外から見ると控えめなビルだが、中に入ると一気に空気が変わる。防音仕様の廊下、ガラス越しのスタジオ、行き交うスタッフの無駄のない動き。静かな緊張と、どこか非日常の気配が漂っていた。
案内された会議室は、シンプルだが整然としている。白いテーブルに、柔らかな照明。窓の外には、都会のビル群が広がっていた。
凛は、すでにそこにいた。
「来たわね」
いつもの調子だが、その目は少しだけ真剣だった。
「で、何の話?」
椅子に座りながら聞くと、凛は腕を組んだ。
「まず、冒険者活動のこと」
「うん?」
「そろそろやめたら?」
「は?」
予想外の一言だった。
「お金あるんだから」
「いやいや」
即座に反論する。
「お金は必要でしょ」
そう言うと、凛はため息をついた。
「馬彦」
「……あんた、自分の口座見たことある?」
「あるよ?」
「うち経由で、日本政府とかからどれくらい入ってると思ってるの?」
「……」
「もう、億超えてるわよ」
「……」
確かにそうだ。
だが。
「いやいや」
首を振る。
「それはさ」
「本当のお金じゃないんだよ」
「……は?」
凛の顔が、明らかに怪訝なものになる。
「だってさ」
「投資とか、売上とかで入ってくるお金ってさ」
「リアルじゃないでしょ?」
「……」
「自分の汗で稼いだものじゃないと」
「なんか気持ち悪いんだよ」
凛は、しばらく黙ったあと。
「……要するに」
「自分の力で稼いだお金じゃないと嫌ってこと?」
「そう」
「でもそれ、あんたの力じゃん」
「え?」
「全部、あんたのスキルが元でしょ」
「……」
言われてみれば。
だが。
「いや、なんか違うんだよなあ……」
うまく言えないが。
スライムを潰して。
魔石を拾って。
ちょっとだけコピーして。
納品して。
その一万円、二万円。
それが——
リアルなのだ。
「それに」
俺は、少し声を落とした。
「俺、まだ死にたくないし」
「……は?」
「俺がスライムジェルの納品やめたらさ」
「女性冒険者たちが」
「草の根を分けても俺を探し出して」
「お仕置きしそうなんだよ……」
ぶるっ。
想像して、震えた。
凛は、じっと見ていた。
「……まあ」
「それは、ありそうね」
「だろ?」
「とにかく」
「こっちは続けさせてもらうよ」
「俺の生きがいだから」
「……」
凛は、少しだけ笑った。
「じゃあさ」
「せめて、もっと深層行きなさいよ」
「踏破とか」
「馬鹿なこと言うな」
「まだ死にたくねえ」
「いやいや」
凛はあっさり言う。
「あんた、多分死なないわよ」
「踏破なんて余裕でしょ」
「……」
その言い方。
完全に確信している。
「まあいいけど」
「人それぞれだしね」
あっさり引いた。
そして。
「で、相談なんだけど」
「うん?」
「あんた、付与できるでしょ?」
「まあ……」
「私の従者たちにさ」
「簡単な回復、付与してくれない?」
「……」
「そうすれば」
「“聖女の従者になれば力が得られる”ってことで」
「コキ使える……」
「……」
「いや」
「心酔して、従ってくれるじゃん」
言い換えた。
どっちもひどい。
「……」
俺は、凛を見た。
キラキラしている。
物理的に。
光っている。
(……黒いな)
内心で思う。
完全に人間を逸脱している。
俺も同じように、不老で階梯は上がっているはずなのに。
この差はなんだ。
(ああ……)
気づく。
(隠蔽か)
俺は、目立たない。
徹底的に。
それに。
(キラキラしてモテたら……)
紗奈の顔が浮かぶ。
にっこり。
物理的説得。
ぶるっ。
震えた。
その日の午後。
いつものダンジョン。
ぷちゅ。
スライムを潰す。
静かだ。
平和だ。
「……これが一番だな」
仕事終わりの発泡酒。時々贅沢してビール。
それこそが……
リアルだ。
心から、そう思った。
凛の事務所は、外から見ると控えめなビルだが、中に入ると一気に空気が変わる。防音仕様の廊下、ガラス越しのスタジオ、行き交うスタッフの無駄のない動き。静かな緊張と、どこか非日常の気配が漂っていた。
案内された会議室は、シンプルだが整然としている。白いテーブルに、柔らかな照明。窓の外には、都会のビル群が広がっていた。
凛は、すでにそこにいた。
「来たわね」
いつもの調子だが、その目は少しだけ真剣だった。
「で、何の話?」
椅子に座りながら聞くと、凛は腕を組んだ。
「まず、冒険者活動のこと」
「うん?」
「そろそろやめたら?」
「は?」
予想外の一言だった。
「お金あるんだから」
「いやいや」
即座に反論する。
「お金は必要でしょ」
そう言うと、凛はため息をついた。
「馬彦」
「……あんた、自分の口座見たことある?」
「あるよ?」
「うち経由で、日本政府とかからどれくらい入ってると思ってるの?」
「……」
「もう、億超えてるわよ」
「……」
確かにそうだ。
だが。
「いやいや」
首を振る。
「それはさ」
「本当のお金じゃないんだよ」
「……は?」
凛の顔が、明らかに怪訝なものになる。
「だってさ」
「投資とか、売上とかで入ってくるお金ってさ」
「リアルじゃないでしょ?」
「……」
「自分の汗で稼いだものじゃないと」
「なんか気持ち悪いんだよ」
凛は、しばらく黙ったあと。
「……要するに」
「自分の力で稼いだお金じゃないと嫌ってこと?」
「そう」
「でもそれ、あんたの力じゃん」
「え?」
「全部、あんたのスキルが元でしょ」
「……」
言われてみれば。
だが。
「いや、なんか違うんだよなあ……」
うまく言えないが。
スライムを潰して。
魔石を拾って。
ちょっとだけコピーして。
納品して。
その一万円、二万円。
それが——
リアルなのだ。
「それに」
俺は、少し声を落とした。
「俺、まだ死にたくないし」
「……は?」
「俺がスライムジェルの納品やめたらさ」
「女性冒険者たちが」
「草の根を分けても俺を探し出して」
「お仕置きしそうなんだよ……」
ぶるっ。
想像して、震えた。
凛は、じっと見ていた。
「……まあ」
「それは、ありそうね」
「だろ?」
「とにかく」
「こっちは続けさせてもらうよ」
「俺の生きがいだから」
「……」
凛は、少しだけ笑った。
「じゃあさ」
「せめて、もっと深層行きなさいよ」
「踏破とか」
「馬鹿なこと言うな」
「まだ死にたくねえ」
「いやいや」
凛はあっさり言う。
「あんた、多分死なないわよ」
「踏破なんて余裕でしょ」
「……」
その言い方。
完全に確信している。
「まあいいけど」
「人それぞれだしね」
あっさり引いた。
そして。
「で、相談なんだけど」
「うん?」
「あんた、付与できるでしょ?」
「まあ……」
「私の従者たちにさ」
「簡単な回復、付与してくれない?」
「……」
「そうすれば」
「“聖女の従者になれば力が得られる”ってことで」
「コキ使える……」
「……」
「いや」
「心酔して、従ってくれるじゃん」
言い換えた。
どっちもひどい。
「……」
俺は、凛を見た。
キラキラしている。
物理的に。
光っている。
(……黒いな)
内心で思う。
完全に人間を逸脱している。
俺も同じように、不老で階梯は上がっているはずなのに。
この差はなんだ。
(ああ……)
気づく。
(隠蔽か)
俺は、目立たない。
徹底的に。
それに。
(キラキラしてモテたら……)
紗奈の顔が浮かぶ。
にっこり。
物理的説得。
ぶるっ。
震えた。
その日の午後。
いつものダンジョン。
ぷちゅ。
スライムを潰す。
静かだ。
平和だ。
「……これが一番だな」
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それこそが……
リアルだ。
心から、そう思った。
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