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この拳に砕けぬものなぞない

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「騎士団長よ、本当に大丈夫だろうの?」

王宮筆頭魔術師のサリス・セルマンは、まず最初にエルセリアと合同訓練で模擬戦闘にあたる騎士団長に腕輪を届けたついでに聞いた。

「ふふふ、大丈夫ですとも。この神盾エイギストスさえあれば。そして、ほれ、サリス様が届けてくれた、この腕輪があれば、全く問題ないといえましょうぞ。」

今の騎士団長ノイス・ベイツ、別名首刈りベイツは、前の騎士団長とは違いバリバリの叩き上げだ。現在まで、負けなしでここまでのし上がってきたのだ。毎年の王宮主催の武闘大会では毎年優勝を飾り、彼以外にもはや優勝できないと言うことで、泣きついた貴族の面子を立てるべく騎士団長という位と引き換えに、武闘大会不出場、名誉永世チャンピオンとして、毎年形だけ表彰されているほどだ。爵位こそ子爵と中級貴族でしかないが、先祖は盾の勇者の流れをくむ。そして、彼の強さをさらに押し上げているのが、勇者の血でしか持てない神盾である。

この盾は、武神が直接盾の勇者に授け、不壊の加護が付与されている。勇者の血がないと持ち上げられもせずもちろん持ち運びすらできない。よしんば、盗みに入っても持ち上がらないのだから、盗みようがない。一度、剣の勇者の子孫が持ち上げられるか試したのだが、毛の先ほども地面から浮かなかったという逸話がある。

唯一の欠点は、このエイギストスは、信じられないほどの魔力を使用するということであるが、このサリスが持ってきた腕輪は、魔力が貯められているために、たとえ2昼夜戦っても問題ないほど魔力が込められている。

「まあ、この腕輪の必要もないでしょうが、念には念を、というわけですな。ガハハハハ!」

普段だったら頼もしく聞こえるこの2m超えの大男の言葉でも安心できないサリスであった。

「ではちょっくら教えてきてやりましょうかの。王様からの直々のお願い。確かに、相手は、手練れ。しかし、このエイギストスさえあれば、問題ないでしょう。やりすぎかもしれませんが。なあに、泣かしてしまうかもませんが、怪我など負わすことはないでしょう。」

セルマは、一応、身代わりの護符も授けたのだが、それでもなぜか震えが止まらなかった。

練習場で、エルセリアは、軽く型をなぞっていた。最初は、ゆっくりと、そして、徐々に速度を上げて実戦でも使えるような速度で。正拳突きをするたびにビリビリと大気が揺れた。

「久しぶりに滾る!滾るぞッ!」

大気がビリビリとするなか、エルセリアを見て、これは、団長でもやばいんちゃう、と若い団員は思っていたが、古参の団員は、ノイスのバケモノぶりを知っていたので、別にあわてることはなかった。
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