メイク越しの私

わん子

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第四話:整形の噂と花火

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文化祭2日目、校庭は屋台の喧騒と花火の準備でざわめいていた。
彩花は制服の袖を握りしめ、笑顔の波を眺める。
昨日の凛子の舞台は大成功だった。
かっこいい凛子。自慢の友達だ。
クラスLINEの通知がスマホを震わせる。
彩花、凛子に媚びて目立とうとしてるよねw 

胸が締め付けられる。

彩花は作りなれたふんわりした甘い笑顔を浮かべた。大丈夫。

教室ではメイドカフェが昨日以上の盛況で、フリルのエプロンと甘い香りが漂う。
彩花はメイド服に身を包み、作りなれた笑顔で客を迎える。紅茶を注ぐたび、男子たちがざわつく。

「メイドの彩花ちゃん、今日も天使! 写真撮っていい?」

3年生の男子がスマホを構える。彩花は軽く首を振ってかわす。

「ごめんね、写真は恥ずかしいな。ケーキ、いかが?」

甘い声で微笑むと、男子は照れて席に戻る。

彩花は内心で息をつく。
偽物の笑顔は簡単だ。
美奈がカウンターでスマホをいじり、鈴香と笑う。陽菜が適当に合わせて笑う。
美奈が何か含んだような視線を送ってくる。忘れたい過去が頭をよぎる。
彩花は作りなれた笑顔で誤魔化した。
凛子がメイド服で現れ、鋭い目が彩花と目が合って和らぐ。色気漂う立ち居振る舞いに、彩花は思わず目を奪われる。

「彩花、今日の公演も頼んだよ」

凛子の声は落ち着いている。信頼を込めた目が彩花を支える。彩花は頷いた。うん、凛子。
美奈がスマホを叩く。彩花のスマホが震える。

昼前、クラスLINEが騒がしい。
美奈が彩花の中学時代の写メを投稿。
地味な眼鏡、垢抜けない髪、うつむいた顔。整形じゃん! 別人! 鈴香が「マジ別人w 偽物すぎ」と返す。陽菜が適当に「w」と合わせる。
亮太が追い打ち。彩花、整形バレたんだから隠すなよw 
クラスが残酷に盛り上がる。
彩花、昔こんなだったんだ。整形してまでモテようとするとかw 彩花はスマホを握りしめた。
胸の奥がギューっと締め付けられる。
忘れたい過去が蘇る。美奈の泣く顔、冷たい教室。
彩花は作りなれた笑顔で誤魔化した。大丈夫。心が震える。

凛子が彩花の手を握る。

「彩花、噂、気にしないで。あなたの笑顔の方が強いよ」

彩花は頷いた。凛子、ありがとう。胸が少し温まる。

体育館の舞台では、演劇部の2日目公演が始まる。
凛子の主演劇は昨日以上の注目を集め、観客席は満員だ。
彩花は舞台袖で衣装と小道具を管理。木製の剣、紙製の王冠、絹のドレスをチェック。
凛子は舞台中央で準備する。
クールな美貌、色気ある立ち居振る舞い。昨日より自信に満ちた動き。

彩花は袖から凛子を見つめる。凛子の舞台、絶対成功してほしい。
完璧を演じる凛子と偽物の笑顔の彩花。どこか同じように縛られている。
凛子はスポットライトに浴し、演技を始める。昨日より深い感情、滑らかな動き。観客が息を呑む。彩花の胸が熱くなる。公演は昨日を上回る大成功で終わり、観客が立ち上がって拍手する。

陽太がギターを抱え、くしゃっとした笑顔で現れる。

「凛、今日の演技、鳥肌もん! 彩花ちゃん衣装バッチリ!」

陽太が即興でソングを弾き、凛子を笑わせる。

「凛、輝け~! 彩花ちゃん、負けるな~!」

凛子が小さく笑う。

「陽太、うるさいよ。でも、ありがとう」

彩花は微笑んだ。陽太の明るさが心を軽くする。そこへ、亮太が舞台袖に現れ、彩花に絡む。

「彩花、整形バレたんだから、隠すなよ。クラスLINE、めっちゃ盛り上がってるぜ」

彩花は作りなれた笑顔で答える。

「亮太君、勝手なこと言わないで。やめて」

亮太はニヤッと笑って去る。彩花の胸が締め付けられる。
偽物の笑顔が崩れそうになる。

公演後、彩花は凛子と舞台の片付けをする。凛子がぽつりと呟く。

「昨日よりうまくやれたのに、母さん来なかった」

凛子の声は小さく、震える。
大人っぽい強さの裏に、母の愛を求める純粋さが滲む。彩花の胸が締め付けられる。凛子の舞台を支えたかった。彩花は凛子を抱きしめた。

「凛子、めっちゃすごかったよ。私、凛子の全部、大好き」

凛子が彩花の背中に手を回す。涙が彩花の肩を濡らす。

「彩花、ありがとう。あなたがいて、よかった」

彩花の目が潤む。偽物の自分でも、凛子には必要だ。美奈の含んだ視線が頭をよぎる。忘れたい過去が怖い。

夜、文化祭のフィナーレを飾る花火が校庭で上がる。
彩花は人混みの中で悠斗を見つける。演劇部公演の手伝いに来ていた。
彩花は近づこうとするが、足が止まる。
悠斗の冷たい目は怖い。話しかけられない。彩花の胸がギューっと締め付けられる。
ペンを拾ってくれたあの瞬間。視線に気づいてくれた一瞬。冷たいのに、なぜか目で追ってしまう。
悠斗が通り過ぎる。嫌悪感を示す顔。彩花は目を伏せた。

クラスLINEが再び騒がしい。彩花、整形バレても笑顔w 中学の写メ、永久保存版 
彩花はスマホを閉じた。心が軋む。もう、笑えない。

彩花は人混みを抜け、校舎の裏へ逃げる。
花火の光が遠く映る。彩花は膝を抱え、泣いた。偽物の笑顔も、作りなれた鎧も、全部崩れ落ちる。
追いかけてきた凛子の肩で泣く彩花の姿が、夜に溶けた。
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