二つの魂は剣を振るう

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第二章

第17話「黒衣の将」

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 春を過ぎ、戦の気配は再び近づいていた。
 村の周囲を流れる川沿いに、見慣れぬ旗が立ったという報が入ったのだ。
 王国軍は急ぎ兵を集め、辺境に布陣する。リシアとセリナもその列に加わっていた。

「……空気が違う」
 セリナが小さく呟く。
 兵たちの間に走る緊張感は、これまでの小規模な衝突とは明らかに違っていた。

 やがて、敵陣の向こうから姿を現したのは、漆黒の鎧に身を包んだ一人の女将。
 長い黒髪を後ろで束ね、切り裂くような冷たい瞳。
 その背後に並ぶ兵たちは、まるで糸で操られるかのように一糸乱れぬ動きを見せていた。

「あれが……帝国の将、カサンドラ」
 周囲の兵が息を呑む。
 彼女は若く、まだ二十代に見える。だが立ち姿から放たれる覇気は、巨将ヴァルターにも匹敵していた。

 意識の草原で、ベルナルトが険しい顔をしていた。
『……カサンドラ。帝国でも名の知れた女将よ。若き頃から冷徹で、兵を操ることにかけては随一だった。
わしもかつて幾度となく肩を並べたが……こうして敵として相まみえるのは初めてだな』

「知ってるの……?」リシアが息を呑む。
『ああ。だが油断するな。奴は剛ではなく智で戦う。……やっかいだぞ』

 その時、カサンドラは視線をこちらに向け、わずかに唇を歪めた。
「王国の兵か。……面白い。今日の駒は、どれほど持つかしら」

 冷たい声が草原に響いた瞬間、帝国軍の兵が整然と進み出す。
 まるで舞を踊るような動き。盾が重なり、槍が一斉に突き出される。
 その統率力は、ヴァルターの豪腕とはまったく異なる恐怖を与えた。

 リシアは思わず足を止める。
 体が震える。
(強い……。しかも、兵まで完璧に操ってる……)

 セリナが剣を抜き、リシアの前に立った。
「怯むな、リシア。奴の冷たさに呑まれたら終わりだ」
「……うん!」

 戦鼓が鳴り響く。
 帝国軍と王国軍がぶつかり合い、草原が一気に修羅場と化した。

 その中で、カサンドラの姿はまるで黒衣の影のように舞っていた。
 槍兵を操り、弓兵を支配し、自らも剣を取る。
 美しい動きに宿るのは、容赦なき冷徹さ。

「来なさい、小娘。あなたの剣が本物か……見極めてあげる」

 リシアの背筋に冷たいものが走った。
 次の瞬間、カサンドラの剣が光を裂き、彼女に迫る――。
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