カフェ・ミッドナイト

エピローグ「夜明けの約束」

　深夜のカフェは、静けさに包まれていた。
　カウンターの中に灯（あかり）の姿はもうない。
　残されているのは、彼女が愛おしそうに使っていた布と、小さなランタンだけ。

　マスターは懐中時計を開き、やわらかな音を聞きながら、目を閉じる。
　チクタク、チクタク――その響きに重なるように、ふいに声がよみがえる。

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　「大丈夫。好きって気持ちは、ちゃんと音になるから」

　淡い声が、店内の奥から流れ出す。
　次の瞬間、別の夜の気配が重なった。

　「……でも、助かった人もいるんですよね？　きっと、その人たちは嬉しいと思ってる」

　遠い夜の囁きが、やわらかく揺れて消える。

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　「わたしなら“今日はいい日！”って勝手に書いちゃうもん」

　「夢って……寝てるときだけのものじゃないと思います。起きてるときでも、見られるんじゃないかな」

　「ここで見た私は、ちゃんと“いいね”って思いましたよ」

　――ひとつ、またひとつ。
　灯が誰かに渡した言葉たちが、まるで記憶の星座のようにつながっていく。

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　やがて最後に、かすかな声が残った。

　「……わたし、ここにいて……いいんですか」

　その問いかけは、静けさの中で長く響いた。

　マスターはそっと目を開け、ランタンを見つめた。
　小さなランタンがひとりでにふわりと光を灯し、店内をやさしく照らす。

　「……あなたの言葉が、ここに夜明けを連れてくる」

　窓の外、空が白んでいく。
　ランタンの光と朝の光が溶け合い、カフェは静かに新しい一日を迎えた。